プロセスオーナーとは?
プロセスオーナーとは、会社の中で特定の業務プロセス全体を管理する責任者のことです。簡単に言えば、ある仕事の流れ全体を見守り、改善する役割を担う人のことです。
例えば、商品の注文から配送までの一連の流れを「受注プロセス」と呼ぶとすると、プロセスオーナーはこの流れ全体がスムーズに進むよう責任を持ちます。注文を受けてから商品が顧客に届くまでの間に、営業部門、倉庫、配送部門など、様々な部署が関わりますが、プロセスオーナーはこれらの部署を横断して全体を見ています。
プロセスオーナーを設置することで、以下のような効果があります。
- 全体最適化:各部門ではなく、プロセス全体の効率を考えることができます。
- 一貫性の確保:プロセス全体を通じて一貫したアプローチを取ることができます。
- 継続的改善:プロセス全体を把握しているため、改善点を見つけやすく、迅速に対応できます。
- 部門間の調整:異なる部門間の連携をスムーズにし、コミュニケーションを促進します。
つまり、プロセスオーナーは会社の業務プロセスをより効率的で効果的なものにするための要となる存在なのです。彼らの存在により、会社全体の生産性向上やコスト削減、顧客満足度の向上などにつながることが期待されます。
プロセスオーナーとプロセスオフィス
会社を仕組み化していくにあたって、プロセスオーナーは、プロセスオフィスと協力し合います。
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プロセスオフィスとプロセスオーナーの関係
プロセスオフィスは、プロセスオーナーに対してガイダンスと支援を提供します。プロセス管理のツールや技法をプロセスオーナーに提供し、その使用方法を指導します。プロセスオーナー間の調整を行い、組織全体でのプロセス管理の一貫性を確保します。
協力の例:
プロセスオフィスが全社的なプロセス改善の方針を決定し、各プロセスオーナーがその方針に基づいて自身のプロセスを改善します。プロセスオーナーが直面する課題をプロセスオフィスが集約し、組織全体での解決策を提案します。この協力関係により、個別のプロセス改善と組織全体のプロセス管理が調和します。プロセスオーナーは自身のプロセスに集中しつつ、組織全体の方針や他のプロセスとの整合性を保つことができます。
つまり、プロセスオフィスはプロセス管理の「司令塔」的な役割を果たし、プロセスオーナーはその指揮下で各プロセスを管理する「現場指揮官」のような役割を果たすと考えられます。両者が協力することで、効果的なビジネスプロセス管理が実現されるのです。
プロセスオーナーの責任と種類
プロセスオーナーは、会社の中で重要な役割を果たします。彼らの仕事は、特定の業務の流れ(プロセス)全体を管理し、改善することです。ここでは、プロセスオーナーの主な責任と、二つの主要なタイプについて説明します。
プロセスオーナーの主な責任
プロセスオーナーには主に以下のような責任があります。
1. プロセス全体の監視と報告
- プロセスオーナーは、担当するプロセスがうまく機能しているかを常にチェックします。
- 問題があれば、それを経営陣に報告し、改善策を提案します。
2. チームのリーダーシップ
- プロセスに関わる様々な部門の人々をまとめ、チームとして機能させます。
- 例えば、商品の注文から配送までのプロセスには、営業、倉庫、配送など多くの部門が関わりますが、プロセスオーナーはこれらをまとめます。
3. 部門間の問題解決
- 異なる部門間で問題が起きたとき(例:営業部門と配送部門の連携がうまくいかないなど)、プロセスオーナーが中心となって解決します。
4. プロセスの評価と改善
- 定期的にプロセスの効果を評価し、より良くする方法を考えます。
- 新しい改善案を提案し、実行に移します。
プロセスオーナーの2つのタイプ
プロセスオーナーには、大きく分けて2つのタイプがあります。
1. 縦軸(事業軸)プロセスオーナー
縦軸のプロセスオーナーは、特定の製品やサービスに関する全ての工程を一貫して管理します。例えば、ある製品の企画から販売、そしてアフターサービスに至るまで、すべてのステップを監督します。
縦軸のプロセスオーナーの主な関心事は以下の通りです。まず、顧客満足度を高めることです。これはお客様にどれだけ喜んでもらえているかを常に確認し、改善することを意味します。また、市場投入までの時間も重要な関心事です。新製品をどれだけ早く市場に出せるかが競争力の鍵となります。そして、売上や利益の最大化も重要です。その製品やサービスでどれだけの収益を上げられているかを常にチェックし、戦略を調整します。
これらの要素を管理することで、プロセスオーナーは製品やサービスの品質を維持しながら、効率的な運営と高い顧客満足度を実現します。
2. 横軸(機能軸)プロセスオーナー
横軸(機能軸)プロセスオーナーの役割は、会社全体で共通して使われるサービスやシステムを管理することです。例えば、人事システム、経理システム、ITインフラなどを担当します。
プロセスオーナーの主な関心事は以下の通りです。まず、コスト削減に努めます。いかに効率的にサービスを提供するかを常に考え、無駄を削減します。また、リスク管理も重要な関心事です。システムの安全性や信頼性を確保し、会社の運営に支障がないようにします。さらに、標準化にも注力します。会社全体で同じやり方を使えるようにし、統一されたプロセスを確立します。
これらの要素を管理することで、プロセスオーナーは効率的で安全なシステム運用を実現し、会社全体の生産性向上に貢献します。
2つのタイプのプロセスオーナーが協力し合うことで、会社全体の効率が上がり、顧客満足度も向上します。縦軸のプロセスオーナーが各事業の成功を目指し、横軸のプロセスオーナーが全体の効率とコスト削減を図ることで、バランスの取れた経営が可能になるのです。
プロセスオーナーに求められる資質:成功のための4つの要素
プロセスオーナーは、管理者ではなく、リーダーシップと専門性を兼ね備えた人材が求められます。以下に、優れたプロセスオーナーに必要な4つの主要な資質を詳しく説明します。
1. 経営幹部としての視点
プロセスオーナーは、自分が担当するプロセスだけでなく、会社全体の目標や戦略を理解している必要があります。
プロセスオーナーが会社の大局的な視点を持つことは非常に重要です。なぜなら、それによって担当プロセスを会社全体の目標に合わせて調整できるからです。これは短期的な改善だけでなく、長期的な価値創造を考える上でも不可欠です。
具体例を挙げると、営業プロセスのオーナーが単に売上を上げることだけに注力するのではなく、顧客満足度や市場シェアといった会社全体の戦略目標を考慮しながら改善策を立案するケースが挙げられます。このアプローチにより、プロセスの改善が会社全体の成長と持続可能な成功に貢献することができます。
2. プロセス全体の理解
担当するプロセスの始まりから終わりまで、全ての段階を深く理解していることが求められます。これは、問題の根本原因を特定しやすくするためです。また、改善の機会を見逃さず、各部門の役割と課題を把握できることも重要です。
例えば、製品開発プロセスのオーナーが、企画、設計、製造、品質管理、マーケティングまで全ての段階を理解している場合、それぞれの部門の課題や連携の重要性をしっかりと把握できます。これにより、より効果的な改善や問題解決が可能になります。
影響力と決定権
4. 組織横断的な調整能力
異なる部門や階層の人々と効果的にコミュニケーションを取り、協力を得る能力が不可欠です。
これは、部門間の壁を越えた協力を促進できるためです。また、異なる利害関係者の要求をバランスよく満たし、全体最適化を実現することができます。
例えば、購買プロセスのオーナーが、財務部門、各事業部門、サプライヤーなど、異なる立場の関係者の意見を調整し、全体にとって最適な購買方針を策定することができます。これにより、各部門が協力し合い、組織全体の目標達成に向けて効果的に進むことができます。
日本におけるプロセスオーナー制度の現状と課題
プロセスオーナー制度は、欧米企業では広く採用されている一方で、日本企業での導入はまだ発展途上にあります。ここでは、日本企業におけるプロセスオーナー制度の現状と、導入に際しての課題について詳しく見ていきます。
1. 内部統制との混同
多くの日本企業では、プロセスオーナーの役割が内部統制の責任者と混同されがちです。
この問題点として、プロセス改善よりもコンプライアンスに重点が置かれてしまうことがあります。また、戦略的な視点が欠如しがちです。
例えば、「うちの会社では、各部門長がプロセスオーナーです」という声がよく聞かれますが、これは本来のプロセスオーナーの役割とは異なります。プロセスオーナーは、部門間の調整や改善の責任を負うべきですが、内部統制の責任者として捉えられると、主に規制遵守に焦点が当てられ、プロセス全体の最適化や戦略的改善が後回しになることが多いのです。
2. 役職者のみのアサインメント
日本企業では、プロセスオーナーを選ぶ際に、役職や地位を重視する傾向があります。
この問題点として、実務レベルの詳細な知識が不足していることが挙げられます。また、日常業務に忙殺され、プロセス改善に十分な時間を割けないことも問題です。
例えば、執行役員や事業本部長がプロセスオーナーに任命される場合、実質的な活動は部下に任せきりになることが多いです。その結果、プロセス改善が進まず、実務レベルの課題が解決されないまま放置されることがあります。
3. 予算と権限の不足
プロセスオーナーに十分な予算や権限が与えられていないケースが多く見られます。
この問題点として、必要な改善施策を実行に移せないことが挙げられます。また、部門を越えた調整が難しいことも課題です。
例えば、プロセス改善の必要性を認識しても、予算や人員の配置権限がないため、具体的なアクションにつながらないことがあります。その結果、改善が進まず、現場の問題が解決されないまま放置されることがあります。
4.日本的組織文化との適合
5. 権限委譲の難しさ
6. 横断的な視点の欠如
日本企業では、部門別の縦割り組織が一般的で、横断的な視点が不足しがちです。
具体的な課題として、部門ごとの最適化が優先されるため、全体最適化が難しいことが挙げられます。また、部門間の連携や情報共有が不十分であることも問題です。
対策の方向性としては、クロスファンクショナルなチーム編成を促進することが重要です。さらに、全社的な視点を持つ人材の育成を進めることで、部門間の連携を強化し、全体の最適化を図ることができます。
よくある質問(FAQ)
最後にプロセスオーナーという役割についての質問事項をまとめておきましょう。
Q: プロセスオーナーと部門長の違いは?
A: 部門長は特定の部署の管理を担当しますが、プロセスオーナーは複数の部署にまたがる業務プロセス全体を管理します。例えば、プロセスオーナーは商品の注文から配送までのプロセス全体を見ますが、部門長はその中の一部、例えば配送部門だけを管理します。
Q: 中小企業でもプロセスオーナー制度は必要ですか?
A: はい、中小企業でもプロセスオーナー制度は有効です。兼務であっても、プロセスオーナーがいることで、業務の流れ全体を見渡し、改善点を見つけやすくなります。これにより、効率が上がり、顧客満足度も向上します。
Q: プロセスオーナーの成功を測る方法は?
A: プロセスオーナーの成功は、業務プロセスの効率や効果の向上で測ることができます。具体的には、プロセス全体のスピードが上がったり、コストが下がったり、顧客満足度が上がったりすることです。また、問題の発生率が減ることや、部門間の連携がスムーズになることも成功の指標となります。
プロセスオーナーは、会社の業務プロセスをより効率的で効果的なものにするための要となる存在です。彼らの存在により、会社全体の生産性向上やコスト削減、顧客満足度の向上などが期待されます。
まとめ:仕組み(プロセス)志向の会社へ
プロセスオーナーは、会社の仕事の流れをつかんで、部門同士の調整を行いながら、業務をスムーズに進める役割を担っています。彼らがうまく活動することで、会社全体が効率よく動き、顧客の満足度もぐっとアップします。
日本でこのプロセスオーナー制度を導入するには、役割を明確にしたり、権限をしっかりと委譲したりする必要があります。また、会社の文化に合うように調整することも大事です。これらをうまく進めれば、プロセスオーナー制度がしっかり機能して、会社の生産性が上がるでしょう。
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