毎日、忙しく働いているけれど、なぜか会社が成長しない、ということもあると思います。そのような状態から抜け出すには、経営者は仕事を社員に任せ、本来経営者がやるべき仕事に集中する必要があります。しかし、社長が行っている仕事の中には、任せるのが難しい仕事があったり、安心して任せられる能力ある社員がいない、という悩みもあるでしょう。
仕事を任せるとは、自分が抱えている仕事を他の人に渡し、その人が自分で進められる状態にすることです。作業だけを渡して判断は自分に残す形は、まだ任せたとは言えません。判断まで渡すことを権限委譲と呼びます。この違いは記事の後半で詳しく扱います。
そこで本記事では、安心して仕事を任せるための考え方や仕組みについて見ていきましょう。
仕事を任せる際の不安
仕事は任せたいけど、まだ不安・・・
以前任せたことがあったけど失敗した・・・
というような思いをお持ちの方もいると思います。
また、自分は仕事を任せたつもりだったのに、締め切り日になって、”あれ、今日まででしたっけ?”や”どうすればいいかわからなくて、、、”と言われたことはないでしょうか?
このような経験がある人は多く、
”任せると余計時間がかかる。”
”自分でやったほうが出来上がりが良い。”
というように、人に任せるより自分でやったほうが良い、という結論になりがちです。これでは経営者はいつまでたっても忙しいまま。本来の仕事に集中できません。
こうならないために、仕事を任せるスキルを学ぶ必要があります。
”仕事を任せる方法”は仕組み化することで不安は無くなる
さらに、私たちは、仕事を任せる際の社内の仕組みやルールも統一しておくことをお勧めしています。なぜならば、たとえばあなたの仕事を任せるスキルを学んだとしても、次に管理職になる人はまたあなたと同じ問題に突き当たるからです。
仕事の任せ方も仕組みにしておけば、新しく管理職になった人もその仕組みに則って正しく仕事を任せることが出来ます。
「社長や上司の考え方」が仕事を任せるのを妨げている
まず、仕事を任せるのを妨げる考え方を排除していきましょう。私たちがこれまでご支援をお手伝いしてきた経験から言うと、仕事を任せることに失敗する原因は、社長や上司の考え方にあることが多いのです。
例えばどういうことかというと、
「自分だけがこの仕事をできる」という思い込み
「社員に任せるよりも自分でやったほうが早いんじゃないか」という考え方
「自分が全て監視しないと安心できない」という幻想
「忙しさ中毒」(「Busy being Busy」。忙しくすることで忙しいということ)に慣れきっている
といったことです。
これらの誤った考え方について見ていきましょう。
仕事を任せる際の間違い①試行錯誤を許さない
社長やベテラン社員は、自分のスキル、能力をいろんな失敗とか試行錯誤しながら身につけてきたと思います。一方で、その仕事を誰かに任せようとしたときには、試行錯誤を許さないという傾向があります。自分は試行錯誤して身につけてきたはずです。それなのに社員に任せるときには、絶対に失敗するなよ、というプレッシャーを与えながら渡してしまう。これは理不尽な話です。ですからこの考え方を変えないといけない。自分も試行錯誤して、いっぱい失敗もしながら今の能力を身につけました。社員の人にも同じように考えてあげないといけない、ということですね。まずこの考え方のシフトが必要になっていきます。上手くやるためには試行錯誤や失敗を許容しなくてはならない。ただし、これまで自分がやってきた失敗を繰り返さないようにフォローする、ということが大切です。
仕事を任せる際の間違い②100/0の委任
100/0の委任というのは、ある仕事を誰かに任せたいとします。そのとき、その仕事を全部任せようとすることです。その仕事の中には簡単な作業もあれば、高度な判断が必要な作業もあるはずです。それを考慮せずに、仕事を大きな括りで任せてしまいがちです。そうではなく、仕事を分解し、部下が自分一人で出来るところから徐々に任せていくことです。
仕事を任せる際の間違い③時間がかかることを許さない
仕事を社員に任せるより、自分でやったほうが早いと思う人もいると思います。よくありがちなのはこういう場面です。ある仕事を社員の人に任せて、彼らがアウトプットを出してくる。しかし如何せん遅い。そして、いざ成果物出てきたら自分が想定しているイメージと違うものが出くる。そうなると、もう 1 回やり直しだ、となります。
そのやり取りを何回か繰り返して、なんとか納得できるアウトプットが出てきた。そうなると、社長や上司としては社員に任せるよりか自分でやったほうが早い、と思ってしまうわけです。この考え方が仕事を任せることを妨げています。社長や上司から任された仕事を社員がやると時間かかるというのは当たり前なのです。もちろん能力的なこともあります。それに加えて、社員としては絶対に失敗できないと思って慎重にやるわけです。なので時間がかかるのは当たり前だと考えた方がいいですね。
仕事を任せれば10倍時間がかかる
海外のとある起業家の話で、「10 倍の時間基準」というのがあります。例えば社長が自分でやったら 1 時間で終わる仕事があるとします。それを社員に任せた場合時間の猶予は 10 倍与えろと。つまり 10 時間でやれればいい、と考えろという基準です。10 時間以内でやればいいし、10 時間超えたらもうちょいスピード上げてね、と言うべきなのです。もちろん、だんだん慣れてくので、かかる時間は減っていくから、どんどん短縮されてきます。なので、最初は自分でやったほうが早いのですが、10 倍は我慢してあげなさいということです。
仕事を任せる際の間違い④すべてを監視する
仕事を任せたものの、自分が全てを監視したいという欲求や不安がある人は、なかなか任せられません。これが強く出た状態がマイクロマネジメントです。確かにその気持ちは分かります。会社の中でも大事な業務がありますので、それは監視しないとお客様への価値提供が緩んでしまうときがあります。ただ、そこは段階的に変えていけます。目視による監視から、数字や指標による管理へ。そして、その数字を達成しようという規律の文化へ。この順で整えていけば、見張らなくても仕事が回るようになります。
仕事を任せる際の間違い⑤忙しさ中毒
忙しさ中毒というのは、忙しくしていることに安心している人のことを指します。忙しい、忙しいと言っている社長は大体忙しさ中毒になっています。そういう社長は、様々なことを平均的なレベルでやっていることが多いでしょう。
しかし、本来、リーダーがやるべきことは、 1 つのことを極めていくことなのです。それがワールドクラスになるための方法です。これによって時間のゆとりができたり、忙しくなければ仕事している気がしない、という感情から脱出できます。
仕事を任せる際の間違い⑥任せ方が属人的
世の中には、仕事を任せるのが上手い人もいれば、下手な人もいます。両者が社内に混在すると、部署によって結果が変わります。ある部署では上司が仕事を任せるのが上手いために、部下も育ち、上司も管理職の仕事をきっちりこなせる。しかし、別の部署では上司が仕事を任せるのが下手なために部下が育たず、管理職がいつまでもプレイヤーになっている、という状態が続きます。これは会社としてはよろしくない状態です。これは属人化の一種です。そこで、仕事を任せることも仕組みと捉え、社内にその仕組みを創っていかなければいけません。
「丸投げ、放置」にならない仕事の任せ方の手順とコツ
仕事の丸投げや放置は、任せられたほうが一番嫌がるやり方です。社長や上司は、任せた仕事の進捗をフォローアップすることも大事です。しかし、ここでも注意が必要です。
多くの社長や上司は、唐突に、”あれ、どうなった?”と問いただすことをしがちです。
これはお勧めできません。任せられた側にも仕事のスケジュールがあり、それに沿ってあなたから任せられた仕事の計画を立てているのです。また、唐突に問いただされても報告する準備が出来ていません。
ですから、仕事を任せるときには、いつ進捗報告してもらうかも事前に決めておくべきです。そうすることで、任せられた側もそれが大事な仕事であることを認識できます。
では、「仕事を任せる=丸投げ、放置」にならない任せ方の仕組みをどう創っていくかを見ていきましょう。

任せる仕事を特定する
任せたい仕事を特定します。当たり前のことですが、意外と疎かになりがちです。全ての仕事は、始まりがあり、終わりがあります。仕事を任せる際、どこからどこまでを任せるのかを明確に指定しなくてはなりません。たとえば、お客様用の提案書を作る仕事を任せるとしましょう。この際、仕事の始まりはどこでしょうか?提案書づくりのためにお客様にヒアリングするところから任せるのか?もしくはそれはもう終わっているのか?また、仕事の終わりはどこでしょうか?ラフ案が出来ればいいのか?お客様に実際に提出するレベルのものを求めるのか?
このような感じで任せる仕事を特定します。
任せる相手を特定する
これも明白なケースが多いかもしれませんが、任せようとしている仕事にその人が適任かどうかを判断することが大切です。その人の能力はもちろん、その分野への成長意欲や既存の仕事との時間の兼ね合いなども考慮します。また、もし適任者がいない場合には、誰かをトレーニングしてあげることも必要かもしれません。あなたが期待する水準で仕事をしてもらうために、どんな知識やトレーニングが必要かを考えましょう。面倒なようですが、長い目で見れば、それが時間の節約になるでしょう。
任せる前に取り除く
任せる仕事と任せる相手が決まったら、その人が行っている仕事のうち、優先順位が低いものを後回しにさせるか、誰か別の人に回してあげましょう。というのも、部下は既にほかの仕事で忙しいケースが多いためです。新たに依頼された仕事を受け入れる余裕が無いかもしれません。その場合には、仕事を追加する前に、取り除いてあげたほうがうまく行きます。
仕事を任せる
実際に部下に仕事を任せます。その際、以下のような点を確認しましょう。
- 任せた内容を書面に残す。そうすることで、お互いの齟齬が無くなる。
- その仕事を完了させるためのツールや情報をすべて持っているか?つまり、社員がその仕事を完了させるために、いろいろと自分で判断できるようにしなくてはならない。
- 期限を設けたか?期限は細かいほうが良い。日付だけ指定するのではなく、時刻も指定しよう。
- 社員はその期限に間に合うか? 単純に、物理的な時間がないという理由で、仕事が完了しないという事態を避けなくてはならない。
- 中間報告日は必要か?必要ならばいつか?
- 仕事の目的と基準を伝える。その仕事が単なる作業ではなく、会社の大きな目的や顧客のために役立つことを伝える。また、どのレベルで行うことを期待するのかという基準も伝えます。
- 部下のキャリアにつながることを伝える。その仕事をこなせるようになることで、彼らのキャリアにつながることを伝える。
1on1ミーティングで進捗をフォローする
締め切り日にいきなり報告を求めるのではなく、1on1ミーティングを定期的に行い、仕事の進捗確認やフォローをしましょう。
1on1ミーティングのやり方は1on1ミーティングのやり方完全ガイドに記載しています。
仕事を任せるスキルとは?3つに分解できる
仕事を任せるのが上手い人は、特別な才能を持っているわけではありません。やっていることは3つに分解できます。
1. 仕事を分解できる——ひとつの仕事を、判断のいらない作業と、判断のいる作業に分けられます。先に挙げた「100/0の委任」を避けられるのは、この分解ができているからです。
2. 期待する結果を言葉にできる——「いい感じにやっておいて」では伝わりません。何がどうなっていれば完了なのかを、渡す前に言葉にできます。
3. 出来上がるまで待てる——途中で口を出したくなる気持ちを抑えられます。10倍の時間基準は、この待つ力を数字にしたものです。
この3つは性格ではなく手順です。だから会社の仕組みにできます。任せる前に3つを埋める書式をひとつ作っておけば、誰が任せても同じ形になります。「あの人は任せるのが上手い」という属人的な状態から抜け出せます。
仕事の振り方・任せ方の言い換え
仕事を渡すことを指す言葉はいくつかあり、指している範囲が少しずつ違います。
- 仕事を振る・・・作業を割り当てること。誰が何をやるかを決める場面で使います。
- 仕事を任せる・・・作業に加えて、結果への責任も渡すこと。
- 権限委譲(委譲)・・・判断して決める権限まで渡すこと。いちばん範囲が広い言い方です。
- 一任する・・・進め方も判断もすべて相手に委ねること。
- 委任する・・・法律用語でもありますが、社内では権限委譲とほぼ同じ意味で使われます。
「仕事を振るのがうまい人」と「仕事を任せるのがうまい人」は、実は指しているものが違います。前者は割り当ての手際がよい人、後者は相手が育つように渡せる人です。人手が足りないときに必要なのは前者ですが、社長が現場から抜けるために必要なのは後者です。
権限委譲とは?仕事を任せることとの違い
ここまでは作業を渡す話をしてきました。しかし、作業だけを渡しても社長の時間は思ったほど空きません。確認と承認が自分に残るからです。
権限委譲とは、判断して決める権限を相手に渡すことです。仕事を任せることが「やること」を渡すのに対して、権限委譲は「決めること」を渡します。
作業は分けたのに、判断だけは全部社長に上がってくる。これは中小企業で非常によく起きる状態です。分業で言えば、横方向の切り分けだけが進み、縦方向の切り分けが進んでいない状態にあたります。
委譲のレベルを5段階で決める
とはいえ、いきなり全部の判断を渡すのは無理があります。先に挙げた間違い②の100か0かの委任と同じことになってしまいます。そこで、任せるときに判断のレベルをどこに置くのかを、口に出して決めてください。
- 指示どおりに実行する。判断はしない
- 調べて案を出す。決めるのは上司
- 案を出し、承認を得てから実行する
- 自分で決めて実行し、あとで報告する
- 自分で決めて実行する。報告は定期のものだけ
丸投げも過干渉も、このレベルが決まっていないから起きます。上司は3のつもりで渡し、部下は5のつもりで受け取る。この食い違いが「勝手にやった」「放置された」の正体です。どちらかが悪いのではなく、レベルを言葉にしていないだけです。
金額と影響範囲で線を引いておく
レベルを毎回相談していては手間がかかります。そこであらかじめ線を引いて、書いておきます。
たとえば、10万円までの支出はレベル5、それを超えたらレベル3。既存のお客様への対応はレベル4、新規のお客様への値引きはレベル3。こうして決めておけば、そのつど聞かれることが減ります。
線の引き方に正解はありません。大事なのは、書いてあることです。書いていなければ、判断のたびに「これは聞くべきか、決めていいのか」を部下が推測することになります。その推測の手間が積み重なって、確認の多い会社ができあがります。
「仕事」ではなく「ポジション」を任せる
最後に、もう一段上の考え方をお伝えします。
仕事を任せても、その人が辞めたら元に戻ります。時間をかけて教えた仕事は、その人と一緒に会社から出ていきます。そしてまた次の人に、最初から教え直すことになります。仕事を任せるという発想だけでは、この繰り返しから抜け出せません。
そこで必要になるのが、仕事ではなくポジション(職務)を任せるという発想です。
ポジションを任せるとは、「この役割は何のためにあり、何が達成されたら成功なのか」を先に決めて、その役割ごと渡すことです。人に合わせて仕事を切り出すのではなく、会社に必要な役割を先に描いて、そこに人を当てはめます。その設計図にあたるのが組織図です。
ナンバー2に任せただけでは、依存先が変わっただけ
ここで気をつけたいことがあります。頼れる幹部やナンバー2に運営の大部分を任せて、自分依存から抜け出したつもりになるケースです。
しかしその状態は、社長への依存が、ナンバー2への依存に移っただけです。ナンバー2が辞めれば組織は混乱し、社長はまた現場に戻ることになります。委任しているように見えて、実際には放任になっていることも少なくありません。
任せた先が個人である限り、人依存は解消しません。ポジションと、そこでの仕事の進め方が書かれて初めて、人が変わっても同じ成果が出る状態になります。
仕事の任せ方に関するよくある質問
Q. 安心して任せられる社員がいません。どうすればいいですか?
その状態は、能力の問題ではなく順番の問題であることが多いです。任せられる人が育つのは、任せたあとだからです。まずは判断のいらない作業から、レベル1か2で渡してください。そこで結果が出たら範囲を広げます。「できるようになったら任せる」と考えている限り、いつまでも任せる日は来ません。
Q. 任せたのに期限を守ってもらえません。
期限を伝えたかではなく、期限に間に合う状態で渡したかを確認してください。相手が既に他の仕事で埋まっていれば、物理的に終わりません。任せる前に何かを取り除く工程を飛ばしていないか、中間報告日を決めていたか、この2つを見直すと原因が見えます。
Q. 仕事を任せると品質が落ちるのが心配です。
最初は落ちます。それを前提にしてください。落ちたまま戻らないのは、期待する水準を言葉にしていない場合です。「何がどうなっていれば合格か」を渡す前に書いておくと、直しの回数が大きく減ります。書けないなら、それはまだ自分の中でも基準が決まっていないということです。
Q. 権限委譲はどこから始めればいいですか?
金額の小さい支出の判断からをおすすめします。線を引きやすく、失敗しても影響が限定されるためです。まず「いくらまでは相談不要」を一つ決めて、書いて配ってください。それが機能したら、次の範囲に広げます。
Q. 任せた仕事に口を出したくなったときはどうすればいいですか?
口を出す前に、決めたレベルを見返してください。レベル4や5で渡したのに途中で介入すると、次からその人は自分で決めなくなります。どうしても気になるなら、次に渡すときのレベルを下げるほうが筋が通ります。渡し方を変えずに介入だけ増やすのが、いちばん相手を萎縮させます。
Q. 仕事を任せるのが上手い人と下手な人の違いは何ですか?
上に挙げた3つのスキル(分解する、結果を言葉にする、待つ)を持っているかどうかです。ただし、これを個人の資質の差として片づけないでください。会社に任せ方の手順が用意されていなければ、誰もが自分のやり方で任せることになります。上手い下手が生まれること自体が、仕組みが無いことの表れです。
まとめ:仕事を任せる仕組みを作ろう
いま挙げたような注意点とコツを参考に、自社独自の仕事を任せる仕組みを作りましょう。そして、それを全社員に周知するようにしましょう。
人によって仕事の任せ方が違う、というのは”人依存”の会社の典型です。上司と部下の人間関係が崩れる原因にもなりますし、お互いのストレスにもなります。
仕事の任せ方も仕組み化することで人を責めたり、余計なストレスを減らすことが出来ます。
また、様々な業務を仕組み化し、マニュアル化やチェックリスト化をしておくと、仕事を任せるのも非常に容易になります。仕組み経営では、仕事の任せ方のみならず、会社全体を仕組み化し、”仕組みで成長する会社”づくりをご支援しています。詳しくは以下のガイドブックからご覧ください。


