人事制度とは?トレンド、設計方法と改革のヒントまとめ

人事制度とは?トレンド、設計方法と改革のヒントまとめ



人事制度は、ビジネスの三大リソースである「ヒト・モノ・カネ」の中でヒトを活用するために設けられるルールや仕組みです。

人事制度は社員の評価や給与を決める根本的な基準となるので、社員の仕事へのモチベーションはもちろん、事業の成長全体に大きな影響を与える社内システムです。

本記事では、人事制度とは何か、人事制度のトレンドの変遷、人事制度の設計方法、改革時のヒントについて詳しく解説します。

人事制度とは?

人事制度とは、広義では会社内における人事的な決まり事の総称を指し、社内公募制度や産休・育児休暇制度、留学制度なども人事制度に含まれます。

一方、狭義では”会社が社員に求めていることを定義し、キャリアステップを用意、評価と給与の決定を行うための根拠となるルール”を意味します。一般的に人事制度を設計または改定する場合は狭義の方を人事制度と呼ぶことが多いです。本記事でも狭義の人事制度について解説していきます。

人事制度を策定する際、最も重要なのが会社の理念やバリューを反映させることです。どんなに合理的な制度であっても、会社のバリューや理念にそぐわない行動を高く評価するような制度は持続可能ではなく、うまく動かないケースが多いのです。

理念やバリューといった要素を制度に盛り込むことで、社員は会社の指針に合わせた行動を行うこととなり、自然と企業文化が出来上がり、これは会社にとって唯一無二の他者との差別化ポイント、重要な財産となります。

人事制度の構成要素

人事制度は以下の3つの要素で構成されています。各要素が互いにリンクし合い、人事制度が成立します。

人事制度の構成要素

等級・職位制度

多くの企業の人事制度に「格付け制度」が存在し、格付けにおいては人事上の格付けと組織的な格付けがあります。

人事上の格付けは、等級・グレード制度・資格制度などど呼ばれ、主にその人の影響力を示します。一方、組織上の格付けは職位制度・役割制度などと呼ばれ、その人の「責任と権限」を示します。

人事上の格付けである等級は、レベル別に求められる要件を定義し、それに対して評価を行い、より上のレベルを満たすと評価されると昇格、レベルを満たしていないと評価されると降格となります。等級の昇格は、社員のキャリアステップを表し、等級により給与幅も評価方法も変化します。等級はこういった意味で人事制度の根幹と言えるでしょう。社員が具体的なキャリアパスをイメージできるかどうかにすごく関係するので、社員の満足度や退職率にも大きな影響を及ぼします。

一方、組織的にその人の責任や役割を明示する職位制度においては給与を決定する人事制度として職位を考慮するかどうかは企業の判断によって変わってきます。

職位主義の企業ならば、職位=等級隣、給与に反映させますが、手当として対応する場合や手当や給与面で全く考慮しない場合などもあります。職位主義の場合は職位から外れた場合に減給するかどうかも決めておかなければなりません。

いずれの場合も職位に求めるものを明らかにすることは、組織運営上非常に重要です。

等級について、以下の記事でもより詳しく解説しています。

参考:等級制度とは?種類や作り方を5ステップでわかりやすく解説

評価制度

評価制度とは、一定期間にわたる社員の成果や仕事ぶりを評価する制度のことです。

何を持って評価するかは、理念やバリュー、等級・職位に求めるものが示されていることが前提となってきますが、これに加えて目標達成は各期、各社員がそれぞれ設定した目標の達成度も評価の対象となります。

評価基準は各社の人事ポリシーに基づきますが、一般的には行動・能力などの「プロセス評価」と結果・業績などの「成果評価」に分けられ、2つを組み合わせる企業が多いです。

また、成果に代表される「過去軸(過去一定期間の成果を評価し、賞与に反映すること=精算価値評価)」か、「将来軸(将来的な成果を期待できるかに基づいて基本給に反映する=投資価値評価)」のどちらを採用するかも検討する必要があります。

等級の昇格・降格を決定するのは評価制度になりますが、この場合は過去軸を基準としながらも将来への投資価値も同時に判断するものになります。

評価とは「求められているもの」と個人の成果や行動とのギャップの判定になります。そしてこのギャップは人事育成のポイントを明らかにする重要なプロセスとなるので、評価制度は教育制度とも深く結びついていることが理想です。

評価制度は以下の記事でより詳しく解説しています。

参考:人事評価制度の種類と作り方 5ステップで会社成長の仕組み作り



教育制度

社内教育は社員に求めるものを伝える場面として非常に重要です。ただし、教育制度は会社が社員に求めるものが明らかになっていることが前提で、その上で評価によって要件とのギャップを明らかにし、成長を促していきます。

ギャップを埋める支援として教育は研修等で行われるのが一般的です。等級制度で要件を整備→評価制度でギャップを明らかにする→教育制度で育成、このサイクルの確立が必要となります。

給与制度

給与制度、給与を決定する基準は、評価・年齢・勤続年数など人事ポリシーに基づきます。

給与制度は多くの企業で「基本給」「賞与」「手当」「退職金」などで構成されます。

一般的に、基本給については将来軸(将来どのくらいの成果を出してくれると見込めるか)に基づき設定されます。

一方、賞与については、過去軸(過去一定期間の成果)に基づいて決まります。賞与の決め方は会社業績・部門業績・個人業績に基づいて支給額を決定するのが基本です。賞与額の決め方にもいくつか種類があり、「基本給×係数(3ヶ月など)方式」、「等級テーブル方式(等級別に賞与テーブルを作り評価ごとに賞与額をあらかじめ決めておく)」などがあり、業態によって策定していきます。

手当(通勤手当や家賃手当、営業手当など)については、定義を明確にして支給するのが重要です。昨今は属人的な手当(=評価に関わらずその人の生活状況によって支給が決まるもの)については廃止傾向にあります。例えば、家族手当や住宅手当などについては生活保障の要素を持つため、属人的であると多くの会社で廃止傾向にあります。また、通勤手当は、通勤のための費用ですが、定期分を支給したり、最近ではリモートワークが多い企業において、通勤記録に応じてその分だけ支給するやり方も増えてきました。

給与体系は、年俸制・等級号俸制・バンド制の3種類のどれかを採用することが多い。

年俸制

年俸制は、年間の給与を初めに決定しするため、年収全体が年度ごとに変動する制度となります。年俸制は定期昇給の概念がなく、仕事と成果に基づいて年収が決定されます。期中で給与の上下ができず、ミッションの変化や成果に応じて給与を加算することもできないので、中長期的な人材育成には向かない制度とも言えます。

等級号俸制

日本の一般的な給与体系で、等級ごとに給与テーブルを作る制度です。等級号俸制はスキルが年次を重ねていけば上がる=投球も年次とともに上がる=年功序列になってしまうというケースが多くの企業で見受けられるのですが、運用次第では年功序列ではなく能力で評価することも可能です。年功序列の企業では昇給のみが想定されているため、給与は何もしなくても上がるものと思われてしまいますが、降給の仕組みもしっかりと整備すればパフォーマンスと給与が見合わなくなることを防ぐことは可能です。

バンド制

等級ごとに給与バンド(給与幅)を持たせるもので、例えば、A評価なら30万円、S評価なら35万円、B評価なら27万円のように等級が同じでも評価によって給与が変化します。バンド制の大きな問題は期ごとの評価によって簡単に降給が起こりうるので、社員のモチベーションを大きく下げかねないという点です。バンド制を導入する場合は運用に特に注意する必要があります。

また、給与制度に合わせて時間外勤務のルールや就業規則や給与規定といった人事管理も策定する必要があります。

給与制度について以下の記事でもより詳しく解説しています。

参考:【賃金制度の6ステップの設計方法】 制度の種類や手当についても解説

人事制度の変遷と最新のトレンド

日本における人事制度のトレンドは過去から現在で大きく変わっています。人事制度のトレンドは、労働そのものに求められることの社会的変化に対応し、変化してきています。戦後復興期から現代までにわたる各時代の人事制度のトレンドを辿ってみましょう。

戦後復興期から高度成長期の人事制度のトレンド
〜生活保障主義から年功序列主義へ〜

生活保障主義
戦後の「食うために働く」時代において、日給制を主体とした労働と賃金の支払いという、最低限の生活を保障しようという考え方です。高度成長を控え、企業が優秀んな人材を確保しようという意識が高まったことで終焉を迎えました。

年功・勤続主義
高度成長期を迎え、多くの企業が年功序列の給与制度を取り入れました。勤続年数=仕事の習熟度捉えられたことが背景にあります。優秀な人材を長期的に確保するために終身雇用制も採用されていきました。また、勤続=習熟度の上昇=ポストという考え方から勤続年数の長い人に職位を与え、給与を多く支払うやり方も生まれ、日本経済と会社の発展によってポストが増えていく高度成長期時代には妥当性がありました。

安定成長期から超低成長期の人事制度のトレンド
〜能力主義から成果主義へ〜

能力主義

オイルショック前後より高度成長が収束し、ポストの数が増加しなくなった頃、ポストではなく等級ごとに求められる能力を決め、それを基準に評価する「資格等級」が生まれました。しかしここでも、能力=習熟度=勤続という考え方は根底にあったので年功型の考え方は色濃く残っていました。この制度は職能資格制度と呼ばれ、今でも多くの企業が採用していますが、昇給が当たり前で降給する仕組みがない場合など、年功序列的要素が多く、優秀な若者の離職を招くといった問題につながっています。

成果主義

能力ではなく、成果や実績に基づいて給与を決める考え方が成果主義です。バブル崩壊後、経済の停滞と年功序列型の制度に限界が現れ始めた頃に注目されました。成果主義の課題は、運や環境要素をどう見るか、というところにあります。「頑張ったが成果が出なかった」または「頑張らなかったが運が良くて成果が出た」ケースをどのように評価するか。「頑張った」というプロセスも評価する場合は成果主義以外の評価軸も必要になります。成果主義の代表的な例として浸透したのが年俸制です。



職務主義(役割主義)

90年台後半から、人の能力ではなく、仕事の価値・重さに応じて評価しようという職務主義がアメリカから広まりました。部長・課長などの職務で給与が決まっていますが、職務の重さをどのように測るのか、ジョブローテーションなど日本企業の慣習と馴染まない、などといった課題がありました。

超低成長期から現代”変革期”の人事制度のトレンド
〜成果主義から行動主義へ〜

行動主義(コンピテンシー)

成果主義には、チームで実績を上げる際の個人の成果の測定が難しかったり、環境要因に左右されたり、人材育成の風土が後退したり、といった問題点がありました。そこで広まったのが行動主義、コンピテンシーです。コンピテンシーは「成果を上げるために欠かせない行動」を意味します。成果は環境要素を含み、能力はそれが発揮されないと意味がないため、それらの要素を両方評価できる「行動」によって給与を決めるのが現代の人事制度のトレンドです。成果が良くても行動が見えなければ評価を下げることも可能になるので、成果主義の問題点であった環境要因に左右される点も改善されます。コンピテンシーでは、成績優秀者の行動モデルを抽出し、それを指針として各人の行動を評価し、給与を決定します。

ミッショングレード制度

現代の人事制度のトレンドのもう一つが、職務主義に近いミッショングレード制度です。企業・組織のミッションを個人レベルの役割まで落とし込み、役割に基づいてグレードや評価を行います。

以上、人事制度のトレンドを振り返りましたが、トレンドだけではなく、社員に求められる仕事内容なども考慮しながら、自社にあった人事制度を策定するのがいいでしょう。

 

人事制度の設計の仕方

基本的な人事制度の設計手順をご紹介します。

人事制度の設計手順

  1. 会社の方針・戦略を決める

    いきなり制度の項目を決め始めるのではなく、まずは人事制度と経営方針や戦略を紐付けます。人の成長=会社の成長となる仕組みづくりの土台となるためです。
  2. 経営戦略を人事戦略に落とし込む
    この時に以下の二点を特に意識するようにしてください。

    • 中長期を見据えてどんな人事体制を作るか
    • 特に採用や教育を絡めてどのようなキャリアプランをイメージするか
  3. 現状分析現状の制度を把握し、理想とのギャップを認識します。
  4. 概要設計・詳細設計このフェーズは特に重要で、制度の細かい要件を決める前に評価・等級・賃金それぞれのフレームを作りましょう。大方どんな制度にするか枠組みを決めたら、詳細設計で具体的な評価項目などを決めていきます。ここまでできたら設計自体は終了ですが、設計はあくまで卓上で行われるもので、実際にその制度が会社に適しているのかわかりません。
  5. シュミレーションシュミレーションを行って、適切な制度であるか確認します。シュミレーションは各人事制度に実際の社員を当てはめて行い、理想とのずれを把握し、必要であれば調整してください。
    ここまで来ると人事制度自体は完成です。
  6. マネジメント層への説明完成した人事制度は、新規構築の場合も再構築の場合も、全社に通知する前にマネジメント層への説明を先に行うのがおすすめです。全社員に展開した場合、通常社員個人が抱く疑問は中間マネジメント層に飛んでいくため、まずはマネジメント層の人事制度への理解を深めておくの重要になります。
  7. 運用最後に設計した人事制度を運用開始しますが、運用の際は評価者向けの研修や評価会議等を人事が開催し、スムーズに運用ができるよう努めましょう。

人事制度を改革する場合のヒント

人事制度の改革したい企業は数多くいるでしょう。改革にあたり、最も大切なのは人事制度の前提を再認識することです。いく最新の人事制度のトレンドを取り入れても会社に合わない場合は意味がありません。

人事制度=次のことを整理することです。

  • 会社が社員に求めるものを明らかにする(要件設定)
  • ”求めるもの”と”社員個人の発揮度合・達成度合”のギャップを判定する(評価)
  • 評価により処遇(等級や職位など)を決定し、それに基づき給与を決定する(報酬・給与)
  • ギャップを埋めるための施策を展開する(教育_育成)

評価制度を改革したいという要望の多くは「評価を構成にして、給与を適切に支給したい」ということで、この前提は「何を持って評価するのか」、つまり「社員に何を求めるか」を明らかにすることが必要となります。また、給与については「何に対して給与を支払うのか」も整理する必要があり、成果・行動・能力・職責、過去か未来か、など人事ポリシーに基づきます。

人事制度を改革または設計する場合には「社員に求めるもの」と「何を持って社員の給与を決めるのか」の2つの観点を整理することが大前提なのです。人事制度改革を行う場合はこの2つの軸を明確にすることから始めるべきです。

 

いかがだったでしょうか?

人事制度とは何か、トレンド、設計手順、人事制度改革のヒントを説明してきました。

人事制度は社員の給与と会社の成長に関わる重要な制度です。最適な制度設計・運用を行い、ぜひ社員のモチベーションアップと業績向上に役立ててください。

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