職人上がりの社長が失敗する理由と対処法



清水直樹
職人上がりの社長が陥る典型的な失敗パターンがあります。このパターンを乗り越え、会社経営を成功させる方法をご紹介します。
目次

職人上がりの社長が失敗する理由

熟練した職人が独立して自らの事業を起こし、社長となることは珍しくありません。例えば、建設職人は建設会社を興し、美容師は美容室を開業し、エンジニアはIT企業を興し、といった具合です。手に職が付いてくると、勤め人でいるよりも自分で独立開業したほうが自由にやれるし、収入も上がるはずだ、と考えて独立開業、社長への道を進むのです。世の中の中小企業のほとんどは、このような形で創業されます。

しかし、統計が示している通り、多くの会社は10年以内に倒産してしまいます。

中小企業経営のバイブル的存在であり、世界700万部のベストセラー「はじめの一歩を踏み出そう」には、なぜ職人上がりの社長が失敗してしまうのかが明確に指摘されています。

その理由とは、職人上がりの社長が「職人技術を理解していれば、その職人技術を使った事業経営もできるはず」という致命的な仮定で起業するからです。

職人型社長が失敗する理由を指摘したベストセラー
職人型社長が失敗する理由を指摘したベストセラー

職人社長が陥るワナ

致命的な仮定を信じて経営を続けると、以下のようなワナに陥ります。

自分の時間と体力の限界=会社の限界

職人上がりの社長は、自分が現場で職人技をふるい続けることが成功への道だと考えています。

その結果、会社の受注は経営者個人の技術力と労力に頼らざるを得なくなります。売上の大部分を経営者自身が稼ぎ出さねばならず、ひとり頼みの状況に陥ってしまいます。経営者自身も多忙を極め、働き詰めの毎日を送ることになります。会社は経営者個人の力に全面的に依存する形となり、持続的な成長は望めない状況に陥ってしまうのです。

職人技にこだわるあまり、生産性が下がる

職人気質の起業家は、自身の高い技術力を持って誇りを感じる一方で、その技術へのこだわりが強すぎると、本来の目的を見失いかねません。技術の追求自体が目的化してしまい、顧客にとって本当に価値があるものなのかを考えなくなるリスクがあります。

結果として、時間やコストをかけすぎた製品やサービスが、顧客のニーズから外れてしまう恐れがあります。顧客の立場に立って考えることなく、職人自身の価値観だけで突き進めば、無駄な手間がかかり生産性が下がってしまいます。

自分が職人技を磨けば磨くほど、社員との乖離が起こる

職人気質が強い経営者は、自身の卓越した技術力を他の社員に伝授しようと試みます。しかし、熟練の技術は簡単に教えられるものではありません。社員が同じようにできないと、経営者は不埒な弟子扱いをしてしまいがちです。

このように、経営者自身の技術に社員が追いつけなくなると、経営者は部下を見下してしまい、社員のモチベーションを削ぐ恐れがあります。結果として社員と経営者の溝が広がり、事業運営に支障が出る可能性があります。

自分に顧客が付き、経営の仕事をする時間がない

卓越した職人技を持つ起業家は、その技術力を買われて顧客から高い評価を受けることでしょう。しかし、一方で過度に自身の技術に拘束され、本来の経営者業務が疎かになってしまう恐れがあります。

顧客対応や現場作業に時間を取られすぎて、経営としての仕事、つまり事業戦略の立案や社員のマネジメント、お金の算段などを行う時間が残されなくなってしまいます。経営者本来の役割を怠ってしまえば、事業の将来的な発展が阻害される可能性が高くなります。

このように、職人上がりの社長は、自身の技術力に頼りすぎてしまい、経営能力が伴わないという典型的な轍を踏んでしまいます。現場作業に時間を取られ、経営者本来の仕事である将来ビジョンの設計や体制作りが手つかずになってしまうのです。

本記事では、「職人技術を理解していれば、その職人技術を使った事業経営もできるはず」という致命的な仮定から抜け出せていない社長を「職人型社長」と呼び、そこから抜け出して真の経営者になる方法をご紹介していきます。

職人型社長が理解すべき3つの人格

職人上がりの社長が失敗する理由を指摘した「はじめの一歩を踏み出そう」には、社長が持つべき3つの人格について紹介されています。これは特に職人出身の社長にとって重要な概念です。職人気質の強い社長は無意識のうちに1つの人格に捉われがちですが、他の2つの人格を併せ持つことで初めて本当の意味での経営者になれるのです。

第一の人格は「職人(Technician)」

職人出身の社長は当初この人格が強く出ています。職人とは、自らの専門的な能力で技術的作業に没頭する人格です。確かに事業を軌道に乗せるために、創業者の高い技術力は大きな強みとなります。しかし、ある程度会社が成長すると、この人格だけでは事業の持続的発展は望めなくなります。

第二の人格は「マネージャー(Manager)」

職人が先を見据えず現状維持に走りがちなのに対し、マネージャーはシステマティックに業務を管理し、予測可能な事業運営を目指す人格です。しっかりとした業務プロセスを確立し、社員の力を結集させるマネジメント力があれば、経営の安定性は高まります。ただし、マネージャーの特性が極端だと硬直的な経営になりかねません。

第三の人格が、最も重要な「起業家(Entrepreneur)」

起業家とは、ビジョナリーでもあり革新者です。常に新しい可能性、より大きな成長の機会を探し求めています。この人格があれば、現状に満足することなく、常にビジネスの革新を目指すことができるのです。

職人上がりの社長が三つの人格をバランス良く体現できれば、優れた技術力を基盤に、システマティックな事業経営を行いながら、同時に果敢な革新と成長を実現できるはずです。3つの人格を理解し、偏ることなくバランスよく体現することが、職人上がりの社長に課された最大の課題と言えるでしょう。

会社は社長の職人的能力とは関係なく成長する

自分のビジネスから離れて、1ヵ月後に戻ってきたら、会社はそれまでと同じように利益を上げていますか?

もしできなければ、あなたはビジネスを所有しているというよりも、あなた自身がビジネスになっています。多くの職人型社長は、それは当たり前だろうと思っていますが、本来は異なるのです。

本来、ビジネスは、あなたを鎖でつなぐようなものではなく、あなたの夢のために役立ち、大きな自由を与えるべきものなのです。ビジネスは、適切に設計されていれば、あなたがオフィスにいようといまいと、店舗にいようといまいと、現場にいようといまいと、休暇中であろうとなかろうと、効率的に機能するはずです。

ビジネスは、あなたの存在や個性、スキルや汗に依存するものではありません。あなたがビジネスを動かすべきであり、ビジネスがあなたや家族や人生を動かすべきではないのです。ビジネスの成功は、社長に依存するのではなく、仕組みに依存すべきです。

職人型社長と真の経営者の違い

職人型社長は自分の能力に会社が依存しているのに対して、真の経営者は自分に依存せずに成長する会社を目指します。以下に両者の違いを見てみましょう。



1.依存の違い

職人型社長は自身の技術やスキルに依存しがちですが、真の経営者は仕組みづくりに重きを置きます。自身が常に働かなければビジネスが回らない職人型と、自身の存在に過度に依存しない経営者とでは、ビジネスの持続可能性が大きく異なります。

2.志向性の違い

職人型社長は日々の仕事や自身の得意分野に囚われがちですが、真の経営者は常に将来を見据え、大きな目標を掲げています。自身のスキルを磨くのではなく、組織全体の在り方を構想する経営者こそが成長を促進できます。

3.動機の違い

職人型社長は自身のスキルを活かせるからという個人的動機で起業しがちですが、真の経営者は社会課題の解決や新しい価値創造という高次の動機から事業をスタートさせます。利己的動機と利他的動機の違いが、事業の広がりを左右するのです。

4.経営資源の違い

職人型社長は自身の人脈や信用力などに頼る傾向がありますが、真の経営者は制度や仕組みなどの経営資源を整備することで事業の基盤を固めます。個人の力を超えた経営資源の構築が、持続的成長には不可欠です。

5.事業の捉え方の違い

職人型社長は商品・サービスの提供に没頭しがちですが、真の経営者は「会社そのもの」を最終的な売り物と捉えて運営します。会社全体をひとつの商品と考え、その価値を高めていく視点が、大きな事業機会を生み出すのです。

上記の比較をご覧いただき、”自分は職人型社長だな”、と感じたとしても安心してください。世の中のほとんどは職人型社長ですし、成長を遂げた企業の社長も、もともとは職人型社長だったのです。

現在、あなたが職人型社長であれば、多くのフラストレーションを感じているかもしれませんが、逆に言えば、あなたの人生とビジネスには大きな可能性があるとも言えます。

どんな可能性かというと、ビジネスをこれまでと180度異なるやり方で運営し、ビジネスと人生をこれまで想像できなかった状態にできる、可能性です。

実際、大きな成功を収めている数少ない起業家、経営者は、大半の人たちと180度異なる方法で会社を運営しているからこそ、成功しているのです。あなたもそのやり方を知れば、同じように成果を出せるはずです。

稲盛和夫氏も最初は職人型社長だった?

京セラ創業者であり、KDDI設立のきっかけを作り、JALの再建を成功させた稲盛和夫氏。多くの経営者にとって、尊敬する人物と思います。こんなことを言うと反発を食らうかもしれませんが、その稲盛氏も起業当初は実は職人型社長だったと私は感じています。

稲盛氏が事業の目的を考えるに至ったエピソードを見るとそれが分かります。

職人型社長に共通する起業動機

稲盛氏は創業当初、”この会社(京セラ)は稲盛和夫の技術を世に問うための場である”と考えていました。つまり、世のため人のためといった、いわゆる大儀ではなく、自分の技術がいかに優れているかを証明したいと思っていたのだと思います。これはまさに多くの職人型社長と同じ発想の起業動機と言えます。

事実、稲盛氏は講話で次のように語られています。

当時の私は、まだ経営のあるべき姿を知らず、京セラという会社を「自らのファインセラミックスの技術を生かして製品開発をし、それを世に問う場である」と位置づけていました。当時は技術力よりも学歴や学閥などが尊ばれ、実力を正しく評価してもらえないような風潮があり、私は最初に勤めた会社で大きな失望感を味わっていました。そのために、新しくつくる会社では誰に遠慮することなく、自分のファインセラミック技術を世に問うことを目的としていたわけです。

ひとりの技術屋として、ひとりの研究者として、磨きあげた自分の技術をようやく遺憾なく発揮できる場ができたと、私はたいへん喜んでいました。

(稲盛経営12ヶ条 第1条「公明正大で大義名分のある高い目的を立てる」より引用)

職人型経営者から本物の経営者になったきっかけ

しかし、創業3年目の頃、稲盛氏をそんな職人型社長から脱却させる事件が起こりました。若い社員たちの反乱です。社員たちは、結束して待遇保証を求める要求を稲盛氏にしました。最初、稲盛氏はまだ小さい会社なのに、将来を保証することなどできない、と考えていました。しかし、三日三晩話し合い、稲盛氏はその考え方を改めることになりました。

以下、先ほどの講話の続きで、以下のように語られています。

この事件は、まさに私に企業経営の根幹を気付かせてくれる契機となりました。それまでの私は、技術者として「自分の技術を世に問いたい」ということを会社設立の目的としていました。また、会社の将来についても「夢中で働けば、なんとか食べていけるだろう」という程度に安易に考えていました。

(中略)このときに初めて私は、企業を経営するということの真の目的は、技術者の夢を実現するということではなく、ましてや経営者自身が私腹を肥やし、豊かになるということでもなく、現在はもちろん将来にわたって従業員やその家族の生活を守っていくことにあると気が付たのです。気付いたと同時に、経営とは経営者が持てる全能力を傾け、従業員が物心両面で幸福になれるよう最善を尽くすことであり、企業は経営者の私心を離れた大義名分を持たなくてはならないという教訓を得ることができました。

(稲盛経営12ヶ条 第1条「公明正大で大義名分のある高い目的を立てる」より引用)

このように、稲盛氏も大半の職人型社長と同じ動機、同じきっかけで創業し、同じトラブルに見舞われました。しかし、それを乗り越えることで世界的な会社を創ることに成功したのです。では次から職人型社長から脱却し、会社を持続的に成長させていく方法を見ていきましょう。

職人型経営者を脱却するステップ

ではここから実際に、職人型社長を脱却するためのステップを見ていきましょう。

①Chief “Everything” OfficerからChief Executive Officerへ

あなたはもしかしたら、起業して成功したら、そのうち自由な時間を持てるようになり、人生を謳歌できるだろうと考えていたかもしれません。そうでなくても、いつか社長業の手を緩め、ゆっくりと生活したいと考えているかもしれません。しかし、実際には、週60〜70時間の仕事とストレスが続いています。リラックスできる日を作ることもできていないかもしれません。

ここで考え方を変える必要があります。CEO(Chief “Everything” Officer:すべてをやる人)になろうとするのはやめることです。ビジネスが成長すればするほど、やることは増え、一生懸命に働くことで楽になろうとしますが、実際にはフラストレーションが増え続けています。もちろん、創業して最初の数年間は、長時間労働が必要となるでしょう。しかし、ずっとそのペースを続けることは人として不可能です。つまり、時間の使い方が間違っているのです。



日常的に処理している緊急性の高い、重要性の低い、価値の低いタスクを手放しましょう。よく言われているように、8割の成果は、2割の活動から生まれます。2割の成果しか生まない8割の活動を辞めるか、委譲しましょう。

②戦略的時間を増やし、戦術的時間を減らす

ほとんどの社長は、会社で起こる課題に対して、長期的な解決策を打ち出すのではなく、短期的な解決策で対応してしまいます。正しいことは何かを考える前に、目の前のことを正しくやることにこだわっています。あなたも社長やリーダーとしての仕事ではなく、本来は社員が担うべき仕事に忙殺されていませんか?

役職に限らず、すべての人は、2種類の仕事をしています。

ひとつは、戦略的な仕事です。ビジョンの作成、戦略的計画、優先順位と目標の設定、組織設計、仕組みの開発、利益の改善、チームづくりなどの未来に向けた仕事です。

もうひとつは戦術的な仕事です。営業する、開発する、顧客対応する等、短期的な成果を生み出す仕事です。

戦略的仕事は出すべき結果を定義する仕事であり、戦術的仕事は実際にその結果を出すことです。

どちらも大切な仕事ですが、社長が重点を置くべきは、戦略的仕事です。なぜならば、出すべき結果を正しく決定しなければ、間違った結果が出るからです。社長が行うべき仕事は、何が正しい結果なのかを社内に伝え、社員がその結果を出しやすいような仕組みを創ることです。

戦略とは、戦いを省くことだと言われます。これは競合他社と戦わずに勝つ方法を立案することを意味するわけですが、同じく、社員の余計な戦いを省くことも意味します。戦場において将軍が正しい戦略を立案しなければ、兵士が余計な血を流すのと同様、社長が戦略的仕事を怠れば、社員は余計な仕事を強いられ、時間を浪費し、ストレスが増大することになります。

つまり、もし社員が仕事に忙殺され、ストレスを感じているのであれば、その原因は社長が戦略的仕事をしていないことにあるのです。

戦略的仕事に取り組めない理由

同時に、戦略的な仕事に意識を向けるのは難しいものです。なぜならば、時間制限があるからです。まとめるべき取引がたくさんあり、管理する社員がおり、対応すべき顧客がいて、緊急事態が毎日のように起こっています。こういった状況において、戦略的な仕事を1日1時間とることすらできない社長が多いのです。

もうひとつ、戦略的仕事に取り組めない理由があります。それは、”職人的な仕事への中毒性”です。ビジネスがある程度仕組み化され、多少の自由時間が出来ると、長年染み付いた、職人的な仕事への中毒性に負けてしまい、ついつい慣れ親しんだ目の前の仕事に手を出してしまうのです。”目の前の仕事をこなしていないと、仕事をした気にならない”というわけです。

本来は、自由を求めて仕組み化をしたはずなのに、自由になったことが原因で職人仕事に戻ってしまう、という本末転倒なことが起こります。

そうならないためには、戦略的な仕事に取り組むことが、社長の最も大きな責任だということを理解する必要があるでしょう。

戦略的仕事と戦術的仕事の違いについては以下でも解説しています。

「社員にどういう仕事をさせるべきか?」2024年4月23日号

③社長の仕事に集中する時間を持つ

多くの社長が職人型社長から抜け出せない大きな理由のひとつは、ロールモデルの欠如です。あなたの周りの経営者を見渡してみましょう。全体で見れば、職人型社長から抜け出せる人は稀です。みんな同じように忙しく職人的な働き方をしていませんか?

そういった人たちを見れば、そのように働くことが当たり前である、という意識を持ってしまうのです。特に同業界の交流会や勉強会に足しげく通っている人は要注意です。みんな同じような働き方をして、同じようなことに悩んでいませんか?

はっきり言ってしまえば、同業他社の集まりに行くのは、お互い社長業の大変さを共有して傷を舐めあっているだけです。参加するならば、異業種の経営者が集まり交流や勉強会に参加しましょう。他業種の業務プロセス、仕事の基準、顧客サービスなどからヒントを得ることができます。

社長は「起業家の時間」を取ろう

そして、そのような会に参加して情報収集するのも大事ですが、もっと大事なことは、孤独の時間を持つことです。経営者は孤独と言われますが、これは別に悪いことではありません。偉大な作品は孤独の時間に作られると言われています。社長は“会社“という傑作を創らなくてはいけません。そのために、自分で静かに深く考える時間を取ることが大切です。私たちはこの時間を”起業家の時間”と呼んでいます。

マイクロソフト創業者のビルゲイツは年に1週間、完全に業務から離れ、経営に影響を与える重要なテーマについて検討する習慣を持っていました。そのお陰で、マイクロソフトは重要な局面において正しい意思決定をすることが出来たとされています。

ビルゲイツのシンクウィーク

たとえば、インターネット黎明期の頃、マイクロソフトはその波に乗り遅れたと言われていました。ビルゲイツ自身、インターネットの波は感じていたものの、まだその可能性を完全に理解していなかったのです。

そこで、1995年のシンク・ウィークで、ビルゲイツは、インターネットをテーマに選びました。一週間、インターネットがこれからのビジネス、そして人々の生活にどんなインパクトを与えるのか、徹底的に調べたそうです。

シンク・ウィークから帰ってきたビルゲイツは、会社のエグゼクティブ向けに「インターネットの高波」というタイトルの社内メモを発信しました。このメモはIT業界ではかなり有名で、インターネットの将来可能性を示唆したうえで、次に自社が取るべきアクションを示したものとなっていました。

そして、メモが発信されたわずか3か月後には、MSNというインターネット事業がリリースされ、他の事業についてもインターネットへの対応を進めていきました。



結果、当時、急成長していたインターネット系のベンチャー企業を飲み込む形でマイクロソフトのインターネット事業が成長していったのです。1995年当時でもマイクロソフトはかなりの規模の会社でしたが、わずか一週間のシンク・ウィークがきっかけで、完全に会社の方向性を変革させました。

大半の業界では、当時のインターネットの登場ほど重大性のある変化は起こってないと思いますが、それでも孤独の時間を取り、今後の方向性を定めるのはとても有意義かと思います。

ビルゲイツのシンク・ウィーク(Think Week)

④時給を高める

社長であるあなたの時給はいくらでしょうか?会社を成長させ、自分の収入も増やしたいのであれば、社長は自分の時給よりも低い金額で依頼できる仕事に時間を費やしてはいけません。

まず、今現在のあなたの時給を計算してみましょう。現在の時給の計算は簡単です。

1か月の報酬÷平均的な月稼働時間

です。

たとえば、1か月の報酬が80万円で、月稼働時間が160時間であれば、時給は5,000円になりますね。

となりますと、仕事をする前に、”この仕事は時給5000円以下で誰かに任せることができるか?“と問わなくてはいけません。時給5000円の社長が時給1000円で任せられる仕事をしていては、会社の成長は見込めません。

次に、あなたが理想とする働き方の時給を計算してみましょう。

あなたの理想とする月の報酬はいくらですか?次に、あなたが理想とする人生を送るためには月の稼働時間はどれくらいにする必要がありますか?

たとえば、理想の報酬が200万円だとして、理想の稼働時間が現在の半分の80時間だとしましょう。こうなると、時給は2万5000円になります。

今度は、仕事をする前に、”この仕事は時給2万5000円以下で誰かに任せることができるか?“と問わなくてはいけません。ほとんどの人は、今やっている仕事の大半が2万5000円以下で出来るのではないでしょうか。

社長にとって時給が高い仕事とは?

さて、単純作業ならば時給の計算は簡単ですが、企画系や職人技系の仕事は相場がないので時給が計算しにくいと思います。

そこで、一般的に言って、2万円以上の価値がある仕事の例を以下に挙げてみます。

  • 仕組みの構築・・・自分や誰かがやっている仕事を他の人でも同じようにできるようにすること。
  • 職人技が求められる仕事を教えること・・・ほかの人でも教えられる仕組みを創る仕事はさらに時給が高い。
  • 事業計画の立案・・・ビジョンに向けた長期的、中期的、短期的計画を立案し、社内で共有すること
  • マネージャーやリーダークラスへのコーチング/メンタリング・・・直属の部下の仕事の支援、また、その仕組みを会社全体に共有すること
  • 大きな取引をまとめる・・・大口顧客や大きな提携話を決めること
  • 重要な採用・・・リーダークラスの人材を採用すること

 

⑤経営の本質を学ぶ

Garbage In, Garbage Out(ゴミを入れるとゴミが出てくる)とは、「『無意味なデータ』をコンピュータに入力すると『無意味な結果』が返される」という意味の言葉です。これは人の頭にも全く同じことが言えます。真の経営者として成功するには、最高のものを学ばなければなりません。

  • 流行りの本ではなく、古典など風雪に耐えた本を読みましょう。
  • 流行りのビジネスタレントから学ぶのではなく、偉大な経営者から学びましょう。
  • 流行りの方法論を学ぶのではなく、人生の原理原則を学びましょう。

特に、ビジネスのテクニカルな側面の勉強はなるべく誰かに任せるべきです。

社長になることは、自分自身を発見し、自己を向上させる旅です。社長として成長すれば、ビジネスを成功させるだけではなく、組織内外の人々の生活にプラスの影響を与えることができます。

 

⑥社長によるコマンド&コントロールを無くす

コマンド&コントロール(指示命令型)の社長は、人の心や精神、好意を得ることはほとんどありません。リーダーシップとは、影響力であり、人を自分や自分の目的に従わせたいと思わせる能力なのです。あなたの社員はあなたやあなたのビジョンに熱心に、そして精力的に従っていますか?もしそうでなければ、リーダーとしての在り方に改善が必要かもしれません。リーダーは、組織の目的や方向性を明確にするだけでなく、チームが成功するための条件や環境を整えます。

コマンド&コントロールとは、社長が「川を渡る必要がある。橋を作れ」というものです。この方法でリーダーシップを取ると、官僚主義になり、社員のモチベーションが低下します。

理想的なのは、社長が「川を渡る必要がある。どうするか考えよう」というものです。このリーダーシップの取り方では、社長が大きな方向性を示しながらも、その方法については社員の考えや力を借りることが出来ます。社員も自分たちで決めたことだから高い目的意識をもって行動できます。

コマンド&コントロールを止め、日常的な管理を手放すのには大きなハードルがあるでしょう。手綱を手放すのは怖いことです。しかし、すべてをこなすことはできません。マイクロマネージャーになるのはやめましょう。職人型社長を抜け出すには、コントロールをある程度放棄しなければなりません。ビジネスのすべての側面を管理することは、物理的に不可能なので、部下と、計画、仕組みや方針を信頼しなければなりません。

⑦会社の青写真と方向性を明確にする

経営には、明確な青写真や方向性が欠かせません。ここでいう青写真とは、いわゆる会社のビジョンのことです。

  • フェデラル・エクスプレスの創業者であるフレッド・スミスは、翌日の朝までにアメリカ中に荷物を届けるというビジョンを持っていた。
  • ディズニーは、家族を笑顔にしたいと考えていた。
  • ドミノは、熱々のおいしいピザを30分以内に届けなければ無料にしたいと考えていた。
  • コーラは、世界中のすべての人の手の届くところに、さわやかな飲料を提供したかった。
  • マイクロソフトは、職場、家庭、学校のすべての机にコンピュータを置かざるを得ないようなソフトウェアを作りたかった。

といったようなことがビジョンです。



社長自身が青写真を本気で信じること

ジョナサン・スウィフト氏は、「ビジョンとは、見えないものを見る技術である」と言いました。社長が行うべき大事な仕事のひとつは、関わる人たちがワクワクするような青写真、そして、そこに至るための現実的な方向性を作ることです。

大切なのは、社員があなたの目指す青写真と方向性に賛同する前に、あなた自身が、それを本心で信じ、実現することにコミットしているということです。世界的に有名なセールストレーナーであるブライアントレーシー氏は、「セールスとは情熱の移転である」と言っています。つまり、あなたが描く青写真を社員にも賛同してもらいたいと思ったら、あなた自身が本当に情熱的にそれを信じていないといけないということなのです。

青写真を描くには時間の余裕が必要

新しい青写真を作ったり、既存の青写真に磨きをかけるには、時間の余裕が必要です。1時間程度で出来るものではありません。最低でも1ヶ月間は余裕を持ちましょう。また、自分一人で青写真を描くことも難しいものです。社員、顧客、サプライヤー、代理店、アドバイザーなどを巻き込み、意見を聞くことも大切です。具体的には自社の方向性はどうあるべきか、強みや機会についての意見を集めましょう。また、業界の動向や現在の競合他社、新興の競合他社についても調査しましょう。

日々の雑踏から逃れ、隠れ家を作って籠るのもお勧めです。自宅の一部屋、カフェ、ホテル、図書館、アウトドアでも良いでしょう。2~3日かけて、1年後、3年後、5年後のビジネスの姿を想像してみてください。あなたが本当に作りたいと思っているビジネスを心に描いてください。大胆で、規模の大きな青写真は、たとえ部分的にしか達成できなくても、小さくて弱々しいものを完全に達成するよりも、大きな報酬をもたらします。

終わりから考える – 社長は商品ではなく、ビジネスを創る

社長の最終的な仕事は、“あなたの会社をぜひ買いたい”と言われるような魅力的な会社を作ることです。実際にあなたが会社を売るかどうかはどうでも良いのですが、顧客から見ても、社員から見ても、投資家らから見ても魅力的な会社を作ることが大切なのです。

そのためには、ビジネス自体をひとつの商品として考えることが大切です。

あなたは自分の会社の企業価値を把握していますか?企業価値とは、あなたの会社(つまり起業家にとっての商品)の値段です。

うちは上場企業じゃないから企業価値なんて関係ない、と思われるかもしれませんね。

しかし、もしあなたが創業社長であり、株主であれば、自分の会社はいったいいくらで売れるんだろうか?と考えておくことが大切です。

社長が交代してもうまく運営できるか?

買い手の気持ちになればわかることですが、もしあなたの会社があなたに依存していれば、それを買いたいという人はいないでしょう。なぜならば、あなたの会社を買って、社長を誰かに交代させた瞬間、運営が立ちいかなくなってしまうからです。

別の視点で考えてみましょう。もし、あなたのビジネスをフランチャイズ化するとしたら、実現可能でしょうか?つまり、別の人があなたのお店やサービスを運営できるようになるでしょうか。

普通のビジネスは10年以内に9割がた潰れると言われていますが、フランチャイズは、9割がたが生き残るとも言われています。その理由は、どんな場所でも、どんな人でも、すぐに使える仕組みが用意されているからです。もしあなたのビジネスもそのような運営が出来れば、拡張可能なビジネスになります。

⑧社員や関係者に青写真を伝える

将来のビジネスのイメージが沸いたら、それをチームと共有しなければなりません。人が変わるのは、思考が変わるときではなく、感情が変わるときです。なので、社員の感情を変えさせるのです。あなたが感じていることを相手に感じてもらいましょう。そして、あなたが望んでいることを彼らが望むようにしましょう。そして、青写真を語るだけではなく、それを達成可能なステップに変換しなければなりません。

未来は過去よりも良くなると信じさせる

「ザ・ドリーム・マネージャー」著者のマシュー・ケリー氏は、“リーダーの仕事とは、未来は過去よりも良くなるとみんなに信じさせることだ“と言っています。そのとおりにやりましょう。

社員は、あなたの心からの想いを知る権利があり、それを切望していると考えましょう。彼らに常に情報を提供し、参加させ、刺激を与え続けましょう。

それが出来れば、全員があなたの理想に向かい、混乱がなくなり、無駄な時間とエネルギーがなくなります。日々の行動や判断の指針が出来ます。無個性な何十ページの計画書よりも、イメージできる青写真の方が、社員にとって理解しやすく、動きやすいのです。思いを伝えるのに、カリスマ性は要りません。自分に合ったリーダーシップ・スタイルで話せばいいのです。

⑨説明責任を果たす

社員にあって、社長にないもの、それは説明責任を果たす相手です。つまり、社長には自分がやると言ったことをやったかどうかを報告する相手がいないのです。上場企業の場合、株主がそれにあたりますが、非上場企業では社長に報告する相手はいません。それが原因で、多くの社長は本来自分がやるべき戦略的仕事をおざなりにし、目の前にある取り掛かりやすい職人仕事に時間を費やしているのです。

人は説明責任を果たさない限り、人生やビジネスを向上させるために必要な変化を起こすことはできません。

この記事を読んでも、あなた一人では実践することは難しいかもしれません。誰もあなたの行動を監視していないからです。社長が説明責任を果たすためには、専門のコーチを付けるか、馴れ合いにならない経営者同士のグループが必要です。

一流のアスリートがコーチを付けているように、一流の経営者はコーチを付けています。本当に職人型社長からの脱却を望まれるのであれば、一度、この分野の専門トレーニングを受けた仕組み経営コーチにご相談されてください。

説明責任を果たすために、報告する相手を探すか、コーチを付けましょう。

 

まとめ:職人型社長から真の経営者へ

最後までお付き合いいただきありがとうございました。私たちは、日ごろ、職人型社長を抜け出すために仕組み化のご支援をしていますが、これはスタートするのが早いほど簡単になります。逆に、時間がたてばたつほど、ビジネスは複雑になり、社長の考えも凝り固まり、そこから抜け出すのが難しくなります。

ですから、今こそ、あなたの考えと行動を再構築するベストなタイミングです。大切なのは、ビジネスに対する視点を変えることです。それが出来れば、はるかに少ない努力と苦痛で正しい方向に進むことができます。逆に言えば、視点を変えずに取り組めば、やるべきことが増え続けるだけです。

一人で取り組むよりも、サポートを受けてより早く変化をしていきたい、という方は、以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてぜひご活用ください。

あなたのビジネスと人生を豊かにするはじめの一歩になることを願っています。



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