基本理念

基本理念とは?意味・作り方・企業例を解説【ビジョナリーカンパニー】



清水直樹
基本理念とは、「我々は何者で、なんのために存在し、何をやっているのか?」を示す、組織の土台となる基本的な指針です。名著『ビジョナリーカンパニー』で紹介された概念で、基本的価値観(コアバリュー)目的(パーパス)の二つで成り立ちます。本記事では、基本理念の意味と例、経営理念やミッション・ビジョン・バリューとの違い、そして自社で基本理念をつくるための手順まで、私がこれまで数百社の中小企業を支援してきた経験をもとに解説します。

基本理念とは?意味をわかりやすく解説

「ビジョナリーカンパニー」と言えば、BHAG(社運を賭けた大胆な目標)というコンセプトが有名ですが、基本理念(コアイデオロギー)はBHAGに先立つものであり、ビジョナリーカンパニーを特徴づける非常に大切な概念です。

ひとことで言えば、基本理念とは「事業環境がどれだけ変わっても変わらない、会社の芯となる信念」のこと。基本理念は、以下のように「基本的価値観(コアバリュー)」と「目的(パーパス)」という二つの要素で成り立っています。

基本理念はコアバリューとパーパスで構成される
基本理念

 

基本的価値観(コアバリュー)とは

基本的価値観は、組織にとって不可欠で不変の主義です。いくつかの一般的な指導原理からなり、文化や経営手法と混同してはならず、利益の追求や目先の事情のために変えてはならないものです。

たとえば「顧客第一」「誠実であること」「挑戦を恐れない」といった、その会社が何を大事にして意思決定するかの拠り所になる価値観がこれにあたります。基本的価値観は、私たちが経営のご支援をする際にも初期段階で必ず文書化してもらうものになっており、以下の記事でさらに詳しく解説しています。

コアバリュー完全ガイド(意味や例、作り方まで)

 

目的(パーパス)とは

目的とは、単なる金儲けを超えた会社の根本的な存在理由です。地平線の上に永遠に輝き続ける道しるべとなる星であり、個々の目標や事業戦略と混同してはならないものです。

日本ではこれを経営理念と言ったり、ミッションと呼んでいたりしますね。私たちの提供している仕組み経営では、この会社の存在意義を”ドリーム”という言葉で定義しています。目的は「達成して終わり」になるものではなく、追い続けることに意味がある点が、後述する目標や戦略との決定的な違いです。

 

基本理念と経営理念・ミッション・ビジョン・バリューの違い

基本理念について調べていると、経営理念・ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)・基本方針など、似た言葉がたくさん出てきて混乱する方が多いです。実際、私がご支援する現場でも「うちの経営理念と何が違うの?」という質問は非常によくいただきます。ここで整理しておきましょう。

基本理念と経営理念の違い

結論から言うと、両者はほぼ重なる概念ですが、粒度が異なります。日本で言う「経営理念」は、多くの場合、基本理念のうちの「目的(パーパス)」にあたる部分を指しています。一方で『ビジョナリーカンパニー』が言う基本理念は、目的だけでなく「基本的価値観(コアバリュー)」までを含んだ、より広い土台の概念です。

つまり、経営理念(=なぜ存在するか)に、価値観(=何を大事にするか)を加えたものが基本理念、と捉えると分かりやすいでしょう。

基本理念とミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の関係

昨今よく使われるMVVのフレームで言えば、おおよそ次のように対応します。

  • ミッション(使命) ≒ 基本理念の「目的(パーパス)」
  • バリュー(価値観) ≒ 基本理念の「基本的価値観(コアバリュー)」
  • ビジョン(目指す姿) = 基本理念ではなく、むしろBHAG(大胆な目標)や進歩の側にあたる

ここで注意したいのは、ビジョンは基本理念に含まれないという点です。基本理念が「変わらないもの」であるのに対し、ビジョンは事業環境や成長段階に応じて変えていくものだからです。この「変わらない土台」と「変えていく目標」を分けて考えることが、基本理念を正しく理解する鍵になります。

基本理念と基本方針の違い

基本理念は、方針よりも先に来る普遍的なものです。基本方針というのは、事業環境の変化によって変えていくもの。「事業環境がこう変化してきたから、会社の経営をこう変えていこう」というように舵取りするのが方針です。一方の基本理念は、事業環境が変化しても変わりません。後述するIBMの元CEOトーマス・ワトソン・ジュニアの言葉が、この関係を的確に表しています。

 

ビジョナリーカンパニーの基本理念は何が違うのか?

「価値観や目的か。それならうちにもあるよ」という社長は多いでしょう。

実際、世の中の多くの会社では基本理念らしきものを定めて社員に配布していたりします。では、そのような多くの会社と、ビジョナリーカンパニーになれる会社の基本理念では何が違うのでしょうか?

書籍『ビジョナリーカンパニー』の中では、次のように紹介されています。

ビジョナリーカンパニーになれる正しい基本理念はない。それよりも、理念が本物であり、どこまで理念を貫き通しているかのほうが、内容よりもずっと重要である。

つまり、「このような理念があったからビジョナリーカンパニーになれた」とか、「ビジョナリーカンパニーになるには、このような理念を入れなくてはいけない」というものはないということです。

大切なのは、次の二つです。

基本理念が本物(Authentic)であるか?

理念が「本物」であるとはどういうことか?これは少しわかりにくいですね。ここでいう「本物」という言葉は、英語ではAuthenticです。これは「ウソ偽りがない」「信ぴょう性がある」という意味合いで使われる言葉です。なので、理念が本物であるということは、その理念が組織内で(特にリーダー層によって)心の底から信じられており、共感されていると考えれば良いでしょう。

逆に、「こういう言葉を使ったほうがかっこいいから」とか「あの有名な会社が使っている言葉だから」という表面上の理由で創られた理念は本物とは言えません。

言葉自体がシンプルでよくあるようなものであっても、それが本当に大事だと思われているかどうかが大事なのです。

実際のところ、ビジョナリーカンパニーのひとつとして紹介されているIBMの基本理念は、

  • 従業員に十分に配慮する。
  • 顧客を満足させるためには時を惜しまない。
  • 最善を尽くす。

というように、シンプルで良く使われる言葉です。私が現場で見ていても、立派な言葉が並んだ理念より、素朴でも社長が本気で信じている理念のほうが、圧倒的に組織に浸透していきます。


 

基本理念を貫き通しているか?

ビジョナリーカンパニーでは、基本理念をかたくななまでに貫き通しています。それが結果として、カルトのような文化につながっていくのです。

IBMの元CEO、トーマス・ワトソン・ジュニアは、次のように語っています。(基本理念を信念と表現)

信念は、常に方針、経営手法、目標に優先させるべきである。方針も経営手法も目標も、基本的な信念に反すると思われる場合には、いつでも変更しなければならない。

方針も手法も目標も、すべては基本理念の下にある。ここまで言い切れる会社が、時代が変わっても揺るがない強い組織をつくっていくわけです。

 

基本理念と利益の両方を追求する「ANDの才能」

ビジョナリーカンパニーを特徴づけるもう一つの要素が、基本理念と利益の両方を追求することです。

世の中には、理念は大切にしているけれど大して儲かっていない(成長していない)会社もありますし、利益は上がっているけれど理念が無く組織がバラバラ、という会社もあります。

一方のビジョナリーカンパニーは、基本理念を維持すると同時に、利益を追求(進歩)します。これを「ANDの才能(Genius of the And)」と呼んでいます。理念か利益か、という「OR」で考えるのではなく、両立させる「AND」で考えるということです。

もちろんこれは時に難しいこともあるでしょう。『ビジョナリーカンパニー』の中で、GEのジャック・ウェルチ氏も次のように語っています。

数字を上げて、我々の価値観を共有する者は昇進する。数字を上げられないが、価値観を共有する者にはもう一度チャンスが与えられる。価値観を共有せず、数字も挙げられない者がどうなるかは容易に想像がつくだろう。問題は、数字を上げているが、価値観を共有しない者だ。こうした社員の説得に努めるなど、懸命に努力しているが、悩みの種である。

ちなみに話が少しそれますが、これは以下のマトリックスで有名ですね。

価値観と業績のマトリックス

ジャック・ウェルチの言葉の通り、「数字は上げるが、価値観を共有しない人をどうするか?」というのは、私も顧客企業をご支援している現場で本当に良く出くわす話です。「人の価値観を変えることは至難の業」ということを考えれば、一番良いのは、価値観が合わない人をそもそも採用しないということです。

これについては、以下の記事でご紹介しているザッポスの採用方法が参考になるかもしれません。

▶ザッポスのリーダーシップ

 

基本理念を維持し、進歩を促す

基本理念は組織の屋台骨であり、変えてはいけないものです。とはいえ、組織は進歩していく必要があります。そこで、ビジョナリーカンパニーは、基本理念を維持しながら進歩を促すために、次のようなことを行っています。これらについても別の記事でご紹介していきます。

  • 社運を賭けた大胆な目標(BHAG)
  • カルトのような文化
  • 大量のものを試して、上手く行ったものを残す
  • 生え抜きの経営陣
  • 決して満足しない

つまり、「基本理念は絶対に変えない。しかし、それ以外のあらゆる手段は変え続ける」——この一見矛盾する二つを同時にやり切るのが、長く続く強い会社の共通点なのです。

 

基本理念の作り方・決め方【4ステップ】

ここまで読んで、「では自社の基本理念をどうつくればいいのか?」と思われた方も多いでしょう。基本理念は、新しく発明するものではなく、すでに社長や創業メンバーの中にあるものを発見し、言葉にして残していく作業です。私たちが実際にご支援する際の進め方を、4つのステップに整理してご紹介します。

ステップ1:創業の原点と大切にしてきた判断を振り返る

まずは社長ご自身の内面を掘り起こすところから始めます。「なぜこの事業を始めたのか」「これまでどんなときに嬉しかったか、悔しかったか」「何を犠牲にしてでも守ってきたことは何か」。こうした問いに向き合うことで、頭の中にしかなかった価値観や存在意義が輪郭を持ち始めます。ここで大事なのは、格好いい言葉を探すのではなく、本音を出すことです。

ステップ2:基本的価値観(コアバリュー)を言葉にする

次に、日々の意思決定の拠り所になっている価値観を、3〜6個程度に絞って言語化します。多すぎると社員が覚えられず、機能しません。判断のテストは「将来これが競争上の不利になったとしても、それでも守り続けるか?」です。守り続けると言い切れるものだけが、本物のコアバリューです。

ステップ3:目的(パーパス)を定義する

続いて、「金儲けを超えて、この会社は何のために存在するのか」を一文で表現します。ここで役立つのが「なぜ?」を5回繰り返す問いです。「良い商品を届けるため」→「なぜ?」→…と掘り下げていくと、最終的にお金では説明できない存在理由にたどり着きます。それがパーパスです。

この「なぜ?」を繰り返す力を象徴するのが、マイケル・E・ガーバーの教えを受けたインフュージョンソフト(現Keap)というアメリカの会社の話です。創業者たちは当初、「売上が一定額に達したら会社を売却して稼ぐこと」を目標にしていました。ところがガーバーの「ドリーミングルーム」で「なぜこの事業をやるのか?」「その意味は?なぜ?なぜ?」と問い続けられるうちに、自分たちの本当の目的がお金ではなく、「スモールビジネスの世界を変えること」だと気づきます。彼らは売却プランを捨て、「スモールビジネス発展の革命を起こす」という存在理由(パーパス)を掲げ直し、そこから会社は大きく飛躍していきました。目的とは外から借りてくるものではなく、問い続けることで自分たちの内側から発見するもの——この事例はそれを見事に示しています。

▶会社を売るのを止めて年商12倍。スモールビジネスからスタートアップへ。KEAP(Infusionsoft)社創業者クレート・マスク氏インタビュー

 

ステップ4:文書化し、日々の運用に組み込む

最後に、これらを文書として明文化します。ただし、額縁に飾って終わりでは意味がありません。採用・評価・会議・日々の意思決定に基本理念を紐づけて、「理念に沿っているか」で判断する運用に落とし込むことで、初めて基本理念は生きた仕組みになります。

※ここに、実際のクライアント企業で基本理念を文書化した具体的なエピソード(どんな言葉に着地したか、その後どう組織が変わったか)を1事例追記すると、E-E-A-Tがさらに強化されます。

 

基本理念の企業例

基本理念は、有名企業の例を見ると理解が深まります。ここでは代表的な例を挙げます。


先ほど紹介したIBMは、「従業員への配慮」「顧客満足への徹底」「最善を尽くす」という、言葉としてはシンプルな信念を、創業以来かたくなに貫いてきました。

一方で、基本理念は決して大企業だけのものではありません。日本の中小規模の事業にも、明確な基本理念を持つ例はたくさんあります。たとえば、当学会の評議員であり、マイケル・E・ガーバーの認定ファシリテーターでもあった坂本路子氏らが手がけるコーヒー事業「LITA coffee」。障害のある方の才能を活かしてスペシャルティコーヒーを届けるこの事業は、「コーヒーを通じて、世界を優しい場所にする」という存在理由(パーパス)を掲げ、「正直さ」「寛容さ」といった価値観(コアバリュー)を土台に組織を運営しています。

▶事例:普通の人が成果を出す仕組みづくり「LITA coffee」の挑戦

注目したいのは、彼らが仕組みづくりに着手する際、まず自分たちの創業ストーリーを言語化し、その原点から理念を明確にするところから始めた点です。これはまさに、先に紹介した「作り方ステップ1・ステップ3」の実践例と言えます。数名規模の事業であっても、大企業とまったく同じように、基本理念が組織の芯として機能している好例です。

ポイントは、これらの言葉が特別に洗練されているわけではないということ。大切なのは言葉の巧みさではなく、その会社が本気でそれを信じ、貫いているかどうかです。会社の規模の大小は関係ありません。

※LITA coffeeの詳しい事例記事があれば、ここに内部リンクの設置を推奨します。あわせて、清水さんご自身のクライアント企業で基本理念を言語化した事例を1社追記すると、独自性と信頼性がさらに高まります。

 

【診断】自社の基本理念をチェック

では、自社の基本理念について診断できる質問リストをご用意しました。ぜひチェックしてみてください。

  • 私たちには、世界がどんなに変化しても、情熱を持って守り続けるコア・バリューがあります。
  • 私たちは、部外者が私たちのコア・バリューをどう思うかを気にすることはありません。
  • 将来、これらのコア・バリューが競争上の欠点となったとしても、私たちはこれらの価値観を保持します。
  • 私たちには、単にお金を稼ぐだけにとどまらない、永続的な目的や使命、つまり存在理由があります。
  • 基本理念と数字的結果、結束と自律性、耐久性と緊急性など、「アンドの才能」を実践しています。
  • 私たちは、コア・バリューと目標、戦略、戦術の違いを明確に理解しています。
  • 私たちは、コアバリューを不変のものとしながらも、目標、戦略、戦術などは進歩、改善しています。
  • コアバリューを共有していない人は、組織にいることに不快感を覚えて、自主的に退社してしまいます。
  • 私たちは、コアバリューを実践するリーダーを育成しています。コアバリューに反することを繰り返すリーダーは、組織で昇進することはありません。
  • 私たちは常に、「もっとうまくできることはないか」ということに焦点を当てています。

チェックが付かなかった項目こそ、これから基本理念を強くしていく余地がある部分です。

 

基本理念に関するよくある質問(FAQ)

Q. 基本理念は誰が作るべきですか?

基本理念、特に目的(パーパス)とコアバリューは、社長・創業者を中心につくるのが基本です。基本理念は「多数決で決めるもの」ではなく、「すでに社長の中にある信念を発見するもの」だからです。ただし、言語化のプロセスに幹部を巻き込むことで、その後の浸透はスムーズになります。

Q. 基本理念は途中で変えてもいいですか?

基本的価値観と目的は、事業環境が変わっても変えないのが原則です。変えていいのは、目標・戦略・戦術・基本方針といった「手段」の部分です。もし頻繁に変えたくなるとしたら、それはまだ本物の基本理念にたどり着いていないサインかもしれません。

Q. 基本理念とビジョンはどう違いますか?

基本理念は「変わらない土台(何を大事にし、なぜ存在するか)」であり、ビジョンは「これから目指す未来の姿」です。ビジョンは成長段階に応じて更新していくものなので、基本理念には含めません。

Q. シンプルな言葉でも基本理念として機能しますか?

機能します。IBMの例が示すように、大切なのは言葉の斬新さではなく、その理念が組織で本気で信じられ、貫かれているかどうかです。

 

まとめ:基本理念の文書化から維持成長の仕組みへ

基本理念とは、基本的価値観(コアバリュー)と目的(パーパス)からなる、会社の変わらない土台です。そして本当に重要なのは、立派な理念をつくることではなく、それが「本物」であり、どこまで「貫き通されているか」でした。

私たち仕組み経営では、ここでご紹介した基本理念を文書化するところから、それを維持し、進歩させるための仕組みづくりまでご支援しています。詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。

 


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