サム・アルトマンを支える「モカリーメソッド」とは?シリコンバレー最強の経営OS「The Great CEO Within」を完全解説



ChatGPTを生み出したOpenAIのサム・アルトマン。

Coinbaseのブライアン・アームストロング。

Redditのスティーブ・ハフマン。

今、世界を変えようとしているシリコンバレーのトップ経営者たちには、共通の「師」が存在することをご存知でしょうか。

彼の名前は、マット・モカリー(Matt Mochary)

彼は表舞台にはほとんど出てきませんが、シリコンバレーで「最も予約の取れないエグゼクティブ・コーチ」として知られています。彼が提唱する「モカリーメソッド(Mochary Method)」は、急成長する企業の混乱(カオス)を鎮め、経営者が本来やるべき仕事に集中するための強力なフレームワークです。

本記事では、まだ日本語の情報が少ないこのメソッドについて、彼の著書『The Great CEO Within』や実際のコーチング資料をもとに、その全貌を解説します。なぜサム・アルトマンはあれほど多忙な中で巨大組織を動かせるのか?その秘密は、この「経営のOS」にありました。

マット・モカリーとは何者か?(サム・アルトマンとの関係)

マット・モカリーは、単なるメンタルコーチやカウンセラーではありません。彼自身がかつてテック企業の創業者であり、投資家としても活動してきた「実務家」です。

現在、彼のコーチングを受けるには、セコイア・キャピタルやYコンビネータといったトップティアのVCからの紹介が必要不可欠であり、それでもウェイティングリストに並ぶ必要があると言われています。彼のクライアントリストには、そうそうたる企業が名を連ねています。

  • OpenAI (Sam Altman)

  • Coinbase (Brian Armstrong)

  • Reddit (Steve Huffman)

  • Plaid (Zach Perret)

  • Flexport (Ryan Petersen)

「経営のOS」をインストールする男

一般的なコーチングが「対話による気づき」を重視するのに対し、モカリーのスタイルは「最適解のインストール」にあります。

彼は、急成長するスタートアップが直面する課題──採用の失敗、会議の肥大化、意思決定の遅れ──は、すべて「既知の問題」であると考えます。誰もが陥る落とし穴ならば、それを回避する「型」を最初から導入すればいい。

実際にサム・アルトマンに見られる「極端なまでの会議嫌い」や「テキストベースでの高速な意思決定」といったスタイルは、モカリーメソッドの影響を強く受けていると言われています。アルトマンのような天才的なビジョナリーであっても、組織を動かすためには「個人の能力」ではなく「共通の規律(システム)」が必要だったのです。

モカリーメソッドの核心=「会社を製品として作る」

モカリーメソッドを理解する上で最も重要な概念は、「会社そのものを一つのプロダクト(製品)として設計する」という思想です。

多くの起業家は、顧客に提供する「製品」の改善には命を削りますが、「会社という組織」の設計図(アーキテクチャ)作りはおろそかにしがちです。その結果、社員が増えるたびにコミュニケーションコストが増大し、組織は官僚化し、スピードが失われます。

モカリーは著書『The Great CEO Within』の中で、こう語っています。

「創業CEOにとって優れた知識を記した本は世の中にたくさんあるが、学ぶべきすべての事柄を網羅した『一冊のハンドブック』は存在しない。だから私は書いた」

再現性のある「プレイブック」の構築

モカリーメソッドの実態は、属人性を極限まで排除した「プレイブック(手順書)」の集合体です。

例えば、「効果的な会議の進め方」「採用面接の質問項目」「1on1のアジェンダ」に至るまで、すべてにテンプレートが存在します。

彼はGoogle DocsやNotion、あるいは彼自身が開発に関わった管理ツール「Defacto」等を使い、これらのプロセスを組織内に強制的に実装します。

  • ハイレベル: CEOが直面する課題の全体像


  • ミドルレベル: そのまま自社のマニュアルにコピペできる初期プロセス

  • ローレベル: 現場でそのまま使える具体的な会話フレーズ

このように、「抽象論」ではなく、明日から誰でも実行可能な「具体的なアクション」に落とし込まれているのが特徴です。

「優秀な人材がいればなんとかなる」という期待を捨て、「誰がやっても成果が出る仕組み」を構築する。これこそが、サム・アルトマンをはじめとするトップリーダーたちが、モカリーメソッドを信頼し、採用し続ける最大の理由なのです。


今日から使える「個人の生産性」ハック(モカリー流)

組織を変える前に、まず変えなければならないのはリーダー自身の時間の使い方です。モカリーは、CEOがバーンアウト(燃え尽き)する最大の原因は「労働時間の長さ」ではなく、「エネルギーを奪う仕事をしている時間の長さ」にあると指摘します。

エネルギー監査(Energy Audit)と「天才の領域」

あなたのカレンダーを見てください。そこに入っている予定は、あなたにエネルギーを与えるものでしょうか?それとも奪うものでしょうか?

モカリーが最初に行うコーチングの一つが「エネルギー監査」です。

  1. カレンダーの色分け: 過去2週間のカレンダーを見直し、予定を色分けします。

    • 緑(Green): その仕事をしていると元気が出る、時間が経つのを忘れる。

    • 赤(Red): その仕事はエネルギーを奪う、気が重い、終わるとぐったりする。

  2. 目標設定: 「緑」の時間を全体の75%以上にすることを目指します。

ここで多くの優秀な経営者が陥る罠があります。それが「優秀の領域(Zone of Excellence)」です。

これは「自分は得意だし、周りからも評価されるが、やっていて特に楽しくはない仕事」のことです。ここにとどまり続けると、あなたは単なる「便利な高給取り」になり、情熱は枯渇します。

モカリーメソッドのゴールは、あなたを「天才の領域(Zone of Genius)」──あなただけの独自の才能が発揮され、かつ無限に情熱が湧いてくる仕事──だけに集中させることです。それ以外の「赤」の仕事は、それが得意な(それを「緑」と感じる)他者に委譲しなければなりません。

恐怖と怒りの書き換え(Fear and Anger Drill)

重要な意思決定を先延ばしにしてしまう時、その裏には必ず「恐怖」があります。また、部下に対してイライラする時、そこには「怒り」があります。モカリーは、こうした感情が経営判断を曇らせる最大のノイズだと考えます。

彼が推奨するのは、感情を「事実」と「物語(解釈)」に分離するドリルです。

  • 事実: 「彼が会議に遅刻した」(誰が見ても同じ現象)

  • 物語: 「彼は私を軽んじている」「彼はやる気がない」(自分の脳が作り出した解釈)

私たちは往々にして、自分の頭の中の「物語」に対して怒りや恐怖を感じています。この物語を書き出し、「それは100%真実か?」と問いかけることで、感情を鎮めます。そして怒りを「好奇心(Curiosity)」へシフトさせます。

「なぜ彼は遅刻したのだろう? 何かトラブルがあったのか?」と問いを変えるだけで、リーダーの態度は建設的なものに変わり、問題解決のスピードが劇的に上がります。


組織のスピードを劇的に上げる「グループの習慣」

個人のOSを整えたら、次はチームのOSです。モカリーメソッドがシリコンバレーで支持される理由は、ここからの「会議」と「意思決定」の規律が、徹底的に合理的だからです。

会議の革命(No Status Update)

「先週の進捗を報告してください」

もしあなたの会社で、会議中に誰かが口頭で報告をし、他の参加者がそれを聞いているだけの時間があるなら、それはモカリー流では「禁止事項」です。

モカリーメソッドにおける会議の大原則は、「進捗報告(Status Update)の禁止」です。情報は口頭ではなく、テキストで伝達されるべきだからです。

  1. 事前書き込み(Pre-write): 議題提案者は、必ず事前にメモを作成します(課題、背景、提案を明記)。


  2. 沈黙の読書(Silent Read): 会議が始まっても、いきなり喋りません。最初の10分〜20分は、全員でそのメモをGoogle Docsなどで「黙読」し、コメント機能で質問や意見を書き込みます。

  3. 議論のみを行う: 全員が文脈を理解し、コメントへの回答が終わった状態で初めて口を開きます。

Amazonなどでも採用されている手法ですが、モカリーはこれをさらに徹底させています。

彼が監修したツール「Defacto」などでは、テンプレートに沿って書かれていない議題はそもそも会議で取り上げられません。「書いていないものは、存在しない」のです。これにより、会議時間は半分以下になり、密度は数倍に高まります。

意思決定の仕組み(RAPIDとAOR)

組織が混乱する最大の原因は、「誰が決めるのか」が曖昧なことです。モカリーメソッドでは、以下のフレームワークで責任の所在を明確にします。

1. RAPIDフレームワーク

意思決定に関わる役割を5つに分類します。

  • Recommend(提案する人)

  • Agree(同意が必要な人=拒否権を持つ)

  • Perform(実行する人)

  • Input(意見を言う人=決定権はない)

  • Decide(決定する人=唯一の意思決定者)

特に重要なのは「D」です。合議制や多数決は逃げです。必ず「たった一人の決定者」を指名します。

2. AOR(責任範囲)リストとDRI

会社のすべての業務(給与支払い、ブログ更新、サーバー管理など)をリストアップし、それぞれの項目にたった一人のDRI(Directly Responsible Individual:直接責任者)を割り当てます。

「みんなの責任」は「誰の責任でもない」ことと同じです。AORリストを作ることで、「この件は誰に聞けばいいか?」という迷いが組織から消滅します。

3. 合意(Agreement)の徹底管理

会議の最後には、必ず「誰が(Who)」「いつまでに(When)」「何をするか(What)」を記録します。モカリーはこれを「Agreement(合意)」と呼び、タスク管理ツールで厳格に追跡します。

「検討します」「善処します」といった曖昧な言葉は許されません。シリコンバレーのスピード感は、天才的なひらめきではなく、こうした地味で厳格な「約束の管理」によって支えられているのです。


スケーリングの壁を越える「採用と入社後の定着」

事業が急成長する中で、多くの経営者が最も頭を抱えるのが「人」の問題です。

「いい人が採れない」「入社してもすぐに辞めてしまう」「カルチャーが合わない」

モカリーメソッドでは、こうした悩みも、感情論ではなく「システムのエラー」として処理します。

採用は「スピード」こそが愛

優秀な人材(Aプレイヤー)は、市場に出れば一瞬で他社に奪われます。モカリーは、最初の接触からオファー(内定)までを、可能な限り短期間で完了させる仕組みを推奨しています。

しかし、ただ早いだけではミスマッチが起きます。そこで使われるのが、徹底的な「トップグレーディング面接」です。

これは、候補者の高校時代から現在に至るまでを、時系列順に、あたかも伝記作家のように根掘り葉掘り聞く手法です。「その時、上司からどう評価されていたか?(0〜10点で答えて)」という質問を繰り返し、曖昧さを排除します。


そして、最も重要なのが「リファレンスチェック(身元照会)」です。

候補者が指定した友人ではなく、面接で名前が挙がった「元上司」に直接連絡を取ります。「過去のパフォーマンスは未来を予測する最大の指標」だからです。これを怠ることは、目隠しをして運転するのと同じくらい危険な行為だとモカリーは警告しています。

90日間のロードマップと「シャドーイング」

「入社おめでとう! さあ、君の席はあそこだ。頑張ってくれ」

これは最悪のオンボーディング(受け入れ)です。

新入社員が最初の90日間で何をすべきか、週単位で明確に記された「オンボーディング・ロードマップ」がなければ、彼らは何をしていいか分からず、疎外感を感じ、早期離職につながります。

また、幹部候補を採用した場合、モカリーは「シャドーイング」を強く推奨します。

これは最初の数週間、新任幹部がCEOの「影」となり、すべての会議、すべてのメール、すべての意思決定に同席する方法です。

これによって、CEOの価値観や判断基準を短期間でコピー(精神融合)させることができます。口で「企業文化」を説明するよりも、実際の判断プロセスを見せることの方が、何倍も早く「信頼できる分身」を育てることにつながるのです。

まとめ:モカリーメソッドは「規律」の外部化である

ここまで、サム・アルトマンらを支える「モカリーメソッド」の全貌を見てきました。

エネルギー監査、会議での沈黙読書、AORリスト、徹底した面接プロセス。

これらを見て、拍子抜けした方もいるかもしれません。「魔法のような裏技」は何一つなく、あるのは「当たり前のことを、例外なく徹底させる規律」だけだからです。

しかし、この「当たり前」を、天才的な経営者や個人のやる気に頼らず、「誰でも実行可能なシステム」として会社に実装したこと。これこそが、シリコンバレーのトップ企業が勝ち続けている真の理由です。

彼らは、会社を「人が頑張る場所」ではなく、「人が成果を出せるように設計された製品」として捉え直したのです。

日本企業に必要なのは、日本版の「仕組み経営」

このモカリーメソッドの考え方は、実は私たちがお伝えしている「仕組み経営」と本質的に同じです。

  • 属人性を排除し、再現性のある仕事のやり方を作る。

  • 経営者の「想い」や「感覚」を明文化し、誰でも判断できるようにする。

  • 社員が迷わずに動ける環境(システム)を整える。

シリコンバレーのメソッドは強力ですが、そのまま日本企業に導入しようとすると、文化的な摩擦が起きることもあります。

ドライな契約社会を前提としたシステムではなく、日本の「働くことの美徳」や「チームワーク」、そして何より経営者であるあなたの「理念」をベースにした、日本企業のための独自の仕組みが必要です。

私たちは、モカリーメソッドのような世界最先端のフレームワークを研究しつつ、それを日本の中小・成長企業が実践しやすい形に落とし込んだ「仕組み経営」を提唱しています。

サム・アルトマンがモカリーという「仕組みの師」を必要としたように、あなたの会社にも、成長を支える確固たる「仕組み」が必要です。

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