社長はビジネスを運営するにあたって、大義名分を持ち、それに基づいてコミュニケーションを行うことで組織がまとまり、自分の理想を実現していくことが出来ます。
言いたいことが言えない社長は大義名分を振りかざそう
最近よく聞く社長の悩みが、”社員に対して言いたいことがなかなか言えない”というものです。社長なのに自社の社員に言いたいことが言えないのか?と思われる方もいるかもしれません。
ただ、
- きついことを言うと社員が辞めてしまうかも知れない。。。
- 先代から貢献してくれていた古参社員には強く言えない。。。
- こんなことを言うと、細かくて口うるさい社長だと思われてしまうかもしれない。。。
- フラットな組織を目指しているので、あまり厳しい指導をしたくない。。。
というような理由で、本来言うべきことを言えない社長が結構多いのです。
大義名分が無ければ、社員に呆れられる
では、言いたいことがあるのに、なかなか言い出せない場合、どうしたらよいでしょうか?
ひとつの選択肢としては、”角が立つようなことは言わずに、なんとなく現状維持する”というものがあります。この選択肢を取った場合、とりあえず社長の心は平穏でいられますし、組織の混乱も起きにくいかも知れません。
しかし一方、他の社員から、”社長はそんなことも言えないのか・・・”、”なんで社長はあの人の行動を指摘しないんだ・・・”というように不信感を抱かれてしまう可能性もあります。これは絶対避けたい事態です。
しかも、短期的にみれば心の平穏が保たれるかもしれませんが、言いたい事を言えないことによるストレスは、長期的に社長の精神を痛めつけていきます。
ビジネスにおける大義名分とは?
ではどうすればいいか?
ここで大義名分を振りかざす必要性が出てきます。大儀とはいわゆる理念のことです。自社の価値観、存在意義、長期的展望、倫理観等です。
大義名分を振りかざすとは、「自社の大儀を実現するために、あなたにはこうして欲しい」と伝えることです。
社長が社員に言いたいことが言えないのは、大義名分がないからなのです。
ビジネスにおける大義名分の使い方
ビジネスにおいて大義名分が必要なシーンは数あります。以下はその例です。
組織の変革
組織の変革は時に社員にとって痛みを伴います。特に、いま高い役職にいる人を実質的に降格させる場合です。過去に実績をあげていたが、いまは役職に似合うだけの活躍をしていない人や、頑張っているのはわかるが、成果が出ていない人を降格させないいけないシーンがどうしてもあります。この場合、理由も告げずに降格させたのでは、本人は納得が行かず、周囲に会社の文句を言いふらすかも知れません。そうならないために、会社としての大儀名分を伝え、そのために、組織の変革が必要なのだ、と伝える必要があります。
文化の変革
会社の文化を変える際にも、痛みを伴います。文化の変革とは、”社内的にこれが大事だと思われていたことを変更する”ということです。たとえば、これまでは属人的なスキルを軸に成長してきた会社が、仕組みに基づく会社に変革する場合などです。ベテランの社員は、社内で自分だけが持っているスキルこそが、自分の存在意義であると考えています。それはそれでいいのですが、会社が成長していくためには、その専門スキルを標準化し、他の人も活躍してもらう必要があります。そのため、ベテランが持っている属人スキルを共有してもらう必要があるわけですが、そうなるとベテラン社員としては自分の存在意義が失われるという恐怖を感じ、抵抗をします。そこで会社としては大義名分を持ち、会社が成長していくためにあなたの持っているスキルをみんなに教えてほしい、と伝える必要があります。
ルールや規律の違反
社員がルールや規律に違反した場合、それ相応の懲罰を与えたり、叱ったりする必要があります。これをそのまま放っておくと、他の社員に呆れられ、ルールや規律は形骸化し、組織崩壊につながります。しかし、冒頭で申し上げた通り、様々な理由で社員に強く言えない社長もいるのです。そこで大切なのが、改めて、ルールや規律が存在する理由、つまり大義名分を振りかざして指摘することです。「このルールはこのような理由で社内で採用している。守らなければ、このような悪影響が出るのだ」と伝えることです。
大義名分の例
ではビジネスや仕事における大義名分の例をいくつか見てみましょう。
松下幸之助氏の大儀名分(錦の御旗)に関する話
松下幸之助氏の”経営のコツここなりと気づいた価値は百万両”という本に以下のようなエピソードがあります。
米国の2代目でうまく行かなくなった75社を調べた結果、原因は全て人材の問題だった。初代の功労者だった人材が相当の位置にいるが、適性を欠くようになっている人が少なくない。2代目がそういった人を辞めさせることが出来ず、倒産していった。
会社を個人のものと考えていると、自分のために大きな功労のある人を勝手に辞めさせるわけにはいかない、ということになる。この会社は決して自分一人のものではない。先代からの伝統があり、その伝統を通じて、従業員のために役立ち、社会のために役立っている。それを自分が預かっているのだ、という考えに立つならば、過去の功労にはまた別の方法で報いようとなる。言いにくいことでもあえて言うことが出来る勇気や力が湧いてくる
ここに出てきた状況に直面している社長もいらっしゃるのではないでしょうか。松下幸之助氏は、このエピソードを”錦の御旗を掲げる”とおっしゃっていますが、大儀名分と同じようなことです。
稲盛和夫氏の大儀名分
松下幸之助氏と並び称される稲盛和夫氏も、大儀名分を大切にしていました。彼が提唱した経営12ヶ条の第1条は次のようになっています。
第1条 事業の目的、意義を明確にする―公明正大で大義名分のある高い目的を立てる―
従業員に懸命に働いてもらおうとするならば、大義名分がなければなりません。崇高な目的、大義名分がなければ、人間は心から一生懸命になれないのです。
稲盛氏は、創業当初に社員からの反発を喰らい、何のために事業を行っているのかを真剣に考えないといけない状況に追い込まれます。その結果、生まれたのが京セラの理念である「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」です。
経営者に厳しい指摘をする経営アドバイザー
私の師匠のマイケルE.ガーバー氏は、社長向けに講演や指導を行う際、相手を苛立たせるようなキツイ指摘を行うことで有名でした。
本人曰く、嫌われることを覚悟でそうしていたそうです。
なぜ彼がそんなことをしていたかというと、大義名分があったからです。彼は起業家精神を持った経営者こそが世の中をより良い場所に変える、と信じており、それが大義名分でした。
だから現状維持に甘んじている経営者や、夢を忘れてしまった経営者にはキツく指摘したのです。実際、それに発奮し、大成功した経営者が世界中にたくさんいます。
(参考)大儀名分の本来の意味や類義語
最後に、大儀名分の本来の意味や類義語をご紹介しておきましょう。
大儀名分の本来の意味
大義名分は、もともと孔子の教えだとされています。孔子が説いた儒教では、家族の上下関係を厳しく守ること是としています。そこから年齢や身分の上下関係を守ることが「大儀」だとされるようになりました。家族は社会を構成する最小単位ですが、そこから派生して、国単位でも主君と家臣という主従関係の規律を守ることが「大義」とされるようになります。
家族は社会を構成する最小単位の組織です。それゆえに家族の秩序を維持することは国家の秩序を維持することにも通じると孔子は考えていました。
一方の「名分」とは、「各自の社会的な地位(=名)」にふさわしい「役割(=分)」を意味します。
このような大義名分が日本にも伝わり、武士社会でも重要視されるようになります。戦争においては、大儀名分がある勢力のほうが兵士の士気が高く、勝利するケースも多いことを歴史が証明しています。
大義名分の類義語
大義名分の類義語として一番利用されるのは、先ほど松下幸之助氏の例にもあったように、”錦の御旗”だと思います。錦の御旗とは、「御上の意志を示す印として掲げられる旗」であり、それが転じて、自らを正当化するための権威や大義などを形容する際に用いられます。
まとめ:大儀名分は判断の軸
以上、本記事では主に経営者向けに大義名分の使い方などをご紹介してきました。ただ、大義名分は社長だけではなく、全ての人が仕事や生活において大切にしたいものです。人生における大儀名分とは、人として大切なことは何かを考え、それに基づき行動や選択を行うことです。大儀名分があることで、自分の判断に軸が出来、悩むことが少ない人生を送ることが出来るでしょう。