ビジョナリーカンパニーシリーズ
ビジョナリーカンパニーは、ドラッカー亡き後、最高の経営思想家ともいわれるジムコリンズ氏の一連の作品です。日本では1から4とタイトルが付いていて、話が連続しているように思えるかもしれませんが、実はそうではありません。1と2は繋がりが深いと言えますが、3と4はそれぞれ独立した読み物としても考えられます。1と2はつながりが深いので本記事で、3と4は別記事にしたいと思います。
詳しい要約に入る前に、それぞれの作品について簡単にご紹介しておきましょう。
「ビジョナリーカンパニー 時代を超える生存の原則」
こちらの原題は、「Built To Last」。永続する会社を創ろうということですね。ビジョナリーカンパニーシリーズとしてはこれが最初に出ていますが、ジムコリンズ氏も指摘している通り、実は次の2のほうが最初に実践すべき内容となっています。
「ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則」
こちらの原題は、「Good to Great」。良い会社をいかにして偉大な会社にするか?です。まずこちらの書籍の実績によって、良い会社が偉大な会社になり、そして、前作のコンセプトを実践することによって、さらに偉大な会社を永続する卓越した会社に変えていく、というのが進むべき順序と言えます。
「ビジョナリーカンパニー3 衰退の5段階」
こちらの原題は、「How the mighty Fall」。偉大な会社はどのようにして落ちぶれるか?本作の最初に書いてありますが、実はこの本はもともとは、次の4作目のプロジェクトを進める中で、1つの記事として書こうと思っていた内容らしいです。ただ、想像以上にボリュームが出たため、書籍にしたものということです。1と2で登場したビジョナリーカンパニーの中にも、衰退していった会社がありまして、なぜそうなっていたのか?を解説しています。
ビジョナリーカンパニー4 自分の意思で偉大になる」
こちらの原題は、「Great by Choice」。まさに自分の意思で偉大になるという意味です。シリーズの中では最も分厚い作品になっています。不確実なカオス時代に成長し続けられる会社は何が違うのか?が本作のテーマです。ビジョナリーカンパニーシリーズではあるものの、1や2で出てきたコンセプトはほとんど登場せず、別物として考えてもいい内容になっています。
ビジョナリーカンパニー以前の作品
ちなみにジムコリンズ氏はビジョナリーカンパニーシリーズで有名になったわけですが、実はその前に「Beyond Entrepreneurship」という本を出しています。こちらは翻訳されていませんが、いい内容なので以下に解説をしています。ぜひ合わせてご覧ください。
ネットフリックス社長のバイブル!ジムコリンズの隠れた名著「Beyond Entrepreneurship」を要約。
では、次からそれぞれの作品について要約していきます。重要なコンセプトに関しては別記事でまとめていますので、合わせてご覧ください。
「ビジョナリーカンパニー 時代を超える生存の原則」の要約
本作に登場する重要なコンセプトは以下の通りです。
時を告げるのではなく、時計をつくる
”経営者の何回もの世代交代、いくつもの製品サイクルを通じて継続し、環境の返還い適応できる組織を作り上げる。ひとりの偉大な指導者やひとつの偉大なアイデアを中心に企業をつくるのとは正反対の考え方である。”
最初に書いてある通り、これはビジョナリーカンパニーにおけるもっとも重要なコンセプトといっていいでしょう。これに関しては以下の記事に詳しく解説しています。
ANDの才能
”いくつもの側面で両極になるものをどちらも追及する。「AかBか」を選ぶのではなく、「AとBの両方」を実現する方法を考える。目的と利益、持続性と変化、自由と責任などである。”
ANDの才能は、ビジョナリーカンパニーを通じてよく出てくる考え方になります。基本理念の維持と進歩を両方追及する、野心を持ちながらも謙虚である、などなど、一見して矛盾と思えることを両方追及するのがビジョナリーカンパニーです。
基本理念
”基本的価値観(組織にとって不可欠で不変の主義)と基本的目的(単なる金儲けを超えた会社の根本的な存在理由)を徹底させ、長期にわたって意思決定を導く原則とし、組織全体が力を奮い立たせる原則にする。”
基本理念も非常に大事な概念なので、以下に解説しました。
BHAG:基本理念を維持し、進歩を促す
”基本理念をゆるぎない土台にするとともに、基本理念以外のすべての点では変化、改善、革新、若返りを促す。慣行や戦略は変えていくが、基本的価値観と目的は維持する。基本理念に一致するBHAGを設定し、達成する。”
ビジョナリーカンパニーを読んだ人の心の最も残る概念がBHAGかもしれません。これも以下に別途解説しました。
BHAG(社運を賭けた大胆な目標)について解説。自己診断付。
「ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則」の要約
本作に登場する重要なコンセプトは以下の通りです。
第五水準のリーダーシップ
第五水準のリーダーは、自尊心の対象を自分自身にではなく、偉大な企業を作るという大きな目標に向けています。我や欲がないのではなく、信じがたい大きな野心を持っていますが、その対象は組織に向けられていて、自分自身には向けられていません。
第五水準のリーダーシップについては以下の記事に詳しく解説しています。
誰をバスに乗せるか?最初に人を選び、その後に目標を選ぶ
偉大な企業は、最初に適切な人をバスに乗せ、不適切な人をバスから卸、適切な人がそれぞれにふさわしい席に座ってからどこに向かうべきかを決める。
これはビジョナリーカンパニー2の中でも、有名なコンセプトでしょう。
人材が重要なのは、よく知られた話ですが、ここで言っているのは、人材が重要なのではなく、”適切な人材”こそが重要であるということなのですす。
ただし、このコンセプトの理解には注意が必要です。一見したところ、
”なるほど、つまり、気の合う仲間を見つけて、彼らと一緒にビジネスをすればいいんだな”
と思うかも知れません。よく言われる、”何をやるか?よりも誰とやるか?が大事”ということですね。
しかし、これはそういう単純なことではないのです。
まず、ビジョナリーカンパニー2の原題は、「Good to Great(良い会社から偉大な会社へ)」というものなので、そもそも新しくビジネスを始めるための方法論ではありません。ですので、すでに何らかのビジネスを行っているという前提なのです。
そのうえで、そのビジネスをさらに偉大なものにするために、適切な人を選び、不適切な人を排除していく、ということです。
単に気の合う仲間が集まって、何をやっていこうか?というように話し合おう、ということではないと考えます。
ビジョナリーカンパニーの一つとして紹介されている、ソニーの事例を見てみましょう。
以下、ソニー(旧東京通信工業株式会社)の設立趣意書の抜粋です(公式HPによる)
戦時中、私が在任していた日本測定器株式会社において、私と共に新兵器の試作、製作に文字通り寝食を忘れて努力した技術者数名を中心に、真面目な実践力に富んでいる約20名の人たちが、終戦により日本測定器が解散すると同時に集まって、東京通信研究所という名称で、通信機器の研究・製作を開始した。
これは、技術者たちが技術することに深い喜びを感じ、その社会的使命を自覚して思いきり働ける安定した職場をこしらえるのが第一の目的であった。戦時中、すべての悪条件のもとに、これらの人たちが孜々(しし)として使命達成に努め、大いなる意義と興味を有する技術的主題に対して、驚くべき情熱と能力を発揮することを実地に経験し、また何がこれらの真剣なる気持を鈍らすものであるかということをつまびらかに知ることができた。
それで、これらの人たちが真に人格的に結合し、堅き協同精神をもって、思う存分、技術・能力を発揮できるような状態に置くことができたら、たとえその人員はわずかで、その施設は乏しくとも、その運営はいかに楽しきものであり、その成果はいかに大であるかを考え、この理想を実現できる構想を種々心の中に描いてきた。
ところが、はからざる終戦は、この夢の実現を促進してくれた。誰誘うともなく志を同じくする者が自然に集まり、新しき日本の発足と軌を同じくしてわれわれは発足した。発足に対する心構えを、今さら喋々(ちょうちょう)する必要もなく、長い間皆の間に自然に培われていた共通の意志に基づいて全く自然に滑り出したのである。
(中略)
その他、短時日の間に、この方面より提案された新製品の研究、試作依頼の種目は相当量にのぼる状態である。また、間接的面から言えば、全波受信機の一般許可による影響は終戦後の「ラヂオ(ラジオ)プログラム」に対する新しい興味と共に、ラヂオセットそのものに対する一般の関心を急激に喚起し、戦災によるラヂオセット、電気蓄音機類の大量焼損も相まって、わが社のラヂオサービス部に対する需要を日を追って増加せしめたのである。その他、諸大学、研究所の学究、同じ志を有する良心的企業家等と、特に深い相互扶助的連係を持つわれわれは、この方面よりの優秀部品類に対する多種多彩な要求に当面しつつあるのである。
ちょっと長いですが、太字のところを見ていただくと、ソニーは設立当初からラジオ分野での事業を行うこと、技術者にとっての理想的な仕事を創っていくこと、という志があったことがわかります。
たしかに具体的な製品はまだ決まっていなかったかも知れませんが、最初から志はあったのです。
そもそも、気の合う仲間と仕事をしたいからといって、自分の情熱がない分野でビジネスをしてしまったら、この後の針鼠の概念に当てはまらなくなってしまいます。
なので、このコンセプトは、
Good(良い会社)がGreat(偉大な会社)になるためには、まず適切な人をバスに乗せ、偉大になるには何をすればいいか?を考えることが必要だ。
と解釈したほうが良いと思われます。
適切な人とは?
ここで疑問が出てきます。
では適切な人とはどんな人なのか?
本書の内容から察するに以下の2つの条件を備えている人であることがわかります。
- 第五水準のリーダーシップ
本書には「飛躍を遂げた企業はどれも、経営陣に第五水準の雰囲気があり、転換期にはとくにそうだった」とありますので、この条件は必要でしょう。
- 基本理念への共感
前作に出てくる「基本理念」。本作には詳しく出てきていませんが、ビジョナリーカンパニーで絶対に揺るがしてはならないのがこの基本理念です。そう考えれば、基本理念への共感は欠かせない条件と言えるでしょう。
本作では第9章の「ビジョナリーカンパニーへの道」のところで、「最初に適切な人を選ぶとは、能力やスキルではなく、基本的価値観と目的への適合性によって人を選ぶことを意味する」と書いてあります。
この文言からも、「適切な人をバスに乗せる」というのは、”気の合う仲間が集まって、何をやっていこうか?というように話し合おう”、ということではないことがわかります。最初に目的と価値観が必要なのです。
なおこの点については、私たちの提唱している仕組み経営の原則と完全に一致します。ビジョナリーカンパニーで適切な人が見るかるまで辛抱強く待つと書かれていますが、たとえば、以下の記事で紹介しているザッポス社は、コアバリューへのフィット度をとても大事にしており、非常に厳しい採用基準で知られています。
ザッポスについて完全解説(ザッポスのコアバリューから採用、ホラクラシーまで)
針鼠(ハリネズミ)の概念
針鼠の概念は、ビジョナリーカンパニーシリーズを通して、最も知られている概念の一つと言えるでしょう。これについては以下の記事で詳しく解説しました。
劇的な転換はゆっくり進む(弾み車)
重い弾み車は、押し始めは非常に重く、ゆっくりとしか進みません。それでも長時間押し続けると1回転します。さらに押し続けると、だんだんと回転の速度が速まっていき、そのうち、勢いが勢いを呼ぶようになり、弾み車の重さが逆に有利となり、力を入れなくても早く回転していきます。
これと同じように、偉大な会社は、一夜にして成功を収めたように報道されることがあるが、実際には、10年以上の月日がかかっている、というのがこのコンセプトです。
良い会社が偉大な会社に転換したのは、何か特定のプロジェクトを進めたからでもなく、特定の商品がヒットしたからでもないわけです。本作では、「魔法の瞬間はない」と表現されています。
大切なのは、針鼠の中心部分から外れないように、一貫性を持って経営を続けていくことです。
ビジョナリーカンパニーへの道
というわけでここまで、ビジョナリーカンパニー1&2の要約をご紹介してきました。では最後に、実際にビジョナリーカンパニーを目指すにはどうすればいいのか?をまとめておきたいと思います。これはあくまで私の個人的見解ですので、ご参考までに。
ジムコリンズ氏も言っている通り、順序的には出版の順序とは逆で、「2⇒1」と実践していくのが良いようです。ただ、誰をバスに乗せるか?(2で登場)の前に、基本理念(1で登場)が必要だったりするので、話はそう簡単ではありません。私なりに考えたところ、実践の順序としては以下の通りかなと思います。
1.第五水準のリーダーシップを理解する
何より最初に第五水準のリーダーシップを理解し、そうなろうとすることが大切だと思います。ただし、本書にも書いてありますが、第五水準のリーダーになるための体系だった方法がありません。そのため、この後のステップを実際に実行していくことで、徐々に身に付けていくことが必要でしょう。少なくともこの段階では、ビジョナリーカンパニーを創ったリーダーとはどんなリーダーであるのか?を知っておくことが大切でしょう。
2.「時計をつくる」「ANDの才能」の概念を理解する
「時計をつくる」「ANDの才能」は、1&2を通じて登場するビジョナリーカンパニーの土台となる概念です。そのため、この2つについても十分に理解をしておく必要があるでしょう。
3.基本理念を考える
基本理念は、組織の基本的価値観と目的から成り立ちます。ビジョナリーカンパニーの聖戦はこの基本理念の範囲内となります。そのため、最初に基本理念について考える必要があります。
4.適切な人をバスに乗せる
次に、基本理念に合う人たちをバスに乗せ、合わない人たちをバスから降ろします。バスから降ろす、というのは米国であれば解雇するということになりますが、日本の場合はそれが難しいです。ただ、私たちの経験から言うと、自社の価値観を明確に定め、それを体現していくと、自然と合わない人たちはやめていく傾向にあります。人が辞めていくのは社長にとっては試練になるかもしれませんが、それを乗り越えれば、今度は、自社の価値観に合う人が集まってくるようになります。
5. 針鼠の概念を基に、BHAGを定める
適切な人達が集まったら、BHAGを設定します。本書で書いてある通り、BHAGは、針鼠の概念に登場する3つの円の真ん中の範囲内である必要があります。そのため、最初に針鼠の概念を理解し、3つの円の真ん中が何なのかを発見することが大切でしょう。そして、その真ん中を追求していくためのBHAGを設定します。
6.弾み車を回し始める
ここまでのステップで、自社の基本理念が決まり、BHAGも決まりました。次は弾み車を回し始めることです。
本書に登場するビジョナリーカンパニーは、いずれも成功の目が出始めるまでに10年~20年かかっています。ですから、一貫性と規律を持って、取り組んでいくことが大切でしょう。
偉大な会社を創りたい方は仕組み経営へ
本記事でビジョナリーカンパニーをご紹介したのは、本サイトで提唱している仕組み経営の概念と非常に近いところがあるからです。私たち仕組み経営では、会社を仕組み化し、永続する組織作りをご支援しています。詳しくは以下から是非ご覧ください。