「闘争心を燃やす」(京セラフィロソフィー)とは?意味や経営での活用方法をご紹介。



清水直樹
「闘争心を燃やす」についてその意味、経営での活用方法をご紹介していきます。

 

「闘争心を燃やす」とは、稲盛和夫氏が作った「京セラフィロソフィー」に掲げられている一文です。経営(仕事)とは勝負であり、闘争心を持って臨まなくてはならない、というのが稲盛氏の考えです。本記事では、闘争心を燃やすとは具体的にどういうことなのか、そして、自分や部下の闘争心を燃やす方法を見ていきます。

「闘争心を燃やす」の意味や類語

そもそも闘争心とは、意欲が盛んになって興奮することを指します。類語として、対抗心や競争心がありますが、どちらかというと、闘争心のほうが感情的に強い言葉であると言えます。

京セラフィロソフィーにおける「闘争心を燃やす」の意味

稲盛氏は、京セラフィロソフィーの中で、以下のように書かれています。

仕事は真剣勝負の世界であり、その勝負には常に勝つという姿勢でのぞまなければなりません。

しかし、勝利を勝ち取ろうとすればするほど、さまざまなかたちの困難や圧力が襲いかかってきます。このようなとき、私たちはえてして、ひるんでしまったり、当初抱いていた信念を曲げてしまうような妥協をしがちです。こうした困難や圧力をはねのけていくエネルギーのもとはその人のもつ不屈の闘争心です。格闘技にも似た闘争心があらゆる壁を突き崩し、勝利へと導くのです。

どんなにつらく苦しくても、「絶対に負けない、必ずやり遂げてみせる」という激しい闘志を燃やさなければなりません。

一般に、闘争心というと、”相手を打ち負かす”ことをイメージします。しかし、京セラフィロソフィーの中では、格闘技という言葉が出てくるものの、ライバルをやっつけることや、相手を負かすことについては書かれていません。そのため、どちらかというと、何か具体的に相手がいて、その人(会社)を上回ることではなく、弱い自分の心に打ち勝つ、という意味合いで使われていると考えると良いでしょう。

有名人が語る「闘争心」

稲盛氏以外にも、他分野の有名人も「闘争心」について語っています。以下にいくつか例を挙げてみましょう。

故・野村克也氏(プロ野球選手、監督)

ノムさんの愛称で親しまれた野村克也監督は、書籍の中で以下のように語っています。

野生とは闘争心であり、負けじ魂であり、反骨心。そこに教養と知性を兼ね備えて「真の野生」となる。闘争心と教養は互いを補完し合う関係にある。闘争心が教養を誘発し、教養が闘争心を煽り、持続させる。プロの世界で伸びる選手、再起した選手は野生を持った選手だった。悔しさは向上心とモチベーションに変えよう。闘争心が眠っていると感じたら野生のスイッチを入れよう。

ノムさんは、監督時代の目利きで有名ですが、活躍できる選手とそうでない選手の違いを見分ける基準を持っていたようです。

青木功氏(プロゴルファー)

ゴルフをしない人であっても名前くらいは知っている青木選手。彼は以下のように語っています。

自分から闘争心、挑戦心、競争心、好奇心の一つでも欠けたら自分のゴルフは終わってしまう。

自身のゴルフ人生を振り返って、闘争心の大切さを一番に持ってきています。

 

安藤忠雄氏(建築家)

こちらも言わずと知れた建築家、安藤忠雄氏。一見、闘争心とはかけ離れている職種のように思えますが、以下のような言葉を残しています。

知的体力を増強していくのに必要なのは闘争心です。何にでも果敢に挑んで、おもしろいことを探し出してやろうという姿勢が大切です。いくつになっても楽しそうに、元気に生きている人は、必ず闘争心を内側に燃え上がらせていて、知的体力もしっかりしているものです。

そんな生き方をしていると、反発を食らうんじゃないかと心配になるかもしれません。たしかに出る杭は打たれます。それが社会というもの。だったら、打たれてもへこたれない杭になればいい。

闘争心を燃やして戦いに勝って、自分なりの考え方や生き方を貫く。そうしたら人生、ぐっとおもしろくなります。

建築家は誰かと闘ったり、競争する職業ではありません。にも関わらず、安藤氏は、闘争心の大切さを語られています。これも稲盛氏と同じように、自分との闘いを意味しているのかも知れません。また、安藤氏の建築は特徴的で、一目で安藤忠雄が設計したものだ、とわかります。これは彼が常に、世間の無難に作られた建築物と闘ってきたことも影響しているのかもしれません。

小林可夢(レーシングドライバー)

日本を代表するレーシングドライバーである小林可夢偉氏も以下のように語っています。

闘争心とかすごい大事やと思うんです。負けるのが嫌やからどれだけ頑張るか。その頑張ったことを基礎に、自分はレーシングドライバーとしての基礎を作ってきたんやと思う。

ただ、どんだけ速い人でも悪いクルマに乗ったら勝てない世界なので、闘争心だけではレースで結果は残せない、とも言っています。

 

闘争心を燃やして成功した例

起業家、経営者として闘争心を燃やすことの大切さを感じる例を3つほど挙げたいと思います。うち2つは個人的に私が好きな自動車業界の話になっていますがご容赦ください。

ランボルギーニはフェラーリに闘争心を燃やして成功

ランボルギーニ社を挙げたいと思います。男性なら一度はあこがれるスーパーカーを生み出す自動車メーカーです。

今でこそ、フェラーリと並び称されるスーパーカーメーカー、ランボルギーニですが、もともとは、トラクターを販売する会社であったことは有名です。



第二次世界大戦後、トラックが不足している事に目をつけたフェルッチオ・ランボルギーニ氏が、高性能トラクターを作り、ランボルギーニトラットリーチ社を設立します。同社は成功し、フェルッチオ氏は、実業家として大きな富を得ました。

当時、フェルッチオ氏は、フェラーリを何台も所有しており、故障の多さに困っていたそうです。修理のためにフェラーリ社に部品を請求したところ、ランボルギーニ社のトラクターに使用しているパーツが送られてたそうです。しかも、値段は通常の10倍だったとか。

フェラーリにバカにされて闘争心が燃える

ここからのエピソードは若干曖昧ですが、同氏はフェラーリ社に行き、クレームを入れました。すると、”トラクター屋に何がわかる”というような感じで追い払われてしまったそうです。

そこで同氏の闘争心に火が付きました。フェラーリよりも優れたスーパーカーを作ってやる、と意気込み、同社初となるスーパーカー、350GTを世に送り出しました。その後も、「ミウラ」や「カウンタック」など名車を生み出し、完全にフェラーリのライバルとして認められるまでに成長しました。

ランボルギーニのエンブレムは猛牛ですが、これもフェラーリの跳ね馬に対抗したものだともいわれています。(フェルッチオ氏が牡牛座だったからという説もあります)

 

日本人による自動車づくりに闘争心を燃やした豊田喜一郎

世界最大の自動車メーカー、トヨタは元々、紡織機メーカーとしてスタートしました。2代目社長であった豊田喜一郎氏は、渡米した際、アメリカの自動車社会に衝撃を受けます。そこで、アメリカの自動車ではなく、日本人の手による自動車を日本に走らせたいという想いで自動車づくりを始めるのです。トヨタの成功物語については以下の動画をご覧いただくといいと思います。

 

 

永守重信氏は稲盛氏に闘争心を燃やした?

日本電産の創業者であり、稲盛氏と並び称される経営者になった永守重信氏も、闘争心を大切にしていることで有名です。同氏はズバリ、「闘争心を糧に努力してきた」とおっしゃっています。永守氏の闘争心はどこから生まれたのでしょうか。書籍などの中にいくつかエピソードが出ていますが、二つほどご紹介しましょう。

小学校の教師への闘争心

一つ目は、小学校のときの担任の教師です。いま考えると酷い話で、問題になりそうですが、その教師はえこひいきをし、永守氏を精神的に虐げていたそうです。ある試験の時、永守氏は良い点を取りました。しかし、その教師は、「百姓の息子がそんなに勉強して役に立つのか」と永守氏に言い放ちました。その時、永守氏は、「いまに見てろよ。必ず偉くなって見返してやる」と固く心に誓ったそうです。それから教師の写真を部屋の壁に貼り、闘争心を燃やし、努力を続けたそうです。

子供のころの経験はその後の人生に大きな影響を与えます。永守氏も小学生時代の教師との体験が今に影響していると言えるでしょう。

京セラをベンチマークに成長

二つ目のエピソードは、まさに京セラ稲盛氏との関係です。永守氏が39歳の頃、当時52歳だった稲盛氏と初めての会食を行います。既に経営者として成熟し、会社も伸び盛りだった稲盛氏に刺激を受け、京セラがやっていることはうちもやろう、という対抗心を抱きます。京セラと日本電産は取引もあったらしく、大いに刺激を受けて日本電産を成長させていきました。

永守氏はインタビューで以下のように語っています。

稲盛さんに出会って、また京セラという会社に出会って日本電産の方向性が定まった。そのことは間違いないですね。「成長企業とはこうあるべきだ」という、いわば1つのお手本を得ることができました。我われが掲げている「情熱、熱意、執念」「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる(最後までやる)」という企業理念も、そうやって京セラを追いかける中で生まれたんです。(「致知」のインタビューより)

 

「闘争心を燃やす」方法

では最後に、「闘争心を燃やす」方法、さらに闘争心を経営に活かす方法について考えていきましょう。

本記事は、経営者の方の読者を想定していますので、考えたいことは二つあります。

第一に、経営者ご自身の「闘争心を燃やす」にはどうすればいいか?です。

日頃、多くの経営者と接していますが、持続的に成長している方は、何かしらコンプレックスや劣等感を感じてこられた人が多いように思います。それが闘争心につながり、自分を動かす原動力になっているようです。こういったことはあまり表面上のお付き合いでは語られることはありませんが、深い付き合いになっていくと、徐々にご自身の過去のエピソードを教えてくださります。

ただ、社長である自分が闘争心を燃やしていても、社員がのほほんと仕事をしていては、何も変わりません。そこで第二に、社員の「闘争心を燃やす」にはどうすればいいか?を考える必要があります。

自分の闘争心を燃やす方法

70歳を超えている永守さんが小学生時代のエピソードを持ち出して闘争心について語っているように、子供のころの印象的な体験は、大人になっても性格や人格に影響を与えます。そこで、ご自身の過去を振り返り、何が自分を突き動かしているのかを改めて認識してみると良いでしょう。

以下のような質問について考えてみましょう。(これは経営理念や人生の使命を見つけるための質問の一部です。今回は闘争心がテーマですので、ご自身の負けん気や努力のエネルギー源を見つけるための質問に絞っています)

  • 今までの人生で最も悔しかった出来事は何ですか?時系列で挙げてみましょう。
  • 今までの人生で最も努力したことは何ですか?そのとき、どのようなモチベーションで努力しましたか?
  • 子供の時に最も辛いと感じた経験は何ですか?
  • 両親の生き方のどんなところが好きで、どんなところが嫌いですか?あなたの今の考え方は両親の考え方を反映していますか?それとも反面教師にしていますか?
  • あなたが嫌なこと、やりたくないこと、あなたの人生からなくなってほしいものは何ですか?

これらの質問を深堀して考えることによって、何が自分の原動力になっているのか?なぜいま苦労してまでも経営をしているのかがわかってきます。日々、そのことを思い出すことで、ご自身の闘争心を燃やすことが出来るはずです。

社員の闘争心を燃やす方法

次に、経営者としては自社の社員にも闘争心を持って仕事に取り組んでもらいたいと思うはずです。一方、闘争心は個人的なものであり、何に対して闘争心を抱くのかは完全に人によって異なってきます。たとえば、同僚に負けたくないという闘争心を持つ人もいれば、自分が限界を乗り越えることに闘争心を抱く人もいるでしょう。そこでいくつかの仕掛けを社内に作る必要があります。

自分たちのライバルは誰かを徹底的に教え込む

これはあまり現代では推奨されないやり方かも知れませんが、私の個人的な体験から効果が見込めると思うやり方です。私が最初に就職した会社で、入社したての時に集中的なトレーニングを受けました。IT企業だったので、技術的な研修なども当然あったのですが、それより印象に残ったのは、自分たちはいま何と闘っているのか?を徹底的に叩き込まれたことです。

私が就職したのはマイクロソフトで、当時は、オープンソースのOSであるリナックスが社内的に脅威になっていました。また、リナックスを推し進めているIBMも大きなライバルでした。そこで経営陣は、新入社員である私たちに、オープンソースの何が問題なのか、なぜWindowsの方がいいのかを叩き込んだのです。

それから20年経ちましたが、私はいまでもWindowsを使っており、いくらMacが良いと言われても乗り換える気にはなりません。それだけ社会人生活の初期に植え付けられた価値観は根深い、ということですね。

働く理由や目的を考えさせる

先ほど「自分の闘争心を燃やす方法」のところで経営者自身の過去について振り返ってもらいましたが、社員にも同じように考えてもらいましょう。これにより、(お金以外の部分で)なぜ自分が働いているのか、何が自分の原動力なのかを自己認識してもらえます。



数値目標を明確に与える

過去の自分を上回ることに闘争心を燃やす人もいます。そのような人には、明確な数値目標を提示することが有効です。一般には営業担当者には売上目標が与えられていますが、その他の部門は数値化されていないケースが多いです。しかし、だれしも自分の仕事の成果が数値で可視化されると、それを改善したいと思うものです(フィードバック効果と呼ばれます)。

システム思考「フィードバック効果」を経営に取り入れる

 

同僚とゲームをさせる

これはやりすぎると社員にストレスを与えることになりますが、同僚とゲーム、つまり競争させることも闘争心を生み出すのにつながります。ただし、あくまで健全な競争を生み出すべきであり、同僚を蹴落として成果を上げようとするのはよろしくありません。たとえば、私たちのお客様の中には、チーム戦で成果を測るようにして個人に対する恨みや妬み、嫉妬を避けるようにしている会社があります。

 

大善で導く

同じく京セラフィロソフィーの中に、「大善と小善」の話が出てきます。これはレベルが高い方法ですが、上司が大善で部下を導くことが出来れば、彼らは上司への闘争心を燃やし、仕事に取り組んでくれることもあります。これについては別途、記事を書いていますので、合わせてご参照ください。

「小善は大悪に似たり。大善は非情に似たり」を完全解説。経営での実践方法も。

 

以上、今回は「闘争心を燃やす」について意味やその方法についてみてきました。ぜひご参考にされてください。

 

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