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「質 vs 生産性」2024年5月24日号



お世話になります。

一般財団法人日本アントレプレナー学会の清水です。


さて最近よくある悩みが、

仕事の質と生産性(採算や仕事スピード)のどちらを優先させるべきか?

ということのようです。

ちょうど何人かの社長からこのテーマで話がありました。

”細かいことにまでこだわる社員がいて、それはそれでいいのだが、生産性が下がっている気がする。”

逆に、

”自分は細部までこだわって仕事をしてほしいのだが、定時に帰りたいがために、仕事が雑になっている社員がいる。”

という話もありました。


仕事の質と生産性は一般には対立するものとして考えられています

個人的な話をすると、質よりもスピードを重視する仕事の仕方をしてきました。

これは関わってきた仕事の性質によるのかもしれません。

私の場合、集客やマーケティングといわれる分野からスタートしました。

この分野、世の中に出してみないと結果がわからないという特徴があります。

たとえば、自分が”素晴らしく書けた”と思う広告やウェブページであっても、実際に販売をしてみると、さっぱり売れない、ということが良くあります。

10時間かけて書いた広告よりも、1時間で書いた広告の方が成果が上がったりすることがあるわけです。

であるならば、まずは1時間で書いて出し、それを調整する、ということを繰り返したほうが成果が高まりやすいことになります

モノづくりと異なり、広告やデザインなどは、”これで良し”と言える完成品の基準があまりありません。

質にこだわろうとすれば、いくらでもこだわることが出来、いつまでも仕事が終わらないのです。

そういった特徴があるために、質よりもスピードを重視するという仕事の仕方が身につきました。



■しかし、何年か前から、それはどうも違うのではないか?と思い始めました。

質を軽視し、生産性を重視することによって、逆に生産性が下がっていると感じることが多々あるのです。

たとえば、質よりもスピードを重視し、ラフに作ったウェブページを公開したとします。

”成果が出なかったら後から改善すればいいや”という感じです。

しかし、ウェブページの訪問者とは一期一会の関係性です。

ページを開いて3秒くらいで、”これは自分に向けたページかどうか?”を判断されます。

文字のフォント、使っている画像、スペースの使い方などに至るまで、瞬時に判断されます。

ラフに作るとそうった細部まで考えて作りこむことが出来ません。

そのため、本当はお付き合いが始まったであろう方との関係性がその場で遮断されてしまうのです。

そういったことが積み重なり、質を軽視することによるコストのほうが高い、と感じることが多くなりました。

そこで数年前から、自分の価値観と行動を改めようとしてきました(まだ完全に改められていませんが)


モノづくりの世界では当然のことだと考えられているとは思いますが、高品質は生産性につながります。

これは他のどの仕事にも当てはまると思います。

各社員の仕事の品質が高いことによって、仕事の手戻り(上司や他部署からの差し戻し)が減ります。これは本人、上司、他部署にとって時間の削減となり、生産性につながります。

仕事の質が高ければ、評判によって顧客が集まるため、広告宣伝費が削減できます。

仕事の質が高ければ高単価を実現することが出来るため、利益率も高まります。

クレームやトラブルに付随する修理費用や交換コスト、さらには口コミによるブランド価値の失墜コストを抑えられます。

そして、社員の方も時間に追われるよりも、質を追求することで自分の技術力、仕事力の向上につながることが実感できます。それがひいては採用や離職に関わるコストの削減につながるでしょう。



■結果として、仕事の質の追求をすることは、生産性につながるわけですね。

そこで、仕事の質と生産性(採算や仕事スピード)のどちらを優先させるべきか?

という冒頭の質問に立ち戻ると、仕事の質を優先させるべき、ということになります。

ただし、質を優先させるばかりに、先ほどの私の話にあったように、”いつまでも仕事が終わらない”という事態は避ける必要があります。

そのためには、自社の各業務における仕事の質とは何か?

を決めておくことが大切です。



■私たち仕組み経営のプログラムでは、顧客の視点から質を定義する方法をお伝えしています。

これによって、こだわるべきところが明確になります。

そして、こだわるべきところは自社が顧客に対して表現したいブランドによって異なります。

たとえば、スティーブ・ジョブズ氏は、

「近代美術館レベルの品質」

を要求したそうです。

消費者の手に渡る商品は、伝説的なUXでなければならない。

すべてのデバイスが完璧に機能しなければならない。

そして、触れるものはすべて、息を呑むほど美しいものでなければならないと考えていました。

アップルが、iMacを開発しているときのこと。

iMacのデザインがほぼ完了し、デザインチームはジョブズにお披露目する機会を設けました。

そこでジョブズは、次のようにチームに言ったと言われています。

”確かに外観は優れたデザインだが、内側がまだ駄目だ”

内側というのは、パソコンの中身、いわゆる基盤と呼ばれるものです。

普通のユーザーであれば、パソコンの筐体を開けて基盤を見るなんてことはしません。

しかし、ジョブズは、そこですら美しくなければならないと伝えたのです。

するとデザインチームのメンバーは、

”内側なんて誰もみませんよ”

と当然の反応を示します。そこでジョブズは、次のように言うのです。

”確かにユーザーは見ないかもしれない。でも、我々は見るだろう?”

この言葉にジョブズの哲学が現れています。



■実はこの言葉は、彼が幼少の頃、父親から受けた教育が基になっています。

ジョブズが小さい頃、彼の父親が、家の庭の壁をペンキで塗り、キレイにするように依頼します。

ジョブズはいやいやながらも壁を塗り、父親に報告します。

そこで父親はジョブズにこう告げました。

”まだ半分しか出来てないじゃないか。内側の壁がまだだ。”

ジョブズは街ゆく人から見える、壁の外側だけペンキでキレイにしていたのです。

そこでジョブズはこう言います。

”内側の壁なんて誰にも見えないじゃないか”

父親は、

”でも我々は見るだろう?”

というのです。

この幼少期のエピソードがジョブズに大きな影響を与え、アップルのブランド、それが品質に対する哲学に反映されるわけです。

アップルのファンは、このようなこだわりを重要視しているため、高い金額でも買ってくれ、それがアップルの利益につながっているというわけですね。


というわけで今日は、仕事の質と生産性について考えてみました。


ぜひ自社にとっての仕事の質とは何かを見直してみてくださいね。


では本日は以上となります。


引き続きよろしくお願いいたします。



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