新年の挨拶にも使える社長のスピーチ術。社員の心に火を付けろ。


清水直樹
社長としてのスピーチは、社員にビジョンや目標を伝え、モチベーションを高める大切な機会です。この記事では、どんな場面でも効果的に使える2つのスピーチパターンを紹介します。まずは、危機感をもって社員の意識を高める「危機意識から行動へ」と、大義や共感を軸にする「大義名分から共感へ」の2つのパターンです。これらを参考に、社員の心に火を付ける方法を探っていきましょう。

社長のスピーチパターン①危機意識から行動へ

まずは、危機感をもって社員の意識を高める「危機意識から行動へ」のパターンの流れと例を見てみましょう。

スピーチの流れ

流れは基本以下の3つのステップになっています。

1. 危機意識を植え付ける

スピーチの冒頭で現在の状況が危機的であることを強調します。これにより、社員に対して緊迫感や緊急性を感じさせることが目的です。危機感を持たせることで、社員が問題の深刻さを理解し、対策に取り組む意識が高まります。

危機意識を植え付けるスピーチ例

「皆さん、最近のデータを見ていただいた通り、今年の第3四半期の売上が予想を大きく下回りました。この結果は、競合他社が新製品を市場に投入し、我々のシェアを奪い始めていることが原因です。特に、オンラインセールスの分野での遅れが目立っており、現状のままでは、来年にはさらなるシェアの減少が予想されます。このまま何も手を打たなければ、我々の製品は市場での競争力を失いかねません。」

2. アイデンティティの再確認(着火)

次に、社員が自分たちの役割や会社のアイデンティティを再確認できるようにします。過去の成功や会社の歴史を振り返り、社員が自分たちの仕事に誇りを持つことを促します。これにより、社員は危機的な状況に対処するための動機付けがされます。

アイデンティティを再確認するスピーチ例

「しかし、忘れてはいけないのは、私たちはこれまで何度もこのような厳しい状況を乗り越えてきたということです。5年前に新たな分野に進出したときも、私たちは競合よりも迅速に行動し、短期間で市場のトップに立つことができました。それは、皆さん一人ひとりが、常にお客様のニーズを最優先に考え、他社にはないサービスを提供してきたからです。この会社の強みは、誰よりも早く、そして誰よりもお客様に寄り添う姿勢です。」

3. 指令を下す

最後に、具体的な行動指針や目標を示します。社員が何をすべきかを明確にし、実行可能なアクションプランを提供します。これにより、社員は自分たちの役割と次に取るべき具体的なステップを理解し、行動を起こしやすくなります。

指令を下すスピーチ例

「今こそ、私たちが再びその強みを発揮する時です。まず、オンラインセールスチームは、競合他社の動向を徹底的に分析し、我々の製品ラインナップを再構築するプランを練り直してください。また、マーケティングチームは、これまで成功してきた事例をもとに、新しいプロモーション戦略を策定し、来月のキャンペーンに向けて準備を進めてください。そして全員が、お客様との接点をこれまで以上に大切にし、どんな小さな声も見逃さずに、すぐに対応できるようにしてください。我々は、この困難を乗り越え、再び市場のリーダーとしての地位を取り戻すことができると確信しています。」

参考)「キングダム」における王様のスピーチ

ちなみにこのスピーチの流れは、漫画「キングダム」でも用いられています。漫画を読んだり、映画を見た方は思い出してみてくださいね。キングダムを知らない方は分からないと思うので、読み飛ばしてもらって大丈夫です。

シーンは、合従軍対秦軍。合従軍が蕞(さい)まで到達したときに、秦王である政(せい)が蕞の民を相手に行ったスピーチです。

  1. 危機感を植え付ける:「ここで敵を止めねば秦国は滅亡する」
  2. アイデンティティ(着火):「だが そなたらの父も、またその父達も同じように血と命を散らして今の秦国を作り上げた」
  3. 指令:「最後まで戦うぞ、秦の子らよ。」

というようにこのパターンになっていますね。

社長のスピーチパターン②大義名分から共感へ

次のパターンは、大義や共感を軸にする方法です。ビジネスシーンではこちらのほうが使いやすいかもしれません。

スピーチの流れ

このパターンも3つのステップで成り立っています。

1. 大義名分を掲げる

このパターンでは、スピーチの初めに会社やプロジェクトの大義や社会的意義を強調します。これは、社員に対して仕事の価値や重要性を理解させ、共有の目的や目標を明確にするためです。大義名分を掲げることで、社員は自分の仕事がより大きな意味を持つと感じるようになります。

大義名分を掲げるスピーチ例

「皆さん、私たちの国全体で注目されている再生可能エネルギーのプロジェクトに取り組む機会が到来しました。このプロジェクトは、単なるビジネスの成功だけでなく、次世代に持続可能な未来を残すという崇高な目的を持っています。私たちの取り組みが成功すれば、地球環境の保護に大きく貢献できるでしょう。これは私たちだけの利益ではなく、社会全体のための重要な使命です。」

2. 自分事化する

次に、その大義名分を社員一人ひとりの「自分事」として捉えさせることが重要です。社員が自分の役割や貢献が大義名分にどのように関連しているかを理解できるようにすることで、個々の責任感やモチベーションが高まります。

自分事化するスピーチ例

「考えてみてください。このプロジェクトの成功は、私たち一人ひとりの行動にかかっています。例えば、家族や友人に、自分が地球の未来に貢献しているということを誇らしく話すことができるとしたらどうでしょうか?これまでの経験やスキルを活かし、世界をより良い場所にするために働けるなんて、こんなチャンスはめったにありません。私たちの一歩一歩が、未来を築く大きな力となるのです。」

3. 行動を促す

最後に、具体的な行動目標を設定し、社員に対して明確な行動を促します。これにより、社員は具体的な行動計画を理解し、自分たちがどのように目標達成に貢献すべきかを知ることができます。

行動を促すスピーチ例

「具体的な行動として、まずは再生可能エネルギーに関する各自の担当分野で、すぐに実行できる改善案を提出してください。技術部門は、既存のプロセスを見直し、効率化できる部分を探してください。営業チームは、新しい顧客へのアプローチを強化し、パートナーシップの可能性を広げていきましょう。私たち全員が一丸となって、このプロジェクトを成功に導き、次世代に誇れる結果を残しましょう。」

参考)稲盛和夫氏のスピーチ例

このパターンの例として、稲盛和夫氏を挙げてみましょう。稲盛氏は創業した京セラを成功させた後、通信の自由化に伴って、第二電電の創業に踏み切りました。その際、集まったメンバーに対して以下のようなスピーチを行ったそうです。

大義名分:NTTが独占している電話事業では、長距離通信についてたいへん高い料金を取っている。このような高い料金を、国民大衆のために安くしてあげたい。

自分事化:通信事業に新規参入が許されるという100年に一度あるかないかというチャンスです。ちょうどそれができる年齢のときにそのことに遭遇しました。

行動を促す:どんな苦労をしようとも、そういう立派なことをやってみようとは思いませんか。

というように、大義名分からの流れになっていることがわかりますね。

結論: 社長のスピーチが社員の心に火を付ける

社長のスピーチは、会社のビジョンや方向性を伝えるだけでなく、社員一人ひとりの心に火を付け、行動を促す重要な機会です。今回紹介した2つのスピーチパターン、「危機意識から行動へ」と「大義名分から共感へ」は、いずれも社員のモチベーションを高め、目標達成に向けた行動を引き出す効果的な方法です。



どのパターンをどの場面で使うべきか

本記事では2つのスピーチパターンをご紹介しました。

危機意識から行動へ

このパターンは、会社が直面している具体的な課題や緊急事態を乗り越える必要があるときに最も効果的です。売上の低迷、新規競合の出現、市場シェアの減少など、会社が存続の危機に立たされている場合に使用します。このパターンでは、社員に危機感を強調し、その状況を克服するための明確な行動を示すことで、組織全体を一つにまとめる力があります。

大義名分から共感へ

一方、このパターンは、会社が新しいプロジェクトや大きな変革に取り組む際に適しています。社会的意義のあるプロジェクトや企業の長期的ビジョンを共有することで、社員が自分たちの仕事に誇りを持ち、積極的に関与したいという気持ちを引き出すことができます。このパターンは、社員が自分の役割を自覚し、自発的に行動するよう促す場面で特に有効です。

いずれのパターンを選ぶにしても、スピーチの内容は具体的であり、社員一人ひとりが自分ごととして受け止められるようにすることが重要です。どちらのアプローチも、最終的には社員の共感と行動を引き出すことが目的であり、そのためには適切なタイミングで適切なメッセージを伝えることが求められます。状況に応じて、これらのパターンを使い分けることで、社員の心に強く響くスピーチを実現しましょう。

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