第三者承継、会社売却において、必ず経営者の課題になるのが ”どれだけ高く売れるのか” です。
自身の魂を込めてきた会社をいざ売却しようとすると、想像よりはるかに低価格で価値が決まることはよくあります。そういった会社では、ビジネス自体がいけないのではなく、会社売却に向けた準備を整えていないことが問題なのです。
第三者承継においては、会社の規模や事業に関係なく、高く売るための方法が存在します。
本記事では、従業員数40人のアメリカの高速道路の車線を引く会社の第三者承継の事例から、会社を高く売るインサイトを解説します。
ぜひ最後までご覧ください。
目次
第三者承継の事例:Sir Lines-A-Lot
会社概要
リー・グレゴリーは、アメリカのミネソタ州で高速道路の車線をペイントをする会社、Sir Lines-A-Lotを創業しました。
Sir Lines-A-Lotはピザハットの駐車場のペイントから始めて、ミネソタ州のほとんどの道の車線や高速道路の車線を引くまでに成長しました。
Sir Lines-A-Lotのビジネス拡大の鍵は、品質とカスタマーサービスによる市場における他者との圧倒的な差別化だと、社長リーは語ります。
高速道路の車線ペイントの市場には、元々2〜3社しか競合がおらず、彼らはカスタマーサービスのオペレーションを持っていなかったので、リーは戦略的に他者との差別化を図ることができ、多くの仕事と長期契約を得ることに成功しました。
もちろん市場に参入したばかりの頃は、信頼を獲得するために、高品質なカスタマーサービスを証明するために、仕事を安値で請け負っていましたが、顧客である自治体がSir Lines-A-Lotの仕事の質を認め、案件が徐々に増えていったそうです。
最終的に、Sir Lines-A-Lotは、ミネソタやアイオワ、ウィスコンシン州などのほとんどの高速道路の車線を請け負うまでに成長ました。
リーが第三者継承を決めたのも丁度会社が成長した時でした。
リーが第三者承継を決めたきっかけ
理由はシンプルで、会社経営の毎日の業務、人事問題やレポーティングに楽しさを見出せなくなったからでした。
ただ、最終的なきっかけは、リーが起業家の集まりに参加した際に、ローカルなM&Aの専門家が彼の会社の価値に気づかせてくれたことでした。M&Aの専門家によると、Sir Lines-A-Lotは8桁くらいの価値があると言い、それまでリーは自分のビジネスがそんな高値で売れるとは思いもしなかったのです。
というのも、そもそもリーはM&A、第3者承継においてどうやって企業価値、つまり会社の値決めをするのか理解していなかったからです。
第三者承継において企業価値を高める4つのポイント
その集まりの日から、リーは企業価値を高め、会社を高値で売るために主に下記の3つの点において努力を始めました。
①第三者承継の評価基準を理解する
リーを含む多くの経営者は、第三者承継における企業価値判断の基準について理解していないのです。
どんなコンテストにも採点基準があります。第三者承継においても同じで、まずは評価方法・基準を確認しなくては、どんなに素晴らしい会社でもM&Aの世界におけて企業価値を高めることはできないのです。
通常、第三者承継における企業評価ではEBITDA(Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization)、金利・ 税金の支払いおよび、固定資産の償却費控除前の利益が評価の重要な指標となります。
リーはEBITDAについて理解していたからこそ、その後売却までの約1年間にやるべきことを明確にし、高値で会社を売却できたのです。
②社長が現場から離れる
2つ目のポイントは、社長が会社の現場から離れ、社長がいなくてもビジネスが成長する仕組みを作っておくことです。
本事例においても、リーは自身が会社の現場から離れることに特に注力していました。
というのも、EBITDAには経営者やジェネラルマネージャーの給料も含まれており、それらは売却後の会社の利益分として計算されていますが、もし会社の社長がいないと経営が成り立たないならば、買い手は買取後に元社長の仕事を担う人材を新たに雇わなくてはなりません。
そうなると、経営者の給与分は将来の費用として見なされるので、実際のEBITDAの額からマイナスされてしまうのです。
そのため、社長が変わっても全く同じ利益を出せるような仕組みづくり、いわば会社のパッケージ化をすることが非常に大切なのです。
③専門家に相談する
3つ目のポイントは、M&A、第三者承継の専門家に相談することです。
リーは例の起業家の集まりで出会ったM&Aの専門家に、すぐに会社を売りたいことを相談しました。
専門家に相談することの大きなメリットは、企業価値を高めるために必要なアドバイスをくれることです。
リーも、EBITDAを知り尽くした専門家から、少額でも価値計算のプラスを増やし、マイナスを減らす沢山のコツを伝授してもらい、全てを実行していました。
例えば、社長の妻が従業員として働いていて、売却後は辞める場合、会社を売る前に妻でない誰かにその業務を任せます。次のオーナーが妻のポジションに人を雇わなくてはいけないコストのマイナス分を無くすことができるためです。
このように、今の会社にあって、売却した後の会社のオーナーにとって必要のないものは全て排除しておくことをアドバック(Add back)と言います。
④会社の今後の伸び代を示す
4つ目の第三者承継のポイントは、買い手に対し、会社の成長のポテンシャルを示すことです。
これは現社長にとっては耳の痛い部分になるのですが、売却前の時点で社長が取り組めていなかったことを、逃しているビジネスチャンスを全て書き出して一つの本にまとめます。
一見、会社が成功していないこと、社長の欠点などを誇張するネガティブな内容に見えますが、会社の新オーナーは飽和状態で伸び代のない安定した会社よりも、将来成長しがいのある、大きなポテンシャルプロフィットを持った会社に魅力を感じるのです。
リーも、M&Aの専門家の手を借りながら、泣く泣く自分のできていなかったことをまとめ上げ、1冊の本を完成させました。
第三者承継の最後のプロセス:承継者選び
様々な努力によって、第三者承継の準備が整ったリーはいよいよ最後のプロセスである承継者選びに入りました。
M&Aブローカーを通じて会社をマーケットに出しました。
沢山の問い合わせや情報請求が来た後に、最終的にSir Lines-A-Lotは20のオファーを獲得しました。
オファーの値段や、オファー内容や取引条件はそれぞれ全く異なっていました。
リーは初めの選考基準として、一定の価格以下のオファーを断り、4つの会社が残りました。
最後の選考基準はやはり人柄だったそうです。会社の文化や従業員とフィットするかどうか、大切に育ててきた我が子のような会社を同じように大切にしてくれるかどうかを面接し、最終的に1人のオーナーに決まりました。
取引の条件は、完全なるオールキャッシュの売却ではなく、ロールオーバーという方式をとり、リーが売却後も会社の株の数パーセントを保持し、会社の株主として残るやり方です。
こうして、リーは第3者承継のホールプロセスを終え、第2の人生を歩み始めたのでした。
まとめ
いかがだったでしょうか?
リー・グレゴリーの第三者承継の事例を紹介してきました。
会社を高値で売るには、まずはM&Aにおける企業価値の評価基準を理解し、それに準拠して承継準備を進めることが大切です。
第三者承継・会社売却に関しては、下記の記事も参考にしてみましょう。
参考記事:
「会社を高く売るには?米プール会社が4年で企業価値を10倍にした話」
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