飲食店経営者必見、ベーカリー界のスターバックス「パネラブレッド」成功の秘訣



清水直樹
「パネラブレッド(Panera Bread)」というカフェチェーンをご存じでしょうか。日本には未進出ですが、ベーカリー界のスターバックスと呼ばれ、店舗数は2,000を超えています。本記事では飲食店/店舗経営者のみならず経営者に役立つ同社の成功の秘訣をご紹介していきます。

※本記事の内容は、海外の記事と共に、私が実際に同店に訪問してリサーチしてきた結果を基にしています。

飲食店経営者要チェックのパネラブレッドとは?

パネラブレッドは、Ron Shaich(ロナルド・シェイ)氏によって創業されたカフェチェーン。米・カナダに約2000店舗を展開し、売上は約3000億円、社員数8万人、ここ10年くらいで急成長を遂げています。その店舗の雰囲気や急成長ぶりから、一部では「ベーカリー界のスターバックス」と呼ばれています。

カリフォルニア州にあるパネラブレッド店舗

メニューと価格帯

スターバックスがコーヒーを中心としてドリンクを主軸メニューにしているのに対し、パネラブレッドはパン、スープ、サラダを中心としてフードを主軸メニューにしています。その健康的で充実したフードによって、特に都市部エリアで働くアッパーレベルの顧客が多くなっています。客単価は10ドル弱となっており、ドリンク主体の通常のカフェよりは高いと言えます。

店内の様子

店内はスターバックスに似た雰囲気となっており、wi-fi完備、テーブルも椅子も広いスペースでゆったり過ごせるようになっています。また、Panera 2.0と呼ばれているテクノロジーへの投資プロジェクトの結果、店内にはキオスクがおかれ自動注文が出来るようになっています。

 

パネラブレッドの創業ストーリー

パネラブレッドのストーリーが始まったのは、1980年でした。当時、大学院を卒業したばかりの創業者Ronがボストンに小さなクッキー屋を開いたところから始まります。

引用:Ron Shaich「My 33 Year Journey From HBS to Today」

しばらくすると、それなりに来店客がやってきますが、午前中はなかなかクッキーが売れないことに気が付きます。そこでその機会ロスを埋めようと、ベーカリーを経営していたオー・ボン・パン社とライセンス契約をし、パンを提供し始めます。

その後、1984年に二つの店舗形態を統合させ、ベーカリーカフェの店舗になります。この時点で初めてスープをメニューに追加したとされています。同じようなカフェ形態で、1993年までに19店舗を展開するようになりました。この時点では、「パネラ」という名前は、同社が抱えるブランドのひとつでしかありませんでした。

引用:Ron Shaich「My 33 Year Journey From HBS to Today」

 

1998年、Ronは時代の流れを読み、パネラ以外の事業を全部売却し、パネラに集中する決意をします。そして、社名もパネラ・ブレッドに変更。

その後は、フランチャイズ展開も積極的に行い、2000店舗へと順調に成長を遂げてきました。

 

飲食店経営者必見、パネラブレッド成功の秘訣

それではここから、パネラブレッドがなぜこれほどまでに成功してきたのか?その秘訣をいくつか紐解いてみたいと思います。

 

1.正しい事業ドメインの選択

マイケルE.ガーバーは、「はじめの一歩を踏み出そう」の中で、「起業家にとってはどんな事業を選択するかが大切である」と書いています。

そのとおり、パネラブレッドが急成長した背景には、正しい事業を選択したことが挙げられます。

パネラブレッドは、業態としては「カフェ」ですが、別の切り口では、「ファスト・カジュアル」と呼ばれるカテゴリーになります。

ファスト・カジュアルとは、ファストフードより高価格で注文からの時間は長く、ファミリーレストランより低価格で待ち時間を少なくした業態であり、日本ではモスバーガーなどがこのカテゴリーに入ると言えます。

Ron氏は、ファスト・カジュアルがこれから成長していくことをいち早く認識し、他の事業を売却してまでパネラブレッドに集中したのです。

Ron氏は当時のことを次のように語っています。

典型的な考え方では、ファストフードというのは、お金の無い人たちのための食べ物です。しかし、私たちは、市場の30から40%の人たちは、より特別なものを望んでいることを認識していました。これはとても大きいニッチ(隙間)市場と言えます。その市場の人たちは、お金に対して、どれだけ多くの食べ物が買えるか?ではなく、食べ物の質やそこで食事をすることに対してどのように感じるか?を重視していたのです。

実際のところ、マクドナルドなどのファストフードとファスト・カジュアルの成長率を比べると以下のとおり、違いは明らかです。

 

引用:ワシントンポスト

 

Ron氏は企業レベルでの成果を上げるために、以下の順序で考えると説明しています。

  1. 消費者の長期的なトレンドの中から機会を探すこと
  2. パネラのコンセプトとそのトレンドを合わせること
  3. 店舗レベルでの成果を高めること
  4. 店舗を成長させること
  5. 企業レベルでの成果

 

ここにある通り、全ては消費者の長期的なトレンドを読むことから始まります。ファスト・カジュアルに賭けたのもそのひとつですし、現在、パネラが行っているテクノロジーへの投資(後述)もその原則を守っていると言えます。

2.ブランドの徹底

パネラブレッドは現在、市場価値が4500億円以上とされていますが、それだけの価値がある大きな理由は、店舗数はもちろんのこと、統一されたブランドにあります。



スターバックスのブランドコンセプトは、「サードプレイス(第三の空間)」とされていますが、パネラのブランドコンセプトは、「Everyday Oasis(日常のオアシス)」です。

彼らはそのコンセプトを貫くために店舗設計、メニュー設計を行っています。

店舗に関しては、感覚パッケージが整えられています。感覚パッケージとは、商品や店舗の形や色、手触り、音、香りなどを自社が対象としている顧客の五感の好みに合うように整えることです。感覚パッケージは、決して、経営者の好みや感ではなく、どんな顧客が相手なのか?彼らの好みは何なのか?から設計する必要があります。

パネラブレッドなどの優れたブランドは、感覚パッケージが完璧に整えられています。

 

都市部の店舗はアパレルショップのような佇まい

 

また、メニューに関しても、戦略的に設計されており、5つのサブ市場をカバーするようになっています。

5つのサブ市場とは、

  • 朝食市場
  • ランチ市場
  • 午後のカフェ市場
  • 夕方のカフェ市場
  • 軽いディナー市場

の5つです。

パネラブレッドのメニューは、これらすべての市場に対応できるようにメニューが設計されています。これも「日常のオアシス」というとおり、日常的にいつでも使える店、というコンセプトから来ています。

そのため、一般的なカフェよりも、一つの店舗でより多くの売上を上げられるのです。

また、彼らが対象としているアッパーレベルの顧客層は、ビジネスの打ち合わせ等で店を使うことが多いのですが、そうなると必然的に滞在時間が長くなり、回転率が悪くなります。

彼らはその点をカバーするために、テイクアウト市場にも力を入れており、60%のテイクアウト率を誇っています。そのような戦略が、顧客体験を高めながら収益率も高めることに貢献をしています。

 

3.長期的なビジョンと競争優位性を築く

Ron氏は、何よりも重視しているのは、競争優位性だと言っています。

あの店舗ではなく、”我々の店”に来てもらうために何が必要か?

を常に長期的な視点に立って考えています。

パネラブレッドがある場所は、都市部、並びに各街にあるショッピングモールです。どちらも多数の飲食店が立ち並んでいるため、消費者は労せずに隣の店舗に入れてしまいます。

そのため、パネラでは、まずはその中で、一番に選んでもらうことを何よりも最優先させてきたと言います。

これまでご紹介した通り、パネラは、軸としている商品からして、他のカフェチェーンとは一線を画しています。スターバックスなどの人気カフェであっても、そこでの食事には満足していない顧客が相当数いることにも気が付いており、積極的にフードメニューを充実させています。

Ron氏が長期的な視点に立った競争優位性を重視していることを象徴するエピソードとして、次のようなものがあります。

彼は約4年前、いったんCEOの職から離れ、会長に就任しました。CEOの時代には、週に6日間、会社で働いていましたが、会長になってからは、出勤するのを週3日間だけにしました。

そこで、彼は空いた時間で、

もし自分がパネラブレッドの人間ではないとしたら、どうやってパネラブレッドを上回るビジネスを創るか?

という課題に取り組みました。つまり、仮想のライバル会社を創りだしたのです。そして、パネラを上回るための20ページのレポートを完成させました。

その後、会長からCEOに復帰し、仮想のライバル会社に追いつかれないために、パネラをさらに変革させていったのです。

 

4.ビジネスモデルの継続的なバージョンアップ

マイケルE.ガーバーは、

どのような会社であっても、社会が大きく変化して、存在意義を失い、顧客の要望にこたえられなくなるときは来るものだ。それを予め予想して、「新しい会社」ー起業家としての第二の人生の始まりーの準備を始めなければならない。



と言っていますが、パネラの歴史を見てみると、積極的に「古い会社」を捨て「新しい会社」を作ってきたことがわかります。

クッキー屋からベーカリーカフェに転身した時もそうですし、他事業を捨ててパネラブレッドにフォーカスした時もそうです。同社には、チーフ・トランスフォーメーション・オフィサーという変革をリードする役職まで存在します。

さらに、絶好調の現在も、さらなる革新を遂げるために、積極的にビジネスモデルのバージョンアップを行っています。

それが、彼らが「Panera 2.0」と呼んでいる一連の取り組みです。Panera 2.0とは、昨今の技術革新を自社に活用するためのプロジェクトで、消費者の消費行動の変化に対応するとともに、生産性を革新させる可能性を秘めたものとされています。

具体的には、「注文」「支払い」「デリバリー」の流れをスムースに、かつ自動で行えるようになっています。

まず「注文」に関しては、店内にあるキオスク端末で出来る他、パネラのアプリから注文すると、店に行ったときには既にフードが出来上がっており受け取るだけ、という仕組みになっています。

「支払い」に関しても、アプリにカード情報を登録しておけば、いちいち現金やカードを取り出す必要もないようにしてあります。

「デリバリー」については、キオスクで注文後、このようなプレイス・トラッカーと呼ばれる端末を持ってテーブルに座っていれば、自動的に注文した品物を届けてくれるようになっています。

このようなテクノロジーが導入されているせいか、私が実際に店舗に行った際には、スタッフの人たちが来店客とゆっくりとコミュニケーションを取る余裕があったように見えました。

テクノロジーへの積極的な投資により、生産性を高め、かつ顧客体験を損なわないように運営されているのです。

 

 

パネラブレッド成功の秘訣まとめ

今回、米国で急成長しているパネラ・ブレッドのストーリーと秘訣をご紹介してきました。まだ日本には進出をしていないので、もし北米に行く機会があれば、店舗に行ってみていただくと良いと思います。

また、成功の秘訣として挙げた4つの要素、

1.正しい事業ドメインの選択

2.ブランドの徹底

3.長期的なビジョンと競争優位性を築く

4.継続的なビジネスモデルのバージョンアップ

は、企業規模の大小を問わず、成長のために必須の要素になります。

ぜひ自社の場合に当てはめて、成長のヒントにしていただければと思います。

 

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