管理職育成について、こんな悩みを抱えていませんか?
「営業成績トップの社員を課長に昇進させたが、相変わらず自分で営業に出てばかりで、チームをまとめてくれない」
「高額な管理職研修に行かせたのに、現場に戻ると元通りの動き方に戻ってしまう」
「何度も話し合っているのに、期待通りには動いてくれない。本人も疲弊している様子だ」
優秀なプレイヤーを管理職に昇進させても、なぜか期待通りには機能しない。この現象には、実は明確な理由があります。
さらに衝撃的なのは、ある調査によれば「77%の人は管理職になりたくない」というデータが出ていることです。多くの社員にとって、管理職は「責任だけが重くなり、何をすればいいか分からない仕事」に見えてしまっているのです。
本記事では、管理職育成における課題の本質を明らかにし、新任管理職を最短3ヶ月で戦力化するための具体的な育成方法、育成計画の立て方を解説します。マイケル・ガーバー氏の「3つの人格」理論をベースに、管理職の本来の役割を定義し、実践的なアプローチをお伝えします。
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管理職育成における3つの課題
多くの企業が管理職育成で直面する課題は、大きく3つに分類できます。これらの課題を理解することが、効果的な育成計画を立てる第一歩となります。
課題1:優秀なプレイヤーが管理職として機能しない
最も多い課題が、プレイヤーとして優秀だった社員が、管理職になった途端に期待通りのパフォーマンスを発揮できなくなることです。
営業成績トップの社員を営業課長にしたら、相変わらず自分で顧客訪問ばかりして、チームマネジメントがおろそかになる。技術力が高いエンジニアをリーダーにしたら、自分でコードを書くことに時間を使い、メンバーの育成ができない。
こうした状況が生まれる理由は、プレイヤーとしての成功体験が強すぎるためです。「自分がやった方が早い」「自分が成果を出さなければ」という思考から抜け出せず、管理職としての役割転換ができないのです。
必要なスキルも、時間の使い方も、プレイヤーと管理職ではまったく異なります。しかし、多くの企業ではこの違いを明確に伝えないまま、「頑張ってね」と昇進させてしまっています。
課題2:役割があいまいで我流のマネジメントになる
管理職の役割が明確に定義されていないと、一人ひとりが自分の性格や過去の経験に基づいた「我流」でマネジメントをするしかありません。
ある管理職は、部下に寄り添う「支援型」のスタイルを取ります。別の管理職は、数字だけを追う「成果追求型」になります。また別の管理職は、完全に放任する「自由放任型」になってしまいます。
これでは、組織としての再現性が生まれません。「Aさんの下では成果が出るけれど、Bさんの下だとチームが機能しない」という、極端に属人的な状態から抜け出せなくなります。
さらに問題なのは、本人も「これで合っているのか」という不安を常に抱えていることです。明確な指針がないまま手探りで進むため、自信を持って判断できず、結果として中途半端な対応になってしまうのです。
課題3:社長・本人・部下の期待値がズレている
最も深刻な課題が、三者の間で期待値がバラバラになっていることです。
社長は「もっと経営者感覚を持って、数字に責任を持ってほしい」と期待します。部下は「もっと自分たちの話を聞いて、守ってほしい」と望みます。そして管理職本人は「自分が背中を見せて、売上を作らなければ」と思い込んでいます。
この三者の認識がズレているため、社長は「期待通りに動かない」とイライラし、部下は「理想のリーダーじゃない」と不満を持ち、本人は「頑張っているのに評価されない」と悩む。誰も幸せにならない構図が生まれてしまうのです。
実例:私自身も同じ失敗をしました
実は、この「期待値のズレ」による失敗は、私自身が身をもって経験したことです。
会社員時代、私は新規拠点の立ち上げ要員として、初めて管理職に就きました。「新しい業態だから、まず売上を立てなければ」という責任感は人一倍ありました。しかし、担当営業員としての考え方をそのまま引きずったまま管理職になってしまったのです。
その結果、私はメンバーたちが仕事をするための基本的なサポート、例えばパソコン環境の手配や住居環境の整備といった業務を、「本部がやってくれるだろう」と思い込み、完全に任せきりにしていました。
しかし実際には、本部は私が想定していたようには動いてくれていませんでした。そしてその間、メンバーたちの間には「上司が何もやってくれない」という不満が静かに、しかし確実に積み重なっていったのです。
管理職に就いてまもなく、メンバーたちとの信頼関係は大きく崩れてしまいました。事態に気づいて面談を試みましたが、時すでに遅し。一度崩れた信頼関係は、容易には元に戻りません。今思い返しても、非常に苦しい経験でした。
あの時の私に足りなかったのは、やる気でも能力でもありませんでした。「管理職として、何をすべきか」という明確な役割の定義だったのです。
管理職育成が失敗する唯一の理由
これら3つの課題には、実は共通する根本原因があります。それを理解することが、効果的な管理職育成方法を構築する鍵となります。
役割定義の欠如が全ての原因
管理職研修を受けさせても変わらない。本を読ませても変わらない。何度話し合っても、期待通りには動いてくれない。その理由は、本人のやる気や能力の問題ではありません。
「管理職の役割を、会社側で明確に定義していないこと」
これが、管理職育成が失敗する唯一にして最大の原因です。
「そんなことか」と思われるかもしれません。しかし、この「定義のなさ」こそが、組織に致命的なボタンの掛け違いを生んでいるのです。
世の中に「管理職の正解」は存在しない
試しに今、「管理職の仕事とは何か」と検索してみてください。おそらく、こんな説明が出てくるはずです。
「管理職の主な仕事は、経営陣と現場をつなぐパイプ役として、組織目標を達成するためにチームを統括・指導し、最大成果を上げることです。主な役割は、戦略・目標設定、部下の育成・指導、人事評価・労務管理、業務プロセスの改善など、多岐にわたります」
これを読んで、「なるほど、分かった!」と感じましたか?
おそらく、そうはならなかったはずです。「戦略・目標設定」「部下の育成・指導」「人事評価・労務管理」「業務プロセスの改善」……どれも正しそうで、しかしどれも抽象的です。これだけ多岐にわたる役割を並べられても、明日から何をすればいいのかは、まったく見えてきません。
これが現実です。世の中には「管理職の共通した正解」が存在しないのです。だからこそ、それぞれの会社が独自に「うちの管理職の役割とは何か」を定義する必要があります。
「スーパーマン」を求めてしまう問題
役割が曖昧なまま、多くの企業は管理職に「ありえないスーパーマン」を求めてしまいます。
リーダーシップ、財務知識、コミュニケーション能力、部下育成、戦略思考、データ分析、問題解決能力……。世の中の管理職研修は、これらすべてを身につけさせようとします。
しかし、冷静に考えてみてください。社長であるあなた自身でさえ、これらすべてを最初から完璧にこなせていたでしょうか?おそらく、得意な分野もあれば、苦手な分野もあったはずです。
それなのに、管理職というポジションになった途端、本人に対して完璧を求めてしまう。明確な役割定義もなく、ただ高いハードルだけを設定される。これでは、優秀な人ほど管理職を「ゴールのない罰ゲーム」だと感じ、避けようとするのも無理はありません。
実際、77%もの人が「管理職になりたくない」と考えているのは、このような構造的な問題があるからです。
属人的な組織から脱却できない
役割定義がないまま管理職を育成しようとすると、組織は永遠に「属人的な状態」から抜け出せません。
「あのリーダーは優秀だけど、こっちのリーダーはイマイチ」という評価が生まれ、チームによって成果に大きなバラつきが出ます。優秀なリーダーが異動や退職をすると、そのチームは一気に機能不全に陥ります。
経営において大切なのは、「誰が担当しても一定の成果が出る」仕組みです。個人のキャラクターや能力に依存したマネジメントを卒業し、会社としての「正しい型」を確立する必要があります。
では、その「正しい型」とは何でしょうか。管理職の本来の役割とは、具体的に何なのでしょうか。
次のセクションでは、マイケル・ガーバー氏の「3つの人格」理論をもとに、管理職が本当にすべき仕事を明確にしていきます。
効果的な管理職育成の5つのポイント
管理職育成を成功させるためには、従来の「研修を受けさせる」というアプローチから脱却する必要があります。ここでは、本質的に効果のある5つのポイントを解説します。
ポイント1:管理職の役割を明確に定義する
最も重要なのは、あなたの会社における管理職の役割を明確に定義することです。
「管理職の仕事とは何か」という問いに対して、世の中には無数の答えが存在します。しかし、あなたの会社にとっての正解は、あなた自身が定義しなければなりません。
曖昧な期待を持つのではなく、「うちの会社の管理職は、具体的に何をする人なのか」を言語化する。これが、すべての出発点となります。
ポイント2:「3つの人格」を理解する
管理職の役割を定義するにあたって、非常に有効なフレームワークがあります。それが、マイケル・ガーバー氏の著書『はじめの一歩を踏み出そう』で説かれている「3つの人格」です。
ガーバー氏は、ビジネスには以下の3つの人格が必要だと説いています。
1. 職人の人格:目の前の実務(施術や販売など)をこなす人格。プレイヤーとしての仕事を担当します。
2. マネージャーの人格:自分が不在でもチームが回る「仕組み」をつくる人格。業務を標準化し、組織として機能させます。
3. 起業家の人格:理念やビジョンを描き、未来をつくる人格。戦略を考え、新しい価値を創造します。
多くの中小企業では、社長が「職人の人格」に没頭しすぎることで成長が止まります。目の前の仕事をこなすことに追われ、未来を描く時間も、仕組みを作る時間も取れなくなってしまうのです。
しかし、ここで重要なのは、この3つの人格を使いこなさなければならないのは経営者だけではないということです。社員一人ひとりの中にも、この3つの人格は存在します。
ポイント3:管理職の本来の仕事は「仕組みづくり」である
では、組織の階層によって、この3つの人格の理想的な時間配分はどう変わるのでしょうか。
| 組織の階層 | 職人(実務) | マネージャー(仕組み作り) | 起業家(未来の設計) |
|---|---|---|---|
| 経営者層 | 10% | 20% | 70% |
| 管理者層 | 30% | 40% | 30% |
| 一般社員層 | 70% | 20% | 10% |
ここで注目すべきは「管理者層」です。管理職のメインの仕事は、時間の40%を占める「マネージャーの人格」、つまり仕組みづくりなのです。
残りの時間で、プレイングマネージャーとして実務をこなしつつ(30%)、自分の部門の未来を考える(30%)。これが、本来の管理職の姿です。
多くの管理職が機能しないのは、この時間配分が逆転しているからです。実務に70%の時間を使い、仕組みづくりにはほとんど時間を割けていない。これでは、いつまでたっても「自分がやらないと回らない」状態から抜け出せません。
ポイント4:時間配分を意識した育成目標を設定する
管理職育成において、この時間配分を明確に伝えることが重要です。
「あなたの仕事は、実務を回すことではなく、実務が自動的に回る仕組みを作ることです。時間の40%を仕組みづくりに使ってください」
このように具体的な指針を示すことで、管理職は何をすべきかが明確になります。そして、この時間配分を実現できているかを、定期的に確認します。
例えば、月に1回のワンオンワンで「今月、仕組みづくりにどれくらいの時間を使えましたか?」と問いかける。業務マニュアルの整備状況や、改善の仕組みが機能しているかをチェックする。
このように、抽象的な「頑張れ」ではなく、具体的な時間配分という指標を持つことで、管理職育成は格段に効果的になります。
ポイント5:職務同意書で期待値を一致させる
最後に、そして最も実践的なポイントが「職務同意書」の活用です。
職務同意書とは、管理職のポジションごとの仕事内容を明文化し、本人と会社の間で双方向に合意する文書です。これにより、社長・本人・部下の間で期待値のズレをなくすことができます。
職務同意書には以下の内容を含めます。
- このポジションの目的(なぜこの役割が存在するのか)
- 主要な責任(具体的に何をする人なのか)
- 時間の使い方(3つの人格の配分)
- 成果指標(何ができていれば成功なのか)
- 権限の範囲(どこまで自分で決めていいのか)
これを最初に合意しておくことで、「頑張っているのに評価されない」という不満や、「期待と違う」という失望を防ぐことができます。
そして何より重要なのは、この職務同意書があるからこそ、公正な評価ができるということです。役割の同意がないまま評価しようとするから、納得感が生まれず、育成が失敗するのです。
管理職育成の具体的な方法と研修プログラム
ここまでの5つのポイントを踏まえて、具体的にどのように管理職を育成していけばいいのでしょうか。効果的な管理職育成方法を、ステップごとに解説します。
インサイドアウト(内側から外側へ)のアプローチ
管理職育成において最も重要なのは、「インサイドアウト」という順序で進めることです。
多くの企業は、いきなり「業務マニュアルを作れ」「PDCAを回せ」と指示します。しかし、これでは魂の抜けた、誰も使わない仕組みができあがるだけです。
仕組み化は、円の中心から外側に向かって進める必要があります。
【中心(内側):経営者の人生観・情熱】
まず、「なぜこの仕事をしているのか」という目的からスタートします。経営者の人生観や情熱を言語化し、組織の理念(存在意義)を固めます。
【中間:戦略・指標】
理念を実現するための組織のあり方や、目標・指標を設定します。ここで「自社独自性」が生まれます。他社と同じやり方ではなく、自社の理念に基づいた戦略を描きます。
【外側:プロセス・仕組み】
最後に、それらを現実にするための実務プロセスを整えます。ここで初めて、具体的な業務マニュアルや手順書を作ります。
この順序を逆にすると、現場から「なぜこれをやらされるのか」という反発が生まれます。内側の想い(理念)が仕組みに組み込まれているからこそ、管理職も部下も納得して動けるのです。
管理職を機能させる3ステップ
インサイドアウトのアプローチを踏まえて、管理職育成は以下の3ステップで進めます。
ステップ1:本来の仕事を明示する
管理職の役割は「仕組みづくり」であることをはっきり伝えます。あいまいな期待ではなく、明確な役割定義を示します。前述の「3つの人格」のフレームワークを使い、時間の40%を仕組みづくりに使うべきだと具体的に指示します。
ステップ2:本人と同意する
ここが最も重要です。職務同意書を作成し、ポジションごとの仕事内容を明文化して、双方向で合意します。社長、本人、部下の間で認識が統一されるため、「頑張っているのに評価されない」という不満が消えます。
ステップ3:評価する
同意した内容ができているかを定期的に評価します。役割の同意があるからこそ、公正で納得感のある評価ができます。そもそも役割の同意がないまま評価しようとするから、失敗するのです。
単なる研修ではなく実践プログラムが必要
管理職育成において、従来の座学中心の研修には限界があります。2日間の研修を受けても、現場に戻ると元通りになってしまう。これは、知識を学んでも、実践に落とし込めていないからです。
効果的な管理職育成には、以下の要素が必要です。
- 実践しながら学ぶ:自社の実際の業務を題材に、仕組み化を進める
- 継続的なフォロー:一度きりではなく、3ヶ月程度の期間をかける
- 成果物を残す:職務同意書、業務マニュアル、評価指標など、形に残るものを作る
- コーチング:定期的なフィードバックで軌道修正する
このような実践プログラムによって、管理職は知識だけでなく、実際に「仕組みづくり」ができる能力を身につけることができます。
3ヶ月間のカリキュラム例
効果的な管理職育成プログラムは、通常3ヶ月程度の期間で、以下のような構成になります。
【1ヶ月目】組織の戦略を描く(起業家の人格)
いきなりマニュアルを作るのではなく、まずは組織の「ビジョン」と「現状」のギャップを明確にします。
- 現状把握:5つのカテゴリーで組織の状態を診断
- 組織ビジョン:目指すべき理想像を言語化
- 役割分担(組織図):誰がどのポジションで、何の責任を持つかを明確にする
- 職務内容の明文化:各メンバーの仕事内容を定義し、正当な評価ができる土台を作る
- 協業ルール:報告・連絡・依頼のルートを決め、人間関係のトラブルを未然に防ぐ
【2ヶ月目】業務を仕組み化する(マネージャーの人格)
一般的なイメージとしての「仕組み化」を徹底的に行います。
- 業務の可視化と優先順位:全体像を把握し、どこから手をつけるべきか決める
- 標準化・マニュアル化:誰がやっても成果が出る手順を作成
- 数値化(KGI/KPI/KDI):仕事を数字で見える化し、改善のサイクルを回す
- 改善の仕組み:作って終わりにせず、運用しながらブラッシュアップする体制を作る
【3ヶ月目】リーダーの働き方を仕組み化する
管理職自身の生産性を高め、チームの育成を仕組み化します。
- タイムマネジメント:管理者自身の時間の使い方を効率化し、3つの人格の配分を実現する
- 会議の仕組み化:ムダを削ぎ落とし、チームを活性化させる会議術
- ワンオンワンと委任:属人的ではない、自社ならではの面談と仕事の任せ方を設計
- 人材育成の標準化:教え方のバラつきをなくし、「上司ガチャ」が起きない組織にする
この3ヶ月間のプログラムを通じて、管理職は単に知識を学ぶだけでなく、実際に自社の業務を仕組み化しながら、「仕組みづくりのプロ」としてのスキルを習得します。
プログラム終了時には、職務同意書、業務マニュアル、評価指標、会議の進め方、育成の仕組みなど、形に残る成果物ができあがります。これらが、その後も継続的に機能する「会社の資産」となるのです。
管理職育成計画の立て方
効果的な管理職育成には、計画的なアプローチが不可欠です。ここでは、実践的な育成計画の立て方を、ステップごとに解説します。
ステップ1:現状把握(組織診断の5つのカテゴリー)
育成計画を立てる前に、まず現状を正確に把握する必要があります。組織の状態を以下の5つのカテゴリーで診断します。
1. 組織構造:役割分担は明確か、責任の所在は曖昧になっていないか
2. 業務プロセス:標準化されているか、属人的な業務が残っていないか
3. 人材の状態:スキルレベル、モチベーション、育成の必要性
4. コミュニケーション:報告・連絡・相談の仕組みは機能しているか
5. 評価制度:公正で納得感のある評価ができているか
これらを診断することで、「どこに問題があるのか」「何から改善すべきか」が明確になります。現状把握を怠ると、的外れな育成計画になってしまいます。
ステップ2:組織ビジョンの設定
現状が把握できたら、次は「どこを目指すのか」を明確にします。
3年後、あなたの会社の組織はどうなっていてほしいですか?管理職はどんな役割を果たしていてほしいですか?この理想像を言語化します。
例えば:
- 「社長が1ヶ月不在でも、事業が回る組織」
- 「管理職が現場業務から解放され、戦略に集中できる状態」
- 「新人が3ヶ月で戦力になる育成システムがある組織」
このビジョンと現状のギャップが、育成計画で埋めるべき距離になります。
ステップ3:役割分担と職務内容の明文化
組織ビジョンが定まったら、それを実現するための役割分担を設計します。
まず、組織図を作成します。単なる名前と肩書きの一覧ではなく、「誰が何に責任を持つのか」を明確にした機能的な組織図です。
次に、各ポジションの職務内容を明文化します。特に管理職については、以下の項目を明確にします。
- ポジションの目的(なぜこの役割が存在するのか)
- 主要な責任(具体的に何をする人なのか)
- 時間の使い方(職人30%、マネージャー40%、起業家30%)
- 成果指標(何ができていれば成功なのか)
- 権限の範囲(どこまで自分で決めていいのか)
- 報告先と報告内容(誰に何を報告するのか)
これらを文書化したものが「職務記述書」となり、育成計画の土台になります。
ステップ4:評価指標の設定(KGI/KPI/KDI)
管理職育成を成功させるには、明確な評価指標が必要です。ここでは、3つの指標を設定します。
KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)
最終的に達成すべきゴールです。例えば「チームの売上目標達成」「離職率の低減」「新規顧客獲得数」など。
KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)
KGIを達成するための中間指標です。例えば「商談件数」「顧客満足度スコア」「提案書の提出数」など。
KDI(Key Do Indicator:重要行動指標)
具体的な行動レベルの指標です。管理職育成においては、「業務マニュアルの整備率」「ワンオンワン実施回数」「仕組み化に使った時間の割合」など。
この3つの指標を設定することで、管理職は「何をすれば評価されるのか」が明確になり、育成計画も具体的な行動に落とし込めます。
管理職による部下育成の仕組み化
管理職育成の最終的なゴールは、管理職自身が「仕組みづくりのプロ」になることです。そして、その仕組みの中で最も重要なのが「部下育成の仕組み化」です。
管理職自身が仕組みづくりのプロになる
従来の管理職育成では、「部下をどう育てるか」というスキルを教えます。しかし、それだけでは不十分です。
なぜなら、管理職個人のスキルに依存した育成方法では、その管理職が異動や退職をすると、育成ノウハウも一緒に失われてしまうからです。
真に効果的な管理職育成とは、管理職に「部下育成の仕組みを作る能力」を身につけさせることです。つまり、管理職自身が仕組みづくりのプロになることが目標なのです。
属人的な育成から標準化された育成へ
多くの組織では、部下育成が完全に属人化しています。
Aさんの下についた新人は3ヶ月で戦力になるが、Bさんの下についた新人は半年経っても独り立ちできない。この差は、個人の教え方の違いから生まれています。
しかし、これでは組織として再現性がありません。優秀な管理職が辞めてしまったら、その部署の育成機能が一気に低下してしまいます。
部下育成を仕組み化するとは、以下のような状態を作ることです。
育成の標準化
- 新人が最初の1週間で学ぶべきことが明確
- OJTのチェックリストが用意されている
- 育成の進捗を可視化できる
育成の評価基準
- スキルレベルを段階的に定義
- 各段階で「できる」の基準が明確
- 評価者によるブレが少ない
育成のフィードバック
- 定期的な1on1の実施ルール
- フィードバックの型(何を、どう伝えるか)
- 成長を促す質問のテンプレート
「上司ガチャ」をなくす
「上司ガチャ」という言葉をご存知でしょうか。これは、どの上司の下につくかが運次第で、当たりの上司なら成長できるが、外れの上司だと成長できないという状況を指します。
この「上司ガチャ」は、組織にとって深刻な問題です。優秀な人材が、たまたま育成下手な上司の下についてしまったために、能力を伸ばせず退職してしまう。これは会社にとって大きな損失です。
上司ガチャをなくすためには、育成を個人の資質に依存させるのではなく、会社として標準化された育成の型を持つ必要があります。
例えば:
- 新人育成の標準的なカリキュラムがある
- 1on1の進め方に共通のフォーマットがある
- フィードバックの仕方を全管理職が学んでいる
- 育成の進捗を可視化するツールがある
こうした仕組みがあれば、どの管理職の下についても、一定の質の育成を受けられるようになります。
ワンオンワンと委任の標準化
部下育成の仕組み化において、特に重要なのが「ワンオンワン」と「委任」の標準化です。
ワンオンワンの仕組み化
効果的なワンオンワンには、以下の要素が必要です。
- 頻度とタイミング:週1回30分、月1回60分など、ルールを決める
- アジェンダ:何を話すかの標準的な項目(進捗確認、課題の相談、キャリアの話など)
- 質問の型:成長を促す質問のリスト(「今週学んだことは?」「次に挑戦したいことは?」など)
- 記録の方法:話した内容をどう記録し、次回にどう活かすか
これらを標準化することで、管理職が変わっても一定の質のワンオンワンが継続されます。
委任の仕組み化
部下を成長させるには、適切に仕事を任せることが重要です。しかし、多くの管理職は「任せ方」を知りません。
委任を仕組み化するとは:
- 委任のレベル定義:指示型、相談型、報告型、完全委任型など、段階を明確にする
- 委任の判断基準:どのレベルの仕事を、どのスキルレベルの部下に任せるか
- 委任時のコミュニケーション:期待値、権限の範囲、報告のタイミングを明確に伝える
- フォローの仕組み:任せっぱなしにせず、適切なタイミングで進捗確認する
こうした仕組みがあることで、管理職は安心して部下に仕事を任せられ、部下も明確な期待値の中で成長できるようになります。
管理職育成の成功事例
実際に、ここまで説明してきた方法で管理職育成に取り組んだ企業の事例をご紹介します。
訪問治療「令和柔整鍼灸師会」様の事例
訪問治療を行う「令和柔整鍼灸師会」様では、管理職が中心となって仕組み化に取り組みました。
育成前の状況
それまでは、スタッフは完全に「指示待ち」の状態でした。現場で何か問題が起きても、「どうすればいいですか?」と上司に聞くばかり。管理職も社長も、細かな判断に追われる日々が続いていました。
管理職自身も、「自分が何をすべきか」が曖昧で、現場業務と管理業務の間で板挟みになっていました。
取り組んだこと
まず、管理職の役割を「仕組みづくり」と明確に定義しました。そして、インサイドアウトのアプローチで、以下のステップで仕組み化を進めました。
- 組織の理念とビジョンを言語化
- 各ポジションの職務内容を明文化し、職務同意書を作成
- 業務プロセスを可視化し、マニュアル化
- 評価指標を設定し、定期的なフィードバックの仕組みを導入
特に重要だったのは、管理職が「なぜこの仕組みが必要なのか」を理解し、納得した上で取り組んだことです。理念から始めたことで、単なる作業ではなく、意味のある活動として仕組み化に向き合えました。
指示待ちスタッフが自主的に動く組織へ
仕組み化を進めた結果、驚くべき変化が起こりました。
それまで指示待ちだったスタッフが、自ら「もっとこうしたら良いのでは?」と改善案を出してくれるようになったのです。
これは、マニュアルができたことで、逆に自由になったからです。基準が明確になったからこそ、「ここはもっとこうできる」「この部分は改善の余地がある」と、自分で考えて動けるようになりました。
管理職も、細かな判断から解放され、本来の仕事である「チームの未来を考えること」「仕組みを改善すること」に時間を使えるようになりました。
3つの成果:業務標準化・業績向上・人材育成
同社では、仕組み化を通じて以下の3つの成果を得ることができました。
成果1:業務の標準化
誰がやっても同じ品質でサービスを提供できるようになりました。特定の人に依存せず、チーム全体のパフォーマンスが安定しました。新人の育成期間も大幅に短縮されました。
成果2:業績の向上
自社独自の「勝てる型」が仕組みになったため、他社との差別化が生まれました。顧客にとっての価値が高まり、リピート率が向上。結果として業績も向上しました。
成果3:経営人材の育成
仕組みを改善する過程で、常に「理念」に立ち返ります。そのため、自然と理念を共有できる人材が育ちました。管理職は単なる現場監督ではなく、将来の幹部候補として成長していきました。
この事例が示すのは、管理職育成の本質は「スキルを教えること」ではなく、「仕組みづくりのプロに育てること」だということです。そして、その仕組みには理念が組み込まれているからこそ、組織全体が同じ方向を向いて成長できるのです。
管理職育成におすすめの本・リソース
管理職育成について、さらに深く学びたい方のために、おすすめの書籍とリソースをご紹介します。
マイケル・ガーバー『はじめの一歩を踏み出そう』
管理職育成を考える上で、最も重要な一冊が、マイケル・ガーバー氏の『はじめの一歩を踏み出そう(原題:The E-Myth Revisited)』です。
この本では、本記事でも紹介した「3つの人格」(職人・マネージャー・起業家)の概念が詳しく解説されています。多くの中小企業が、なぜ成長の壁にぶつかるのか。それは、経営者が「職人の人格」に囚われているからだとガーバー氏は説きます。
そして、その解決策として「仕組み化」の重要性を説いています。自分が不在でもビジネスが回る状態を作ること。これは、経営者だけでなく、管理職にも当てはまる考え方です。
管理職育成を本気で考えるなら、まずこの本を読むことをお勧めします。そして、できれば管理職候補者にも読んでもらい、「3つの人格」の概念を組織全体で共有することが理想的です。
ピーター・ドラッカーの言葉
経営学の父と呼ばれるピーター・ドラッカーも、管理職の重要性について多くの言葉を残しています。
本記事でも引用した、「第一線の現場管理者の仕事がすべてを決定する」という言葉は、管理職育成の本質を突いています。
会社の顔は、社長ではなく、お客様と接する現場の管理者です。その管理者がどう振る舞うかが、会社のブランドと信頼を左右します。だからこそ、管理職育成は経営の最重要課題なのです。
ドラッカーの著書では、『マネジメント[エッセンシャル版]』が入門書として最適です。管理職の本質的な役割について、深い洞察を得ることができます。
仕組み経営の考え方
本記事で紹介してきた「仕組み化」のアプローチは、「仕組み経営」という考え方に基づいています。
仕組み経営とは、マイケル・ガーバー氏の理論を日本の中小企業向けに体系化したメソッドです。単なるマニュアル作成ではなく、「理念から始める仕組み化」を特徴としています。
インサイドアウト(内側から外側へ)のアプローチ、職務同意書による期待値の一致、3つの人格に基づいた時間配分など、実践的なツールとフレームワークが用意されています。
管理職育成において、この仕組み経営の考え方を取り入れることで、属人的な育成から脱却し、再現性のある育成システムを構築できます。
実践プログラム:仕組み化プロフェッショナル養成講座
書籍で学ぶことも重要ですが、実際に管理職育成を進めるには、実践的なプログラムが必要です。
「仕組み化プロフェッショナル養成講座(新任マネージャーコース)」は、本記事で解説してきた内容を、3ヶ月間で実践しながら学ぶプログラムです。
- 単なる座学ではなく、自社の実際の業務を仕組み化していく
- 職務同意書、業務マニュアル、評価指標など、形に残る成果物を作る
- 定期的なコーチングで、確実に仕組み化を進める
新任管理職を配置する予定なら、今から準備を始めることで、スムーズなスタートを切ることができます。
詳しくは、以下のページで全体像をご確認いただけます。


