この記事は、世界No.1中小企業アドバイザー(米INC誌)マイケルE.ガーバー氏の著書『はじめの一歩を踏み出そう』をベースにしています。私はガーバー氏のメッセージをおそらく日本で最も多く翻訳・発信してきた人間であり、私たち仕組み経営株式会社自体がコアバリューに基づく経営を実践しています。また、多くのクライアント企業のコアバリュー策定から定着支援まで手がけてきました。本記事は、その現場で見てきた「うまくいく会社/形骸化する会社」の違いを踏まえて書いています。
- 1 コアバリューとは何か?意味をわかりやすく解説
- 2 コアバリューの一覧リスト
- 3 コアバリューを定めるメリット・必要な理由
- 4 コアバリューの事例(企業3社)
- 5 【支援事例】コアバリュー策定で崩壊寸前から業績1.3倍に立て直した建設会社
- 6 コアバリューの作り方:7つのステップ
- 7 コアバリューをマネジメントの仕組みに組み込む
- 8 コアバリューを人事評価に組み込む
- 9 コアバリューを採用の仕組みに組み込む
- 10 コアバリューを教育の仕組みに組み込む
- 11 なぜコアバリューは形骸化するのか?よくある失敗パターン
- 12 コアバリューの導入には覚悟が必要
- 13 コアバリューと多様性の関係
- 14 コアバリューを象徴する「仕組み」を作る
- 15 コアバリューに関するよくある質問
- 16 コアバリューに基づく経営を実践するなら仕組み経営へ
コアバリューとは何か?意味をわかりやすく解説
コアバリューとは、組織の中核となる価値観のことです。英語の「core value(コア・バリュー)」がそのまま日本語として定着した言葉で、直訳すれば「中核となる価値観」を意味します。企業文化の土台となり、経営者から現場社員まで全員の意思決定・行動の基準になります。一般的に企業理念を構成する要素のひとつとして位置づけられますが、「理念」という言葉よりも、より具体的に「何を大切にして仕事をするか」を示したものと考えるとわかりやすいでしょう。
また、組織だけでなく、個人としての行動指針をコアバリューと呼ぶこともあります。
コアバリューと企業理念・ビジョン・ミッションの違い

企業理念は一般に、ミッション(存在目的)・ビジョン(長期的な姿)・バリュー(価値観)の3つで構成されます。コアバリューはこのうち「バリュー」の部分にあたり、ミッションと同様に基本的には不変のものとして定義されます。
- ミッション/パーパス:自社が存在する目的・意義。基本的に不変。
- ビジョン:10〜20年後の目指す姿。時代に合わせて見直すことがある。
- コアバリュー/コアビリーフ:組織として大切にする価値観・信条。基本的に不変。
言い換えると、ミッションが「なぜ存在するか(Why)」、ビジョンが「どこを目指すか(Where)」を示すのに対し、コアバリューは「どう振る舞うか(How)」を示すものです。目的地が同じでも、そこへ向かう道中の“行動のクセ”を揃えるのがコアバリューの役割だと考えると腹落ちしやすいはずです。
※ミッション・ビジョン・バリューの全体像についてはこちらの記事でも詳しく解説しています。
コアバリューと行動指針の違い
コアバリューは通常、抽象的な言葉として定義されます(例:「誠実」「挑戦」「顧客中心」)。それを具体的な行動レベルに落とし込んだものが行動指針です。ただし、行動指針がトップダウンで一方的に決められたものである場合、本来「組織に共通する価値観を発見したもの」であるべきコアバリューとはニュアンスが異なります。作り方のプロセスが重要な理由はここにあります。
コアバリューとクレド・社訓・信条の違い
コアバリューを調べると、「クレド」「社訓」「バリュー」「信条」といった似た言葉が出てきて混乱する方が多いです。結論から言うと、これらはほぼ同じ領域を指す言葉で、明確な線引きがあるわけではありません。ただ、実務上のニュアンスの違いを知っておくと使い分けがしやすくなります。
- コアバリュー:組織が共通して大切にする「価値観そのもの」。判断・行動の基準。
- クレド:ラテン語で「信条」の意味。コアバリューを含む、社員が共有すべき信条をカード等にまとめたもの(リッツ・カールトンが有名)。コアバリューより範囲がやや広いことが多い。
- 社訓・社是:創業者が掲げた訓示・方針。歴史ある企業に多く、額縁に飾られて“唱和するもの”になりがち。
- 信条・スピリット:ほぼコアバリューと同義で使われることが多い。
呼び方は自由ですが、大事なのは名称ではなく、それが採用・評価・教育という「仕組み」に組み込まれ、日々の意思決定を動かしているかどうかです。社訓のように壁に飾って唱和するだけなら、名前がコアバリューでも機能しません。この点は後半で詳しく解説します。
コアバリューの一覧リスト
コアバリューとして定義される価値観には、たとえば以下のようなものがあります。自社に合うものを参考にしてください。ただし後述のとおり、この一覧から「かっこいい言葉」を選ぶのではなく、あくまで自社が本当に大切にしているものを“発見する”ことが重要です。
| 真実 | 人間関係の構築 | 誠実さ |
| 信頼性 | 謙虚さ | 知識獲得 |
| リーダーシップ | 信念 | 感性 |
| 刺激性 | 安定性 | 柔軟性 |
| チームワーク | 創造性 | インクルーシブ |
| 責任感 | 持続可能性 | 自己啓発 |
| 勇気 | 顧客満足 | 社会貢献 |
| インテグリティ | プロフェッショナリズム | ユーモア |
| 自律性 | 勤勉さ | 真摯さ |
| 社会的な影響 | 家族第一 | 協力 |
| イニシアチブ | ポジティブ思考 | エンパシー |
| データドリブン | コミュニケーション | 社会正義 |
コアバリューを定めるメリット・必要な理由

①自己管理型の組織ができる
コアバリューが組織に共有されると、上司が細かく指示を出さなくても現場が動く組織に近づきます。「阿吽の呼吸」という言葉がありますが、それはまさに価値観が共有されている状態です。家族という組織を考えると分かりやすいでしょう。長年一緒に暮らすことで似たような価値観が醸成されている家族の中では、「あれ取って」「それどこ?」という曖昧なやりとりでも通じます。しかし、そこに一人でも部外者が加わると、正確な名前を言わなければ伝わりません。社内のコミュニケーションもこれと同じ構造です。
コアバリューが共有された状態の究極の姿は、「管理不要」の経営です。ザッポスのコールセンターにトークスクリプト(電話対応の原稿)が存在しないのも、コアバリューに基づく経営が徹底されているからです。誰が電話に出ても、顧客に同じ感情を届けられる。スターバックスの接客がマニュアル的に感じられないのも同じ理由と言えるでしょう。
②全社員にとっての意思決定基準になる
コアバリューは、あらゆる場面での判断軸になります。「これとあれ、どちらをやるべきか」と迷ったとき、コアバリューが答えを出してくれる。言い換えれば、社長を含む全社員の「上司」がコアバリューになる状態です。逆に、コアバリューに沿わない意思決定が繰り返されると、組織への信頼が失われ、文化が崩壊していく要因にもなります。
③永続する組織文化の基盤になる
ディズニーはウォルトが去っても「ディズニーらしさ」を保ち続けています。真に偉大なリーダーは、自分がいなくなった後も組織が機能し続けるよう、価値観を文化として根付かせます。その文化の核となるのがコアバリューです。一方、カリスマ経営者の個人的な馬力に依存してきた会社は、トップが変わった瞬間に平凡な組織に戻ってしまいます。中小企業の事業承継で「先代の時は回っていたのに」という問題が起きるのも、価値観が個人に紐づいたまま仕組みになっていないからです。
企業文化の作り方についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
④採用基準が明確になる
中小・成長企業の採用で最初に優先すべきは、能力でも学歴でもありません。自社のコアバリューを共有できる人かどうかです。スキルや知識は入社後に身につけてもらえますが、その人の価値観を変えることは非常に難しい。だからこそ、入り口の段階でコアバリューとの適合度を見極める必要があります。これがカルチャーフィット採用と呼ばれるアプローチです。
詳しくはカルチャーフィット採用の方法をご覧ください。
⑤評価基準が明確になる
「何を基準に社員を評価すればいいのか」と悩む経営者は多いです。コンピテンシーや情意評価など一般的な評価モデルも存在しますが、持続的に成長する組織を作るには、それだけでは不十分です。コアバリューへの体現度を評価に組み込むことで、業績向上と文化醸成を同時に追うことができます。
⑥感情的な対立がなくなる
コアバリューには、もうひとつ見落とされがちな効果があります。それは、上司と部下の感情的な対立を解消する機能です。
社長が「なぜそんな行動をとるんだ」と感じる場面を想像してみてください。社員の側は、自分なりに正しいと思って行動しています。人は誰しも「自分が正しいと信じる行動を取る」という性質を持っています(これを「完全性の法則」と呼ぶことがあります)。つまり、何が正しいかの基準が共有されていない限り、社長と社員の間でズレが生じるのは必然なのです。
コアバリューはいわば会社の憲法です。社長個人の感情や気分ではなく、全員が合意した基準に照らして「これはコアバリューに沿っているか」を問えるようになる。これにより、個人の感情をぶつけ合う対立ではなく、基準に基づいた建設的な対話が生まれます。
コアバリューの事例(企業3社)
事例①ザッポス
ザッポスは米国の通販会社で、コアバリュー経営の代名詞的存在です。同社がコアバリューを全社運営の中心に置き、その手法を書籍として公開したことが、この概念が広まる大きなきっかけとなりました。
1. サービスを通じて感動を届ける(Deliver WOW Through Service)
2. 変化を起こし、喜んで受け入れる(Embrace and Drive Change)
3. 楽しさと少し風変わりなものを作り出す(Create Fun and A Little Weirdness)
4. 冒険し、クリエイティブに、そして心を開く(Be Adventurous, Creative, and Open-Minded)
5. 成長と学びを追い求める(Pursue Growth and Learning)
6. コミュニケーションでオープンで嘘のない関係を構築する(Build Open and Honest Relationships With Communication)
7. 積極的なチームとファミリースピリットを作り出す(Build a Positive Team and Family Spirit)
8. 少量で多くをこなす(Do More With Less)
9. 情熱的に、意志を固く(Be Passionate and Determined)
10. 謙虚に(Be Humble)
ザッポスがコアバリューをどのように経営に活かしているかはこちらの記事で詳しく解説しています。
参考:ザッポスがコアバリューを策定したプロセス
ザッポスのコアバリューは、2005年にCEOのトニー・シェイが全リーダーに宛てたメールから始まりました。内容はシンプルで、「あなた自身の信条や理想を表す価値観を4〜5個、メールで送ってほしい。必ずしも会社に関係あるものでなくていい。自分にとって重要、あるいは意味深いものを」というものでした。
集まった価値観を整理すると、最初は37個にのぼる長いリストになったといいます。それを10個に絞り込んだ後、今度は社内の管理者たちに別のメールを送りました。「ザッポスの企業文化を体現していると思う同僚を思い浮かべ、その人の性質がこの10のコアバリューに含まれているか確認してほしい。逆に、ふさわしくないと思う同僚を思い浮かべ、その理由がどのコアバリューに反しているかを考えてほしい」というものです。
こうして得られたフィードバックをもとにコアバリューの妥当性を検証し、最終的な文書を全従業員に共有して再度フィードバックを集め、正式な公開に至りました。ザッポスではこのコアバリュー文書が雇用契約書と同様の法的位置づけを持ち、入社時に全員が「内容を理解し、コアバリューに沿った行動をとることに同意する」と署名する仕組みになっています。「言葉を掲げる」だけに終わらず、策定プロセスに全社員を巻き込み、法的文書として位置づける——この徹底した姿勢がザッポスの文化を作っています。
事例②メルカリ
日本企業のコアバリュー事例として、多くの経営者が参考にしているのがメルカリです。メルカリは「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」というわずか3つのバリューを掲げています。ザッポスの10個と比べると対照的ですが、この事例からは中小企業がコアバリューを作るうえで重要なヒントが3つ読み取れます。
- 数を絞る:メルカリは検討過程で6つほどの候補が出たものの、社員が本当に使いこなせる数として3つまで絞り込んだと語られています。多すぎると覚えられず、行動基準として機能しません。
- 短く、覚えやすい言葉にする:あえて短い英語表現にし、日本語で補足する。共通言語として日常会話にすぐ持ち出せることを重視しています。
- 日常会話に溶け込ませる:「その判断、もっとGo Boldじゃない?」といった形で、オンでもオフでも自然と口に出る状態を目指す。ここまで来て初めて“浸透した”と言えます。
メルカリのバリューは評価や表彰の仕組みにも組み込まれ、各バリューを体現した社員を表彰する制度も設けられています。掲げるだけでなく、評価という仕組みに落とし込んでいる点が、後述する「機能するコアバリュー」の条件と一致しています。
事例③(一財)日本アントレプレナー学会
私たち自身のコアバリューもご紹介します。ザッポスやメルカリとはフォーマットが少し異なりますが、各社ごとにある程度自由に形式を決めてよいと思います。ただ、仕組み経営で推奨しているのは以下のフォーマットです。「価値観の名前+定義文+具体的な行動指針」という構成にしておくと、後から採用・評価・教育への組み込みがしやすくなります。
自由:人間らしく生きること
- 立場や役職に関わらず、他者に何かを強要しないこと。
- 仮面を外し、いつも同じ自分でいること。
- 人に人として対応すること。逆は人をモノとして扱うことであり、自分の都合のみで相手と接することを意味する。
夢:夢を持ち、夢を応援すること
- 夢(自利利他円満となる夢)を持ち、毎日の行動をそこに向けること。
- 他人の夢を否定せず、その実現を彼ら以上に信じ、応援すること。
- より多くを期待し、大きな夢を持つこと。
誠実:裏表のない人間関係(ビジネスフレンドシップ)
- 人の陰口をたたかないこと。
- 全ての関係者に対して等しく感謝と透明性をもって対応すること。
- 全ての関係者と単なるお金と対価の取引を超えた関係性(ビジネスフレンドシップ)を築くこと。
好奇心:好奇心を持って新しいことにトライする
- 他社(者)を知るために積極的に聞くこと。
- やるリスクとやらないリスク(機会ロス)を比較し、意思決定を行うこと。
- 昨日より今日が良くなるように新しいことに挑戦すること。
智慧:智慧を求める智慧を持つこと
- 初心者の心(Beginner’s mind)で情報に接すること。
- 一般的な通説に自分なりの一工夫を加え、独自の物として発信すること。
- 新しい情報や知識を積極的に吸収し、心技体を向上させ続けること。
3社を並べてみると、言葉の数もフォーマットもバラバラであることがわかります。正解の型は存在せず、自社が本当に納得できる言葉を選べているかがすべてだと、事例を見比べるほど実感します。
【支援事例】コアバリュー策定で崩壊寸前から業績1.3倍に立て直した建設会社
ここまでは有名企業の事例を紹介してきましたが、コアバリューの本当の威力は、むしろ中小企業の現場でこそはっきり表れます。私たちが実際に支援した、社員10名ほどの建設会社の事例をご紹介します(匿名でご紹介します)。
「仕組み化できている」という社長の思い込み
その会社は、社長がいて、その下にNo.2の社員がいて、さらにその下に一般社員がいる、という典型的なピラミッド構造でした。社長はNo.2に日常業務のほとんどを任せていたため、「自分は現場を離れられている=うまく仕組み化できている」と思い込んでいました。
ところがある日、一人の社員から「辞めたい」という申し出が来ます。理由をよく聞いてみると、業務内容ではなく「No.2とそりが合わない」というものでした。さらに深掘りしていくと、同じようにNo.2へ不満を抱えている社員が実は何人もいたのです。社長の知らないところで、No.2は自分のやり方をいつのまにか“会社のやり方”にしてしまっていました。
属人化の正体は「仕組み化」ではなく「No.2依存」だった
これは、社長が思っていた「仕組み化」の正体が、実際にはNo.2という個人への依存だったことを意味します。任せていたつもりが、会社の価値観そのものがNo.2の価値観に塗り替えられていたわけです。この状態が続けば、会社は社長が本来つくりたかった会社にはならず、社員も次々と辞めていく。実際、この会社はお客様からの評判も悪化し、退職者も相次いで、崩壊寸前まで来ていました。
社員を巻き込んでコアバリューを策定
そこで社長は、コアバリューを決めることを決断します。トップダウンで押しつけるのではなく、社員を巻き込みながら、自社が本当に大切にしたい価値観を言語化していきました。
その結果、意外な形で転機が訪れます。No.2自身が「自分はこのコアバリューに合わない」と気づき、独立していったのです。これは前述した「コアバリューを定めると、合わない人が顕在化して離脱する」という現象そのものでした。社長は再び組織を立て直す必要に迫られました。
結果:退職者ゼロ、業績1年で約1.3倍
- 社員の退職:No.2の退職以降、辞める社員はゼロに。
- 顧客からの評判:悪化していた評判が改善。
- 業績:わずか1年で約1.3倍に回復。
No.2という“経験豊富な右腕”が抜ければ一時的に戦力が落ちると誰もが思うところですが、実際にはNo.2がいた頃よりも、会社の状態は明らかに良くなりました。個人の力量ではなく、全員が同じ価値観という「上司」に従う状態ができたことで、組織が自走し始めたのです。
この事例が示しているのは、「有能な個人に任せること」と「仕組み化すること」はまったく別物だという事実です。優秀な人に任せて回っているように見える会社ほど、その人がいなくなった瞬間に崩れるリスクを抱えています。コアバリューを軸に採用・評価・教育を整えることこそが、特定の個人に依存しない“本当の仕組み化”への第一歩になります。
コアバリューの作り方:7つのステップ
コアバリューは内容そのものと同じくらい、作り方のプロセスが大事です。米国の中小企業向け調査では、88%のビジネスオーナーが価値観に基づく経営の重要性を認識している一方、実際に日々の意思決定や顧客対応に価値観が反映されていると答えたのはそのうち44%に過ぎませんでした。コアバリューは「言葉を掲げる」だけでは機能しないのです。
ザッポスを参考に「感動を届ける」「チャレンジ精神」といったフレーズを並べるのは簡単ですが、それが本当に経営者・社員の行動に根付いているかどうかが本質です。コアバリューは作るものではなく、発見するものという考え方が基本にあります。
ステップ1:経営者個人の価値観を明確にする
「ビジネスはその経営者の人生の反映である」——これはマイケルE.ガーバー氏からの教えであり、コアバリューに関しては特に当てはまります。最初のステップは、経営者自身が自分の価値観と向き合い、人生で大切にしているものを5〜10個の言葉に落とし込むことです。
ザッポスのトニー・シェイやヴァージンのリチャード・ブランソンを見れば、彼らの個人的な価値観がそのまま会社に反映されているとわかります。
ステップ2:各バリューの定義を言語化する
たとえば「一貫性」という言葉を選んだとして、それが自分にとって何を意味するのかを文章にします。同じ言葉でも人によって解釈が異なるため、定義を明文化することが重要です。
ステップ3:自分の行動を振り返る
定めた価値観が、自分の人間関係・仕事・ビジョンに実際に反映されているかを振り返ります。本当にその価値観で生きているかを自己評価するステップです。社内に告知するのはその後です。
ステップ4:幹部・コア社員を巻き込む
会社の規模に応じて、鍵となる社員にも同じプロセスを経験してもらいます。それぞれの個人的な価値観を明確にしてもらい、話し合いながら共通項を探っていく。最終的に5〜10個の組織としてのコアバリューを定義します。
このとき大切なのは、カッコいい言葉を「作り出す」必要はないということです。他人から見れば平凡な言葉であっても、自分たちが本当に納得できるものであれば十分です。

ステップ5:話し合いながら言葉を固める
日々の仕事のやり方がコアバリューに沿っているか・沿っていないかを社員と継続的に検討し、言葉を洗練させていきます。
ステップ6:公式ドキュメントに落とし込む
コアバリューが固まったら、社員ハンドブックや入社時のオリエンテーション資料など、公式書類に盛り込みます。言葉として存在するだけでなく、組織の「公式なルール」として位置づけることが重要です。
ステップ7:経営者自身がコアバリューで生きる
「社長は背中で語る」ものです。言葉を定めた後に最も重要なのは、経営者自身がコアバリューどおりに行動し続けることです。社員はトップの言動を見ています。
コアバリューをマネジメントの仕組みに組み込む

日本企業でよく行われる「経営理念の唱和」は、個人的にはあまり効果的だと思っていません。社員時代に実際にやらされ、その効果に強い疑問を感じていたからです。コアバリューを体現するには、口で言うのではなく、会社の仕組みに組み込むことが本質です。具体的には、人事評価・教育・採用の三つの仕組みに組み込みます。
また、「コアバリューを浸透させる」という言い方もよく聞きますが、この表現自体がずれていると感じています。浸透という言葉は、上から価値観を植え付けるイメージを想起させます。コアバリューはそもそもみんなが共通して持っている価値観を発見したものですから、「浸透させる」のではなく「体現しやすい環境を整える」という発想が正しいでしょう。
コアバリューを人事評価に組み込む
あなたの会社の評価項目にコアバリューは入っていますか?人事コンサルタントに依頼するとコンピテンシーモデルを提案されることが多いですが、コンピテンシーだけでは「組織文化への影響」という視点が欠けています。「文化は戦略を喰う」という言葉があるように、いくら優れた戦略と高い能力を持った人材が揃っていても、文化が機能していなければ戦略は実行されません。
たとえば「顧客中心」というコアバリューを掲げていても、利益を上げた人だけが評価される仕組みになっていれば、社員は自然と利益優先の行動を取ります。コアバリューが形骸化するのはこのパターンが多い。私たちのおすすめは、業績評価とコアバリュー体現度の評価をミックスさせた仕組みを作ることです。クライアント企業の経験からも、現状の業績が低くてもコアバリュー体現度の高い社員は、将来的に業績も伸びるケースが多く見られます。
人事評価制度の作り方についてはこちらの記事で解説しています。
コアバリューを採用の仕組みに組み込む
コアバリューに基づく経営において、採用は最も重要な仕組みのひとつです。人の価値観を入社後に変えることは至難の業ですから、入り口の段階でコアバリューと合う人を選ぶことが原則になります。
ザッポスでは採用基準を非常に高く設定しており、採用倍率は約2%と言われています。コアバリューに合わない人を採用してしまったときのコストは非常に大きく、私たちは「できれば最初の一人を雇う前にコアバリューを決めましょう」とお伝えしています。
カルチャーフィット採用の具体的な面接方法はこちらの記事で解説しています。
コアバリューを教育の仕組みに組み込む
スキル研修と同じくらい重要なのが、コアバリューを理解するための教育です。ただし、ここでいう教育とは、価値観を強制的に刷り込むことではありません。大切なのは次の二点です。
- 社員自身が持っている価値観を明確にし、会社のコアバリューとの共通点を理解してもらうこと
- コアバリューの意味や実際の行動事例を理解してもらうこと
特に重要なのは、入社初期のオンボーディングです。ここでコアバリュー教育を外してしまうと、後からリカバリーが非常に難しくなります。採用する前から設計しておく必要があります。
オンボーディングの具体的なプロセスはこちらの記事をご覧ください。
なぜコアバリューは形骸化するのか?よくある失敗パターン
「コアバリューを作ったのに、まったく機能していない」——これは私たちが最も多く受ける相談のひとつです。掲げること自体は難しくありませんが、機能させるのは別問題です。現場で見てきた形骸化の典型パターンを、原因ごとに整理します。
①社長がコアバリューに違反している
最も多く、最も深刻な原因がこれです。社員はトップの言葉ではなく行動を見ています。「誠実」を掲げる社長が取引先に不誠実な対応をすれば、その瞬間にコアバリューは“ただの飾り”になります。作った本人が最初の体現者にならなければ、何も始まりません。
②評価・採用と連動していない
コアバリューを壁に貼っているのに、評価は数字だけ、採用はスキルだけ——これでは社員は「本音では業績しか見ていない」と正しく読み取ります。前述のとおり、コアバリューは仕組みに組み込まれて初めて力を持ちます。
③言葉が借り物で、自社の実感がない
他社のかっこいいコアバリューを真似て並べると、言葉は立派でも誰の胸にも刺さりません。コアバリューは「作る」より「発見する」もの。借り物の言葉は日常会話に出てこず、静かに忘れ去られます。
④数が多すぎて覚えられない
10個を超えると、社員はまず覚えられません。判断に迷ったとき瞬時に思い出せなければ、行動基準として機能しません。メルカリが3つに絞ったのは、この“使える数”へのこだわりです。
⑤唱和して終わりにしている
朝礼で唱和するだけでは、コアバリューは行動に変わりません。大切なのは、日々の意思決定の場面で「これはコアバリューに沿っているか?」と問い直す運用です。唱和は手段であって目的ではありません。
これらはいずれも、コアバリューを「掲げるもの」で止めてしまうことが根本原因です。逆に言えば、社長が率先して体現し、採用・評価・教育の仕組みに組み込み、日々の判断で使い続ければ、形骸化はほぼ防げます。
コアバリューの導入には覚悟が必要
最後に、最も大切なことをお伝えします。コアバリューを本気で経営に組み込むには、相当な覚悟が必要です。
コアバリューを定めるということは、それに合わないものには「ノー」と言い続ける覚悟を持つということでもあります。どんなに魅力的なビジネスチャンスでも、コアバリューに沿わないなら断る。どんなに優秀な採用候補者でも、コアバリューが合わないなら採らない。この一貫した意思決定の積み重ねが、独自で強い企業文化を作ります。
また、コアバリューを明文化していく過程で、会社の文化に合わない人が顕在化し、離脱するケースも私たちのクライアント企業で何度も見てきました。一時的に人が減ることは寂しいことですが、コアバリューを軸に採用・評価・教育を整えていくことで、最終的には「人が辞めにくい会社」が出来上がっていきます。そこまで耐えられるかどうか、経営者としての覚悟が問われます。
コアバリューと多様性の関係
コアバリューについて語るとき、「多様性との両立」を疑問に思う方がいます。結論から言うと、コアバリューに多様性は必要ありません。むしろ、コアバリューに関しては一貫性を徹底すべきです。
多様性を重視すべきなのは、社員のスキル・バックグラウンド・発想の豊かさという側面です。さまざまな経歴や専門性を持つ人材が集まることは組織の強みになります。一方、コアバリューは組織全体が共通して持つべき信念であり、ここに「人によって解釈が違っていい」という多様性を持ち込むと、組織は方向性を失います。
「価値観の多様性」と「属性・スキルの多様性」は別物です。コアバリューは組織の憲法ですから、全員が同じ基準を持つことが前提になります。これを混同してしまうと、コアバリューが有名無実化します。
コアバリューを象徴する「仕組み」を作る
コアバリューを組織に根付かせるうえで、採用・評価・教育への組み込みと並んで効果的なのが、コアバリューを象徴する具体的な行動や仕組みを作ることです。
たとえば「成長」をコアバリューに掲げているなら、社内勉強会を定期開催したり、社内ライブラリーを整備したりすることで、コアバリューが日常の景色として社員の目に入り続けます。ザッポスの社屋入口には「楽しさとちょっと変わったことをクリエイトせよ」というコアバリューを象徴するネクタイ禁止のパフォーマンスが設置されており、来訪者や社員が目にするたびに文化を体感できるようになっています。メルカリがバリューごとの表彰制度を設けているのも、価値観を“見える化”する仕組みの一例です。
また、Airbnbの共同創業者ブライアン・チェスキーはこんな言葉を残しています。「文化が強ければ強いほど、会社が必要とするプロセスは少なくなる。すると人々は独立し、自律的になれる」。コアバリューを象徴する仕組みを積み重ねることが、最終的に「管理が不要な組織」への道につながります。
コアバリューに関するよくある質問
Q. コアバリューとは何ですか?簡単に教えてください。
コアバリューとは、組織が共通して大切にする「中核となる価値観」のことです。英語の「core value」がそのまま定着した言葉で、経営者から現場社員まで全員の判断・行動の基準になります。企業理念(ミッション・ビジョン・バリュー)のうち「バリュー」にあたる部分です。
Q. コアバリューとクレド・社訓の違いは?
どれも「大切にする価値観・信条」を指す近い言葉で、厳密な線引きはありません。クレドはコアバリューを含むやや広い信条をまとめたもの、社訓は創業者が掲げた訓示を指すことが多い、という程度の違いです。名称よりも、それが採用・評価・教育の仕組みに組み込まれているかどうかが本質です。
Q. コアバリューはいくつ作ればいいですか?
一般的に3〜10個が推奨されています。多すぎると社員が覚えられず、行動の基準として機能しません。ザッポスは10個、メルカリは3個、私たちの学会は5個です。まずは3〜7個に絞り込むことを目標にしてください。
Q. 中小企業やスタートアップにもコアバリューは必要ですか?
むしろ規模が小さいうちこそ重要です。社員数が少ない段階でコアバリューを共有できれば、その後の採用・育成の“ものさし”が最初から揃います。人が増えてから価値観を後付けするのは非常に大変なので、「最初の一人を雇う前に決める」のが理想です。
Q. コアバリューは社長が一人で決めてもいいですか?
完全なトップダウンは避けるべきです。コアバリューは「組織の共通の価値観を発見するもの」ですから、主要なメンバーを策定プロセスに巻き込むことが大切です。ただし、最終的な言葉の決定はリーダーの責任です。全員の合意を取ろうとしすぎると、当たり障りのない言葉になってしまいます。
Q. コアバリューが浸透しない・形骸化する原因は?
最大の原因は、社長自身が体現していないこと、そして採用・評価と連動していないことです。壁に貼って唱和するだけでは機能しません。日々の意思決定の場で「これはコアバリューに沿っているか」を問い続ける運用が欠かせません。
Q. 既存の社員がコアバリューに合わない場合はどうすればいいですか?
コアバリューを定め、それに基づいた経営を続けていくと、価値観が合わない人は自然と離れていく傾向があります。それは避けがたいことですが、価値観が合わない状態で組織に居続けることは、本人にとっても幸せではありません。まず経営者自身がコアバリューを体現し続けることが、最も誠実なアプローチです。
Q. コアバリューはどのくらいの頻度で見直すべきですか?
コアバリューは基本的に不変のものとして定義されます。「流行に合わせて変える」ものではありません。ただし、M&AやPMI(統合)など組織の構造が大きく変わった場合は、改めて策定プロセスを踏むことがあります。
コアバリューに基づく経営を実践するなら仕組み経営へ
コアバリューは、言葉を定めるだけでは機能しません。経営者個人の価値観の発見から始まり、採用・評価・教育の仕組みに組み込まれてはじめて、組織の文化として根付いていきます。
私たち仕組み経営では、コアバリューの策定から仕組みへの組み込み・定着支援まで一貫してサポートしています。ぜひ以下の仕組み化ガイドブックから詳細をご覧ください。



