「飛信隊」が重要な理由
映画も漫画も大人気のキングダム。先日全巻一気読みしました。せっかくなのでこのキングダムから学べる経営やリーダーシップに関するヒントをメモっておきたいと思います。その5のテーマは「飛信隊が強い理由」です。
キングダムとは?
原泰久によるマンガ。青年マンガ誌「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で2006年9号より連載中。13年4月現在、単行本は30巻まで刊行されている。争乱が続く春秋戦国時代の中国を舞台に、大将軍を目指す少年・信と、後に始皇帝となる秦王・政の活躍を史実とフィクションを織り交ぜて描く。12年6月よりNHK(総合・BS)でテレビアニメが放送開始。13年、手塚治虫文化賞でマンガ大賞を受賞した。(コトバンクより引用)
今回は、キングダムに出てくる様々な”名前”に注目してみたいと思います。
まず読者なら誰でも覚えているであろう「飛信隊」という名前。
これはもちろん、主人公の信を隊長とした隊の名前です。
名づけの親は、秦の六大将軍の一人だった王騎。目標とする大将軍から名前をもらった信は、以降快進撃を始めます。
中でも最初の大手柄は、趙との戦いで、将軍である馮忌(ふうき)を打ち取ったこと。
その直後に、王騎の部下である干央は、”飛信隊の信が敵将を打ち取った”と勝ち鬨をあげます。
そのことで、飛信隊の名前は敵である趙、そして味方である秦の中で一気に知名度が上がります。
飛信隊の他、秦の同世代のライバルである王賁や蒙恬の部隊にもそれぞれ「玉鳳隊」「楽華隊」という名前が付いています。
また、キングダムでは、隊の名前の他、戦術や戦略にも名前が付いています。
斜陣掛け(しゃじんがけ)
輪動(りんどう)
包雷(ほうらい)
等々。
実はこのような”名づけ”は、組織やチームで動くにあたって、非常に重要な役割を果たします。
何かに名前を付ける、という行為は、その組織の中で”共通言語”を生み出します。
この共通言語こそ、組織の一体感や連帯感、そして、コミュニケーションの円滑化の役割を果たすのです。
今回はそれについて見てみます。
チームに名前を付ける
キングダムの部隊は、会社でいえばチームということになります。組織の中にもチームがいくつか存在することがあると思います。チームに独自の名前を付けることで、チームメンバーには、”アイデンティティ”が生まれます。
飛信隊のメンバーたちは、ことあるごとに自分は飛信隊のメンバーであることを誇りに思い、自分たちは他とは違うんだ、ということを口にします。それが彼らの動機付け、頑張る理由にもなっています。これはアイデンティティの力と言えるでしょう。
アイデンティティの力を活用したことで知られているのが、スティーブ・ジョブズ。
彼は、Macintoshを開発するプロジェクトにおいて、そのプロジェクトメンバー「マック・チーム」とその他のメンバーを明確に区別させました。さらにはあろうことかマック・チームとその他のメンバーをあえて対立させていたともいわれています。
マック・チームは他のメンバーとは違う特別なことをやっているメンバーなんだ、とメンバーのアイデンティティを刺激し、過酷なプロジェクトを成功に導きました。
アイデンティティの力は強力です。
実は以前ご紹介した記事、「政、最強のプレゼンで蕞の民を扇動する」において、政は市民のアイデンティティに訴えることで、市民を”兵化”することに成功しました。
政は市民に向けて、最後にこう語ります。
「最後まで戦うぞ、秦の子らよ、我らの国を絶対に守りきるぞ」
この言葉で市民たちは、”自分たちは脈々と続いてきた秦の国の民なんだ”ということを思い出し、先祖が代々守って来たこの土地を守ろうと決意を固めるのです。
役職に名前を付ける
役職に名前を付けるのもアイデンティティを生む効果があります。キングダムにおいては、大将軍から始まり、将軍、五千人将、三千人将・・・というように役職に名前が付いています。
よく言われるのは、役職が人を育てるということです。「部長」になったら、誰でも部長ってどんな仕事をすればいいんだろう?と考え、部長らしい働き方を学ぼうとします。ようするに役職が行動を変えるわけです。
また、その会社独自の役職を付けるのも効果的です。
スターバックスではスタッフのことをパートナーと呼びますし、ディズニーではキャストと呼びます。このような名づけも”他とは違う自分”を感じさせる効果があると言えるでしょう。
コンセプトに名前を付ける
コンセプトとは概念や考え方のことです。キングダムでいえば、先に出てきた戦術や陣形の名前がこれに当てはまります。コンセプトは元々目に見えないものですが、それに名前を付けることで、これはこういうことだな、と各メンバーが理解出来ます。
たとえば、「斜陣掛け」で行くぞ、と一言いえば隊のメンバーは自分で自律的に動くことが出来ます。もし「斜陣掛け」という名前がなければ、”みんな斜めになって動いて、こうして、ああして・・・”という感覚で指示をするしかありません。
それではメンバーにも伝わりづらく、自律的に動くことが出来ません。
私たちもそうですが、目に見えないサービスを販売している場合、コンセプトに名前を付けるのは非常に重要です。
たとえば、「仕組み経営」というのもコンセプトですし、他にも、
- 7つの経営力学
- 職人型ビジネスと起業家型ビジネス
- 事業のプロトタイプ
- ドリーム、ミッション、ビジョン、コアバリュー
- 事業のパッケージ化
等々、たくさんあります。
サービス業においては、いかに独自性のあるコンセプトを開発し、かつ、”いかにわかりやすい名前を付けるか?”がマーケティング上で極めて大きな役割を果たします。
コンセプトに名前を付けることで、価値を持たせることが出来ます。何か独自性のあるノウハウで再現性があるんだな、と感じることが出来るのです。
また、私たちは企業のマニュアル作りもお手伝いしていますが、ここでもまずは社内の言葉の統一が重要なステップになります。
とある複数拠点を持つ会社のお手伝いをしたとき、各拠点に在庫品を置いておく棚がありました。拠点Aでは、在庫棚と呼んでいたのに対し、拠点Bではラックと呼んでいました。このように言い方が違ってしまうとマニュアル作りが出来ません。だから最初に言葉の統一が必要なのです。
キングダムでも、「井闌車」という城攻めの時の道具が登場します。これも、みんなが、「この道具は井闌車と呼ぶ」という意識統一が出来ていなければ、将軍が指示したら別の道具が出てきてしまった、というよう凡ミスが生まれかねません。
細かいことですが、大事なことです。
商品・サービスに名前を付ける
商品・サービスに名前を付ける、というのも当たり前のようですが意外と中小企業では適当になってしまっていることがあります。
たとえば、コンサルティング業界の場合、
ホームページに単に
”コンサルティング 月額〇〇円”
と書いてあるよりも
”仕組み化コンサルティング 月額〇〇円”
と名前が付いているほうが分かりやすいですし、価値を感じてもらいやすくなります。
サービス業の場合、サービスに独自性のある名前を付けて”メニュー化”しない限り、存在していないのと同じです。
また物理的な商品についても独自性のある名前を付けるのは有効です。スターバックスの例が有名ですが、ドリンクのサイズを従来のスモール、ミディアムなどではなく、ショート、トール、というように自社独自の名前にすることでコミュニティづくりに成功しています。トールが何を意味しているのか分かる人はコミュニティの”中の人”。わからない人は”外の人”というわけです。
職人気質のメーカーの場合には特にありがちですが、商品名が”型番”になっていることが良くあります。商品名=型番では味気ないですし、違いが良くわかりません。独自性のある名前を付けることで顧客にとってもわかりやすく、社内的にも商品に誇りや愛着を持てるようになります。
名づけ=文化づくり
かつて、月が満ち欠けする現象を人々は不思議がっていました。ある時、この月が満ち欠けする現象に「月食」という名前を付けたことで、研究が始まったとされる説があります。この真偽のほどは定かではありませんが、ともかく、名前を付けることでそれに対する関心が高まり、コミュニケーションの軸になるのです。
今回は会社内における名づけの例の一部をご紹介しました。そのほか、名前を付けるべきものはたくさんあります。
とある会社では顧客サポートの仕組みをカスタマーサクセスプランと呼んでいますし、リッツカールトンでは朝のミーティングをラインナップと呼んでいます。
名づけは、組織の一体感や連帯感、そして、コミュニケーションの円滑化、企業文化の形成にも役立ちます。ぜひあなたの会社でも参考にされてください。
コメントを投稿するにはログインしてください。