経営の原理原則

経営の原理原則【完全解説】東西の経営思想に共通する成功の本質



「売上が上がっても、なぜか手元に現金が残らない」「自分が現場にいないと、トラブルが起きて仕事が止まる」「社員が思うように動かず、結局自分が一番働いている」

もしあなたが経営者として、こうした「目先の火消し」に追われているとしたら、それは決してあなたの努力不足ではありません。実は、多くの会社が陥るこの状況は、経営の「やり方(テクニック)」に振り回され、「原理原則(本質)」を見失っていることから生じています。

SNSマーケティングや最新のAIツール、目新しい組織論など、流行のノウハウが次々と現れます。経営者であるあなたも、こうした情報の波に翻弄され、「次はこれを試してみよう」と新しい手法に飛びついた経験があるかもしれません。しかし、そうした「流行りもの」は賞味期限が短いものです。土台がしっかりしていない会社がどれだけ最新のノウハウを取り入れても、一過性の成果で終わるどころか、組織に混乱を招くだけという結果に終わることが少なくありません。

では、何が足りないのでしょうか。それこそが「経営の原理原則」です。時代が変わっても色褪せない普遍的な法則を理解し、それを自社の土台に据えることができれば、流行の手法もはじめて真の力を発揮します。本記事では、机上の空論ではない、現場で戦う社長が「自社を一生モノの資産に変える」ための不変の法則を解き明かしていきます。

時代と国境を超えた原理原則を生み出した「経営の3大巨頭」

本記事で解説する原理原則は、一代で巨大企業を築き上げ、あるいは数万社のビジネスを救済してきた、以下の3人の「実務家」たちが到達した共通の結論です。彼らの実績を知れば、その言葉の重みが違って聞こえるはずです。

「経営の神様」松下幸之助(パナソニック創業者 / PHP研究所創設者)

町工場からスタートし、世界的な電機メーカー「パナソニック」を一代で築き上げた日本経営界の父。「経営の神様」と称されますが、彼が本当に凄かったのは神がかり的なカリスマ性ではなく、「凡人が非凡な成果を出せる仕組み」を作った点にあります。日本で初めて「事業部制」を導入し、権限を委譲することで、社員一人ひとりが経営者として振る舞う「自主責任経営」を確立しました。精神論だけでなく、極めて合理的な組織運営を徹底した実務家です。

▶松下幸之助の名言や功績はこちらの記事に詳しくまとめています。

「高収益経営の体現者」稲盛和夫(京セラ・KDDI創業者 / JAL名誉会長)

京セラとKDDIという2つの巨大企業を創業し、晩年には破綻した日本航空(JAL)をわずか3年で再生させた「現代の名経営者」。彼の代名詞である「アメーバ経営」は、組織を小集団に分け、「全員が数字を見て経営に参加する」ための精緻な管理会計システムです。「利他の心」という哲学と、「徹底した数字管理」という科学を融合させ、どんな不況下でも利益を出し続ける高収益体質を作り上げました。

▶稲盛和夫の功績はこちらに記事にまとめています。

「世界No.1のスモールビジネス・グル」マイケル・E・ガーバー(『はじめの一歩を踏み出そう』著者)

世界145ヵ国で翻訳され、数百万人の起業家に読まれたベストセラー『The E-Myth(邦題:はじめの一歩を踏み出そう)』の著者。米国のインク誌から「世界一の起業家育成家」と評されています。彼の最大の功績は、多くの社長が陥る「職人の罠(現場仕事に忙殺され、経営ができない状態)」からの脱却方法を体系化したこと。マクドナルドのような「誰がやっても同じ成果が出る仕組み」こそが、ビジネスを拡大させる唯一の鍵であると説き、世界中の中小企業経営者に革命を起こしました。

そして、何よりこのサイト、仕組み経営が生まれるきっかけを作ってくれた人物でもあります。つまり、私の師匠的な存在です。

▶マイケルE.ガーバー氏の功績や考え方はこちらの記事に詳しくまとめています。

時代も場所も異なるこの3人ですが、行き着いた答えは驚くほど一致しています。それは、「特定の天才に頼るのではなく、理念と仕組みによって、普通の人たちが輝く組織を作る」ということ。次章からは、彼らが共通して説く「5つの原理原則」を、現代の経営に取り入れやすい形で解説していきます。

原理原則1:事業の目的を「私心」から「大義」へ昇華させる

「なぜ、社員は自分と同じ熱量で働いてくれないのか?」

「なぜ、離職率が下がらないのか?」

多くの経営者が抱えるこの悩みの答えは、実は非常にシンプルです。それは、会社の目的が経営者の「私心(エゴ)」で止まっているからです。

「売上10億円」「上場」「業界No.1」。これらは経営者にとっては魅力的かもしれませんが、従業員にとっては「社長がベンツを買うため」あるいは「社長の名誉のため」に働くことと同義に映ります。他人の私利私欲のために、自分の命を燃やせる人間はいません。

松下幸之助、稲盛和夫、そしてマイケル・E・ガーバー。日米の巨匠たちが最初に口を揃えるのは、「何のために経営するのか」という目的を、自分(私)から社会(公)へと書き換えることの重要性です。

松下・稲盛が説く「儲け」の正体

「経営の神様」松下幸之助氏は、企業は「社会の公器」であると断言しました。

会社は経営者の私物ではなく、社会から預かっているもの。産業人の使命は「水道の水のように、良質な商品を安く大量に供給し、社会から貧困をなくすこと(水道哲学)」にあると定義しました。

松下氏にとって利益とは、その貢献に対する社会からの「ご褒美」であり、目的そのものではありませんでした。

稲盛和夫氏もまた、第二電電(現KDDI)を創業する際、半年間ものあいだ「動機善なりや、私心なかりや」と自問自答を続けました。

「自分の名前を売りたいだけではないか?」「金儲けがしたいだけではないか?」。そこに一点の曇りもない「世のため人のため(利他)」という動機が確立された時、初めて事業は成功の軌道に乗ると説いたのです。

ガーバーが定義する「2つの夢」

「精神論は苦手だ」という合理的な経営者には、マイケル・E・ガーバー氏の理論が腑に落ちるはずです。彼は、起業家の夢を明確に2つに分けました。

  1. Personal Dream(個人的な夢)


    「お金持ちになりたい」「自由な時間が欲しい」「嫌な上司から逃れたい」。これらは経営者の人生の目的ですが、ビジネスの目的にはなり得ません。

  2. Impersonal Dream(私心なき夢)

    「この地域の不便を解消したい」「顧客の抱える痛みを消し去りたい」。これがビジネスの目的です。主語は「私」ではなく「他者(顧客)」にあります。

ガーバー氏はこう警告します。

「偉大なビジネスは、常に『私心なき夢(Impersonal Dream)』から始まる」

例えば、あなたが飲食店をやるとして、「俺が儲かる店」を作ろうとするか、「子育て中の母親が心から安らげる店」を作ろうとするか。後者のように、ターゲットとなる顧客への深い愛と関心(Impersonal Dream)が出発点になった時、ビジネスは初めて「魂」を宿します。そして皮肉なことに、私心を捨てて他者に貢献しようと徹底した会社こそが、結果として最も多くのキャッシュを手にするのです。

大義が「最強のチーム」を作る

「大義(フィロソフィ)」や「私心なき夢」が明確になると、組織に劇的な変化が起こります。

それは、社長と社員が「同じ方向」を見られるようになることです。

社長と社員が向かい合って説教をする関係ではなく、双方が「顧客の幸せ」や「社会の発展」という共通のゴールを見据え、横並びで走る同志になる。この状態こそが、最強のチームワークを生み出します。

今のあなたの会社の目標は、社員が「自分の人生をかける価値がある」と思えるものでしょうか?

もし答えがNoなら、仕組みやマーケティングをいじる前に、まずはこの「原理原則1」に立ち返る必要があります。

原理原則2:自分がいなくても回る「永続する仕組み」を構築する

「俺が死んだら、この会社はどうなるんだろう?」

もしあなたがこの不安を少しでも感じるなら、それは経営のやり方が間違っています。

マイケル・E・ガーバー、稲盛和夫、松下幸之助。彼らがなぜ、あれほど執拗に「仕組み(システム)」にこだわったのか。

その真の目的は、業務効率化などという小さな話ではありません。「自分のコピー(分身)を作り出し、会社を永続させること」。これこそが仕組み化の核心です。

稲盛和夫がアメーバ経営を作った「本当の理由」

京セラの稲盛氏は、かつて孤独でした。「自分は一人しかいない。自分の代わりに判断し、苦楽を共にしてくれる『共同経営者』が欲しい」。

その切実な願いから生まれたのが、組織を小集団に分けてリーダーに全権を委ねる「アメーバ経営」というシステムです。

彼は、自分の「経営判断の基準(フィロソフィ)」と「数字の見方(会計)」を仕組みとしてインストールすることで、自分と同じように考え、判断できる「ミニ稲盛和夫」を社内に量産したのです。

その結果どうなったか。京セラやKDDIは、カリスマである稲盛氏が現場を去った後も、後継者選びに困ることなく、成長し続けました。

「優秀な後継者」を探してきたのではありません。誰がトップに立っても経営ができる「仕組み」があったから、会社は永続したのです。

「一代で終わる会社」と「100年続く会社」の違い

ガーバー氏も全く同じことを指摘しています。

「あなたのビジネスは、あなたがいなくても機能するか?」

多くの社長は、自分の代で燃え尽きます。それは「社長の属人的な能力」で稼いでいるからです。しかし、それでは会社は社長の寿命とともに死にます。

ガーバー氏は「ビジネス自体を商品として見なさい」と説きました。

あなたが作るべきは、商品ではなく、「平凡な人が、あなたと同じような成果を出せるシステム」です。


  • あなたがいなくても、顧客が集まる集客の仕組み

  • あなたがいなくても、感動的なサービスが提供できる教育の仕組み

  • あなたがいなくても、正しい経営判断が下される財務の仕組み

これらを構築することは、経営者としての責任放棄ではありません。むしろ、「自分が去った後も、社員やその家族を守り抜く」という、経営者としての最大の愛なのです。

製品はコピーされるが「仕組み」はコピーされない

なぜ、松下電器(現パナソニック)は家電で日本一になれたのでしょうか。技術力がずば抜けていたからでしょうか? いいえ、違います。 他社が技術で勝負していた時、松下幸之助氏は「ナショナルショップ」という最強の販売ネットワーク(仕組み)を作り上げていたからです。

どんなに画期的な製品を作っても、競合に買われ、分解(リバースエンジニアリング)されれば、数ヶ月で似たような製品が出てきます。「モノ」だけの優位性は、すぐに崩れるのです。 しかし、松下氏が築き上げた全国2万店以上にも及ぶ「販売網」はどうでしょうか。これは、競合がどんなに優秀な技術者を集めても、一朝一夕には絶対に真似できません。

松下氏は「いい製品を作れば売れる」という職人思考を捨て、「売れる仕組み(流通網)を作った者が勝つ」という経営思考を持っていたのです。 これこそが、ガーバー氏が説く「ビジネス全体を商品と見なす」という教えそのものです。

原理原則3:「事業は人なり」会社は人間成長の「学校」である

「仕組み化」や「マニュアル化」を進めると、必ずと言っていいほど出てくる反論があります。「社員をロボットにするつもりか」という声です。

しかし、それは大きな誤解です。松下幸之助、稲盛和夫、マイケル・E・ガーバー。彼らが作った仕組みは、人を型に嵌めるためのものではなく、「人を育てるための土壌」でした。

彼らの共通認識はこうです。

「会社とは、給料を払う場所ではない。人間を成長させる『学校』である」

「物をつくる前に人をつくる」という経営戦略

松下幸之助氏は、お客様から「松下電器は何を作っている会社か?」と聞かれたら、こう答えなさいと社員に教えました。

「松下電器は人をつくるところでございます。あわせて電気器具も作っております」

これは単なる美談ではありません。松下氏は、事業拡大のスピードに合わせて、大量の「経営者人材」が必要になることを見抜いていました。だからこそ、現場に権限を与え、失敗させ、学ばせる。その教育コストを惜しまず投じたからこそ、あの巨大なパナソニック帝国が築けたのです。

「人が育たないと、会社は大きくならない」。この順序を間違えると、必ず組織は崩壊します。

稲盛和夫が説く「労働の本当の意味」

稲盛和夫氏は、さらに踏み込んで「会社は心を高める『道場』である」と説きました。

多くの人は「生活のために」働きます。しかし、稲盛氏は「仕事を通じて人格を磨くこと」こそが働く目的だと定義しました。

なぜか? 人格が高まれば、自然と「利他の心」で判断できるようになるからです。

アメーバ経営という緻密なシステムがあっても、それを使う人間に「邪心」があれば、数字は改竄され、組織は腐敗します。

「システム(仕組み)」と「フィロソフィ(人格教育)」は車の両輪です。教育なき仕組みは、ただの官僚組織を生むだけなのです。

ガーバーが提唱する「ビジネス=学校」説

欧米の合理主義の権化に見えるガーバー氏も、全く同じ結論に達しています。

彼は「従業員にとって、ビジネスは『学校』でなければならない」と言います。

社員は、あなたの会社で何を学ぶのか?

単なるハンバーガーの焼き方や、伝票の処理方法だけではありません。「規律」を学び、「他者への貢献」を学び、「自分の限界を超える方法」を学ぶのです。

ガーバー氏はこう断言します。


「もしあなたが、社員の成長に関心を持たなければ、社員もあなたのビジネスの成長になど関心を持たないだろう」

「給料」で繋がるな、「成長」で繋がれ

これを実利的な視点で見ると、どうなるでしょうか。

「給料」だけで繋がっている社員は、他社が1万円でも高い給料を提示すれば、すぐに辞めます。これは傭兵と同じです。

しかし、「この会社にいれば自分が成長できる」「人間として大きくなれる」と感じている社員は、簡単には辞めません。それどころか、会社の理念に共鳴し、社長の「分身」として自律的に働いてくれるようになります。

  • 三流の経営者は、人を使い捨てにする。

  • 二流の経営者は、高い給料で人を繋ぎ止める。

  • 一流の経営者は、会社を「最高の教育機関」に変え、人を輩出することで勝つ。

あなたが作るべき「仕組み」とは、業務プロセスだけではありません。

平凡な社員が、仕事を通じて一流の人間へと変貌していく「教育のカリキュラム」を持つこと。これこそが、会社を永続させるための最強の投資なのです。

原理原則4:哲学を具現化するための「計数管理」

「数字は苦手だ」「経理は税理士に任せている」

もし経営者がこの言葉を口にしているなら、その会社は「無免許運転」をしているのと同じです。

松下幸之助、稲盛和夫、マイケル・E・ガーバー。

彼らは全員、強烈な理想家(ロマンチスト)であると同時に、1円単位のズレも許さない冷徹な現実主義者(リアリスト)でした。

なぜなら、「数字なき哲学はただの寝言」だと知っていたからです。

素晴らしい理念(原理原則1)があっても、人を育てる仕組み(原理原則3)があっても、利益が出なければ会社は潰れ、社員もその家族も路頭に迷います。

彼らにとって数字とは、社員を監視する道具ではなく、理想を実現するための「羅針盤(コンパス)」なのです。

稲盛和夫:「会計」がわからんで経営ができるか

稲盛和夫氏は、技術者出身でありながら会計学に精通し、「稲盛会計学」と呼ばれる独自の実学を築きました。彼はこう断言しています。

「会計は経営の羅針盤である」

飛行機が計器を見ずに雲の中を飛べないように、経営者も「今、利益が出ているのか」「現金はいくらあるのか」をリアルタイムで知らずに経営判断を下すことはできません。

多くの中小企業は、税理士から送られてくる「2ヶ月前の試算表」を見て経営をしています。これは、車を運転しながら「バックミラー」しか見ていないのと同じです。

稲盛氏の「アメーバ経営」の凄みは、現場のリーダーたちが「今の数字」を即座に把握できる仕組みを作った点にあります。

「売上最大、経費最小」。この単純な原則を、全社員が毎日の数字として追いかける。だからこそ、京セラはどんな不況でも高収益を叩き出せたのです。

松下幸之助:ダムの水位を常に見ろ

松下幸之助氏は、好況の時こそ不況に備えて資金を蓄える「ダム経営」を提唱しました。

「景気が悪いから赤字でも仕方がない」というのは甘えです。松下氏は、常に数字(ダムの水位)を厳格に管理し、余裕を持って経営することこそが、経営者の社会的責任だと説きました。

また、彼は「ガラス張り経営」の実践者でもありました。


会社の数字をブラックボックスにせず、社員に公開する。「今、会社はこれだけ儲かっている」「ここは苦しい」。

事実を隠さず共有するからこそ、社員は経営者を信頼し、「自分たちの手で数字を良くしよう」という当事者意識(衆知)が生まれるのです。

ガーバー:感情を捨て、事実(数字)を見よ

マイケル・E・ガーバー氏もまた、「数値化(Quantification)」の重要性を徹底的に説いています。

中小企業の社長は、往々にして「感情」で判断します。

「お客さんは喜んでいるはずだ」「今月はたぶん大丈夫だ」。

ガーバー氏は言います。

「ビジネスの健康状態は、感情ではなく数字で測れ」

  • 1日の来店客数は何人か?

  • そのうち何人が購入したか?(成約率)

  • リピート率は何%か?

これらを測定せずに売上を上げようとするのは、目隠しをしてダーツを投げるようなものです。

数字は嘘をつきません。数字という「客観的な事実(ファクト)」だけが、次の改善(イノベーション)の手がかりになるのです。

数字は「社員を守る盾」である

実利的な話をしましょう。

あなたが「数字に強い経営者」になることは、社員を守ることに直結します。

どんぶり勘定の会社は、資金ショートの恐怖に常に怯えることになります。しかし、強固な財務体質と、正確な管理会計の仕組みがあれば、不測の事態が起きてもビクともしません。

「愛があるなら、数字を見ろ」

社員に精神論を説く前に、まずは経営者であるあなたが、今の会社の状況を正確な数字で語れるようになること。

それが、盤石な経営基盤を作るための第四の原則です。

原理原則5:全ての根源となるリーダーの「素直な心」

大義、仕組み、人、数字。これら全ての土台となり、また全ての崩壊の原因ともなるのが、リーダー自身の「心」です。

最後に、経営者が一生をかけて向き合うべき、最も難しく、かつ最も重要なテーマについてお話しします。

松下幸之助:経営の神様でも「初段」の難しさ

松下幸之助氏は、「素直な心」こそが繁栄の源泉だと説きました。

これは、「人の言うことをハイハイと聞く」ということでは決してありません。私心や感情、先入観という曇りを取り払い、「物事をあるがまま(実相)に見る」という、極めて透徹した精神状態のことです。

「雨が降れば傘をさす」。これは当たり前のことですが、経営においてこの「当たり前」を行うのは至難の業です。

「俺の経験ではこうだ」「プライドが許さない」。そんな我執(がしゅう)が、赤いものを青く見せ、間違った判断へと導きます。

晩年、松下氏はこう漏らしました。


「わしも長年、素直な心になりたいと願って修養してきたが、ようやく初段になれたかなあ、というところや」

一代で世界のパナソニックを築いた経営の神様でさえ、死ぬまで「初段」だと嘆くほど、自分の心を空っぽにして事実を見ることは難しいのです。

「俺はもう分かっている」と思った瞬間、経営者は終わりです。常に「自分はまだまだとらわれている」と自戒する謙虚さだけが、組織を守る最後の砦となります。

ガーバー:「職人の呪縛」を解く白い紙

一方、マイケル・E・ガーバー氏は、この「とらわれない心」を「真っ白な紙(A blank piece of paper)」というツールで表現しました。

なぜ、経営者は新しい仕組みを作れないのか?

それは、あなたの心に「私は〇〇屋である」という強烈な思い込み(呪縛)が刻み込まれているからです。

  • 水道屋で起業した人は、「自分は水道屋だ」と思い込んでいる。

  • エンジニアで起業した人は、「自分はエンジニアだ」と思い込んでいる。

これが最大の悲劇です。

「水道屋」だと思っている限り、あなたは一生、現場でパイプを修理し続けます。会社を変えること(起業家の仕事)よりも、目の前の修理(職人の仕事)を優先してしまうのです。

だからこそ、ガーバー氏は言います。

「一度、真っ白な紙に戻りなさい」

「私は水道屋ではない。水道修理サービスを提供する『ビジネス』を構築する起業家だ」

そう定義し直した時、初めてあなたの目は現場作業から離れ、会社の未来(仕組み)へと向きます。

「真っ白な紙」と「初心」。それは、職人としての過去の自分を殺し、経営者として生まれ変わるための、絶対に必要な儀式なのです。

稲盛和夫:耳の痛い言葉こそ「成長の糧」

稲盛和夫氏もまた、成功し続けるための絶対条件として「素直な心」を挙げましたが、そのニュアンスはより内省的です。 彼は素直な心をこう定義しています。

「自分自身のいたらなさを認め、そこから努力するという謙虚な姿勢のこと」

経営者の中には、能力が高く、気性が激しく、我が強い人が多くいます。そういう人は往々にして人の意見を聞かず、反発するものです。しかし、稲盛氏は「それでは絶対に伸びない」と断言します。 本当に伸びる人は、自分にとって「耳の痛い言葉」こそが、自分を伸ばしてくれるものであると受け止め、常に反省し、自己変革できる人です。

また、ここには実利的なメリットもあります。 「そうした素直な心でいると、周囲にはやはり同じような心根をもった人が集まってきて、ものごとがうまく運んでいく」 ワンマン社長が孤独になるのは、批判を許さないからです。自分の至らなさを認める謙虚なリーダーの周りにこそ、真の協力者が集まり、最強のチームができるのです。

結論:5つの原理原則を「自社のDNA」にせよ

松下幸之助、稲盛和夫、マイケル・E・ガーバー。 国も時代も違う3人の巨人が到達した「経営の原理原則」は、驚くほど一致していました。

  1. 大義(Philosophy): 私心ではなく、世のため人のために経営する。

  2. 仕組み(System): 特定の天才に依存せず、凡人が非凡な成果を出せるシステムを作る。

  3. 人(Education): 仕組みを通じて「経営者感覚を持つ人材」を育て、事業承継を可能にする。

  4. 数字(Numbers): 感情ではなく事実(数字)に基づいて舵取りをする。

  5. 心(Mindset): 素直な心で耳の痛い言葉を受け入れ、自らをアップデートし続ける。


これらは、特別な才能が必要なことではありません。あなたの会社でも、明日から実践できることばかりです。

流行のノウハウは数年で廃れますが、原理原則は100年経っても色褪せません。 目先の売上を作る「忙しい職人」として終わるか、それとも自分がいなくなっても社会に貢献し続ける「偉大な企業」を残すか。

後者を目指す経営者にとって、先人たちが遺したこの5つの羅針盤は、迷った時に必ず立ち返るべき「自社のDNA」となるはずです。

【保存版】経営の原理原則・実践チェックリスト

最後に、あなたの会社が今どれだけ「原理原則」に沿って経営できているかを確認してみてください。 これらは、松下幸之助、稲盛和夫、マイケル・E・ガーバーが問い続けた、永続企業の条件です。

  • [ ] 原則1:大義(Philosophy)

    • 会社の目的は「社長の個人的な富(私心)」ではなく、「顧客や社会の課題解決(大義)」になっていますか?

    • 社員は、その目的に共感して働いていますか?

  • [ ] 原則2:仕組み(System)

    • あなた(社長)が現場を1ヶ月離れても、売上や業務は問題なく回りますか?

    • トップセールスのノウハウや業務手順は、誰でも再現できるよう標準化されていますか?

  • [ ] 原則3:人(Education)

    • 会社は「給料を払う場所」ではなく、人間的に成長できる「学校」として機能していますか?

    • あなたの代わりに判断できる「右腕(経営者人材)」が育っていますか?

  • [ ] 原則4:数字(Numbers)

    • 「今、会社がどういう状態か」を、全社員が数字で把握できていますか?

    • 経営判断を「勘や感情」ではなく、「客観的な事実(データ)」に基づいて行っていますか?

  • [ ] 原則5:心(Mindset)

    • 「過去の成功体験」に固執せず、ゼロベースで考え直す勇気を持っていますか?

    • 耳の痛い意見や悪い報告こそ、成長のチャンスとして「素直」に聞いていますか?

判定

  • 5つ全てチェック: 素晴らしい経営です。100年企業への道を歩んでいます。

  • 3〜4つチェック: 良い組織ですが、まだ属人的な要素がリスクとして残っています。

  • 0〜2つチェック: 今すぐ変革が必要です。まずは「仕組み化」から着手しましょう。


追伸 もし、これらの原理原則を精神論としてだけでなく、具体的な「自社の仕組み」として実装することに興味があれば、「仕組み経営」という体系化されたメソッドが役立つかもしれません。 日米の成功事例を統合し、中小企業がステップバイステップで導入できるよう設計されています。必要であれば、こちらから仕組み化ガイドブックをダウンロードしてみてください。


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