※動画でも解説しています。
社内ルールとは?
社内ルールは会社が独自に決めているルールであり、たとえばドレスコードや持ち物などの目に見える物理的な決め事、また、働き方や考え方などの目に見えない内面的なルールがあります。
就業規則と社内ルールの違いは?
まず就業規則というのは、
就業規則は労働者の就業上遵守すべき規律及び労働条件に関する具体的細目について労働基準法等に基づいて定められた規則のことをいう。 (wikipedia)
という定義になります。労働基準法89条によれば、常時10人以上の労働者を使用する使用者は就業規則を作成し、行政に提出しなくてはいけません。
要するに、法律で決められている会社と社員の契約が就業規則です。
一方の社内ルールは、法的な拘束もなければ、創らないといけない、という法律もありません。社員数が3人でも創っている会社もあれば、30人いても社内ルールが明文化されていない会社も多数あります。
また、内容についても就業規則は法的に決められている項目に沿って作成しますが、社内ルールはその会社独自の項目になります。細かく何十項目もある会社もあれば、数個しか項目がない会社もあります。
社内ルールの仕組み経営における位置づけ
話を先に進める前に、「仕組み経営」の中における社内ルールの位置づけをお伝えしておく必要があります。
「仕組み経営」では社内のあらゆる仕組みや業務のやり方を文書化しましょう、という提案をしていますが、ざっくりと文書化の全体像を図にすると以下のようになります。
まず、社内における各種仕組みや業務内容が書かれたもの、これらを総称してマニュアルと考えています。そのマニュアルは大別すると、運営マニュアルと作業マニュアルに分けられます。
作業マニュアルは一般的に想像される”マニュアル”であり、各仕事のやり方が書かれたものになります。
一方の運営マニュアルには、会社の理念体系や各種方針、場合によっては過去の業績や今期の目標等、そして、社内ルールといった、全社員が知っておくべきことが書かれています。
運営マニュアルは細かく書けば膨大な量になるため、場合によってはこれを分割して、たとえば理念体系だけ切り取って小冊子にするとか、社内ルールだけ切り取ってファイリングするとか、運用段階ではいろんなやり方があります。
また、運営マニュアルというのは私たちが名付けた概念的な名前ですが、これを自社独自の名前にしても良いでしょう。たとえば、カルチャーブック、経営方針書、DNAブック等々、自社独自の名前にすることで愛着も湧くかも知れません。
社内ルールの項目のテンプレートと例
では社内ルールにはどんな項目があるのか?項目のテンプレートや例をご紹介します。
- 共通言語
- 社内ツール
- 報酬/評価
- 社内コミュニケーションのルール
- 対外コミュニケーションのルール
- 効果的な仕事のやり方
- ブランドルール
- クレーム対応
- 社内行事/カレンダー
- 服装
- 経費の扱い
- 整理整頓/清掃の仕方
- パワハラ、モラハラ、セクハラについてのポリシー
- 緊急連絡先
- 災害対応
- CSRの考え方
- 個人情報の扱いについて
- 秘密保持について
- 解雇について
- 退職について
- 備品の扱いや発注について
これらは社内ルールの項目例です。もちろん、中身は自社独自のものにする必要があります。
社内ルールをサンプルに頼ることのワナ
良く社内ルールのサンプルが欲しいと言われます。たしかに手っ取り早く創りたい気持ちもわかります。しかし、ここで重要なことを念頭に入れる必要があります。それは、
社内ルールは企業文化を反映する、逆に言えば、企業文化は社内ルールで形作られる
ということです。
社内ルールと企業文化は非常に密接につながっています。どんなルールを作るかで会社の文化が決まってきますし、文化に合わないルールを作ると社員は離反していきます。企業文化という言葉がわかりにくければ、これを経営理念と置き換えても良いでしょう。企業文化と経営理念も非常に密接につながっているからです。
社内ルールは経営理念を反映する、逆に言えば、経営理念は社内ルールで形作られる
たとえば、経営理念で社員の自主性や自由を重んじる、というようなフレーズがあった場合、ガチガチな社内ルールを創ってしまっては、経営理念との一貫性がありません。サンプルはあくまでサンプルであり、そのルールが自社に合うかどうかは別問題なのです。
これは毎度「仕組み経営」の中でお伝えしていることですが、まず経営者自身のどんな会社を創りたいか?という理念があり、それを具体的に落とし込んだものが社内ルールとなります。ですから経営理念が各社それぞれ違うのと同じように、社内ルールも各社独自のものになるはずなのです。
たとえば、ネットフリックスという成長企業があります。この会社は、自由を重んじることで有名ですが、たとえば休暇に関しては、以下のような決まりがあります。
私たちの休暇に関する方針は「休暇を取る」のみです。一年につき何週間といったような、いかなるルール又はひな型も、私たちは持っていません。正直に言うと、私たちは仕事とプライベートな時間を相当混ぜてしまっています。変則的な時間にメールをし、子供の試合のために平日の午後に休みを取ったりする等です。私たちのリーダーは、休暇を取り、良い例を示します。度々、新鮮なアイディアを持って職場に戻り、チームの他のメンバーに同じようにすることを奨励します。
こんな自由で成り立つのか?と思われるかも知れませんが、これは彼らの会社の文化があるからこそ成り立つのです。ほかの一般的な会社で、単に”休暇を取ること”というようなルールがあったら、質問が続出し、社長やリーダーはその対応に追われることでしょう。
自由とルール(規律)のバランス
社員数が増えてくると、社長が必ずと言っていいほど悩むのが自由と規律のバランスです。ルールをたくさん作れば規律が保たれます。しかし、それでは生産性が落ちるだけです。自由を与えれば社員は楽になるかもしれませんが、社内は混乱し、これも生産性を落とす原因になります。
このバランスをどう取るかは非常に大切です。先ほど言った通り、どんな社内ルールを作るかは経営理念や文化から影響を受ける(または与える)ので、画一的な答えはしにくいところです。
そこでここでは、自由とルール(規律)のバランスを取るための2つのヒントをご紹介します。
文化の強さが強ければ社内ルールは簡素化される
AirBnB共同創業者のブライアン・チェスキー氏は、次のように語っています。
文化が強ければ強いほど、会社が必要とする企業内のプロセスは少なくなる。 文化が強い時、あなたはみんなが正しいことをしていると信じられる。 すると人々は独立し、自律的になれる。彼らは起業家になれるんだ。
この言葉によれば、社内における文化の共有度が高ければ高いほど、社内ルールは簡素で良いことになります。これは私たちに実体験でも正しいと感じられると思います。
たとえば、東京ではエスカレーターに乗る際、歩く人のために右側を空けるのが暗黙のルールになっています。(いまはエスカレーターは歩いてはいけないというルールになっていますが)これは、東京エリアに住んでいる人たちの文化の共有度が高いからです。一方で違うエリアでは左側を空けることがあります。違うエリアの人たちが東京に多数存在する場合には、右側を空けるのが暗黙のルールは通用しなくなるため、明文化しなくてはいけません。
会社もこれと同じようなもので、社内のメンバーの多くが似たような価値観であるときには文化の共有度が高くなり、細かいルールを設定しなくても混乱が起きにくい会社になるでしょう。
社内ルールという枠組みの中での自由
自由と規律のバランスを取るときに、引用されるのが”枠組みの中での自由”という言葉です。たとえば、私たち日本人は普段生活していて、不自由さを感じることはほとんどないでしょう。しかし、一方で、日本には憲法や法律という社会のルールがあります。これは私たちは、社会のルールという枠組みの中で自由を謳歌しているということが言えます。社内ルールについても理想なのはこのような状態です。
有名な例ではリッツカールトンホテルの顧客サービスがあります。ホテルで働くスタッフたちは、一定の金額内であれば(枠組み)、顧客のために自由にお金を使える、という原則があります。
また、最も厳格なルールが求められるであろう航空業界ではアラスカ航空の例があります。彼らは自分たちが守るべき重要な要素として、”安全、”気配り”、”サービス提供”、”見栄え”ということを掲げています。実際にはこれらをより細かいルールにしています。一方で、”安全”は”気配り”に勝り、”気配り”は”サービス提供”に勝り、というように優先順位を付けることで、スタッフが自分で意思決定できる自由を与えています。
このように、自由とルール(規律)のバランスには一つの答えがありません。繰り返し言うように、自社の理念と照らし合わせ、バランスを調整していくことが大切でしょう。
社内ルールの作り方と徹底方法
次に社内ルールの作り方と徹底方法について扱います。この二つを合わせて説明するのには理由があります。
「仕組み経営」では、社内ルールに限らず会社の理念や様々な仕組みは、
”それ自体と同じくらい、どう作るかが大切”
という原則があります。
社内ルールの中身の大事ですが、それをどう作ったが大切であり、どう作るかによって、それが徹底されるかどうかも決まってきます。当然、いくら調子のよいルールを作っても徹底されなければ意味がありません。
ですから、作り方と徹底方法は両輪なのです。
ではどのようにやっていくか?ということに関していくつかのヒントをご紹介します。
1.理念を分解していくとどういうルールになるのか?
「仕組み経営」の中では、社内の様々な仕組みやルールを作る前に、まず自社の理念体系を整理し、明文化します。そして、それをより具体的に業務に落とし込んでいくのが仕組み化、マニュアル化という仕事です。
したがって、繰り返しになりますが、まず社内ルールを作る前に、自社の理念が何だったのか?を思い返す必要があります。
ちなみに「仕組み経営」の中では、自社の理念のひとつ、コアバリュー(中心的価値観)を定義し、それをさらに細分化、具体化していくことで社内ルールを創っていくことがあります。このようにすれば、理念と社内ルールの一貫性が保たれます。
2.社長やリーダーが一人で社内ルールを創らない
誰しも、人が作ったルールを押し付けられるのは嫌なものです。創業社長の中には他の会社で働いていてそこのルールが嫌で辞めた人もいるのではないでしょうか?
社内ルールは一人の独断で作るのはお勧めできません。どんな項目を創るのか?という器くらいは社長が提示しても良いかも知れませんが、実際にそのルールを使う人たち、つまり社員にもルール決めに参加してもらうことで徹底度合いが変わってきます。
3.特権階級を作らず、全員が社内ルールに従う
社内ルール徹底にあたって、絶対にやってはいけないのが”特権階級”を作ることです。ルールはあるけれど、社長や幹部クラスは守らなくても良い、というような暗黙のルールや風潮が出来た途端に、社内ルールは崩壊します。
これに関して、「はじめの一歩を踏み出そう」著者マイケルE.ガーバー氏が語っていますのでご紹介させていただきます。
あなたが典型的な中小企業のオーナーならば、2種類の立場を演じることになる。つまり、社内のルールに従って働く社員としての立場と、オーナーとして、ルールを作る立場だ。
この二つを混同せずに、切り分けて考えることが大切だ。大半の中小企業オーナーは、組織図内のポジションを一時的に占めながら働いている。
たとえば、あなたはオーナーでありながら、直接顧客に対応する営業担当者でもある。オーナーでありながら、社員のトレーニングをする人事担当者でもある。
これは初期段階にあるビジネスでは、必ず発生することなので、何も悪いわけではない。あなたはオーナーと社員という二つの立場を兼任しながら、そのポジションでは何が行われるべきか?を考えながら働く。そして、将来、そのポジションに就くであろう社員のために、仕事のやり方の雛形を創るのである。
問題が起こるのは、あなたがオーナーではなく、社員として働いているとき、その他の社員が従うべきルールに従わず働いている場合だ。社員にはドレスコードを定めているにも関わらず、あなたはそれを守っていない場合などである。
その姿を見た社員たちは、あなたを別の立場の人としてみることになる。オーナーとしての威厳や権力を盾にして働くことは、褒められたものではない。
あなたが組織図の中で、社員として働いているときには、社内のルールに従わなくてはならない。それによって、あなたは自分がいま、どの立場で働いているのかを判別できるようになる。
もし、そのルールを破れば、あなたは他の社員に、”このルールには例外がある”ということを身をもって示してしまうことになる。結果、秩序の乱れと、”私は管理されている”という感情を社員に与えることになるだろう。
いつも言っているように、ビジネスはあなた自身から始まる。あなたは社内において、システムや価値観の源泉にならないといけない。それが身をもって導くということである。あなたの日々の行動こそが、社員にとって最も影響力のあるトレーニングになるのだ。