ベクトルとは?ビジネスでの意味
ビジネスで「ベクトル」というときは、組織や人が向かっている方向を指します。数学で習うベクトルは「大きさと向きを持つ量」ですが、職場で使われるのは向きのほうだけです。数式の話は出てきません。
もう少し細かく見ると、ビジネスでのベクトルには2つの要素が含まれています。
- 向き:何を目指しているか。どこへ行こうとしているか
- 大きさ:そこにどれだけの力を注いでいるか
この2つがそろって初めて力になります。全員が同じ方向を向いていても、注ぐ力が小さければ会社は動きません。逆に一人ひとりが全力で走っていても、向きがばらばらなら力は打ち消し合います。
実際の使われ方は次のような形です。
- 「部門間でベクトルがそろっていない」= 部門ごとに目指すものが違う
- 「新しい方針にベクトルを合わせてほしい」= 会社が決めた方向に行動をそろえてほしい
- 「彼とはベクトルが違う」= 目指しているものが噛み合わない
ベクトルを合わせるの意味
ベクトルを合わせるの意味は、組織のメンバー一人ひとりが同じ方向に向かって考え、行動できるようにすることです。ベクトルとはもともと、進路、軌道、方向といった意味です。そのため、組織運営において使われる際には、メンバー一人ひとりが向かう方向を合わせるということになります。
「ベクトルを合わせる」を別の言葉で言い換えると?
社内文書や会議で「ベクトル」という言葉が伝わりにくいと感じるときは、次のように言い換えられます。まず一覧で挙げます。
- 方向性をそろえる:もっとも素直な言い換えです。社外の相手にも通じます
- 同じ方向を向く:日常の会話に向きます
- 足並みをそろえる:進む速さもそろえたいときに使います
- 目線を合わせる:何を見ているかをそろえたいときに使います
- 認識をそろえる:事実の理解が食い違っているときに使います
- 優先順位をそろえる:もっとも実務的な言い換えです。あとの章で詳しく扱います
- 目的を共有する:なぜやるのかをそろえたいときに使います
- 一枚岩になる:まとまりの強さを強調する言い方です
- 一丸となる:同上。気持ちの面を強調します
このうち、組織の状態として使われる代表的なものを4つ、詳しく見ていきます。
理念が浸透している
会社の経営理念がメンバー一人ひとりに認識され、行動の前提となっている状態を指します。そもそも経営理念が向かうべきベクトルとなりますので、経営理念が浸透していることは、ベクトルがあっているということになります。進め方は経営理念の浸透方法で解説しています。
方針が徹底されている
方針とは、理念をもう一段階、具体的に落とし込んだものになります。理念だけでは向かうべきベクトルが曖昧過ぎるため、メンバーにとってより理解しやすくなるように方針を掲げることがあります。その方針を徹底して理解してもらうことで、結果として理念につながります。
チーム全員が一丸となっている
一丸とはひと塊のことを指します。チーム全員がひと塊になっているということは、メンバーの心が一つになっていることを指し、ベクトルがあっている状態と同じと言えます。
組織が一枚岩になっている
一枚岩とは、組織が内部分裂や意見の違いなくしっかりとまとまっていることを指します。ベクトルがあっていなければ内部分裂や意見の違いが生まれますので、組織が一枚岩になっているのは、ベクトルがあっているのと同じ状態と言えます。
ベクトルを合わせるを英語で言うと?
ベクトルは英語で「vector」ですが、組織づくりの文脈ではあまり見かけない言葉です。代わりに、ベクトルを合わせると同じ意味合いの英語として「align」という言葉がよく使われます。「align」とは「方向づける」という意味で、ここでいっているベクトルを合わせると同じ意味になります。「Aligning Your Team」などのように使われます。
京セラフィロソフィーにおける「ベクトルを合わせる」とは?
ベクトルを合わせることを会社の理念に入れているのが、稲盛氏の作った京セラフィロソフィーです。京セラフィロソフィーには以下のように記載されています。
人間にはそれぞれさまざまな考え方があります。もし社員一人一人がバラバラな考え方に従って行動したらどうなるでしょうか。
それぞれの人の力の方向(ベクトル)がそろわなければ力は分散してしまい、会社全体としての力とはなりません。このことは、野球やサッカーなどの団体競技を見ればよくわかります。全員が勝利に向かって心を一つにしているチームと、各人が「個人タイトル」という目標にしか向いていないチームとでは、力の差は歴然としています。
全員の力が同じ方向に結集したとき、何倍もの力となって驚くような成果を生み出します。1+1が5にも10にもなるのです。
そもそも京セラフィロソフィーは、全メンバーが大切にするべきことをまとめたものなので、フィロソフィーの存在自体がベクトルを合わせることに貢献していると言えるでしょう。ほかの項目については闘争心を燃やすでも取り上げています。
「ベクトルが違う」と感じるのはどんなときか
実務では、合っているときより「違う」と感じたときに、この言葉が出てきます。よくある3つの場面を挙げます。
上司と部下でベクトルが違う
上司は今期の数字を追っていて、部下は目の前の顧客対応を優先している。どちらも会社のためにやっているのに、話がかみ合いません。
このとき起きているのは、価値観の対立ではありません。両方とも大事な仕事で、どちらを先にやるかが決まっていないだけです。
部門どうしでベクトルが違う
営業は早く納品したい。製造は品質を落としたくない。どちらも正しいので、話し合っても平行線になります。
ここでも同じことが起きています。急ぎの案件で品質基準をどこまで下げてよいのかを、会社が決めていません。決まっていないものは、部門ごとの都合で埋められます。
会社と自分でベクトルが違う
社員が「この会社でやりたいことができない」と感じている状態です。転職の理由としてもよく挙がります。
ただし、本当に方向が違うケースは多くありません。多いのは、会社がどこへ向かうのかを一度も言葉にしていないケースです。示されていないものと、自分の向きが合っているかは判断できません。
ベクトルが違うの正体は、優先順位の空欄
3つに共通しているのは、どちらも正しい2つの選択肢が並んだとき、どちらを取るかが決まっていないということです。人の考え方が違うから合わないのではありません。判断が分かれる場面で会社が答えを出していないから、それぞれが自分の答えで埋めているのです。
だからベクトルを合わせる作業は、意識を変える話ではなく、優先順位を決めて言葉にする作業になります。
ベクトルを合わせるためには?
では、実際に組織のベクトルを合わせるにはどうすればいいでしょうか。
ベクトルとは方向性なので、軸を考える必要があります。何についての方向性なのかということです。

時間軸のベクトルを合わせる
まず時間軸です。自分たちはどのようなタイミングでどこに行こうとしているのかを合わせることが大切です。社長は会社を急成長させて大きな組織にしていきたいと考えているのに、社員はのんびり構えている。これでは社長の理想は叶えられません。
時間軸のベクトルを合わせるには、自社のビジョン(長期展望)はこれ、中長期(3〜5年)目標はこれ、年間目標はこれ、というように時間軸のイメージを共有することが大切になるでしょう。
概念のベクトルを合わせる
ベストセラーになった「サピエンス全史」では、虚構(架空の事物)について語る能力を身につけたことで、人間は大規模な協力体制を築き、急速に変化する環境に対応できるようになったと解説されています。人類全体と同じように、会社内にもさまざまな虚構(概念)が存在します。
その代表格が会社の理念です。経営者ならば理念は大事だと理解していると思いますが、社員は理念とは何かを理解しているでしょうか。そのほかにもクレドや方針、ビジョン、戦略、ブランドなど、さまざまな概念が社内にあります。
それらをきちんと整理して言語化し、社内で共有することが大切です。言い換えれば、言葉の定義を明確にすることです。
私が会社員で営業をしている頃、上司から「A社向けの戦略を立てろ」と言われたことがあります。当時の私も、戦略とは戦いに勝つための道筋を示していることくらいは理解していました。しかし、A社向けの戦略とはいったい何を意味しているのかがわかりませんでした。そこで上司に戦略の意味を聞いてみたものの、実は上司もよく分かっていない様子でした。上司も、さらにその上の上司から戦略を立てろと言われていたのでしょう。
その後いろいろ試行錯誤しているうちに、ここでいっている戦略とは、時間軸でA社向けにどのような活動をするのかという計画を立てよという意味であることがだんだん分かってきました。だったら最初から言ってくれれば時間のロスがなかったのに、と思った記憶があります。
このように、社内で当たり前のように使われている言葉であっても、その意味が部署や人によって違っていたり、まったく具体性のない言葉だったりしますので、注意が必要です。
組織のベクトルを合わせる
組織軸のベクトルとは、たとえば以下のようなものです。
理念⇒戦略⇒戦術⇒実行を合わせる
多くの会社では、理念や戦略と現場での仕事に乖離があります。これは理念や戦略と現場での仕事のベクトルがあっていないことを示します。毎日の仕事が理念実現へと向かうようにしなくては意味がありません。
上司、部下のベクトルを合わせる
上司と部下は、もっとも小さい単位での協業関係にあります。したがって、上司と部下のベクトルがあっていなければ、組織全体のベクトルも合いようがありません。上司と部下は毎日ベクトル合わせを行う必要があります。より具体的にいえば、今月・今週・今日の優先順位は何なのかを常に確認する場を設けることです。
部門間のベクトルを合わせる
組織が大きくなればなるほど、部門間の断裂が大きくなります。マーケティング部と開発部、営業部と経理部など、それぞれの部門利益を第一に考えれば考えるほど、他部門とのベクトルが合わなくなってきます。
そうならないために、全社員の最優先事項は会社全体の目標達成であることを共有し、そのために各部門ごとの役割と目標を明確にして、協調関係を築く仕組みが大切になってきます。役割の切り分けは会社の組織図の作り方が土台になります。
理念と制度や仕組みのベクトルを合わせる
組織が大きくなるほど、メンバーを統制するためにさまざまな制度や仕組みが作られていきます。ここで大切なのは、理念と各種制度や仕組みのベクトルを合わせることです。よく問題になるのが、理念では顧客第一と言っておきながら、短期的な利益だけが評価される制度になっていることです。これでは営業担当者が顧客の事情を無視して、本来は無用なものを販売してしまったとしても無理はありません。
また、家族主義を標榜しているのに、その家族(社員)をガチガチに縛るような制度設計をしているケースもあります。これもベクトルがあっていない例です。
会社理念と個人理念のベクトルを合わせる
先ほどの稲盛氏の言葉にもあった通り、人それぞれ考え方、人生の目的や価値観が異なります。しかし、同じ会社に勤めているからには、どこかしら共通点があるはずです。それが何なのかを常に意識させるようにし、なぜ自分はこの会社で働いているのかを明確にしてあげることが大切です。これができればできるほど、いわゆるエンゲージメントが高まります。
エンゲージメントについては従業員エンゲージメントの記事にて解説しています。
意識(仕事の基準)のベクトルを合わせる
非常に単純な仕事をしていても、人によって成果が異なったりします。その理由は、人それぞれ、その仕事に対する基準(何をもってよしとするか)が異なるからです。
たとえば、テーブルを拭くという仕事を二人の人物に任せたとしましょう。一人目は最初に水拭きをし、次にカラ拭きをし、さらに床に落ちているゴミをついでに拾うかもしれません。一方、二人目は水拭きだけして終了となるかもしれません。
一人目は、テーブルを拭くという仕事を高い基準で行いました。このテーブルにはお客様が座るのだから丁寧に拭かないといけない。それだけではなく、心地よく過ごしてもらえるようにゴミを拾うのも当たり前だ、と考えているわけです。一方、二人目は低い基準で行いました。拭けと言われたから拭いただけ、というわけです。
仕事の基準を個人任せにしない
どちらの人も自分が「これで良し」と思える方法で仕事をしたわけですが、結果には大きな違いが生まれます。もちろん一人目の基準で仕事をしてもらいたいというのが社長の想いでしょう。かといって、二人目を責めるわけにはいきません。どの程度の基準でテーブルを拭くかを示していないことが問題だからです。
- このテーブルはお客様が利用するためにある
- テーブルを拭くのは、お客様を迎えられる状態にするためである
- お客様を迎えられる状態とは、このような状態をいう
という感じで、明確な基準を示すのが上司や社長の役割なのです。基準を文書に落とす手順は型化の記事にまとめています。
多くの会社では仕事の基準を個人任せにしてしまっているため、基準が整わず、仕事の成果にばらつきが出ます。それが顧客が離れていってしまう理由でもあるのです。
ベクトルを合わせる3つの手順
6つの軸を一度に整えようとすると、たいてい途中で止まります。今週から動かせる形にすると、次の3つになります。
手順1:判断が分かれた場面を3つ書き出す
理念やビジョンから入らないでください。先に、実際に現場で意見が割れた場面を思い出します。納期と品質、既存顧客と新規顧客、売上と粗利、社員の負荷と受注。この1か月で起きたものを3つ書き出します。
抽象的な話から始めると、きれいな言葉が並ぶだけで現場は何も変わりません。ベクトルがずれているのは、いつも具体的な分かれ道の上です。
手順2:どちらを優先するかを言葉で決める
書き出した3つについて、どちらを優先するかを決めます。「基本は納期を守る。ただし顧客の安全に関わる場合は品質を優先し、納期は交渉する」というように、例外まで書きます。
どちらを先に手をつけるかで迷うときは、仕事の優先順位の付け方も参考になります。ここで大事なのは、両方大事という結論にしないことです。両方大事は、決めていないことと同じです。現場は結局、その場の判断で埋めることになります。
手順3:会議と評価に載せる
決めた優先順位を、月に一度の会議の議題に固定します。その月に判断に迷った場面を持ち寄り、決めた基準で正しかったかを確認します。合っていなければ基準のほうを直します。
あわせて、評価の項目にも入れてください。決めた優先順位を守った社員が評価されない仕組みだと、その基準は数か月で無視されます。ベクトルが元に戻る原因のほとんどはここにあります。同じ構造は社内でルールが定着しない原因でも扱っています。
この3つを回していくと、迷ったときの判断基準が全社員に共有された状態に近づいていきます。指示を待たずに動ける組織は、この状態から生まれます。
ベクトルを合わせるときによくある質問
ベクトルを合わせるとはどういう意味ですか
組織のメンバー一人ひとりが同じ方向に向かって考え、行動できるようにすることです。ビジネスでの「ベクトル」は、向かっている方向と、そこに注ぐ力の大きさの2つを指します。数学のベクトルとは違い、職場では向きのほうが問題になります。
ベクトルを合わせるの言い換えを教えてください
「方向性をそろえる」がもっとも素直な言い換えです。ほかに「同じ方向を向く」「足並みをそろえる」「目線を合わせる」「認識をそろえる」「優先順位をそろえる」「目的を共有する」「一枚岩になる」「一丸となる」があります。相手や場面によって使い分けてください。
「ベクトルが違う」と言われたらどう受け取ればよいですか
人格や価値観を否定されたと受け取る必要はありません。多くの場合、目指しているものが噛み合っていないという意味です。何を優先するかがそろっていないだけなので、そこを言葉にして確認すると解消します。
理念を掲げてもベクトルが合いません
理念は方向を示しますが、日々の分かれ道までは決めてくれません。「顧客第一」を掲げていても、納期と品質のどちらを取るかは書かれていないからです。理念と現場のあいだに、優先順位を決めた一行を置いてください。
社員の意識を変えるにはどうすればよいですか
意識から入らないことをおすすめします。優先順位を決めて、会議で確認し、評価に載せる。この3つを回すと、行動が先に変わります。意識は行動のあとからついてきます。
何人くらいの規模からベクトル合わせが必要になりますか
社員が10人を超えたあたりからです。それまでは社長が全員と直接話せるので、口頭で方向がそろいます。10人を超えると、社長の目の届かない場所で判断が起きるようになります。そのときに何を優先するかが書かれていないと、判断は人ごとにばらけます。
ベクトルを合わせるなら仕組み経営へ
以上、ベクトルを合わせることの意味やそのために行うことをご紹介してきました。
最後にもう一度お伝えします。ベクトルが合わないのは、メンバーの意識が低いからではありません。判断が分かれる場面で、何を優先するかを会社が決めていないからです。だから、直す対象は人ではなく、決め方のほうになります。
仕組み経営では、上記のようなベクトルを合わせるための仕組みづくりをご支援しています。
詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。


