本日のテーマ、
技術継承を仕組み化で可能に
です。
お酒好きではない方でも「獺祭」という日本酒は聞いたことがあるでしょう。
いまや世界的にも広がっている、おそらく一番有名な日本酒です。
今日はこの獺祭を生み出した旭酒造さんのお話です。
伝統産業である日本酒造りは、熟練の職人の腕前で味が決まりますが、もしその技を受け継ぐ跡継ぎがいなかった場合は、伝統の味を守ることができなくなります。
獺祭を生み出した旭酒造さんは、そんな伝統技術の継承を仕組み化で解決しました。
獺祭とは?
1948年に設立された旭酒造の日本酒ブランド。
安部首相がオバマ大統領にプレゼントしたことでも有名になり、
都内の飲食店では一時品切れ、プレミア価格が付くほどの有名なお酒になりました。
お酒になじみがない方でも聞いたことがあると思います。
いまでは銀座の一等地にお店も出し、
日本一有名、勢いのあるお酒と言っていいでしょう。
実はこの獺祭の飛躍の陰には「仕組み」がありました。
今日はそれについてご紹介させていただきます。
旭酒造の技術継承戦略
1984年に現会長である桜井博志さんが旭酒造の事業を継いだとき、年商は1億円弱でした。
成長し続けて1億円ではなく、右肩下がりだで1億円だったので、ひどい状況だったそうです。
ただ、2人目の杜氏(日本酒の醸造工程を行う職人)さんが優秀だったそうで、試行錯誤の上、
13年くらいかけて年商2億円まで持ち直したそうです。
しかしその時、新事業に失敗し、大損をしてしまいます。
杜氏さんは将来に危機感を感じ、会社を去ってしまいました。
普通に考えたら、杜氏さんがいなくなってしまってはもう酒造りが出来ません。
まさに「人依存」の危険性を表したエピソードです。
その逆境の中、酒造りを杜氏さんに頼らず、自分たちでやろうと決意します。
ここから勘と経験に頼らない仕組みによる酒造りをスタートさせ、獺祭というブランドが生まれます。
そして、2016年には年商が108億円に達します。
つまり、
職人技に頼っていた時は13年かかって1億円から2億円がやっとだったのに対し、
仕組みに変えてから2億円から108億円に急速に成長しました。
この杜氏さんに頼らなくていいように、仕組みによる酒造りを始めたことで、獺祭は技術を継承することに成功したのです。
技術継承には「経験と勘」を排除せよ
桜井会長は「経験と勘」は言い逃れである、と言い切ります。
杜氏さんの経験と勘を排除し、徹底的に酒造りの工程を見える化、データ化し、旨い酒を創るための20ページのマニュアルを完成させました。
このように仕組み化したことで、職人技の技術を持続可能なものにしただけでなく、3つのメリットが生まれます。
仕組み化のメリット1.酒造りをデータ化したことで、常に改善していけるようになったこと。
勘と経験に頼っていては、改善が難しいです。何となく良くなったな、と感じられることはあるかも知れませんが、データ化すれば、今年はこの数字が何ポイント上がった、というように改善を可視化できます。
一般的に、酒造りは伝統を守り続けることが大切、と思われていますが、
獺祭では、”今よりちょっと良い酒を”ということをビジョンに掲げ、常に改善を続けています。
このような考え方は、老舗でありながら変化を続けている虎屋さんなども通じると思います。
仕組み化のメリット2.若手の経験量がベテラン杜氏さんを上回る
杜氏さんの平均的な年齢は60代~70代。一方の旭酒造の平均年齢は20代。
その20代の社員がベテランの杜氏さんを上回る経験値を身に付け、より良い酒を造っています。
なぜそれが出来るのか?
一般の酒蔵は一年に一度、冬に仕込みをします。
一方の旭酒造では、温度や室温の管理を徹底しているため、一年中酒造りをしています。(四季醸造)
まずこれだけでも旭酒造の20代社員は、普通の杜氏さんの数倍のスピードで経験を積み重ねることが出来ます。
さらに他の酒蔵とは生産量が違います。
桜井会長によれば、旭酒造の社員は、ベテラン杜氏さんが一生かけて行う量の酒造りをわずか1年で経験出来るそうです。
仕事の質の高さは、まずは量の積み重ねから始まります。
そういう意味で、旭酒造の20代社員は、圧倒的な量をこなすことで、質を高めることが出来るのです。
仕組み化のメリット3.重要な2%に集中できる
酒造りはマニュアルで出来ると公言している桜井会長ですが、とはいえ、
マニュアルで解明できるのは最大でも98%と言います。
残りの2%や知恵や考える力。
その2%に旨い酒を造るポイントが眠っていると言います。
「なんだ、結局は人の力か」
と思われるかも知れませんが、ここでのポイントはそうではありません。
98%がマニュアル化されているからこそ、人は重要な2%に集中できるのです。
マニュアル化されていなければ、その他98%の仕事に試行錯誤をすることになり、
社員が知恵や工夫をする暇も余裕もありません。
いつもお伝えしていますが、仕組み化は人をロボットにするのではなく、
人の可能性を最大限に引き出すための手法です。
この点を間違って捉えると、間違った仕組みやマニュアルが出来てしまいます。
旨い酒を「造る」のではなく「届ける」
職人的な発想だと、商品は創って終わりです。
良い商品さえ作ればいい、と考えるのが職人的発想です。
しかし、起業家は、いつも顧客に焦点を当てます。
旭酒造では、旨い酒を「造る」のではなく「届ける」ことを重要視しています。
お酒は保存状態や提供の仕方によって、大きく味が変わってきます。
そのため、旨い酒を造るだけではなく、”最終顧客にどう届けるか?”が大切なのです。
だから旭酒造では、獺祭を大切に扱ってくれるチャネルを選んで出荷しているそうです。
これは一貫性を持つブランドを作るためにとても重要なことです。
アップルもブランドを守るために、アップルストアを自社で展開し、
「顧客体験を管理する仕組み」を持っています。
広げるのではなく、絞る
基本的に事業を絞り込めば絞り込むほど、仕組み化がしやすくなります。
業務がシンプルになるからです。
旭酒造も最初にやったのは絞り込みでした。
それまでは市場の声にあわせて色々な日本酒を作り、
ビールの製造もやり、果てにはレストランも出したそうです。
ところが、どれもうまくいかない。
最終的にブランドは獺祭のみ。そして、純米大吟醸だけに絞りました。
そのおかげでビジョンも明確になり、尖ったブランドが誕生しました。
今では、副次的に発生する商品を展開しているそうですが、最初は絞り込みです。
というわけで、簡単ではありましたが、獺祭の仕組みをご紹介しました。
なにより重要だと思うのが、職人技で酒を造るのが当たり前、という業界の常識をぶち破ったことです。
うちの業界では無理、これは自分にしかできない、というような発想が根幹にあると、仕組み化は難しいです。
ぜひあなたも、この職人技を仕組みに出来ないか?と考えてみてください。
では本日は以上となります。
引き続きよろしくお願いいたします。
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