組織文化とは?事例やタイプについて解説。



清水直樹
組織文化とは、組織の構成員が共通して持つ信念や価値観の集合体であり、組織と構成員の活動を特徴づけるものです。本記事では、組織文化の事例や変革のステップ、リーダーシップの取り方などについて解説します。

 

目次

組織文化とは?

「組織は戦略を喰う」(by ピータードラッカー)と言われているように、組織文化は会社経営でとても大切なものです。一方、その定義とは何でしょう?

組織文化については広範囲な学術的な研究が行われていますが、その定義については、いまだ統一が得られていないのが現状といえます。

たとえば、下記のような定義付けがあります。

集団の行動規範や、そうした規範を維持し続けている根底にある共有された価値観 – John Kotter

組織における人々の行動や仕事のやり方を規定する、必ずしも明確ではない価値観や規範、信条や態度や前提のパターン – Michael Armstrong

外部適応や内部統合の問題を解決するために、とある集団が発明し、発見し、開発した基本的な前提のパターンであり、十分に妥当であると思われているため、それらの問題に対してどのように知覚し、考え、感じるべきかの正しい方法を新たな成員に対して教えられる種類のものである – Edger Schein

企業にとって文化とは持つモノじゃない。企業そのものが文化だ。
-ピーターティール

他にも様々な定義付けがありますが、共通していることをまとめれば、次のようになるでしょう。

組織文化とは、

第一に、組織の構成員が共通して持つ信念や価値観の集合体であり、
第二に、組織と構成員の活動を特徴づけるものである。

組織文化と同列に語られる組織風土という言葉があります。両者の違いを例えるなら、風土はその時々の気分、文化はその人の人格と言えます。文化のほうがより根深く、変え難いものと言えます。

両者の違いについて、カルチャーユニバーシティというブログを書いているティム・カプラー氏の記事をご紹介します(本人承諾の上、翻訳してます)

組織文化と組織風土の違いとは?

From:ティム・カプラー

組織文化が熱い話題になっている。企業のリーダーや専門家たちが、いかにして”アジャイル”な文化を創るか、”リーン”な文化を創るか、企業買収による文化の崩壊をいかにして克服するかなど、組織文化を変革するための議論をしている。

しかし、不幸なことに、そうした試みの大半は、組織文化ではなく、”風土”に焦点を当てているに過ぎない。もっとも私自身、数年前までそのことを理解していなかったのだが。

組織風土とは何か?

組織風土とは、組織内で共有されている認識や態度のことだ。一般的に、組織文化(実際には風土なのだが)の有効性を図るために焦点が当てられているのが、社員エンゲージメント指数である。しかし、ギャラップ社(米国の調査会社)の調査によると、過去15年において、社員エンゲージメント指数は、ほとんど変化していない。

社員エンゲージメント指数は、社員に対して、”何が期待されているか理解していますか?”、”自分の意見が重要視されていると思いますか?”、”上司は自分を気にかけてくれていると思いますか?”などの質問を行うことで導き出される。これらのアンケート結果を集計し、会社は、”行動計画”を立案する。

大半の”いわゆる、企業文化診断や”働き甲斐のある会社”調査は、主に組織風土に焦点を当てているものだ。

  • ミッションが明確か?
  • 福利厚生は充実しているか?
  • 経営陣は社員に感謝をしているか?
  • チームワークが奨励されているか?
  • 変化に対応できているか?

これらは”組織風土”の話である。

 

組織文化はより深いところにある

組織文化とは、共有されている信念や前提条件のことである。これらの”明文化されていない”ルールや認識が、組織内での行動を形作る。

問題やチャレンジに突き当たったとき、それら文化の一端が垣間見れる。

たとえば、

  • 意思決定の際に上司に判断を仰ぐのかどうか、
  • 挑戦しがいのある選択肢を選ぶのかどうか
  • ミスは絶対侵さないように意思決定をするのかどうか
  • 目標は自分で決めるのかどうか

などなど。

 

組織風土だけに焦点を当てることで何が問題になるのか?

風土と文化が、私たちの仕事のやり方にどう影響を与えているのかを理解しよう。風土だけに焦点を当てれば、短期的な成果は出るかも知れない。管理職が部下を厚遇すれば、かれらのエンゲージメントは高まるかも知れない。しかし、そうした改善は、組織文化のシフトが起こらない限り、短命で終わる。

かつて、私は製造業の会社の社長を拝命したことがある。そこは完全に、”指示・命令”の文化であった。当時のリーダーが私に、”あなたは「ハグしあう文化」から来たかも知れないが、私は成果主義で、必要であれば社員のケツを引っぱたく人間なのだ”と言ったのを覚えている。



このリーダーの態度によって、その組織がどんな文化が想像できるだろう。現場の社員は極度に受動的で保守的であり、言われたことしかやらなかった。

私たちは、すぐに組織変革の旅に乗り出した。向こう2年にわたって、改善のための計画を設定した。

2年にわたってビジネスの業績は劇的に改善した。私を雇った取締役は、”こんな変化が起こるとは信じられない”と言っていた。

私たちはこのプロジェクトの最初に”企業文化調査”を行った。(いま考えれば、それは文化ではなく、風土に焦点を当てたものだったのだが)12のカテゴリーのうち、8つのカテゴリーで最低点だったものが、最終的にはほぼすべてのカテゴリーで80点以上を獲得した。

私は結果に満足した。しかし、調査が示したように、文化も2年間で変革できたのだろうか?答えはノーだった。たしかに風土は変わったが、組織文化の変革はまだ道半ばだったのだ。

その後、私は家族と暮らすのに適した役割に付くため、その組織を離れることになった。そして、私の後釜は、まったく異なるリーダーシップスタイルを持つ人物が担うことになった。

私たちが築いた運営モデルは間もなく崩壊した。取締役会は競合他社に資産を売却することを決定し、話はそこで終わったのだ。風土改革は短命で終わった。

風土と文化の両方を理解することが必要である。何を測ろうとしているのかを理解すること。風土を測るだけでは不十分である。風土も大事だが、文化を見過ごしてはならない。風土は、リーダーや労働条件、ルールの変更で変化してしまうものだから。


以上、ティム・カプラー氏の記事から抜粋。

 

組織文化の事例

次に、組織文化の事例を二つほどご紹介しましょう。

組織文化を醸成、維持している事例:ザッポス社

ザッポス社は、ラスベガスを本社にする靴専門のEC会社です。その優れた文化を手に入れるため、アマゾンが巨額で買収したことで知られています。

ザッポス社では、10個のコアバリュー(組織の中核的価値観であり、組織文化の基盤となるもの)を定め、それを徹底して実践することで文化の構築、維持をしています。

  • 4週間にわたるオンボーディングで文化を徹底教育
  • 通過率2%の厳しい選考
  • 全社員がコールセンターを経験し、顧客中心主義を徹底
  • ネクタイ禁止(ネクタイを着用して行くと、エントランスで切られる)
  • コアバリューを基準としたパフォーマンスレビュー

等、文化を守るために様々な施策が取られています。

ザッポス社の運営方法については、以下の記事に詳しく解説しましたので、合わせてご参照ください。

ザッポスについて完全解説(コアバリューから採用、ホラクラシーまで)

 

コアバリューについてもこちらで解説しています。

コアバリューの意味や事例、作り方まで【完全解説】

 

組織文化の変革事例:良品計画

良品計画は無印良品を展開する会社です。もともとはセゾングループ(西武)の一員として運営されていました。無印良品は一時期、赤字が38億円にも膨れ上がってしまいます。その大きな理由は、西武時代か受け継がれている”俺の背中を見て育て”という、属人的な組織文化でした。

その時、社長に就任した松井氏は、文化の変革を目指します。これまでの属人的な育成や店舗運営から脱却し、仕組みに依存する文化への変革を実行していきます。その成果として生まれた代表的なものが、「ムジグラム」です。ムジグラムは、会社や店舗を運営するための基準が書かれたマニュアルであり、西武時代の属人文化から脱却するために試行錯誤の末に生まれたものでした。

結果、現場力が高まり、人材育成のスピードも高まり、過去最高の業績へと繋がったのです。

ムジグラムについては以下の記事で詳細を解説していますので、ぜひご覧ください。

MUJIGRAMを完全解説。無印良品の最強のマニュアル運用術



 

 

組織文化は4つにタイプ分けできる?

組織文化の分析・診断のために、いくつかの手法が研究されてます。

チャールズ・ハンディの組織文化モデル

ここではヨーロッパにおけるドラッカーのような存在と言われるチャールズ・ハンディの組織文化モデルをみてみましょう。

チャールズ・ハンディ(Charles Handy/1932年~)は、アイルランド出身の経営学者です。ヨーロッパでは、経営学の権威として知られる人物であり、ロンドンビジネススクールの創設者の一人でもあります。日本における知名度はいまいちですが、ヨーロッパにおけるドラッカーと評される人物だそうです。

著書も何冊か出てますが、組織文化について書かれている「ディオニソス型経営(原題:Gods of Management)」は既に絶版のようで、アマゾンでも高値がつけられています。

チャールズ・ハンディは、組織の文化を4つのカテゴリーに分けています。書籍の原題、「Gods of Management」のとおり、文化をギリシャの神々に例えて表現しているところが面白いです。

 

 

1.権力文化

権力を保持する強大なリーダーによって、支配される組織でゼウスに例えられています。組織は蜘蛛の巣のような状態で、中心にいる蜘蛛がすべての意思決定や行動を握っています。権力文化は、意思決定が速かったり、統一性が出ますが、一方で、リーダーの枠を超えて組織が成長することがない、という弱点もあります。

2.役割(官僚)文化

体系だてられ、整理されている組織で、ギリシャ神殿に例えられています。組織構造はきっちりした階層構造になっており、それぞれの役職には明確な役割や手順が与えられています。役割(官僚)文化では、決められたことを決められたとおりに行うことで一貫性のある経営が可能になる一方で、市場環境に対応したり、変革を起こしたりするのが苦手、という弱点もあります。

3.仕事(タスク)文化

プロジェクトベースで仕事が進んでいく組織で、女神アテナに例えられています。特定の目的に向かってチームが編成され、目的を達成したらチームが解散する、ということを繰り返します。コンサルティングファームやIT企業などに多いタイプと言えるかもしれません。柔軟性や革新性が求められる状況に強い一方、組織全体での強みや一体感を生み出すことが難しいという面もあります。

4.個人文化

専門家が集まって、ゆるやかな組織を形成している文化で、酒と歌の神ディオニソスに例えられています。この組織に所属している人たちは、個人の目的を達成するために存在していて、組織に対する忠誠心や所属意識は薄い傾向にあります。士業の会社やデザイン事務所など、専門職を擁する組織に多いタイプと言えます。

という感じで、どの企業も、完璧にどれかに当てはまる、というわけではありませんが、どれかの傾向が強くなっているとされています。

4つのタイプそれぞれの強み、弱みがありますが、汎用的に完璧な組織文化というのは存在しないので、自社にとってどれが最適か?という視点で考える必要がありますね。

 

競合価値観フレームワーク

もうひとつ、組織文化を4つのタイプに分ける方法があります。競合価値観フレームワークと呼ばれるものです。ロバート・クイン、キム・キャメロンらにより開発された組織文化の診断フレームワークです。

以下の図において、縦軸は組織が安定を志向するのか、柔軟を志向するのかを⽰しています。横軸は組織が内部を志向しているのか、外部を志向しているのかを⽰しています。

イノベーション⽂化

⽂化変⾰や創造を重んじる⽂化

 家族⽂化

家族的な親密性、仲間意識を重んじる⽂化

官僚⽂化

組織の安定と統制を重んじる⽂化

マーケット⽂化

市場競争(に勝つこと)を重んじる⽂化

 

競合価値観フレームワークも、4つがそれぞれ強み、弱みを持っており、どれがベストとは言えません。自社の置かれている状況に置いて最適な文化を目指し、文化の醸成、変革をしていくことが大切と言えるでしょう。

 

組織文化はどのように醸成されるか?

組織文化は、その会社が直面してきた、過去の課題や挑戦、それにどう対処してきたか?その成功体験、失敗体験を経て醸成されるとされています。また、組織内の仕組みも大きく文化に影響します。以下に、組織文化を醸成するための考え方をご紹介していきます。

創業時からの成功体験・失敗体験が文化になる

例えば、私が以前在籍していたマイクロソフトは、創業当時から、ライバルを蹴落として売上を上げてきました。

その経験が成功体験となり、”これが私たちのやり方だ”と新入社員に伝承されていくことになります。

創業者の価値観が文化になる

さらに会社の歴史を振り返っていけば、そもそも、創業者自身の価値観や信念が企業文化の構築に大きな影響を与えていることがわかります。

特に創業当初の企業文化は、創業メンバーの個人的な性格や背景、価値観が強く反映されています。



創業後、だいたい10人までのメンバーが持っている信念や価値観によって初期の企業文化が形作られると言われています。

彼らの仕事のやり方、ビジネスのやり方が組織のルールや構造になります。そして新しくチームに加わるメンバーは、そのやり方に従うことになります。

創業者の価値観によって会社が成功し続ければ、同じ価値観で運営され続け、逆に、その価値観では時代の環境についていけなければ、変革の必要性に直面します。

組織リーダーの言動が組織文化になる

経営者や管理職のリーダーシップのスタイルも企業文化に影響を与えることがわかっています。たとえば、インスピレーションを与えるような話をするリーダーの場合、チーム重視、協力関係重視の文化になります。

一方、報酬でやる気を出させるリーダーの場合、競争関係重視、結果重視の文化になります。

これは一例ですが、ともかくリーダーの言動が企業文化に影響を与えます。他のメンバーはリーダーの言動を見て、この組織内では何が許され、何が許されないのか?どんな決断が良いとされ、何が悪いとされているのか?そういったことを自然と判断するようになるのです。

リーダーは、ロールモデルとして、他のメンバーにその会社の価値観や何が重要なのかを示していることになります。

私が師事した世界No.1のスモールビジネスの権威、マイケルE.ガーバーは次のように言っています。

あなたのやるべきことは、単に仕事を終わらせるのではなく、導くことなのだ。社内で枯れない井戸となり、そこから価値観を生み出し、浸透させ続けていることを忘れてはならない。組織図の上に行くにしたがって、あなたは何をしているか?よりも、どんな人物であるか?が大切になる。これはリーダーの大きな責任でもあり、チャンスでもある。あなたは意識しているかどうかにかかわらず、常に、周りの人たちをトレーニングしているのである。

ここに書いてある通り、特にリーダーとしての役割を担う人は、自らが文化の体現者となっていることを忘れてはなりません。

 

組織文化に合う人を採用する

海外の成長企業の間では、採用する際に、その人の能力や資質のみならず、その人が自社の組織文化に合うかどうか?が重要視されています。

これは以前お伝えした通り、採用した人が100%、またはそれ以上の能力を発揮できるかどうかは、その人が働く環境に左右されるからです。

グーグル社の元CEOエリック・シュミット氏は、著書「How Google Works」の中で次のように書いています。

スマートクリエイティブは職を探す時に重視するリストの一番上に文化を持ってくる。実力を発揮するには、どんな環境で働くかが重要だとわかっているからだ。

※スマートクリエイティブというのはグーグルが定義する優秀な人材の呼び名。

このように、採用の際、自社の組織文化に合う人かどうかを見極めるのがとても大切なのです。

自社の文化に合う人を採用することを「カルチャーフィット採用」と呼びます。これについては以下に詳しく解説しています。

カルチャーフィット採用の意味と面接での質問例

 

オンボーディングで組織文化を徹底して伝える

オンボーディングと呼ばれるプロセスがあります。日本で言えば、新入社員オリエンテーションと言ったところ。このオリエンテーション、日本では特に中途の場合、せいぜい1日程度で終わります。やることは基本的な事務手続きや社員の自己紹介程度だあとはそれぞれ、これまで培ってきた彼らなりのやり方で仕事を始めるわけです。

一方、文化を重視する会社では、オンボーディングプロセスは非常に重視されていいます。オンボーディングは、詰まるところ、新入社員を会社に馴染ませるためのプロセスです。

もしオンボーディングによって、社員を組織にうまくなじませることができれば、社員も自信を持って仕事に取り組めるようになるし、同僚からも受け入れてもらったという感情を受けることが出来ます。それが社員と組織、同僚との結びつきを強め、仕事に対する取組み意欲や離職率の軽減につながるのです。

大半の会社では、新入社員が入ってくるとホッタラカシにされがちです。雇ってしまったら、あとは本人の能力次第、人間性次第で組織に馴染めるかどうかが決まるというわけです。しかし、企業文化を大事にする会社では、入社後のオンボーディングにシステマチックなプロセスを採用しています。

オンボーディングでは、新入社員に対して、まずは会社の文化や彼らの仕事、同僚などについて全体的な説明がなされる。これは新入社員が歓迎されているという感情を持つために重要です。

リッツカールトンホテルのオンボーディング

リッツカールトンホテルでは、オンボーディングに力を入れている企業のひとつ。2日間のオリエンテーションで、新入社員はホテルのレストランに招かれ、マネジメント層とともに食事をするといいます。



そして、目の前で一流の顧客サービスとは何かを体感します。その2日間でサービスの基準やチームワーク、彼ら独自の言葉を身につけます。そして、入社から21日経つと、サービスの水準を満たしているかをテストされ、合格してようやく一人前になるのです。

新入社員のオンボーディングでは、人事部だけではなく、他部署の既存社員も重要な役割を果たします。様々な部署のリーダー層がオンボーディングに関わることで、新入社員はより早く会社のポリシーや文化を学ぶことが出来ます。

オンボーディングで文化を強化する

また、既存社員がオンボーディングに関わることは、彼ら自身にとっても有用なことがあります。

たとえば、私の知り合いの成長している保険代理店では、新入社員が入ってくると、既存社員と一緒に会社のカルチャーブックを読み合わせします。これによって新入社員は会社の文化を学ぶことが出来ますが、一方の既存社員も新鮮な気持ちで改めて会社の文化を振り返ることが出来るのです。そして、新入社員の模範となるような行動を自然と取るようになります。

なお、オンボーディングの仕組みを整えたい方は、以下に参考教材を載せておりますので、合わせてご参照ください。

 

評価制度は組織文化を目に見える形にしたもの

会社の人事評価制度も組織文化に影響を与えます。どんな行動や結果を生み出せば、評価されるのか?または評価されないのか?

人事評価制度は組織文化を目に見える形にしたものだと言えます。

最近では、売上数字などの目に見える要素だけではなく、目に見えない要素も評価項目に加える会社が増えています。

有名なのは、米GEが採用している評価のマトリックスです。彼らは業績と同様に、GEバリュー(現在はGEビリーフ)に基づいて評価を行う方法を創りだしました(現在は別の方法になっている)。日本でもLIXILが二つの軸、9つのマスで評価を行っていることが知られています。

一方、文化を重視している会社であっても、競争重視、結果重視の文化を持つ会社は、数字成果のみで評価をしていることがあります。

このように、評価制度を創る際に重要なのは、企業文化との一貫性です。いくらうちの文化はこうです、推奨される行動はこうです、と口で言っていても、評価制度がそれと矛盾する行動を促進するようなものであれば、ちぐはぐさがすぐに露呈し、社員は何を基準に行動、判断していいのかわからなくなってしまいます。

 

組織文化に合わない人は自然と辞めていく

どんなに採用時の選考を厳しくしたとしても、様々な要因でどうしても、会社に合わない人が出てきます。人が人を選考している以上、バイアスは避けられないからです。そのような人をどうするか?

組織文化を守る、という観点から言うと、合わないからやめたい、という人を無理にとどまらせるべきではありません。文化にあわない人が社内で影響力を持ちだすと、文化はあっという間に崩壊します。

ちなみに英語では、Attrition(自然減少)という考え方があります。これは”意図せずに減っていく”という意味があり、会社に合わない人を解雇する、ということではありません。

共通の価値観を持つ人を集め、選ぶ一方で、入社後にやはり価値観に合わなかった人は自然と退職していくということになります。生物は自分の体に合わない異物を体の中に入れようとは思わないし、たとえ入り込んでも自浄作用で外に排出しようとします。組織もこれと同じで、強い文化を持つ会社は人材に対して自浄作用を持っていると言えます。

 

組織文化の逆機能(デメリット)を示す「5匹の猿」

強い組織文化を持つことは、大きな競争優位性や成長の原動力になります。一方、組織文化を適切に管理しなければ、デメリットをもたらすことがあります。これは、組織文化の逆機能と呼ばれているものです。組織文化を醸成、維持しようとしてあまりにも同じような考え方しかしない人たちを集めることで、意思決定や行動に偏りが出てしまいます。

組織文化の逆機能を示す例

組織文化の逆機能を分かりやすく示した例として、5匹の猿という社会実験があります。

英語ですがアニメーションなので、わかりやすいかも知れません。

念のため、簡単に流れを書いておくと、、、

1.5匹の猿をゲージの中に入れる
2.真ん中に梯子を置き、上にバナナを乗せる
3.ある猿がバナナを取りに行こうとするたびに、他の4匹に水を浴びさせる
4.繰り返すと、ある猿がバナナを取りに行こうとすると、他の猿がそれを阻止するようになる
5.さらに繰り返すと、どの猿もバナナを取りに行かなくなる
6.5匹のうちの1匹を入れ替える
7.新入りがバナナを取りに行こうとすると、他の猿が阻止をする
8.新入りもバナナを取りに行かなくなる
9.同じようにして、5匹の猿を全部入れ替える
10.どの猿もバナナを取りにいかない
¹1.「なぜバナナを取りにいかないのか?」と聞けば、「わからない。それがここでのやり方なんだ」と答えるだろう

というような感じです。

つまり、この実験で、新しく入った5匹の猿は、誰も水を浴びさせられた経験もないのに、バナナを取りにいかなくなります。

目の前に好物があるにも関わらず、みんなが取りにいかないから、自分も取りにいかない、という状況が生まれたのです。

組織文化が思い込み(固定観念)を生み出す

実は会社組織でも似たようなことがあったりします。

過去の成功体験、失敗体験が脈々と受け継がれているがために、あれはやらないほうが良い、と勝手に思い込んでしまっているときがあったりするのです。



過去の経験は貴重な財産になることもありますが、この例のように、みすみすチャンスを見逃してしまう原因もなるということです。

企業文化は、過去の成功体験、失敗体験からも形作られると言います。

その傾向が強くなれば、結束力が固くなると同時に、固定概念にはまってしまう危険性もあるということですね。

 

組織文化をどう変革するか?

では最後に組織文化をどう変革していくかに触れておきます。

組織文化は企業のDNAであり、良い方向へ働くこともあれば、企業の変革の妨げとなることもあります。実際のところ、多くの企業は自分たちの組織文化が生産性や業績の障害となっていることすら気付いていないこともあります。

組織文化の変革が必要になるのは?

組織文化を変革する必要性に迫られるのは、主に自社と外部環境にミスマッチが生じたときとされています。

たとえば、市場シェアの下落、売上・利益の下落、さらには倒産の危機など、切迫した状況に直面しているときです。このような状況であれば、社員に組織文化の変革の必要性を訴えるのは簡単です。

しかし、もし会社が過去に成功していて、社員も組織文化の変革の必要性を理解していない場合は変革は困難になります。

また、時には外部環境によって否応なく組織文化の変革が行われることもあります。

最近のトレンドでいえば、M&Aが典型的な例でしょう。統合する2つの企業の文化をどれだけ融合できるか、またはあえて融合させないか、そういった能力や判断がM&A後に重要になってきます。

海外の例で言うと、ベン&ジェリーズ(有名なアイスクリーム屋)がユニリーバに買収された時、ベン&ジェリーズはいくつかのユニークな部分は維持しようとしながらも、組織文化の多くを変えざるを得ませんでした。

創造性や楽しさは文化の一部として残されました。ユニリーバが2000年にベテランの役員をベン&ジェリーズのCEOに任命した際、彼はアイスクリームで作られたエッフェル塔と、ベレー帽とサングラスを身に着けた社員らに迎えられたそうです。

同時に、ベン&ジェリーズは買収後の期待に応えるためにより業績志向に変わらざるを得なくなり、社員は常に利益を意識しなければならなりました。社員たちは会計と財務のトレーニングを受講しました。

組織文化の変革を実現することはチャレンジングなことであり、多くの企業がそれに失敗していることが知られています。ただし、組織文化の変革に成功した企業のケーススタディから、以下の6つのステップによって成功のチャンスが増すことがわかっています。

1.危機感を作り出す

変革を成功させるため、社員に変化の必要性を伝えることが重要です。ひとつの方法は、社員に対して緊迫感を作り出し、やり方を変えることが何故重要かを説明することです。リーダーは社員たちとコミュニケーションをとり、成功に導くために組織文化変革が必要であることや、その事例を示すことが求められます。たとえば、ルー・ガースナーがCEO兼会長となった1993年のIBMの状況を考えてみましょう。メインフレームコンピュータが市場を独占していた時代が過ぎ、IBMは急激に競合にシェアを奪われました。そして、より安価な”クローン“により深刻な値下げ競争となっていました。

業界では、IBMの名前は”衰退”を連想させるようにさえなっていました。一方で、ガースナーは、いまの危機が組織文化の変革のチャンスだと考えました。彼はあらゆる機会で、危機を脱するには組織文化の変革が必要であることを伝えました。

 

2.リーダーや他の主要メンバーを代える

リーダーのビジョンや姿勢は、業務のやり方に影響を及ぼす重要な要素です。従って、文化の変革は組織のシニアクラスのリーダーの交替に伴うことがあります。かつ効率的に変革を実施するために、変革の障害となっているマネージャーや他の力を及ぼす社員を交代させることが有効であることがあります。

政治的な理由や、個人の利益、習慣によりマネージャーたちは変革に強力な抵抗を示す場合があります。これらのケースでは、そのようなポジションを変革をサポートしてくれる社員やマネージャーに置き換えることで変革が成功する可能性が増すことがあります。

たとえば、ロバート・アイガーがウォルト・ディズニー・カンパニーのCEOとしてマイケル・アイズナーと交替した際に彼が最初に行ったのは、前CEOアイズナーに近い人間たちで組織された経営企画部門の廃止でした。この部門はディズニーの創造性の障害であると見られており、組織から排除することで、組織文化の変革を促進しました。

3.ロールモデリング

ロールモデリングとは社員たちの信念や行動を変えるためのプロセスであす。CEO自身が文化を変えるために社員たちのモデルとなることです。ロバート・アイガーがディズニーのCEOとなったとき、改革へのコミットメントを示すために、ゲーム開発の工程に彼自身が関わり、開発者サミットにも参加し、それらのゲームについてプログラマーたちにフィードバックしました。このようにアイデア創造プロセスに彼自身が関わるというモデルを示しました。

4.トレーニング

社員たちに新しい規範と行動スタイルを学ばせることで、組織文化変革の必要性を自覚させることが出来ます。例えば、スペースシャトルのコロンビア号が2003年2月のミッションを終え大気圏への再突入の際に空中分解した際、NASAはより安全を配慮し、意思決定のミスを最少化するために組織の文化を変えることを決定しました。彼らは、チームのプロセスや認知バイアスのトレーニングプログラムを組みました。

5.報酬システムを変える

社員に対する報酬や罰則の基準は既存の組織文化の決定に大きな役割を持ちます。歩合ベースのインセンティブ制度から固定給への移行は営業スタッフたちがより顧客志向となる手段になりえます。

社員たちがお互いに協力し合うチーム指向の文化を構築したいのなら、個人主義のインセンティブを適用するような手段は裏目となるでしょう。反対に、チーム全員へのボーナスは組織文化変革をより成功に導くことになるでしょう。

6.新しいシンボルとストーリーを創る

最後に、組織文化の変革の成功率は新しい儀式やシンボル、ストーリーを創ることに増します。コンチネンタル航空は1990年代に官僚主義を捨て、よりチーム指向となるべく文化を変えることに成功した企業です。

経営陣がまず実施したことが、800ページに及ぶ厚いポリシー手順書を彼らの駐車場で燃やしたことです。かつて企業が所有した細かな手順書の多くを廃止し、権限移譲の文化を創造することを行動で示したのです。新しい手順書はたったの80ページとなりました。この行動は組織文化の変化のシンボルであり、社員の間で強力なストーリーとして機能しました。また、飛行機の再塗装も行いました。これらもまた、新しいシンボルとなりました。このように古いシンボルとストーリーを置き換えることにより、文化の変革が可能となることもあります。



 

優れた組織文化を作るには?

以上、組織文化について解説してきました。

このサイト、「仕組み経営」では経営者の価値観をベースにした組織文化を構築する支援をしています。以下のページから無料の体験ウェブセミナーをご視聴いただけますのでどうぞご活用ください。

 

 

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