ビジネスと社長の出口戦略(イグジットプラン)完全ガイド



清水直樹
ビジネスと社長の出口戦略(イグジットプラン)を持っている人は少ないかも知れません。しかし、これから社長の大引退時代、事業承継時代を迎えるあたって、ビジネスと社長の出口戦略(イグジットプラン)を持つことは非常に大切になっています。

社長とビジネスの出口戦略(イグジットプラン)とは?

出口戦略(イグジットプラン)とは、どうやって有利な条件で出口(終わり)を迎えるか?という戦略のことを指しています。

これは投資の世界でよく使われる言葉です。たとえば、投資用にマンションを購入したとします。

この場合の出口戦略は、

  • 次のオーナーに売る(いくらで?いつ?
  • 収益源として保有し続ける
  • 自宅にする

といったことが考えられます。

この「出口戦略」という言葉、奇しくも起業とは関係がない新型コロナ感染拡大に伴い、知名度が上がったようです。

2020年4月、日本全国で自粛要請や緊急事態宣言が出されましたね。いわばこれが入り口です。一方、宣言後には”いつまで緊急事態なんだ?”、”いつまで我慢すればいいんだ?”という声が噴出しました。

要は国民みんなが緊急事態宣言の”出口戦略”を求めたのです。当初は政府に出口戦略が無く、それによって国民が不安に陥りました。

このように物事には全て、入り口があり、出口があります。起業や経営もそれと同じで、始めることも大事ですが、出口戦略も大事なのです。

 

社長とビジネスの出口戦略(イグジットプラン)とは

では、社長とビジネスの出口戦略(イグジットプラン)とは何か?

これは、社長がいつ、どのような形で引退するのか?ビジネスは誰が継ぐのか?または廃業するのか、または売るのか?などの戦略を立てることを意味しています。

いま、中小企業の事業承継問題、後継ぎ不在問題が顕在化していますが、ズバリ言ってしまえば、これらの原因は、社長が自分とビジネスの出口戦略を持っていなかったことなのです。

それまで出口戦略を考えずに経営をし続け、いざ自分が引退したいと思った時には、後継ぎがいなかったり、誰も会社を買ってくれる人がいなかったりします。

出口戦略を考えるべきなのは、いざ出口を迎えるずっと前なのです。

基本的に、シリコンバレーの起業家などは起業すると同時に、出口戦略をセットで考えることが多いようです。起業というのは経営者人生の入り口であり、出口戦略は、経営者人生の出口になります。

とはいえ、まだまだ日本ではこの出口戦略(イグジットプラン)についての知識が広まっていないと思いますので、この記事でご紹介していきたいと思います。

 

社長が目指すべき出口戦略(イグジットプラン)

社長が目指すべき出口戦略(イグジットプラン)とは、以下のような条件を満たす出口を迎えることです。

  • これまでビジネスに投資してきた時間、お金に対して最大のリターンを得ることが出来ること。
  • 次の世代へ会社の経営権を移行させ、事業を継続させること。
  • 事業を継続させることによって、社員の雇用が継続させること。

このような出口戦略があることで、利害関係者全員にメリットをもたらします。

 

ほとんどの経営者は出口戦略を考えていないという事実

ところで、あなたには出口戦略はありますか?

こう聞かれて、「はい、あります」と答えられる経営者はかなり少ないでしょう。でも安心してください。私たちの経験からいっても、ほとんどの経営者は出口戦略を持っていません。

米国のデータになりますが、1/3の経営者は、出口の選択肢(売却、承継等)すら知らないという結果が出ています。つまり、起業してビジネスを構築したものの、将来、どうやってそのビジネスから離れるのか?を知らない、というわけなのです。

これは結構衝撃的なデータですね。

後継者育成計画と出口戦略(イグジットプラン)の違い

世の中には後継者育成計画というのもありますね。これはその名のとおり、社長の後継ぎを育てる計画ですが、基本的には出口戦略の中に含まれます。

事業を継続させていくため、後継者育成計画を立てている会社は多いと思いますが、経営者がハッピーリタイアしようと思ったら、それだけでは不十分です。

後でご紹介しますが、出口戦略には後継者育成から資産構築、ライフプランなど様々な要素が含まれます。後継者育成計画もそのうちの一つです。

 

社長の出口戦略(イグジットプラン)は4つだけ



結論から言えば、社長とビジネスの出口戦略は上記の通り4つだけです。

  • M&A(会社売却)
  • 家族承継
  • 社員承継
  • 廃業

また、これら4つのそれぞれに対して、意図的にその出口を迎えるのか、または偶発的/強制的にその出口を迎えるのかで8つのパターンに分かれます。そして、晴れてハッピーリタイア、社長も会社の社員もハッピーとなるのは、このうち3つのパターン、戦略的会社売却、勇退/一族経営、勇退だけです。

 

出口戦略(イグジットプラン)として会社売却を選ぶ場合

たとえば、会社売却の例について考えてみましょう。

あなたが会社を売るとなった時、2つのパターンがあります。ひとつは意図した売却です。会社を売却できるように準備をし、計画立てて売却する場合です。この場合、会社を売れるようにしていく過程で、企業価値が高まり、オーナーの希望するような売却額で売れる可能性が高まります。また、残った社員に対する配慮もされるため、いわゆる「ハッピーリタイア」となります。

また、仕組み化されていて経営者が交代しても経営できる会社と、そうではない会社では、売却時の価格に何倍も差が付くともいわれています。あなたでしか経営できない会社であれば、買い手は買う意味がないので当然です。

もうひとつが、強制売却です。これは後継者を育成できなかった経営者や、病気や死亡などの理由で急に経営者が働けなくなった場合に生じるケースです。

この場合、売却金額も二束三文にしかなりません。

あなたがどちらの道を選ぶことになるかは、あなたがまだ現役で活躍しているころから出口戦略を創り、それを実行できるかどうかにかかってきます。

 

出口戦略(イグジットプラン)として家族承継を選ぶ場合

また、出口戦略として家族承継を選ぶ場合を考えてみましょう。

この場合も2パターンあります。ひとつは現役社長が急な病気や死亡により、急遽跡継ぎを選ばないといけなくなった場合です。この場合は大変です。まだ準備が出来ていない息子や娘が社長になることになります。

メディアではいきなり社長になった子供が苦労して、会社を切り盛りしていく、というような話がよくあったりします。しかし、現実はそんなに甘くありません。ほとんどの場合には、後を継いだ子供の社長としての能力は、先代社長に遠く及びません。

家族経営のよくある課題については別途記事をまとめていますのでご覧ください。

家族経営のオーナー必見!家族経営の課題と解決策とは?

 

二つ目のパターンは、先代が元気なうちから誰に継がせるかの目途を付け、その人を次期社長として育てていくことです。円満な家族承継をするためには、そのような事業計画と同時に、家族計画、資産計画も大切になってきます。

家族経営の後継者問題とは?正しい事業継承計画まとめ

後継者育成塾が役に立たない理由とその対処法を完全解説

 

出口戦略の事例:チップコンリーはなぜ会社を売ったか?

「出口戦略なんてまだ考えられない。まだまだやりたいことあるし」

という方もいらっしゃるかもしれませんね。ただ考えてみてください。もし、あなたが今のビジネスに情熱を失ってしまったらどうしましょう?また、何年か先、ビジネスモデルが時代についていけなくなったらどうしましょう?突然病気やケガをしたら?

そんな時、出口の準備が出来ていなければ、社員は路頭に迷ってしまいます。

逆に、出口戦略を今から創っておけば、安心です。

また、出口戦略の一つ、会社売却についても、

「会社を売るなんて考えられない。自分が作った会社なのに。社員はどうするんだ?」



という方も多いものです。しかし、会社を売るのは恥ずべきことではありません。ジョワドヴィーブルという有名なホテルチェーンを創業したチップコンリー氏という人がいます。マズローの欲求段階説に基づいて経営し、世界的に知られた経営者です。

そんな彼も、ホテル経営よりも情熱が持てる分野が見つかったことが理由で、ホテル事業を売却し、次のキャリアをスタートさせました。

このように人の情熱というのは年齢によって変わってくるものです。あなたが本当に情熱が持てることをやることが、利害関係者にとっても幸せな道と言えるでしょう。

もし、あなたが当面会社を売るつもりが無いとしても、仕組み化を進め、売れる状態にすることは大切です。会社が売れるということは、その会社が他(他社、社員、顧客)から見ても魅力的であるということです。イコール、業績にも良い影響が出ますし、人の採用もしやすくなります。

 

出口戦略(イグジットプラン)の構成要素

では、出口戦略(イグジットプラン)をどう考えていけばよいでしょうか?

先ほど後継者育成計画は出口戦略要素のうちの一つ、と言いましたが、出口戦略の構成要素としては以下のようなものがあります。(会社売却を前提とした場合です)

資産計画

いつまでにいくらの資産を構築したいのか?また、売却後は経営者時代と異なり、資産はあるけど収入がない、という状態になります。その状態にどう対処するか?収入を生み出す資産に投資をするのか、新しいビジネスを始めるのか、などを考える必要があるでしょう。

家族計画

会社の株を自分だけではなく、家族のメンバーも持っている場合、彼らへの対応をどうするか?も考える必要があります。中には”会社を売るなんて嫌だ”という人もいるかもしれません。その辺のコンセンサスを取っておく必要があるでしょう。

人生計画

引退後、どのような人生を送りたいのか?これも実際に引退する前に考えておきましょう。米国のデータでは会社を売った社長のうち、75%が後悔をしているという結果も出ています。これには、想定していた金額で売れなかったことや、引退後にやることを考えていなかったことから来る喪失感が原因のようです。そうならないためにも、人生計画の立案が大切です。

バリューアップ計画

バリューアップとは、会社を望む金額で売却するために、会社の価値を高めていくプロセスを指しています。詳しくはこちらの「高値売却マスタークラス」をご覧いただくと良いと思います。

後継者育成(引継ぎ)計画

これは社長の後釜を創っていくための計画です。また、社長業を他の人に引き継ぐための計画もあれば、会社売却もスムースに生きやすいでしょう。

 

出口戦略(イグジットプラン)の進め方

では最後に、どうやって出口戦略(イグジットプラン)を考えていけばいいのか?

大きな流れを見ていきましょう。

1. 目的地の確認

これは会社経営のあらゆる側面と同じですが、目的地を認識することが第一です。

たとえば、会社経営であれば、会社のビジョンや目標がありますね。それと同じで、現在の経営者人生の最後にどうなりたいのか?から考えていきましょう。

参考として、前項の出口戦略の構成要素のそれぞれについて、目的地を決めることから始めるといいでしょう。

たとえば、

  • いつ出口を迎えるのか?
  • 出口を迎えたときに、いくら資産が欲しいのか?
  • 出口を迎えた後、どのような人生を送りたいのか?
  • 誰に会社を引き継ぐのか?
  • いくらで会社を売却したいのか?

等を考えてみましょう。

 

2. 現在地の確認

次に現在地です。前項で考えた目的地に対して、現在はどこにいるのでしょうか?そのギャップを明確化していきましょう。

 

3. 売却先を検討する

これは会社売却を目指す場合ですが、出口戦略のひとつとして売却先を検討してみましょう。通常、会社を売却する際には、仲介会社や銀行などに依頼し、彼らが紹介してきた買い手企業から売却先を選ぶ、ということになります。

しかし、それだと少し消極的なアプローチになるかもしれません。自ら売却先を検討し、その会社に買ってもらうには、どのような会社にすればよいか?と考えたほうが出口が明確になり、計画が立てやすくなります。

たとえば、私たちの師匠でもあるマイケルE.ガーバー氏の教えを実践した起業家、ロジャーフォード氏という人物がいます。

出口戦略を明確にして起業した
https://anthemequity.com/about/rodger-ford/

 

彼は何度も会社を売却しているのですが、そのうちのひとつPetsHotel社を起業した時のエピソードが面白いです。彼はその会社の創業前から売却先を決めていました。それがPetSmartというペット用品を扱うチェーン店です。その各店の横にPetsHotelを併設すればシナジーが生まれると考えていたのです。

そこで彼は、PetsHotel社のロゴもPetSmart社に似せて作ったと言います。起業してわずか2年後、彼は実際に同社をPetSmart社に売却することに成功しました。



こんな短期間で売却が実現したのは、彼が起業と出口戦略をセットで考えていたからです。

 

4. バリューアップ計画

最初にギャップを認識すると言いましたが、大半の場合、最も大きなギャップは、今現在のあなたの会社の価値(売却可能価格)とあなたが理想とする売却価格です。

ほとんどの経営者は、自分の会社の価値を知ったときに驚くと言います。それは想定していたよりもはるかに低い金額でしか売れないという事実を知るからです。

これまで何年、何十年と経営し、人生の大半をビジネスにささげてきたにも関わらず、”え、こんな安いの?”という現実をたたきつけられてしまうのです。これは悲劇的な現実です。

そうなったとき、選択肢は3つあります。

一つ目は、提示された金額で売る、ということです。多くの経営者はこの選択肢で妥協してしまうのではないでしょうか。特に経営者が高齢であればあるほど、他に選択肢が無くなってしまうからです。

二つ目は、売らずに経営をし続ける、ということです。こんな金額でしか売れないんだったら、経営し続けたほうがいいかと、そのまま経営を続けます。

三つ目は、会社をバリューアップ(価値向上)し、自分の望む価格で売れるようにビジネスを創り変えていくことです。

このうち、一つ目と二つ目の選択肢を選ばれる場合にはここでもう話が終わってしまうのですが、私たちが目指していただきたいのは三つ目の選択肢です。

今すぐ会社を売らなければいけない、という緊急の理由がない限り、今の会社の経営者人生の最後の仕上げとして、バリューアップ(価値向上)に取り組んでいただき、自分の望む人生を手にする、ということが後悔しない出口に必要だと思います。

 

5.チーム作りと実行

上記のようなことを検討し、計画を立てたら、次は実行です。これはできればチームがあると良いです。社長ひとりでいろいろと考えるのは心細いですし、専門家の知識が必要になることもあります。

社内の信頼できるメンバーや、外部のコーチ/コンサルタント/専門家の方々に自分の出口戦略を共有し、チームを作って実行していきましょう。

 

6.社長の役割を変える

出口戦略を迎えるには、社長の役割を変えていく必要があります。いつまでも自分が現場を回し続けるようなスタイルだと上手く出口を迎えることが出来ません。これについては以下に詳しく解説していますのでご覧ください。

社長(経営者)の役割をステージ毎に完全解説

 

出口戦略(イグジットプラン)は今この瞬間から考えよう

私たちの師匠でもあるマイケルE.ガーバー氏が書いたベストセラー「はじめの一歩を踏み出そう」には、経営者は会社を売れるようにしなくてはならない、と書いてあります。

私たちは会社経営の仕組み化を経営者の方々にご提供していますが、仕組み化についてお伝えする際には、必ずこのテーマも合わせてお伝えしています。仕組み化の大きな目的は、会社を売れる状態にすることだからです。

永遠に所有していけるように、しかし、明日にでも売却できるように今日のビジネス構築に臨め。

これは実業界で語られ続けている格言です。経営者が高齢化(東京商工リサーチによれば、平均61.9歳)しているせいで、会社が存続できなくなり、自主廃業せざるを得ない会社が増えているのです。自主廃業するくらいなら、社員のためにも他の誰かに会社を売って、存続させたいという経営者が増え、スモールM&Aが増えているのです。

一方で、先に申し上げた通り、出口戦略(イグジットプラン)を持っている経営者はほとんどいません。何十年と経営し、様々なことを学んできたベテラン経営者であっても出口戦略を知らない経営者が多いのです。

ぜひこの記事をきっかけに、ご自身とビジネスの出口戦略を考えてみていただければと思います。

なお、事業承継や会社売却を出口として目指す方には、仕組み経営体験ウェブセミナーをお勧めします。以下からぜひご覧ください。

 

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