社長の仕事とは?
自分で創業した社長の場合、創業当時は「社長の仕事って何だろう?」などと考える間もなく、自分で営業し、開発し、顧客サービスをし、と様々な仕事をしていたと思います。やがて、顧客基盤が安定し、社員も増えてくると、そういった実務は社員に任せることが出来るようになります。そうなると社長は自由時間が増えることになるわけですが、はたと気が付きます。”あれ、社長としてどんな仕事をすればいいんだっけ?”と。
私たちのお客様(中小企業や成長企業の社長)の中にも、最初は様々な実務で忙しくされていたものの、”経営の仕組み化”がある程度出来てくると、目の前の仕事が減りますので、皮肉にも何をしていいのかわからない、という状況になることがあります。
また、先代社長から会社を継いだ方であれば、社長就任当初から、社長としてどんな仕事をすべきか?という課題に突き当たることもあるでしょう。
社長の仕事内容は、この3つだけ
社長の仕事は、次の3つに集約されます。これは大企業の社長であろうが、中小企業の社長であろうが同じです。
- 目的地を定める
- 現在地を知る
- 目的地と現在地のギャップを埋める
もちろん、他にも社長がやることが多々ありますが、それらすべては、この3つの根本的な仕事を補完するものです。
中小企業の社長は「社長の仕事」をしていない?
日本を代表する社長の1人である柳井正氏は、次のように語っています。
社長が経営していない人が非常に多い。コーディネートや調整みたいなことは非常にやられているが、世の中がどんどん変わっている中で、会社自体を変えていかないといけない。そう思ったら自分自身がエンジンにならないといけない。あるいはリーダーにならないといけない。それと、会社の方向性、将来こちらの方に向かう、その具体策、今年はこれをやる、今月はこれをやる、今期はこれをする、今日はこういうことをしようという方針が見えていない会社、支持しない会社(が多い)。リーダーが指示しない限りうまくいかない。そういったビジネスリーダーシップが圧倒的に足りないと思う。それが私の率直な感想だ。
これは特に中小企業の社長にとっては耳が痛いのではないでしょうか。中小企業の場合には、人でも足りない、資金も足りない、では社長自ら動くしかない、ということになります。そして会社の方向性や方針を考えたり、打ち出す時間もなかったりします。
社長の仕事内容には2種類ある
大企業、中小企業など会社の規模にかかわらず、社長の仕事内容には2種類あります。戦略的な仕事と戦術的な仕事です。
- 戦略的な仕事は、その戦術的な仕事をどう行うかを設計する仕事です。
- 戦術的な仕事は、手を動かして仕事をするということです。いわゆる実務です。
戦略的な仕事と戦術的な仕事の違い
これら2種類の仕事を理解するために、以下の図を見てみましょう。パズルを組み立てているイメージ図です。
奥にいる人たちは、実際に手を動かしてパズルを組み立てているので、戦術的な仕事をしています。
一方で、手前にいる外側から見ている人たちは、パズルを組み立てる仕事をどうやって行うのかを設計しています。彼らは戦略的な仕事をしています。一見すると仕事をしていないようにも見えますが、そうではなく、違った仕事の仕方をしているということです。
これを会社の仕事に当てはめて見てみると、戦術的な仕事というのは、例えばモノやサービスを販売する仕事、買ってくれた商品を配達する仕事、お金を計算する仕事、部下の仕事にフィードバックを与える、人を採用する、解雇する、こういった日々のやらないといけない仕事のことを指しています。
一方で戦略的な仕事というのは、事業モデルを作る、計画する、組織作りをする、会社のルールを作る、こういった、みんながどう働くかを設計する、それが戦略的な仕事になります。
社長は戦略的な仕事に多くの時間を投資すべし
会社の中にいる全ての人は、この2種類の仕事をバランスを取りながら働いています。
そして、組織図の上に行けば行くほど、戦略的仕事の比重が大きくなります。したがって、理想的には社長はほとんどの時間を戦略的仕事に使うべきなのです。
冒頭にご紹介した柳井さんの言葉の意味は、社長が戦術的な仕事だけに没頭してしまっているということです。一見、忙しそうに働いているけれど、会社の舵取りをする戦略的な仕事に取り組まなければ、会社の未来はありません。
柳井さんだけではなく、世界一有名なコンサルティング会社、マッキンゼーの元CEO、マーヴィンバウワー氏も次のように語っています。
事業を経営することと業務上の判断を下すことが、まったく別物であることは、誰しも認めるだろう。後者は、上はCEOから下は現場主任までマネージャーなら誰でもする仕事である。だが地位が上がるにつれて、経営の仕組みを整え改善することが、次第に重要な任務となってくる。自分のところに上がってきた問題を処理する、部下を選別する、部下のした仕事を評価あるいは調整する、部下を指導する・・・といった仕事に没頭しているだけでは、責務を完全に果たしたとはいえない。-マーヴィン・バウワー(元マッキンゼー、パートナー)
ここでも戦術的だけではなく、戦略的仕事を行うことの重要性が語られています。
社長の仕事はダブルビジョンで行う
かといって目の前をおろそかにしてはいけません。
「仕組み経営」の中では、ダブルビジョンという考え方があります。これは戦略的な仕事を行う長期的な視点と、戦術的な仕事を確実に実行する短期的な視点を両立させる、ということです。長期的な視点ももちろん大事ですが、目の前の一つ一つの仕事をクオリティ高く実行することも大事なのです。
社長の戦略的な仕事
ではまず、社長の戦略的な仕事についてより詳しく見ていきましょう。
社長の戦略的仕事①人生観を明確にする
会社組織には、社長の個人的な価値観や人格、 人生の目的や計画が反映されています。会社をより良くした いと思ったら、あなたの内面に目を向けることが最初の一歩です。
例えばこんな感じです。社長の考えは社員の行動にも反映されています。
会社とはあなたの 子供のようなものです。体は離れていても 価値観や人格はあなたの影響を受けています。
- お金にルーズな社長はお金にルーズな会社を創ります。
- 競争心の強い社長は競争志向の強い会社を創ります。
、、、というように会社の文化は社長個人の影響を受けているのです。これはつまり、社長の価値観や性格によって、社員の行動も影響を受けるということです。
ほとんどの社長はこの点を意識しないままに、社員の行動や考え方を変えようとしています。
うまく行かない社長の考え方
上手く行かない社長の考え方は次の通りです。
- 社員の考え方や行動を変えれば、
- 会社が良くなり、
- 自分の人生も良くなるだろう。
しかし、この順番は完全に逆なのです。社員の考え方や行動はあなたの考え方や行動によって変わります。
うまく行く社長の考え方
したがって、正しい考え方の順序は次の通りになります。
- 社長の考え方や行動を変えることで、
- 社員の考え方や行動が変わり、
- 会社が良くなり、
- 社長の人生がさらに良くなる
このように、会社というのは社長であるあなた自身の人生を反映したものであると理解することが大切です。
社長の仕事はかかわる人を豊かにすること
私たちが提唱している仕組み経営の最も原則的な考え方の一つは、
「社長の人生計画を実現するように事業を創ること」
です。
事業とは、それにかかわる人(社長含む)の人生を豊かにするためのものです。経営することで社長の人生が疲労してしまっては意味がありません。
事業に関わる人の中でも、会社を経営している社長ご自身の人生が経済的にも精神的にも豊かになり、計画が実現されることが第一かと思います。
「いや、社長は多少自己犠牲してでも、顧客や社員のために尽くすものだ」
というご意見もあるかも知れません。世の中にそういう美談はたくさんあります。これは一理あるかも知れません。そもそも社長(特に創業社長)は、起業した時点で、いろんなものを犠牲にしていますね。
顧客と社員どちらが大事か?
よく議論になるテーマで、
顧客第一主義か、社員第一主義か?
というのがあります。
顧客第一主義の主張は、そもそも顧客が第一でなければ、売上が上がらないし、社員も大切にできない、というものです。
一方の社員第一主義の主張は、社員が幸せじゃないと、彼ら(社員)は顧客を幸せにすることなんてできない、というものです。
個人的には、この二つの主張は、どっちでもいいかなと思います。これらはOR(二者択一)ではなく、AND(両立)させるものだからです。
ただ、ここにもうひとつ、社長の人生という視点も入れたほうが良いと思うわけです。
社員が幸せじゃないと、彼ら(社員)は顧客を幸せにすることはできない、という主張に従うならば、、、社長が幸せじゃないと、社員を幸せにすることが出来ない、ということも言えます。
昔の価値観では、会社と顧客は利害関係が対立するものだし、雇う側と雇われる側でも利害関係が対立するものでした。
しかし、いまはそんな時代でもありません。
社長 AND 社員 AND 顧客
最低限、この3者の利害を一致させている会社じゃないと成長しないかなと思います。
話を戻すと、3者の利害を一致させるためにも、まずは社長の人生観が大切です。
社長の人生を満たすように事業を創る
会社を立ち上げたばかりの若い方は別にして、50代、60代くらいの社長であれば、10年後、20年後の自分の人生を考えた時、いまと同じ仕事やるのは無理だよな、ということに気が付かれると思います。
じゃあどうするか?
- いまの会社をどうするのか(承継か、売却か、廃業か)?
- どのような立場でかかわるのか?
- どんな組織が必要か?
- どんなビジネスモデルが必要か?
ということを考える必要があります。
自分が将来、豊かな人生を送りながらも、いまの会社にかかわる人たちも幸せになるための計画が必要なのです。
自分は将来、こうありたい、こうなりたい、という青写真に向けて、
「会社をいつまでにどういう状況にするか?」
という会社の青写真を描きます。
永守重信氏の人生観
たとえば、日本電産創業者の永守氏の自宅には、大きな張り紙に20代から70代までの自分の人生設計と会社の規模、事業計画が書き込んであったと言います。
例えば「30代のうちに海外の合弁会社を4つ設立する」、「40歳までに、故ケネディ米大統領の演説集の英語を聞きとれるようにする」、「質の高い交友関係を広げた証拠として、40歳までに名刺を3万枚集める」といったことが記されていたとされています。
社長の戦略的仕事②理念を明確にする
人生観に基づき、会社の理念を明確にします。一般的に、企業理念や経営理念と言われるものですね。会社とは理念を共にする人々の集まり、と言えます。そのため自社が対象にすべき顧客像や、採用すべき社員像を明確にするためにも、理念の明確化が欠かせません。
いつもお伝えしていることですが、会社の「仕組み」とは、何かしらの目的をもって作られるものです。
業務の効率化なのか、仕事時間の短縮なのか、顧客満足なのか、色々と目的はあります。
ただ、最終的には、仕組みとは、その会社が目指しているもの、理念を実現するために創られます。
理念を構成する要素
そんな理念ですが、主には以下の3つで成り立っています。
・存在意義・・・ミッションやパーパス
・あるべき姿・・・ビジョン
・価値観・・・コアバリュー
これらの詳細については以下の記事に紹介していますので、ぜひご参照ください。
社長の戦略的仕事③目標&指標の設定
理念があっても、それを日々の仕事の中で実践しなければ意味がありません。そこで、理念と現実の仕事を結びつけるために、目標&指標を設定するのも社長の仕事です。
指標というと、明らかに計れるものだけを考えがちです。たとえば売り上げ、利益率、成長率、資産、負債、株価、効率性、生産数などです。これらはそもそも数字で表れてくるため、比較的明確です。
一方、直接的に数字で表れない指標もあります。スタッフはどれくらいやる気になっているのか?マネージャーはどれくらい部下から尊敬されているか?顧客はどれくらい満足しているか?等々。これらは直接数字で表れませんが、大切です。
松下幸之助氏が語る成功の要因
経営の神様と言われた松下幸之助氏も、次のように言っています。
経営をすすめるときに知っていないといかんことはな、目に見える要因と、目に見えない要因、その両方とも考えないといかんということやね。しかし、この目に見えるものだけに取り組んでいったら経営がよくなると思っている人もおるようだけど、実際にはそうではないんや。それだけでは、経営というものは決してよくはならん。そういうものも極めて重要やけど、もうひとつ、目に見えない要因というものも考えないといかん。(東洋経済オンラインより抜粋)
つまり、直接数字で出てこない要因が、売上や利益などの“数字”を生み出す、ということです。
最近では様々な分野でデジタル化が進み、直接数字で出てこない要因も測定できる方法があったりします。それらを含め、自社にとって理念に向かうための中間にある目標、そして、それを実現するために測定すべき指標を設定します。
社長の戦略的仕事④目標達成に向けた仕組みづくり
次のステップは、目標に向けて、会社の様々な仕組みを整えることです。たとえば、以下のような仕組みがあります。
- リーダーシップ・・・リーダーとしてのスキルを高める、リーダーを育てる、経営をチームで行う仕組みなど。
- ブランド・・・自社のブランドを表現するため、顧客体験を最高なものにするための仕組みなど。
- 組織・・・経営にリズムを持たせる、効果的な委任、自社にとって優秀な人材を採用する、人材を育てる仕組みなど。
- 財務・・・予算計画を立てたり、キャッシュフローを最適化する仕組みなど。
- 価値提供・・・商品設計、品質管理、顧客サービスのための仕組みなど。
- セールス&マーケティング・・・新規顧客を継続的に獲得し、成約させるための仕組みなど。
これらの仕組みを目標、さらには理念に沿う形で作り、改善を続けていきます。
社長の戦術的な仕事
次に、社長の戦術的な仕事を見てみましょう。先述した通り、こちらの仕事も疎かにしてはいけません。戦術的な仕事とは、目の前の仕事を片付けることです。よっぽど仕組みで回っている会社でない限り、社長自身も現場の仕事や今すぐやらないといけない目の前の仕事があるはずです。
会社の規模や組織状態にもよりますが、戦術的な仕事としては例えば以下のようなものがあります。
大型案件のクロージング
いわゆるトップセールスで、大型の顧客、案件のクロージングをすることです。法人営業の場合には特に大事です。私も会社員時代は法人営業をしていましたが、相手が大手になるほど、自分だけでは成約が難しくなります。相手の役職に合わせてこちらも取締役や場合によっては社長を連れ出すことになります。
部下のメンタリング/コーチング
直属の部下のメンタリングやコーチングを行います。ほぼ全メンバーが社長直属の部下の場合には、彼らのメンタリングをしますし、もっと組織が大きくなってリーダー層が増えたとしても、リーダー層へのメンタリングをするのは社長の役割になります。
重要人材の採用
Cクラス(CEO、CFO、COOなど上級幹部クラス)の採用や、自社に必須のスペシャリストの採用については社長が積極的にかかわるべきです。
キャッシュの確認(資金繰り)
手元に現金がどれくらいあるか?を常に把握しておくことは非常に大切です。そのためにもキャッシュフロー計画などがあると役立ちます。経理業務などは人に任せても良いですが、財務面の面倒を見るのは最後まで社長の役割と言えるでしょう。
品質基準・サービス基準のチェック
自社が提供している商品やサービスが、ちゃんと自社のブランドに沿う基準になっているかどうかをチェックします。そのための仕組みを創っておくのも良いでしょう。
関係各者との人間関係構築
カギとなる重要な人間関係を維持する役割です。日本の某老舗建設会社では、過去お世話になった人たちや重要な顧客の連絡先が書かれたノートがあり、それが代々受け継がれているそうです。
世代交代があった時には、ノートに書かれている人たちに挨拶に行き、関係性を維持するようにしているとのこと。
新規事業の陣頭指揮
新規事業を立ち上げる場合には、社長自ら先陣を切って実務をこなす必要があるかもしれません。
自分の専門分野のチーフ
マーケティング、技術、サービスなど社長自身の得意分野の最高責任者としての役割です。たとえば、ビルゲイツはマイクロソフトの社長をいったん退いてから技術部門のトップになりました。
社長の仕事内容まとめ
以上、社長の仕事内容について、戦略的、戦術的なものに分けてみてきました。社長の仕事は〇〇だけ、というようなコンサルタントもいるようですが、今見てきたように、特に中小企業の場合、社長の仕事は多岐にわたります。ぜひ今回の記事を参考にしてみてください。
なお、仕組み経営では、今申し上げたような「社長の仕事」をご支援し、社長依存の会社から仕組みで回る会社へ変革するご支援をしています。詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。