ザッポスについて完全解説(コアバリューから採用、ホラクラシーまで)



ザッポス・ドットコム(Zappos.com)は、ラスベガスに本社を構える靴の通販会社です。ザッポスは創業以来、

  • コアバリューを軸にする強力な企業文化
  • 卓越したカスタマーサービス
  • アマゾンが同社の株式を1000億円で買収
  • 最大規模でのホラクラシー(階層構造ではない組織構造の一形態)
  • ラスベガス旧市庁舎を本社に

などなど、その成長ぶりやユニークな経営手法で話題に事欠かない会社になっています。この会社、職場は自由な雰囲気で溢れていますが、その裏では、非常にロジカルで、時には厳しい、しっかりとした仕組みが整えられています。

私たちはザッポスをベンチマーク対象として、過去5年くらい毎年同社を視察し、得られた見識を日本の経営者の方々にお伝えしてきました。そこでこのレポートでは、こまで同社を視察し、知ったこと、感じたことをまとめていきます。

注意1.記事の内容は私が見学/調査した時点での情報を基にしています。

注意2.彼らのビジネスのやり方は常に変化・進化しており、本記事の内容が必ずしも現在実践されているとは限りません。

注意3.記事の内容は、あくまで彼らのコアバリュー(共有されている価値観)をベースにした仕組みであり、他の組織において、これらの方法が最適解とは限りません。

目次

ザッポスの歴史

ザッポスは1999年にニック・スウィンマンという人物によって創業されました。現CEOとして有名なトニーシェイが創業したと思っている人も多いと思いますが、そうではないんですね。また、サイト名も元々は、ShoeSite.comというものでした。

創業当時はまだインターネットが黎明期で、靴がオンラインで売れるのか?と創業メンバー自身も懐疑的でした。そこで彼らは、最初から本格的な通販サイトは作りませんでした。また靴の在庫もそろえませんでした。

本当に簡単なページを作って、そこで靴を紹介しました。そして、注文が入ったら、社員が近所の靴屋にその商品を買いに行き、それをお客様に配送するというワイルドなやり方でスタートしたのです。

リスクを軽減してビジネスのアイデアをテストする。いまでいうリーンスタートアップという手法ですね。ネットで靴が売れることがわかると、トニー・シェイが最初は投資家として経営に参画。

2000年に160万ドルの売上を達成します。その後、2004年にはコールセンターを24時間にして顧客中心の文化を作り上げます。

2005年には本社をラスベガス郊外に移設。ちなみに本社をラスベガスにした理由は、この街が24時間眠らない街だったからというのも一因だそうです。コールセンターが24時間ということは、当然シフト制で勤務するのですが、どの時間に勤務開始しても、どの時間に勤務終了しても、社員が買い物が出来るなど、生活に支障がないようにと考えた結果だったのです。

2006年にはいまの文化の基盤となるコアバリューを構築。さらに顧客中心主義を加速させます。

そして、2009年にアマゾンが約1000億円でザッポスを買収したことで、一気にザッポスに対する関心が高まりました。

2013年に本社をラスベガスの旧市庁舎に移転します。ちなみに私たちは移転前後の本社、両方にいったのですが、移転前はまだまだ比較的小規模なオフィスで、有名ではあるものの、いち中小企業といった感じでしたが、移転後の本社は非常に立派で、一気に大企業になった感じがしました。

2015年にはホラクラシーを導入。世界に類を見ない組織規模での導入ということで、また話題を振りまきます。

では、次からザッポスが急成長してきた大きな要因となる

  • コアバリューと企業文化
  • カルチャーフィット採用
  • 人材育成プロセス
  • リーダーシップ
  • ホラクラシー

などについてみていきます。

ザッポスのコアバリューと企業文化

コアバリューとは、組織における中心的な価値観のことです。企業文化の軸となるのがコアバリューです。ザッポスと言えば、コアバリューを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。仕組み経営の中でも何度もご紹介しているので、ご存知の方も多いと思います。

ザッポスのコアバリュー

これはもう有名ですが、ザッポスのコアバリューは10個ありまして、以下の通りになります。

  1. サービスを通じて感動を届ける(Deliver WOW Through Service)
  2. 変化を起こし、喜んで受け入れる(Embrace and Drive Change)
  3. 楽しさと少し風変わりなものを作り出す(Create Fun and A Little Weirdness)
  4. 冒険し、クリエイティブに、そして心を開く(Be Adventurous, Creative, and Open-Minded)
  5. 成長と学びを追い求める(Pursue Growth and Learning)
  6. コミュニケーションでオープンで嘘のない関係を構築する(Build Open and Honest Relationships With Communication)
  7. 積極的なチームとファミリースピリットを作り出す(Build a Positive Team and Family Spirit)
  8. 少量で多くをこなす(Do More With Less)
  9. 情熱的に、意志を固く(Be Passionate and Determined)
  10. 謙虚に(Be Humble) 

コアバリューがなぜ大切なのか?

ではコアバリューはなぜ重要なのか?その理由は次の通りです。



自律型組織を作る

コアバリュー、すなわち価値観が共有されているということは、余計なコミュニケーションコストが削減され、細かい指示もいらなくなるということ。また、価値観が明文化されていることで、会社の文化に合う人を採用できます。いわゆるカルチャーフィット採用です。この辺については後述します。

決め事の基準が出来る

コアバリューはあらゆる決め事の基準となります。つまり、これとあれ、どっちをやろうかな?と思ったときの全社員にとっての基準がコアバリューです。いってみれば、全社員(社長も含む)にとっての上司がコアバリューになるのです。

永続する文化を作る

ディズニーはウォルトディズニーがいなくなった後に、“ディズニーらしさ“を失いましたか?アップルは?ソニーは?ホンダは?世の中に優秀なリーダーが作った優れた組織はたくさんありますが、その大半は、彼らが組織を去ってしまうと平凡な組織になってしまいます。一方、本当に偉大なリーダーは、永続する文化を組織に残すため、彼らが去っても偉大な組織であり続けます。

企業文化に関する詳しい記事はこちらに別途掲載しましたので合わせてご参照ください。

企業文化を完全解説

 

ザッポスのカルチャーフィット採用

ザッポスを見学しに行くと、社員の人たちがみんな自由に、かつ楽しそうに働いていて、こんな会社で働きたい、と思います。しかしザッポスはもはや有名企業。自由そうなイメージとは異なり、入社するのはかなり厳しいのです。コアバリューで経営するということは、することすべてに、コアバリューが反映されてなくてはならないということです。採用も例外ではなく、それどころか最も重要です。コアバリューを作ることが第一に重要で、コアバリューに基づいて採用することが2番目に重要なことです。

コアバリューに基づいて採用すること、これをカルチャーフィット採用と言います。カルチャーフィット採用をすることで、長期的には時間とお金を節約し、チームメンバーの雇用期間も延ばすことができます。以下、ザッポスが実際にどのように採用をしているのかを見ていきましょう。

完璧な社員像を創る

マーケティングにおいては、明確な顧客像を描くことが最初の大きなステップとなりますが、採用においても同じで、明確な採用候補者像を描くことが最初のステップになります。具体的には、ジョブディスクリプション(職務記述書)を書くことから始めます。ここで重要なのが可能な限り、明確に、具体的に、人材の理想像を書くこと。

大半の会社における職務記述書は、求人サイトに載せるために作った、役職、仕事内容の箇条書き、給与、必要なスキルや資格などが書かれているだけだと思います。一方のザッポスの職務記述書では、そういったテクニカルなことよりも、どんなパーソナリティを持った人を求めているかを重要視して書かれています。

ザッポスによれば、自社のコアバリューが表現された職務記述書を用意することで、仕事内容を伝えるだけではなく、自社に合わない候補者をこの時点でより分けることが出来ると言います。

応募フォームにもクリエイティビティを

応募フォームにもクリエイティビティを少し加えるだけで、より候補者のことを知ることが出来ると言います。たとえば、彼らの応募フォームには、標準的な項目(名前、経歴、資格等)の他に、下記のような質問があったりします。

Q. あなたの運の良さを10段階で自己評価してみてください。

1・・・なぜかわからないが、いつも悪いことばかり起こっている。

5・・・運の良さは平均的だと思う。

10・・・なぜかわからないが、いつも良いことばかり起こっている。

 

Q. 自分をヒーローに例えると誰ですか?それはなぜですか?

カバーレターは動画で

ザッポスでは、履歴書のカバーレターに動画を使うことを求めています。カバーレターとは、履歴書に添付する書類であり、通常は挨拶や簡単な自己アピールを記載します。

いまの時代、誰でも自分の動画を撮影して、インターネット上に公開できる時代です。ッポスでは動画カバーレターを使うことで、候補者の人物像をより正確に把握するようにしています。応募者は自分で動画を撮影し、Youtubeにアップして履歴書と一緒に送ります。

Youtubeで「Zappos coverletter」と検索すると、確かにいろいろと出てきます。

※見た感じ、最近はあまりこの手法はやっていないようです。

 

社員紹介制度を活用

ザッポス社の空きポジションは一般公開されており、もちろん社員も見ることが出来ます。そこで、ザッポスでは、社員紹介制度を用意し、カルチャーフィットする人材の確保に努めています。

人材を紹介してくれた社員に対しては、ケースバイケースですが、200ドルから2,000ドルのボーナスが支払われます。ちなみに紹介制度でボーナスを受け取るためのルールとしては次のようなものがあります。

  • 紹介者はフルタイム社員でなければならない。
  • 紹介した人材が入社してから90日間在籍した時点で、ボーナスの権利が発生する。(紹介した人材がすぐに辞めてしまったらボーナスは支払われない)
  • 人事部門の社員に対してはボーナスは支払われない。
  • 過去にザッポスで働いた経験のある人を紹介してもボーナスは支払われない。

面接はまず電話で

アメリカの国土の広さの問題もあると思いますが、書類選考を通過した候補者は、まず電話での面接に臨みます。ザッポスでは、面接のプロセスを単に人材を評価するためのものではなく、両者の関係を構築し、ザッポスが候補者にとって本当に合っている会社なのかどうかを判断してもらうためのものとして捉えられています。



この辺の考え方は、彼らの顧客に対する考え方と近いものがあると思います。電話面接は、基本的にインフォーマルな雰囲気で行われ、たとえば次のような質問が成されます。

  • 「過去の同僚は、あなたのことをどんな人だと言うでしょうか?」
  • 「仕事で最も楽しかった経験は何ですか?それはなぜですか?」
  • 「いまの仕事で最も良い点は何ですか?」

面接はザッポスツアーから

電話面接を通過した候補者は、ザッポス本社に招かれます。ザッポスでは、空港から自社専用のシャトルバスが用意されており、候補者はそれに乗って本社にやってきます。社員の人から聞いた話だと、候補者がバスのドライバーにどういう態度で接しているかも密かにチェックされているそう。

本社に到着すると、面接の前に、本社ツアーが行われます。これは社内の雰囲気を感じてもらうために行うもの。ツアーの最後には、ザッポスの「カルチャーブック」が手渡されます。

彼らのカルチャーブックは、社員の声で成り立っていて、候補者はザッポスで働くとはどういうことなのかを理解することが出来ます。ツアーが終わると、面接が始まります。

面接は人事ではなく、”リード”と呼ばれる該当部門のチームリーダー的存在の社員が行います。

リードは面接を行う前に、人事チームから面接の進め方を学びます。ここでは、技術的なスキルや人間性の評価がされることはもちろん、現場のリードが、この人と一緒に働きたいと思うかどうかが重要視されます。

面接時には、コアバリューに基づく質問が行われます。以下はその一例です。

  • 「ザッポスのカスタマーサービスについての哲学をあなたの言葉で教えてください」
  • 「ザッポスのカスタマーサービスは、他社と比べて何が優れていると思いますか?また、あなたはそれにどう貢献できますか?」
  • 「あなたにとって、最高のカスタマーサービスとは何でしょうか?」
  • 「あなたが他人に贈ったもので最高のものはなんでしたか?」
  • 「ワークライフバランスをどう考えていますか?」

ザッポスはオファーレター(採用通知書)も普通じゃない

ザッポスは、あらゆるものを企業文化を表現するための機会と捉えていますが、オファーレターもその一つ。ありふれたテンプレートを使うようなことはしません。

彼らのオファーレター(正確にはオファーパッケージ)は、靴のボックスで届けられるそうです。ザッポスのコアバリューのひとつに、「驚き(WOW)を届ける」というものがあります。オファーレターを通じて、まず、新入社員に驚き(WOW)を届け、ザッポスではこういう行為が求められるんだ、という期待値を設定するのです。

「4,000ドルあげるので、辞めて良いですよ」

ザッポスにおけるカルチャーフィット採用の最終関門が、4,000ドルのオファーです。

これは、採用後のトレーニング終了時、

「もし、ザッポスが自分に合わないと思ったら、4,000ドルあげるので、辞めても良いですよ」

という提案をするというものです。自社の企業文化に合わない人は、お金を払ってでも入社させたくない、というのがザッポスの決意なのです。

中途半端な気持ちで仕事に取り組む人が、同僚にもたらす悪影響は4,000ドルどころでは済まない、というのがザッポスの考え方。提案する額は最初は数百ドルだったそうですが、徐々に上がっていき、いまでは4,000ドルになっているのだそうです。ちなみに、この提案を受け入れる人は、全体の1%以下とのこと。

朝7時から始まるザッポスの新入社員研修

日本だと新卒と中途で研修内容が変わってくるのが一般的かと思いますが、米国の場合、ほとんどの会社でその差はないと言っていいでしょう。ザッポスの場合も、新卒だろうが、中途だろうが、研修内容に差はありません。

全員参加の4週間教育

ザッポスでは、新入社員に対して、4週間の教育が行われます。これは役職、配属部署に関係なく、全員共通した内容です。ザッポスによれば、この教育には次のような役割があるそうです。

  • 組織全体の歩調を整える
  • 社員に対する期待値を伝える
  • 新入社員のコミットメントを再度確認する
  • コアバリュー中心の仕事のやり方を体で覚えてもらう

一般的に言っても、新入社員トレーニングは、経営理念を社内で共有するために非常に重要な機会であるとされています。それを考えれば、ザッポスが4週間もトレーニング期間を設けているのも納得できます。

では、その4週間もの間、どんなトレーニングをするのか?

中心となるのは、ザッポスのコールセンターでの実地トレーニングです。

つまり、どんな役職、部署に配属される人であろうと、まずはコールセンターで実際に顧客と話をすることが求められるのです。

これはザッポスの企業文化が顧客中心、カスタマーサービス中心で創られているため、新入社員にそれを体感してもらうためです。

もうひとつ、このトレーニングを行う理由として、ホリデーシーズンにおけるコールセンター要員を確保するため、ということもあるそうです。ザッポスではコールセンターをアウトソーシングしていません。全部内製です。これは先述した通り、顧客との接点こそ彼らにとって最も重要なものだからです。

そのため、注文が集中するホリデーシーズンには、全社員総出でコールセンターを手伝うそうです(CEOであるトニーシェイも例外ではない)。新入社員にコールセンターを手伝ってもらうのは、そういった人手不足に対応するためでもあるのです。

朝7時集合、遅刻したらオシマイ

新入社員は、採用されるとリクルーターからトレーニングについての詳細資料を受け取ります。その資料に書かれているのは、”トレーニングの開始は、毎日朝7時から”だということ。



7時に数分でも遅れると、そのトレーニンググループからは外され、次の機会を待つ必要があります。ザッポス社内は非常に自由な雰囲気ですが、実は規律にはとても厳しいのです。自由さや楽しさがある一方で、社員には厳しいプロフェッショナリズムを求めるのがザッポスなのです。

テストで落ちたらオシマイ

新入社員トレーニングでは、2回のテストが行われます。

一回目のテストは筆記試験。これで90%以上の正解率を出さなければ、採用はなかったことになってしまいます。これも厳しい規律です。

二回目のテストは、実際の顧客とのやり取りをチェックされます。これはザッポスのコアバリューに沿ったコミュニケーションを取れているかどうかが判断基準になります。

会社はポリシー、手続き、ルールがなければ、会社として成り立ちません。もし、新入社員トレーニングで明確に会社の基準を伝えられなければ、時間を無駄にしているだけなのです。どのようにして新入社員に会社からの期待値を伝えるか?それを学ぶことは、とても重要なステップになります。 - ザッポス

自ら手本を見せよ

ザッポスでは、リーダー自ら手本になる、ということがとても重要視されています。これは新入社員トレーニング時においても重視されます。

たとえば、新入社員を教えるチームリーダーも、朝7時に必ず来なくてはいけません。また、同じように自ら顧客からの電話に対応する必要があります。こうしてリーダー自らコアバリューに沿った行動を示すことで、それが単なる言葉、単なる標語ではないことを伝えるのです。

この辺は上司や経営層が重役出勤する大半の企業とは違いますね。ちなみにトレーニングの初日に、すべての新入社員に一人ずつメンターが付けられます。メンターは人事部門ではなく、コールセンターで働くチームメンバーが担当します。

これはトレーニングの内容が多岐にわたり、かつ速いペースで行われるため、脱落しないための制度だそうです。トレーニングは、コールセンターでの実地トレーニングだけではありません。他にも会社について知っておきべくことを学ぶ機会が与えられます。

形式としては、学校の授業のような講義形式のものもあったり、実際に仕事を体験するものがあったり、チームワーク構築のためのワークショップ的なものもあるそうです。実際にどんなことを学ぶのか、例を見てみましょう。

  • ザッポスの歴史

ザッポスの歴史について学びます。どんな会社でも、時には創業の精神に立ち戻ることが重要ですね。なぜこの会社が誕生したのか、どんなチャレンジや成功があったのか、それらを知ることで会社のことを好きになるというのもあると思います。

  • ウェブサイトの勉強

ザッポスのウェブサイトについて良く理解します。ザッポスはEコマースの会社ですから、自社のウェブサイトについては完璧に理解していないといけません。実はザッポスを利用したことのない人も入社してくるようで、彼らに使い方を教えてあげる必要があるそうです。

  • コアバリュー

当然ながら、コアバリューについての詳細なトレーニングがあります。中には、コアバリューの中から一つを選び、寸劇形式でそれを表現する、みたいなイベントもあるそうです。

  • 福利厚生

福利厚生の説明です。これは一般企業と同じですね。

  • 経営層とのQAセッション

CEOのトニーシェイなど、経営陣とのQAセッションが設けられるそうです。ここでトレーニングでは学べない、会社の経営についてなんでも質問できます。

 

以上が新入社員トレーニングの概要です。

ザッポスのコアバリューの一つに、”学び続ける”というものがあります。このコアバリュー通り、新入社員トレーニングを終えた後でも、社員向けの様々なコースが用意されています。また、社内にはザッポスライブラリーと呼ばれる蔵書(私が見た限り、それほど数は多くないですが)があります。これらを通じて、継続的に自己成長をしていくための場が用意されています。

ザッポスの継続的な人材社員制度

プレグレッションプラン(継続的な人材社員制度)は、社員の才能を生かすための計画のことを指しています。日本でいう人事評価制度に近い概念ですが、人事評価制度が人を評価することに焦点を当てているのに対し、プレグレッションプランは社員の人としての成長に焦点を当てています。

プレグレッションプランは、各役職で異なっていますが、基本的には月毎、四半期毎、年間での活動目標などが記載されています。社員は各々、自分のプログレッションプランをもとに仕事をします。

プレグレッションプランについて、2つの重要な原則があります。

自己コントロール

以前ザッポスでは、1年に一回、昇給チャンスがありました。昇給できるかどうかは評価次第ということで、世の中の一般的な人事制度と同じ仕組みです。

その後、彼らは“スキルセット”という仕組みを取り入れます。コールセンター部門であれば、20のスキルが提示されており、各スタッフはそれぞれのスキルを習得するごとに、少しずつ昇給することが出来ます。スキルを習得するためのトレーニングは用意されており、それを自分で選んで習得できるのです。

逆に、今のままの給与でも良い、という人はスキルを習得しなければいいというわけです。つまり、このスキルセットの仕組みによって、スタッフは自分の昇給を自分でコントロールできるというわけです。CEOのトニー・シェイは、この仕組みのほうがスタッフが幸せに働けると言っています。

成長の認識

最初、ザッポスでは入社から18か月たつと、一定の基準さえクリアすれば昇進する仕組みになっていました。その後、18か月ではなく、6か月ごとに少しずつ昇格する仕組みに変更しました。同じくトニー・シェイ曰く、こちらのほうがスタッフが幸せになるとのことです。



要するに、自分のキャリアを自分でコントロールできること、また、成長を短期間で実感できること。このふたつがプレグレッションプランの中で重要だということです。

ザパレンティス制度

ザパレンティス(ザッポスと弟子を意味するアパレンティスをくっつけた造語)制度は、自分が興味がある部署で短期間インターン出来る制度です。空きのあるポジションは全社員が見られるように公開されており、そこに自分で申請することが出来ます。

シャドウイング制度

シャドウイング制度は、自分が興味がある部門に依頼すると担当者が1時間-4時間を割いてくれ、部門の説明や質疑応答が出来るという制度。これらの制度はすべて、ザッポスの「成長と学びを追求せよ」というコアバリューを体験したものになっています。

 

エンパワーメント&エンゲージメント

「私たちは人の個性を尊重しており、彼らの個性を職場で輝かせたいと思っています。~中略~多くの人が、週末とオフィスでは違う行為をしています。私たちは社員が自分らしくあることを奨励します。家庭とオフィスで同じ人でいてほしいのです」 –  Tony Hsieh

ザッポスで働くすべての人は、カジュアルなドレスコード、入れ墨、ピアスなど、個性を表現することができます。ザッポスを見学すると、刺青やピアスの社員に遭遇する可能性が高いですが、会社側はそれを受け入れています。どのように見えるか、何を着るかによって互いを判断するのではなく、コアバリューに沿って生きることを期待されているのです。

ただし、実際の仕事の質については、高いレベルまたはプロフェッショナリズムが求められます。

人が自分自身でいられると、他人と人間関係を築くことが簡単になり、より会社になじみやすくなります。これは、信頼を築き、生産性を高めるのに役立ちます。

エンパワーメント

ザッポスでは、スタッフは顧客に奉仕するために意思決定を行う権限があります。コアバリューが意思決定の基準になっているため、会社側は社員が最良の判断を下して、正しいことを行うと信じているのです。現場では、迅速な対応が必要なときがあります。多くの場合、発生した問題ごとに経営者や上司の承認を得る時間がありません。この場合の解決策は、社員が自分で問題を解決できるようにすることです。コアバリューに沿って採用すれば、正しい意思決定が出来ます。会社が社員を信頼し、社員が正しい決断をすることが出来れば、ビジネスをスケーラブル(拡張可能)にすることができます。

アイデアの育成と奨励

社員アンケートを実施し、それに基づいて行動する

社員の待遇に影響を与える変更を行う際、常に社員アンケートをします。これは全員が意思決定プロセスに関わっていると感じられるようにするという意味合いもあります。また、毎月、匿名の幸福度調査があります。これはリーダーがどこに焦点を当てればいいのかを決めるために役立ちます。

全社的なチームビルディング

ザッポスは、ラスベガスの豪華な会場で、四半期に一度、全員が参加する会議を開きます。この会議では、みんなが退屈しないように、工夫がされています。会社の財務、目標、ロードマップに関するプレゼンテーションが行われます。またTEDに登場するようなゲストスピーカーを招いて成長の機会も提供しています。

この会議で社員からアイデアを募るため、全員が52のテーブルに分かれて、会社を改善するアイデアをテーブルごとに考えます。結果、この会議で52のアイデアを得ることが出来ます。経営陣は、これらのアイデアを実行するための委員会を作ります。

Zfrogs

Zfrogsは、経営陣相手のピッチコンテスト(起業家が投資家向けにアイデアのプレゼンを行う大会)のような制度です。社員が経営陣向けに自分のアイデアをプレゼンします。Zfrogsも定期開催され、社内ベンチャーのような組織が生まれています。

社内ハッカソン

ハッカソンは、ソフトウェア開発分野のプログラマやグラフィックデザイナー、ユーザインタフェース設計者、プロジェクトマネージャらが集中的に作業をするソフトウェア関連プロジェクトのイベントです。ザッポスの社内ハッカソンは、48時間開催されます。業務プロセスを改善したり、サイトのユーザーエクスペリエンスを向上させたりするアイデアを生み出し、実際に作ります。

ザッポスのリーダーシップ

ザッポスを見学すると、誰でも席は同じで、誰が経営陣なのかわかりません。CEOも毎日青いジーンズ、Tシャツ、スニーカーを着用しています。リーダーチームの誰とでも雑談できます。これは、コミュニケーションを通して、オープンで正直な人間関係を構築せよ、というコアバリューを体現しています。

ザッポスのリーダーは、企業文化を醸成するリーダーとして、次のことが求められます。
  • コアバリューを体現する。
  • 企業文化を強化するように他のメンバーを奨励する。
  • 親しみやすさ。誰にでも助けを提供する。
  • スタッフと自分の性格を理解する時間を取る。
  • チームが仕事面、個人面で成長する機会を提供する。
  • 欠点について正直で、間違いを恐れない。
  • 透明性とオープンさがあるコミュニケーション。
  • 部下も同等の立場として扱う。
  • 改善のためにフィードバックを寄せる。
  • 直接的または間接的に他者を導くことに熱意を示している。
  • チームの構築に積極的な役割を果たす。
  • 財務に常に関心を示す。
  • 継続的改善を目指す。
  • リスクあることに挑戦し、間違いを認め、間違いから学ぶ。
この基準の例として、2006年にザッポスは、すべての社員が4週間のカスタマーサポートプログラムを通過することを義務づけました。CEOを含む全員です。CRMシステムを学び、顧客を全面的にWOW(驚嘆させる)する方法を学びました。Cクラス社員(CFOやCTOなど上級管理職)が入社したときも、同じことを繰り返します。
また、ザッポスの元CFOであるAlfred Lin氏は、全社に電子メールを送りました。

 

「コアバリューを軸として、毎週少なくとも1つ改善してザッポスをより良くすることを考えてみましょう。理想的には、毎日これを行うことです。それは難しいと思うかもしれませんが、改善が劇的である必要はありません。1日1%だけ改善し、毎日それを続けることです。そうすることで劇的な複利効果が得られます。1日1%の改善は、365%(3.65x)の改善ではなく、37倍の改善になるのです。毎日起きて、1%の改善は何か、自分自身をもっと個人的にもキャリア的にも向上させるために1%は何かを考えてください。Zapposのすべての社員が同じことをしていたと考えてみましょう。来年、Zapposと世界がどんなに良くなっているでしょうか?」

これも上記の”継続的改善を目指す”ことの一例です。

社員が意見を言う

ザッポスのリーダーシップスタイルは民主的です。全員が意見を述べる機会があります。採用候補者を評価するとき、部門からメンバーが選出され、グループインタビューを行います。チームは、その人がカルチャーフィットするかどうかを判断します。
また、会社が成長し始め、会社がコア・バリューを作ろうとしたとき、トニー・シェイは、全員にメールを送り、個人的価値を分かち合うように促しました。そうすることで、全員がビジョンを形作るプロセスに参加できたのです。

プロセスの一部となることで、社員にオーナーシップの感覚が与えられます。ザッポスでは、最高のアイデアの多くは経営陣から来るものでもなく、社員から生まれるものだと信じられています。 – トニーシェイ

 

コミュニケーションを通じてオープンで正直な関係を構築する

リーダーシップチームは、できるだけ多くの情報を共有することになっています。社員全員ができるだけ多くの情報を得て、自分の仕事が長期ビジョンにどのように貢献するのかを理解できるようになっています。ザッポスでは社内でリーダーを育てることが推進されています。組織と共に成長し、同じ価値観、情熱、ビジョンも持っている人を育てられるからです。また、彼らはそれを人に教える能力を身に付けることが出来ます。外部からリーダーを雇用してもそのような結果は得られません。

 

たとえば、コールセンター部門のシニアリーダーになるためには、16週間のリーダーシップクラスが用意されています。その中では、コミュニケーションやタイムマネジメント、ストレスマネジメント、人事などについて学びます。

ザッポス流リーダーシップのヒント

ザッポス流のリーダーシップスタイルを取り入れたい人に対して、彼らは次のようなヒントを挙げてくれています。どうぞ参考にしてみてください。

リーダーに対する一般的な苦情は次のとおりです。

  • 会社で何が起こっているのかわからない。
  • どこを目指しているのか分からない。
  • いろんなことが既に決まってから、知らされる。
  • 自分が正しいことをしているかどうかがわからない。
  • 戦略を変え続けているが、それが機能しているかどうかわからない。

こうならないためにも次のヒントを見てみましょう。

 

早い段階で頻繁に共有する

人は暗闇の中で働くのが好きではありません。情報の欠如がある場合、不安を作り出し、社員は彼らの推測で勝手な話を作り上げます。最善のタイミング、正確な情報を待つのではなく、何が起こっているのかを伝えてましょう。それが悪いニュースであっても。そうすることで彼らはあなたをもっと信頼するでしょう。

数字を共有しましょう

数字は嘘をつかないので、社内の数字を共有しましょう。予算、収益、顧客からのフィードバックのスコアなどは、現実を見せるための情報です。社員はあなたが見過ごしたものを発見するかも知れません。

一方的に意思決定するのではなく、委員会を使用する

意思決定をする際、委員会を作りましょう。委員会で色々なフィードバックや情報を得てから、決定をしましょう。

「あなたは~をしなければならない」と決して言わない。

あなたは雇用の権力を持っているかもしれませんが、「あなたはこれを必要がある」といえば、相手の防衛本能を引き出してしまいます。

寛大なフィードバック

自分がやっていることが正しいかどうかわからない、という人はたくさんいます。人は絶え間ないフィードバックを求めています。彼らの失敗やエラーを指摘するのではなく、どのように改善できるかを教えてください。フィードバックを遅いと学びも遅くなります。行動が賞賛に値するときは、簡単な言葉やメッセージでもいいので伝えてください。

明確な期待値を設定する

あなたは社員の責任、活動、進捗状況を明確にしていますか?あなたの明確な期待を文章にして、彼らの理解を得ましょう。

 

ザッポスのホラクラシー

ザッポスは2014年にホラクラシーと呼ばれるオペレーションシステムを導入し、組織マネジメントのやり方が大きく変わりました。それとともに、ホラクラシーという言葉が日本でも有名になりましたね。その後、「ティール組織」という本もヒットし、そこでホラクラシーとザッポスも紹介されたため、ますます有名になりました。

ちなみに当会でもティール組織への変革を支援するプログラムをご提供していますので、ご興味あればこちらからご覧ください。

▶ティール組織診断マップ



ホラクラシーのルール・原則原則

ホラクラシーのルール・原則原則としては次のようなものがあります。ホラクラシーの基本的な考え方は、このサイト「仕組み経営」に近いものがありますので、仕組み経営に馴染みがある方はイメージが付きやすいのではないでしょうか。

権力を人ではなく、プロセスに持たせる

自律型組織を創るには、権限をリーダーに集中させず、分散させることです。ただし、分散させる先は、部下や他の人ではなく、会社のプロセスになります。ホラクラシーの場合、それがホラクラシー憲法と呼ばれる、組織運営のためのルールブックになります。組織のトップも含め、誰もがそのルールブックに従わなくてはなりません。逆に言えば、そのルールブックがあることで、いちいち上司にお伺いを立てることなく、自主的に仕事ができるようになります。

会社の枠組みを作る

ホラクラシーの提唱者、ブライアンロバートソン氏は、”起業家が犯しがちな最大の過ちは、”ビジネスの中身にのめりこみ、会社の枠組みを手に入れないことだ”と言っています。これはマイケルE.ガーバー氏がいう”起業家は会社の中で働くのではなく、外から働きかけなくてはならない”というのと同じです。社内の誰もが枠組み創りに携わることができ、それによって、各人の中に起業家的な発想が育まれることになります。

人間ではなく、役割を主役にする

「個人」と「個人が担う役割」を区別すること。そのために必要なのが、明確な「職務記述書」(仕組み経営においては「職務契約書」)。この書面の中で、各役割の目的と範囲、責任と権限を明確にする。権限を分配する場合、個人ではなく、役割に分配します。

ミーティングを仕組み化する

ミーティングの流れを仕組み化することで、話が脇道にそれるのを避け、意思決定や対立の解決がスムースになります。

組織には目的が必要である

組織には目的が必要であり、それが意思決定のよりどころとなります。ただし、経営者の個人的な希望や野心は、組織の目的を見つけるための障害となります。親が子供に自分の意向を押し付ければ反抗されるのと同じように、創業者が自分の意向を組織に押し付ければ、反抗が起こります。

これらの原則は、ホラクラシーを導入するかどうかに関わらず、いまの組織でも役に立つと思います。具体的な方法論についてはホラクラシーの書籍に書いてあるので、そちらをご参照ください。

変革後のザッポス

では、ホラクラシー導入後のザッポスにはどのような変化があったのでしょうか?

①顧客サービスの向上

上記の通り、ザッポスはカスタマーサービスが売りの会社です。

そんなザッポスですが、ホラクラシー導入前は企業が大きくなるにつれて、構造的な意思決定の遅さから顧客への対応が徐々に遅れてきていたそうなのです。

しかしホラクラシー導入後は、各社員が自分で物事を決められるようになったため、対応にかかる時間が減少し、結果的に顧客サービス向上に繋がりました。

②イノベーティブなアイデアが増えた

ホラクラシー導入後、社員から寄せられる/実行したイノベーティブなアイデアが増加したそうです。

権限と自由が与えられたことで、社員それぞれが言われたことを淡々とこなすだけでなく、自分の考えを基に動くようになったため、新しい考えややり方が生まれやすいのでしょう。

今では社員一人ひとりがイノベーションの原動力となっています。

これは会社の成長にとって非常に意義のあることですね。

③一人ひとりの社員が成長した

これは私たちがホラクラシー導入後のザッポスに視察に行った際、担当してくれた社員の人から聞いた話です。彼はもともと内気な性格で、ミーティングの時にも意見を言うことが出来ないでいました。しかし、ホラクラシー導入後、ミーティングのやり方が変わり、全員が発言出来るようになりました。その結果、彼も意見を言えるようになったのです。現在、彼はチーム内でも頼られる存在になっているとのこと。

 

自社らしい仕組みを作ろう

以上、ザッポス社について詳しく解説をしてきました。最後に二つだけ、大事な注意点をお伝えしておきたいと思います。

1.仕組みは進化し続けるもの

冒頭で断った通り、ここに載せた情報は私たちが見学したときのものであり、現在は変わっている可能性があります。マイケルE.ガーバー氏も言う通り、会社というのはそれ自身が目的を持つ生き物です。単にこの仕組みを入れたからすべて上手く行く、というものではありません。目的やビジョンに向かって常に仕組みを進化させ続ける仕組みが大切になります。

2.どんな仕組みを作るかは各社様々

本記事ではザッポスの仕組みをいろいろとご紹介してきました。これらを参考にしていただくのはいいですが、”よし、これをそのまま自社でも実践しよう”というのはやめたほうが良いと思います。これはいつもお伝えしていますが、会社内の仕組みというのは、自社の理念に合った形で導入しなければ全く意味がありません。ザッポスの仕組みは、ザッポスのコアバリューに基づいて作られたものだからこそ効果を出しているのです。

あなたの会社には別の理念があり、ザッポスとは異なるタイプの社員の方々がいるはずです。ですから、まず自社の理念(コアバリュー等)は何なのか?それを考えたとき、自社らしい仕組みとは何なのか?を考えることが大切です。これこそがまさにリーダーの仕事であり、放棄することが出来ません。

 

これら注意点を考慮したうえで、ザッポスのやり方を参考にしていただければと思います。

なお、このサイト「仕組み経営」では、ザッポスと同じく、コアバリューを軸にした自社らしい仕組みづくりのご支援をしています。詳しくは以下のプログラムページに掲載していますので、合わせてご参照ください。

▶Eブック「社長不在で成長する会社の創り方」

▶社長不在で成長する会社を個別支援で実現

▶仕組み経営プログラム一覧



 

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