シンクウィーク(Think Week)とは?ビルゲイツの習慣



シンク・ウィーク(Think Week)とは、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が続けていた、年に2回、1週間ほど仕事から完全に離れて考えることだけに使う習慣です。

ただし、この習慣について広く知られている説明には、大事な部分が抜けています。ゲイツ氏がその一週間で読んでいたのは、社員が書いた提案書でした。一人で山にこもって新しい発想をひねり出していたわけではありません。

この記事では、シンク・ウィークとは何か、なぜマイクロソフトを救ったと言われるのか、そして中小企業の社長が自社で実践するには何を用意すればいいのかを解説します。

シンクウィーク(Think Week)とは?

シンク・ウィーク(Think Week)とは、その名の通り、考える週間(習慣)を持つこと。

ビルゲイツは年に2回、それぞれ1週間ほど、完全に業務から離れ、経営に影響を与える重要なテーマについて検討する習慣を持っていました。

そのお陰で、マイクロソフトは重要な局面において正しい意思決定をすることが出来たとされています。

読み方と英語表記

英語では「Think Week」と表記します。日本語では「シンク・ウィーク」「シンクウィーク」の両方の書き方が使われます。直訳すれば「考える週」です。日本語の記事で「考える週間」と紹介されることもありますが、指しているものは同じです。

なお、社内で提案するときは「シンク・ウィーク」という言葉をそのまま使わないほうが通じます。「年に一度、丸一日、来期のことだけを考える日をつくる」と言うほうが、何をするのかが伝わります。横文字にすると、聞いた側は特別な儀式のように受け取ってしまいます。

いつ、どれくらいの頻度で行われていたのか

ゲイツ氏がこの習慣を持っていたのは1980年代からと報じられています。頻度は年2回、1回につき7日間ほど。場所は森のなかの小屋で、移動はヘリコプターや水上飛行機を使い、その期間は家族も含めて誰も立ち入らせなかったとされています。

これを聞くと、自社には縁のない話に思えるかもしれません。しかし、大事なのは日数でも場所でもありません。この一週間の前後に何が置かれていたのかが、シンク・ウィークの本体です。

シンクウィーク(Think Week)がマイクロソフトを救った

たとえば、インターネット黎明期の頃、マイクロソフトはその波に乗り遅れたと言われていました。ビルゲイツ自身、インターネットの波は感じていたものの、まだその可能性を完全に理解していなかったのです。

そこで、1995年のシンク・ウィークで、ビルゲイツは、インターネットをテーマに選びました。一週間、インターネットがこれからのビジネス、そして人々の生活にどんなインパクトを与えるのか、徹底的に調べたそうです。

シンク・ウィークから帰ってきたビルゲイツは、1995年5月26日、会社のエグゼクティブ向けに「インターネットの高波」(The Internet Tidal Wave)というタイトルの社内メモを発信しました。このメモはIT業界ではかなり有名で、インターネットの将来可能性を示唆したうえで、次に自社が取るべきアクションを示したものとなっていました。

メモの分量は5,600語ほど。そのなかでゲイツ氏は、インターネットを1981年のIBM PCの登場以来もっとも重要な出来事だと位置づけ、「われわれのインターネットへの取り組みは、事業のあらゆる部分にとって決定的に重要である」と書いています。

そして、メモが発信されたわずか3か月後には、MSNというインターネット事業がリリースされ、他の事業についてもインターネットへの対応を進めていきました。

結果、当時、急成長していたインターネット系のベンチャー企業を飲み込む形でマイクロソフトのインターネット事業が成長していったのです。

1995年当時でもマイクロソフトはかなりの規模の会社でしたが、わずか一週間のシンク・ウィークがきっかけで、完全に会社の方向性を変革させました。

シンク・ウィークで読んでいたのは「社員が書いた提案書」だった

ここが、多くの解説記事から抜け落ちている点です。

2005年、ウォール・ストリート・ジャーナルの記者が初めてシンク・ウィークに同行し、その中身が報じられました。それによると、ゲイツ氏が小屋に持ち込んでいたのは、マイクロソフトのエンジニア、幹部、プロダクトマネージャーが書いた提案書でした。新しい技術の案や、投資すべき領域についての提言です。

読む量は膨大で、1日に18時間を読むことに使う日もあったとされています。1回のシンク・ウィークで読んだ提案書の最高記録は112本。この年は100本を目標にしていたと報じられています。

この習慣は、社内で「世界一かっこいい目安箱」と呼ばれていました。社長に直接届く提案の窓口が、年に2回、確実に開くからです。

提案書は2か月前から集められていた

提案書は、シンク・ウィークが始まる2か月前から技術担当のアシスタントが社内から集め、絞り込んでいました。ゲイツ氏が当日に思いつきで集めていたわけではありません。

つまりシンク・ウィークには、本番の一週間の前に、2か月かけて提案を集める工程があります。ここが用意されていなければ、当日は読むものがない状態で山にこもることになります。

読んだあとは数百人に返していた

そしてもう一方の端です。ゲイツ氏はシンク・ウィークの期間中、読んだ提案書に対してコメントを書き、世界中の社員にメールを送っていました。1本の提案書が、何十人もの社員へのメールにつながることもあったとされています。

この「返す」工程があるから、次のシンク・ウィークにも提案が集まります。提案を出しても何の反応もない状態が一度でも起きれば、社員は次から書かなくなります。合理的な判断です。


シンク・ウィークから生まれたもの

報道によれば、次のような取り組みがシンク・ウィークをきっかけに動き出したとされています。

  • 1995年の「インターネットの高波」メモと、そこから始まったブラウザの開発
  • タブレットPCの構想
  • オンラインのビデオゲーム事業

どれも、ゲイツ氏が一人で思いついたものではありません。社内のどこかにいた誰かが書いた提案が、社長に読まれる場所まで届いた結果です。

ここにシンク・ウィークの本質があります。一週間こもることではありません。社内の提案が集まる道筋をつくり、社長がそれをまとめて読む時間を予定に固定し、読んだ結果を必ず返す。この3つが揃って初めて仕組みになります。真ん中だけを真似すると、社長が一週間休んだだけで終わります。

中小企業の社長がシンク・ウィークを実践する方法

自社でやるとしたら、何から始めればいいのでしょうか。

一週間が取れないなら、一日でかまわない

まず日数の話から片付けます。一週間の休みを取れる中小企業の社長はほとんどいません。そして、日数はこの習慣の本質ではありません。

現実的なのは、四半期に一度、丸一日です。年4日です。社内にいると必ず判断を求められるので、場所は会社の外にします。喫茶店でも図書館でもかまいません。大事なのは、その日程を年間の予定表に先に入れてしまうことです。落ち着いたらやろうと考えている社長のところに、落ち着く日は来ません。

前工程をつくる|提案が集まる道筋

その日に読むものが無ければ、ただの休みになります。1か月前に、社員に一枚の紙を出してもらう仕組みを置いてください。

書いてもらう項目は3つで足ります。

  • いま自分の担当で、いちばん無駄だと感じていること
  • 会社として試してみたらいいと思うこと
  • その理由と、やるとしたら最初の一歩は何か

一人一枚、A4で1枚まで。枚数を制限すると、書く側は何を書くかを選ぶようになります。制限がないほうが良いものが集まると思われがちですが、実際は逆です。

後工程をつくる|読んだ結果を必ず返す

読み終えたら、全員に返します。採用するかどうかは関係ありません。「これはやる」「これはやらない、理由はこれ」「これは来期に検討する」の3つに分けて、本人に伝えます。

やらないと決めたものを、理由をつけて返すことがいちばん大事です。採用されたものだけに返事をすると、次から社員は「通りそうなこと」しか書かなくなります。そうなると、社長がいちばん知りたい現場の不都合が上がってこなくなります。

この考え方は、意見が出るようにするための一般的な原則と同じです。詳しくは意識改革とは?言い換えと例文、成功事例4社と進め方でも触れています。

社長がその日を取れない本当の理由

四半期に一日すら取れない場合、原因は忙しさではありません。社長がいない一日を、会社が回せない状態になっているということです。

これは時間の問題ではなく構造の問題なので、時間管理の工夫では解決しません。判断の基準が社長の頭のなかにしかなく、決めてよい範囲が誰にも渡されていない状態です。手をつける順番としては、こちらが先になります。仕事の任せ方|部下に仕事を任せる5ステップと権限委譲のコツ社長の時間管理術。働く時間を減らしながら会社を成長させる。もあわせてご覧ください。

シンク・ウィークで何を考えるか|4Rシステム

大半の業界では、当時のインターネットの登場ほど重大性のある変化は起こってないと思いますが、それでもシンク・ウィークを取り、今後の方向性を定めるのはとても有意義かと思います。

そこで、参考として、中小企業経営のバイブルとされる「はじめの一歩を踏み出そう」著者、マイケルE.ガーバーの発案した「4Rシステム」というのをご紹介しておきます。ガーバーによれば4Rシステムは、会社の方向性を定め直すために定期的に行うべき習慣とのことです。

もちろん、これがビル・ゲイツのやり方と全く同じ、というわけではありませんが、考えるフレームワークとして役に立つと思います。


「R-eview strategic information」(戦略的な情報をレビューする)

自社の経営に影響を与えそうな情報を収集します。同業界の情報だけでは駄目で、代替産業や最新技術系の情報もあったほうが良いでしょう。インターネットで情報収集するのも有りですが、それだと予想可能な情報しか入ってこないので、大型書店の雑誌コーナーなどで目に付く雑誌を探すのも手です。

ここでは、世の中でどんなトレンドが起こっているのか?ビルゲイツの例のように、「高波」と呼べるような大きな変化はないか?などをレビューします。

社員から集めた提案書も、ここで読みます。現場が不便だと感じていることは、たいてい市場の変化が最初に現れる場所です。

「R-ethink vision and strategy」(ビジョンと戦略を考え直す)

いまのビジョンや計画、戦略を振り返ります。そして、レビューした情報に基づいて、”他の選択肢”を検討します。人間、無意識のうちに、一度決めたことに固執しがちになりますが、その制約を取り払うために敢えて他の選択肢を探します。


「R-eaffirm or Revise vision and strategy」(ビジョンと戦略を再確認または改定する)

上記二つのステップを経て、ビジョンや戦略を変える必要があるかを検討します。変える必要がなければ問題ないですが、変える必要性を感じた場合には、慎重に検討する必要があります。ビジョンは会社を憲法みたいなものであり、したがって憲法改正のごとく、様々な影響を考慮することが求められます。経営ビジョンとは?作り方5ステップと策定・浸透の進め方もあわせてご覧ください。


「R-ecommit to the vision and strategy」(ビジョンと戦略に対して、改めて決意する)

考えたこと、変えたことについて、社員に伝えます。ビルゲイツが発信した社内メモがそれに当たります。社長であるあなたからのメッセージは、想像以上に社員の感情に影響を与えるということを忘れないようにします。

 

シンク・ウィークが続かない3つの理由

一度やってみたものの、次がないまま終わる会社があります。原因は社長の意志の弱さではありません。3つとも段取りの問題です。

①日程が予定表に入っていない

「来月あたりに取ろう」と考えている限り、その日は来ません。目の前の案件は必ず、重要な予定を押しのけます。年の初めに4日分の日付を決めて、社員にも共有してしまうのがいちばん確実です。社員が知っていれば、その日に打ち合わせが入りません。

②読むものが用意されていない

当日に「さあ考えよう」と机に向かっても、出てくるのは目の前の悩みだけです。人は材料がないところから新しい発想はできません。集めた提案書、顧客からの声、業界の資料。前もって集める担当を決めておきます。

③戻ってきたあと、何も変わらない

考えた結果が社内で何の形にもならないと、社員から見れば社長が休んだだけになります。次から提案も出てきません。戻った週に、決めたことを社員に伝える場を1つ入れておいてください。ゲイツ氏の社内メモがまさにこれに当たります。

このように、シンク・ウィークは考える力の話ではなく、前後の段取りの話です。仕組み化とは?ビジネスでの意味と仕組みづくりの考え方をそのまま当てはめられます。

シンク・ウィークに関するよくある質問

シンク・ウィークとは何ですか

仕事から完全に離れて、会社の方向性など重要なテーマだけを考えることに使う期間のことです。ビル・ゲイツ氏が年2回、1週間ずつ実践していたことで知られています。

ビル・ゲイツはシンク・ウィークで何をしていたのですか

社員が書いた提案書を読んでいました。2か月前から集められた提案書を、1日18時間かけて読む日もあったとされています。読んだ結果はコメントとして社員に返していました。

一週間も休めません。短くても意味はありますか

あります。日数はこの習慣の本質ではありません。四半期に一度、丸一日から始めてください。大事なのは、その日に読む材料が用意されていることと、戻ったあとに社員へ返す場があることです。

一人でこもらないと駄目ですか

一人である必要はありません。ただし、判断を求められない状態にはしてください。社内にいると必ず声がかかります。場所を外に移すだけで効果があります。経営チームで行う場合は、あらかじめ議題を決めておかないと、いつもの会議と同じ内容になります。

社員から提案が出てきません

出し方が決まっていないか、出したあとの行き先が見えていないかのどちらかです。A4で1枚、項目は3つ、締切は1か月前と決めるだけで出てきます。それでも出ないときは、前回出した提案がどうなったかを社員が知らない可能性があります。

中小企業の社長がやる意味はありますか

規模が小さい会社ほど意味があります。社長が現場に入っている会社では、会社の方向を考える時間が誰の予定にも入っていないという状態になりがちだからです。その状態が何年も続くと、日々の業務は回っているのに会社が同じ場所にとどまり続けます。社長にしかできない仕事については社長の仕事とは?仕事内容の一覧と成長ステージ別のやることで整理しています。

 

以上、ビルゲイツのシンクウィークについて解説しました。ぜひ参考にしてみてください。詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。


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