アメリカのレストランの5回のM&A失敗と1回の大成功

アメリカのレストランの5回のM&A失敗と1回の大成功



アメリカミシガン州グランドラピッドにある小さなレストランを運営していたアンドリュー・ランパ

彼は大学卒業後に親の支援を受けてレストランを約10万ドルで購入しましたが、レストランは予想より売上が低く、経営は厳しい日々が続いていました。

そこで購入2年後に彼はレストランのM&Aを考えましたが、全く買い手が現れませんでした。

そんな彼の14年間に渡るレストラン売却の5回の失敗と、6回目の大成功について、今回はインタビューポッドキャストを元に紹介します。

6回目の売却成功までの苦労、売却にあたりレストランをどう改善したのか、5回の失敗の大きな要因は何だったのか?

ぜひ最後までご覧ください!

ソース:Sixth Time’s a Charm For This Restaurant Owner

1. M&Aまでの苦悩

彼の最初の苦労は、レストランを買い取った直後でした。

買い取る前にレストランのことをよく調べていなかったため、実際の価値より高く買う羽目になってしまいました。

前オーナーは帳簿をしっかりとつけていなかったので、数字が正確ではなく、実際に買って経営してみると、売上が申告されていたものより低かったのです。

また、彼はレストラン買取の支払いをローンにしていたので、買取後もローンの返済に終われて利益を出すことができませんでした。

このような理由で彼はレストランを売りに出すことを決め、5〜6のブローカーに以来して会社をリスティングしたが、ミシガンの”普通のファミレス”というだけでは買い手が現れませんでした。

彼はすでに30を超えており、レストランに一生を費やすつもりはなかったので、2014年のレストラン買取10年後に本気の改革を決意しました。

2. ブランディング改革

彼が目をつけたのは、“ポジショニング”という概念でした。

ポジショニングとは、マーケットにおいて会社のサービスがどのような顧客に向けてどのような価値を提供するものであるのかを明らかにすることで、

彼のレストランの場合は「おじいさんが食事をする提供の遅いファミレス」であることに気がつきました。

彼はこのポジションをより魅力的なものに変えるため、抜本的なブランディング改革を行いました。

初めに行なったのは、じわじわと市場が広がりつつあったグルテンフリーのメニューの提供です。

その後、安全でアレルギー-フレンドリーな食事の提供へと領域を広げていきました。

まさに、健康のための食の安全性や質が注目されている現代にフィットしたブランディング戦略ですね!

そして、最終的にはヴィーガンフードの提供もスタートし、同エリア内のヴィーガン/グルテンフリーレストランとして広く知られるようになりました。

更に彼はマーケティングのデジタル化で郵送式DMからe-mailやSMSを使うことで時間とコストを削減し、

ウェブツールを使ってデータ収集と分析も行うようになったので、より効率的に顧客とコミュニケーションを取ることを可能にしました。

改革の影響

ブランディングの変更でレストランを大改革した後、数字としては売上は3年間で約20%も改善し、売却直前には収益は改革前より約30%上昇していました。

当然、使う食材の質がとても上がったのでコストも倍増しましたが、その分メニューの値段も大幅にあげ、高コスト高利益型のモデルへと変わっていきました。



確かに改革する度に離れるお客さんは存在し、従業員もそれに対して不安を抱いていましたが、

アンドリューは従業員に対し、

「全ての客を満足させることなんてできない。このレストランは我々が営んでいるのだから、自分たちのやっていることにフォーカスすればいい。安くて質の悪い食事は絶対に出さない。」

と言い聞かせていました。

高い値段を出さないお客さんは離れても、レストランは新しい顧客層を獲得し、最終的に客単価はかつての倍になり、従業員数も25人に増えました。

M&Aプロセス: 買い手探し

ブランディング改革の約4年後に彼はレストランのM&Aを決めました。

彼は過去にブローカーに頼ってきて売却がうまくいかなかった経験から、自分自身で買い手を探すことにしました。

今回彼がレストランを売ったのは西ミシガンで多くのレストラン事業を所有していたグループRPIという会社です。

アンドリューは数年前にRPIのマネージャーと知り合ったため直接連絡を取り、話を進めていきました。

M&Aの交渉中、RPIの社員が何度も抜き打ちでレストランを訪ね、実際にどれくらい客が来るのか等をチェックしていたそうです。

 

M&Aプロセス: 値段交渉

RPIはレストランを気に入り、アンドリューは最終的にM&Aの値段交渉に入りました。

RPIはアンドリューの希望額を下回る額を提示して提示し、交渉は行われたものの最終的に売却額はその値段で決着がつきました。

というのも、レストランは非常にニッチなマーケットで成功しており、ポジショニング/ブランディングは素晴らしかったのですが、一つ大きな問題を抱えていたのです。

経営のシステム化ができていなかったことです。

レストランでは、アンドリューが多くの業務を担い、彼が1週間以上留守にすると問題が起きてしまう状態でした。

通常、M&Aを行う時はEBITDA(Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization)、金利・ 税金の支払いおよび、固定資産の償却費控除前の利益が評価の重要な指標となります。

EBITDAには経営者やGMの給料も含まれており、それらは売却後の会社の利益分として計算されていますが、もし会社の社長がいないと経営が成り立たないならば、買い手は買取後に元社長の仕事を担う人材を新たに雇わなくてはなりません。

そうなると、経営者の給与分は将来の費用として見なされるので、実際のEBITDAの額からマイナスされます。

※社長の仕事が売却額に関係する理由はこちらの記事も参考にしてみてください→「会社を高く売るには?米プール会社が4年で企業価値を10倍にした話

アンドリューのレストランでも同じことが起きていて、将来の費用を鑑みて彼無しの会社の価値が低く見積もられてしまったのです。

 

M&Aの値段交渉を有利に進めるには?

上述したように、アンドリューのレストランは社長無しで経営が成り立つ仕組みができていなかったために低い値段で売却が決定しました。

しかし、彼は交渉のやり方次第ではもっと値段をあげられたと言います。

ポイントは、「初めに売り手側から数字を言わないこと」だそうです。

彼は今回の交渉で初めに自分で計算した企業価値を提示してしまいました。

すると、買い手側は会社の穴を見つけてどんどんマイナスしていきます。



逆に、初めに向こうに数字を提示させることで、もし向こうが非常に低い額を提示してきたらこちらが事前に計算したプロセスを利用して買い手の言い分の穴を見つけることができます。

もし買い手が、自分の予想より高い額を提示してきた場合は、その時点で売り手側は勝者となるのです。

 

M&A後のアンドリュー

彼はM&Aの契約が結ばれた後、わずか12日でレストランの現場を後にし、家族と旅行に行ったそうです。

現在は第3児が生まれ、子育てを手伝いながらレストラン専門のブランディング/ポジショニングのコンサルタントを行なっているそうです。

レストランは売却後1年経った今でも非常に好調で、彼は時々、

「あのタイミングで売るのが正解だったのかどうか?」

「もっと待っていたらもっと稼げたのではないか?」

と考えてしまうこともあるようですが、

それまでのレストランでの苦労や、現在家族と多くの時間を過ごせることの幸せや、売りに出ている会社の90%がM&Aに成功していないという事実を考慮し、結果に満足しているそうです。

 

いかがだったでしょうか?

アンドリューは売却までに5回のリスティングと14年間という長い年月をレストランに費やし、最終的に革新的なブランディング改革によりM&Aに成功しました。

外食業界という飽和しきった市場の中でのM&Aはなかなかうまくいきません。

今回はニッチな領域でユニークなポジションを獲得することが今回のM&Aケースの鍵となったようですね。

ただ、レストランの業務・経営を仕組み化してアンドリューがいなくても成り立つ環境を構築していたら、レストランはより高額で売却できたのではないかと思います。

 

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