アメリカのAIやVRといったシステムの開発会社「Altia Systems」は、従業員数22人という非常に小さな会社にもかかわらず、会社を1億2500万ドル(約130億円)で売却することに成功しました。
今回は、そんなAltia Systems社長であるオーラングゼブ・カーン氏のインタビューより、どうやって彼が会社を高額売却できたのかについて解説していきます。
ぜひ最後までご覧ください!
1. ビデオ会議の快適化システムの開発
社長であるカーン氏がAltia Systemsを立ち上げたきっかけは、2人のエンジニアの仲間と共に開発したビデオ会議をより快適に行うためのビデオカメラ、Panacastでした。
現在オンライン上での会議に使用されるZoomやSkypeは、PCのカメラのみを使用しているため平面的ですよね。
カーン氏はこのオンライン会議の体験をよりリアルに、まるで参加者がその場に会しているかのように演出するために、VRを使用したビデオ会議用カメラシステムを開発しました。
共に会社を立ち上げた2人の仲間とはストックを分け合い、共同経営者という形をとったそうです。
2. 起業資金の調達
Altia SystemsはベンチャーキャピタルからシリーズA(商品・サービスのプロトタイプ・企画段階)で350万ドルの支援を受けました。
彼らが資金を調達できたのは、
・社長であるカーン氏が以前にも企業を経験しており一定の評価を受けていたこと
・Altiaのシステムのプロトタイプがよく出来ていたこと
・世の中の働き方やテクノロジーの変化によりオンライン会議を採用する会社が増えていたために、今後高い収益を見込める領域であったこと
が大きな要因だったそうです。
その後、彼らはシリーズB(プロダクトやビジネスモデルが確立しつつあるミドルステージ)で約1000万円の資金調達に成功します。
出資者の中には、Intel Capitalというテクノロジー系への投資で有名なベンチャーキャピタルがおり、彼らの”お墨付き”はAltia Systemsのその後の資金調達や市場での立場に非常に有利に働きました。
カーン氏によると投資家やVCからの出資を得てビジネスを始める際に大切なことは、
「事業を成功させるのに十分な資金を調達すること」
だそうです。
スタートアップの会社ではその先何が起こるかわかりません。
予想外の出費や、プロダクトの開発に思っていたよりもお金がかかることはよくあります。
そのため、資金集めの際は妥協せずに十分な額を投資してもらうまで粘りましょう!
また、大手のVCに出資してもらうために最も重要なことは、投資に対する十分なリターンが生まれる事業内容・計画であることです。
一般的に5〜7年以内に投資額の2〜10倍のリターンを得られるかどうかがVCの意思決定のボーダーだそうです。
3. 会社売却額の評価と実際のM&A
カーン氏がAltia Systemsを創業して約7年後の2018年、会社の企業価値は7800万ドルにまで成長していました。
しかし、買上に名乗りをあげたデンマークのオーディオ機器会社GN Jabraは1億2500万ドルで買い取ると言い出したのです。
その時のAltia Systemsの従業員数はわずか22人だったので単純計算すると、一人当たり600万ドル以上の収入にも及びます。
GN Jabraが1億2500万円という高額を提示してきたのには3つの内的要因が大きく関係しています。
1つは、Altia Systemsにエンジニアのエキスパートが集まっていたことです。
従業員は皆優秀なエンジニアで、彼ら自身のスキルに非常に価値がありました。
2つ目は、利益を3年間で4倍に増やし、1600の顧客を世界40カ国に抱えていたことです。
その中にはUberやZoomといったトップブランドも含まれていました。
3つ目は、特許を多く取得していたことです。
彼らは当時、35の取得済み特許と15の取得手続き中の特許を抱えていました。
以上の理由によって企業価値評価額が押し上げられたことは間違い無いのですが、GNが既定の評価額を上回る値段で買い取ったのにはもう一つ大きな理由があります。
3. M&Aによるシナジー効果
GN Jabraが1億2500万円を提示したのは、彼らが所有するAIを使用したオーディオ機器とAltia SystemsのAIを搭載したビデオ機器Panacastのシナジー効果が大きく見込めたためです。
GNはお互いの機器を組み合わせれば、非常に優位性の高いプロダクト及びサービスの提供が期待できます。
特にGNのオーディオ機器はノイズキャンセリング機能に優れているため、雑音が気になるオフィスでのビデオ会議に持ってこいの商品だったのです。
彼らはビデオ会議用機器の市場に進出し、シェアを獲得するために同社の商品と親和性の高いビデオ機器を探していたためAltia Systemsを絶対に獲得したかったのでしょう。
GNからのオファーはAltia Systemsにとっても意義のあるものでした。
というのも、Altiaの社員は90%がエンジニアでセールスやマーケティングといった分野に弱みを持っていたためです。
150年の歴史を持つ大企業であるGNのセールスやマーケティングの力を活用できれば、彼らにとって大きな助けとなります。
こういう訳でAltiaはGN JabraとのM&Aを決めました。
4. まとめ
今回のケースでは、
・未来の成長市場に目をつけてビジネスを始めたこと
・専門性のある従業員
・トップブランドの顧客
・取得した特許の数
・M&Aのパートナーとの製品シナジー効果
の5ポイントが1億2500万ドルでの売却に成功したキーでした。
特許取得やトップブランドの顧客を獲得するのはなかなかハードルが高い戦略ですが、
自社のサービスや製品がどのような市場で今後活用できる可能性があるのか?
そしてどのようなパートナーに売ったら最も大きなシナジー効果が生まれるのか?
といった戦略は非常に参考になりそうですね。
コメントを投稿するにはログインしてください。