ベテラン社員のノウハウとは?
まずベテラン社員のノウハウにはどういうものがあるのかを考えてみましょう。一般には技術や開発にかかわるノウハウだと考えられていますが、それだけではありません。
営業職においても、交渉やプレゼンテーション等様々なノウハウがありますし、顧客サポート職においても、顧客対応の方法やクレーム対応等、様々なノウハウがあります。
バックオフィス(間接部門)ほどノウハウ伝承が難しい?
また、経理や総務などのバックオフィス業務(間接業務)においても、その会社ならではのノウハウがあったりします。私たちが様々な会社の仕組み化のご支援をしてきた経験で言うと、意外とバックオフィス業務のほうが仕事がブラックボックス化しており、ノウハウ伝承が進んでいないイメージがあります。
経営者からすると、バックオフィス業務は利益を生まないコストとして捉えてしまうため、最小限度の人員で運営しようと考えます。そのため、特定個人にノウハウが集中してしまうのです。
ベテラン社員のノウハウ伝承(継承)は個人に任せるな
ベテラン社員の下に若手を付け、OJTでノウハウ伝承させようとしている会社は多いと思いますが、これだけでは不十分です。なぜなら、ベテラン社員が全員教えるのが上手だとは限らないからです。また、教え方や教える内容が個々人に依存してしまっては、若手の成長にばらつきが出てしまい、会社としては好ましくありません。
OJTによるノウハウ伝承が出来ているか?
OJTというのは、もともとチャールズ・R・アレンが開発した4段階職業指導法がもとになっています。その内容は以下の通りです。
- 新人を配置 – 彼らが仕事に関し、事前に何かを知っているかどうかを調べること。彼らに学習に対する興味を持たせること。適切な持ち場を与えること。
- 作業をして見せる – 注意深く、根気よく、説明し、見せ、図示し、そして質問する。キーポイントを強調すること。一度に1点ずつ、はっきりと完全に教えること、しかし彼らがマスターできる限度を超えてはいけない。
- 効果を確認する – 彼ら自身に仕事をやらせてみる。彼らに説明させながらやらせること、彼らにキーポイントを説明させて示させてみること。質問し、正解をたずねること。彼らが理解したと判断できるまで、続けること。
- フォローする – 彼らに、彼ら自身が必要なときにだれに質問したらよいかの相手を判断させる。頻繁にチェックすること。積極的に質問するよう促すこと。彼ら自身に、その進歩に応じたキーポイントを見つけさせること。特別指導や直接のフォローアップを段々減らしていくこと
実際のところ正しくOJTが出来ている会社は少なく、ほとんどの場合には入社後、OJTという名のもとに現場放置されているケースが多いのではないでしょうか?
ノウハウ伝承(継承)は仕組みで行う
そこで、社内にノウハウ伝承(継承)の仕組みを整えることが大切です。
いつも例に出すのが、伊勢神宮の話です。
伊勢神宮は式年遷宮が20年に一度行われます。
遷宮によって、いつまでも神宮を変わらない姿にしておくと同時に、唯一神明造という神宮独自の建築技術を伝承していくことが出来ます。
神宮を永遠に残していきたいという想い(会社でいう理念)があり、遷宮というイベント(会社でいう事業モデル)があり、その中で職人技を伝承していく仕組み(会社でいう組織)があります。
ベテラン社員のノウハウを伝承(継承)するためのチェックリスト
では、ベテランのノウハウを伝承(継承)するために、どんなことを考えるべきでしょうか。以下に、そのためのチェックリストをご紹介します。
1.ビジョンや事業モデル達成に、”本当に”ベテランのノウハウが必要か?
まず、逆説的になりますが、自社が目指すビジョンや実現しようとしている事業モデルに、ベテランのノウハウが本当に必要か?を考え直すことが欠かせません。
いままでは個人の職人技に頼ってやって来たけど、たとえば機械化したり、ツールを導入したりして、個人のノウハウに頼らない事業モデルに出来ないか?という選択肢も考えてみるわけです。
ノウハウが必要な仕事をまるごと機械化することは難しいとしても、一部を機械化したり、ツールを導入することで、仕事をより簡単に出来るかもしれません。
ベテランのノウハウが要らないやり方に変える
たとえば、私たちの事例で考えてみます。
今ほどオンライン化が進む前は、認定講師の方々にセミナーのやり方を共有し、誰でも出来るような仕組みを整えようとしました。しかし、これまでセミナーをやったことが無い人にそのやり方を伝承するのはそう簡単ではありませんでした。どうしても、出来る人と出来ない人の差が大きく開いてしまいます。
一方、いまはセミナーを完全にオンライン化していますので、個々人が自分でセミナーを開催する必要が無いようしています。これによって、必要とされるノウハウが大きく簡素化できるのです。逆に言うと、成果を出すためにより重要な仕事に集中できると言えます。
このように、そのノウハウを伝承(継承)しようとする前に、成果を出すためにどんなやり方が最適なのか?を改めて考え直すわけです。
自社に使えるテクノロジーがないかを幅広く調べたり、他社や他業種ではどうやっているか?なども調査する必要があるでしょう。
2.ノウハウ伝承の社内文化があるか?
技術主導型の会社によくありがちなのが、ベテラン社員と若手社員との壁です。
ベテラン社員は仕事は見て覚えるもの、時間がかかって当然、という価値観です。
一方、若手社員は教えてくれないとわからない、教えるほうが責任を持つべきだ、という価値観です。
この価値観の違いが、ノウハウ伝承の文化を妨げます。
Culture eats strategy(文化は戦略を喰う)と言われるように、いくら戦略が優れていても、文化次第で戦略が実行されないのです。
ノウハウ伝承の文化を創っていくには?
上記のような価値観の相違がある場合には、まずは同意できるスモールグループだけで事を始めるのが大切です。全員の同意を得ようと思ったらいつまでも始まりません。
人の価値観というのは、過去の成功体験や失敗体験をベースにして形作られます。
スモールグループで成功した事例が出てくれば、最初は抵抗していた人たちも徐々に混ざってくることがあります。
3.伝承すべきノウハウが明らかになっているか?
どのノウハウを伝承しなくてはいけないか?というリストやマップが必要です。
たとえば、私たちみたいな講座ビジネスをする場合には、講座終了後に受講生がどうなっているか?何が出来るようになっているか?というゴールから考えます。
そして、そのために何をどの順番で伝えていくか?という設計に入ります。
ノウハウの伝承もこれと同じで、何が出来るようになっている必要があるのか?というところから考えていきます。
例)営業職において伝承すべきノウハウとは?
たとえば、営業職で考えてみましょう。
営業職の仕事の目的は何でしょうか?
商品を売ること?
それだけではありませんね。顧客に必要のない商品を売って、売上を上げたとしたら、顧客満足度は下がり、リピートや次の商品を買ってくれることはありません。
営業職の目的は、長期にわたって自社商品を買い続けてくれるように顧客と良好な関係性を築くことです。
では、そのために何が必要か?
商品をプレゼンするノウハウも必要ですし、顧客と良好な関係性を築くためのノウハウも必要になります。これらのノウハウを分解していき、何を伝承していくのかを明確にしていきます。
4.伝承する側に指導する能力はあるか?
よく言われる通り、プレイヤーとして有能なことと指導者として有能なことは別です。
元ラグビー日本監督のエディー・ジョーンズさんはプレイヤーとしては芽が出なかったそうですが、指導者としては有能でした。
指導者としては、言語化する能力や根気強さ、コーチング能力などが求められます。
そういった人が社内にいるかどうか、育てられるかどうかが大切です。
5.ノウハウを伝承するためのマニュアルやツールがあるか?
指導者がいても、口伝だけでは体系的にノウハウを教えることが出来ません。
そこで必要なのがマニュアルやツールです。
マニュアルとは、言い方を変えれば、教育用のテキストです。それを見れば、完璧に仕事が出来る、というものではありません。マニュアルをベースに繰り返し実践することで、仕事のレベルが高まっていくわけです。
マニュアル作りについてはこちらから:
6.ノウハウを継承する側に意欲があるか?
これからノウハウを受け継ぐ側の人の資質も大切です。
受け継ぐ側が学ぶことに準備が出来ていなければ、すべての努力が無駄になります。
IT業界の名だたるトップリーダーが”コーチ”と崇めているビル・キャンベルという人物がいます。
この人を描いた「1兆ドルコーチ」という本があるのですが、成功するにはコーチを受ける側が”コーチを受ける準備が出来ていること”が大切だと書いてあります。
新卒社員の場合にはこの辺があまり問題になりませんが、中途採用の人に教えようと思うと、意外と問題になることがあります。
そこで大切になってくるのが、採用の仕組みです。採用時点でどういう人を入れるか?それ次第で決まってきます。
どんな能力や資質の人を採用するかは各社ごとに変わってくると思いますが、どんな会社でも唯一、共通して求められる資質は、”素直さ”です。
これは私が言っているわけではなく、「はじめの一歩を踏み出そう」の著者、マイケルE.ガーバー氏が過去何十年、何万社と見てきて導き出した原則です。松下幸之助さんも同じことを言っていたと思います。
7. ノウハウを継承することで自分の未来が見えるか?
これもノウハウを継承する側の問題です。ノウハウを伝承していく際には、学ぶ側の「それを学んで自分に何かメリットあるの?」という疑問に答える必要があります。
そのノウハウを継承することで、
- より高度な仕事を担当できるようになる
- 自分の市場価値が高まる
- 自分の給与が高まる
等、その人のキャリアにとってメリットがあることを伝えなくてはいけません。
ノウハウ伝承(継承)の仕組みを創るなら
以上、”ベテラン社員のノウハウを伝承(継承)するためのチェックリスト”ということで7つの点をご紹介しました。ぜひご参考にされてみてください。なお、仕組み経営では、以上のようなことを踏まえ、ノウハウ伝承(継承)の仕組みもご支援しています。詳しくは以下の体験ウェブセミナーをご活用ください。