マニュアルが活用されない

なぜ?マニュアルが活用されない【3つの理由】と、その壁を打ち破る方法


清水直樹

せっかく時間をかけて作ったマニュアルなのに、誰も見ずにファイルサーバーの奥で眠ってしまっている。

マニュアル通りにやればスムーズなのに、自己流でやってトラブルになる。

こうした声は、どの会社でも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

本来、マニュアルは業務の効率アップや品質の安定、新人教育を助ける重要な道具のはずです。けれど実際には「作って終わり」「誰も使っていない」といった現実が多くの現場にあります。

この状態を放っておくと、マニュアル作成に費やした時間がムダになるだけではありません。特定の人しか業務をこなせない属人化が進んだり、教育に時間がかかって負担が増したり、作業の質が人によってバラバラになることでミスやムダが増えていきます。本来マニュアルを見ればすぐに分かるはずのことも、人に聞いたり、試行錯誤したりして時間が奪われてしまうのです。

この記事では、「なぜマニュアルは使われなくなるのか?」という問題の根本に迫り、今日からできる具体的な対策をお伝えします。そしてテクニックだけではなく、マニュアルを本当に組織に根付かせるために必要な“考え方”についても、一緒に考えていきたいと思います。

動画でも解説しています。

目次

マニュアルが活用されない「あるある」な現実

多くのマニュアルが活用されずに終わる背景には、共通した原因があります。自社の状況と照らし合わせながら、根本的な理由を探ってみましょう。

マニュアルが使われない3つの理由

理由1:作成自体がゴールとなる「目的の形骸化」

最も多いのが、「マニュアルを作ること」自体が目的となり、「活用する」視点が抜け落ちるケースです。経営層からの指示や、期限に合わせて形だけ整えようとする場合に起こりがちです。

この場合、「誰が、いつ、何のために使うのか」という活用場面が想定されず、作成者は「完成させること」がゴールだと誤解します。結果、現場ニーズに合わない、使いにくいマニュアルが生まれます。例えば、年度末に慌てて作られた立派なマニュアルが、結局ファイルサーバーに眠ったまま、という話は珍しくありません。「作ること」に満足し、「使うこと」が置き去りにされれば、かけた労力は無駄になります。

理由2:現場の実情を無視した「内容の乖離」

次に、マニュアル作成者と利用者の間に認識のずれがあり、内容が現場の実情と合わないケースです。現場を知らない上司や専門部署、外部コンサルタントなどが作成すると、この問題が起こりやすくなります。

現場不在のマニュアルは、細かな手順や注意点、現場特有のノウハウが反映されず、理想論や一般論に偏りがちです。実際の業務フローと異なったり、専門用語が多く理解しにくかったりするため、現場からは「使えない」と判断されます。高額な費用をかけたコンサルタント作成のマニュアルが、現場で全く使われなかった、という事例もあります。マニュアルは使う人のための道具であり、現場の実情が反映されていなければ価値がありません。

理由3:更新されず放置される「情報の陳腐化」

良いマニュアルができても、その後のメンテナンスがされず情報が古くなるのも、活用されない大きな原因です。業務手順やツールは常に変化しますが、更新体制がなかったり、担当者がいても後回しにされたり、更新作業が面倒だったりすると、マニュアルは放置されます。

情報が古いマニュアルは信用を失い、「どうせ古いだろう」と見られなくなります。最悪の場合、間違った情報に基づいて作業し、ミスやトラブルを招くことさえあります。「マニュアルは一度作ったら終わりではない」という意識と、継続的にアップデートする仕組みが不可欠です。

その他、「保存場所が分かりにくい」「必要な情報を探しにくい」「読みにくい」「そもそもマニュアルを見る文化がない」なども活用を妨げる要因となり得ます。

「使われるマニュアル」へ変えるための具体的な解決策

マニュアルが活用されない原因がわかれば、対策も見えてきます。ここでは、形だけのマニュアルを「実際に使われるマニュアル」に変えるための具体的な方法を紹介します。

1. 使う場面から考える「目的重視」のマニュアル作成

「作って満足」という状態を避けるには、最初から「何のため、誰が、いつ使うのか」という使用場面を具体的に考えることが大切です。

明確な目的設定の重要性

まず「このマニュアルで何を達成したいか」という目的を明確にしましょう。例えば:

  • 「新入社員が1週間で一人で作業できるようになること」
  • 「問い合わせ件数を月10件から5件以下に減らすこと」
  • 「ミス率を3%から1%未満に下げること」

目的がはっきりすれば、必要な情報や最適な構成が自然と決まってきます。

対象者を具体的に想定する

「誰がこのマニュアルを読むのか」を具体的に考えましょう。新人向けなのか、経験者向けなのか、特定部署向けなのか、全社共通なのか。読む人のITスキルはどうか。対象が違えば、内容の深さや表現方法も変わります。新人向けなら専門用語を避け、図や動画を多く使うと効果的かもしれません。経験者向けなら要点を絞った方が良いでしょう。

使用シーンを具体的にイメージする

「いつ、どんな状況でこのマニュアルが使われるか」を具体的に考えましょう。入社時の研修で使うのか、日常業務中に調べるためか、引き継ぎ用なのか。例えば緊急対応マニュアルなら、焦っている時でも必要な情報にすぐアクセスできるよう、目次を工夫したりチェックリスト形式にしたりするのが有効です。

具体的なニーズから始める効果

「いつか使うかも」という曖昧な理由ではなく、「来月新しいメンバーが入るから」「最近ミスが増えているから」など、具体的で急ぎのニーズがあるタイミングでマニュアル作成を始めるのが効果的です。必要性が明確なら、作る側のやる気も高まり、より実用的なマニュアルができます。作ったらすぐに使われることで、マニュアルの価値を皆が実感でき、改善への意欲にもつながります。

マニュアル作成は単なる文書作りではありません。「目的達成のための道具を設計する」という意識で、常に使う場面から考えて作ることが、「使われるマニュアル」を生み出す出発点です。

2. 使う人が主役の「現場参加型」マニュアル作成

「現場と合わないマニュアル」という問題を避けるには、実際にそのマニュアルを使う現場の担当者を作成過程に積極的に参加させることが大切です。



「使う人が作る」という基本原則

理想を言えば、「使う人が作る」のが最も確実な方法です。その業務を一番よく知っているのは、日々それに取り組んでいる現場の担当者だからです。上司や管理職が目的や方針を示すことは必要ですが、具体的な内容や表現の工夫は、できるだけ現場に任せるのが良いでしょう。

現場を巻き込むメリット

現場の担当者をマニュアル作成に参加させると、大きなメリットがあります:

  • 現場の実際の手順やコツ、注意点が正確に反映され、内容の正確さと実用性が高まります
  • 作成に関わることで「自分たちが作ったマニュアルだ」という意識が生まれ、活用や改善への意欲につながります
  • 「上から与えられた」ものではなく、自分たちの意見が反映されていると感じることで、納得感も高まります

現場を効果的に参加させる具体的な方法

現場を巻き込む方法としては、以下のようなやり方があります:

  • 業務ごとにマニュアル作成・更新の担当者を明確に決める
  • チーム内で協力して作成し、定期的に内容を確認・改善する会議を開く
  • アンケートなどで広く現場の意見や改善点を集める仕組みを作る

特に重要なのは、マニュアル作成や更新を「ついでの作業」ではなく、正式な業務として位置づけ、必要な時間や権限を確保すること。可能なら評価制度にもその貢献度を反映させると良いでしょう。

「上から一方的に指示する」のではなく、「現場と一緒に、現場のために作る」。この協力の姿勢こそが、現場に受け入れられ、実際に役立つマニュアルを作るカギとなります。

3. 活用と更新を促す「評価・文化」の仕組み

「作りっぱなしで更新されない」という問題を解決し、マニュアルを組織全体で継続的に活用・改善していくには、それを支える仕組みとマニュアルを重視する組織文化の両方が必要です。

マニュアル活用を評価制度に組み込む

マニュアルの活用や改善への貢献を、人事評価や表彰制度などの公式な仕組みに組み込むことが、社員の意識と行動を変える上で効果的です。例えば:

  • 評価項目に「担当業務のマニュアルを理解し、守っているか」
  • 「マニュアルの改善提案を行ったか」
  • 「マニュアル作成や更新に貢献したか」などを設定する

管理職なら「部署のマニュアル整備状況や活用度」を評価対象にするのも良いでしょう。また、スキルマップなどを作成し、業務レベルとマニュアルの理解度・実践度を関連付ける方法も有効です。

マニュアル活用を根付かせる「会社のビジョン」

ここまで、マニュアルが活用されない原因への対策として、目的の明確化、現場の参加、評価の仕組みについて説明してきました。これらは確かに重要ですが、これだけでは根本的な解決にならないことがあります。なぜなら、多くの企業には、マニュアル活用を妨げる「組織文化」という壁があるからです。

その文化を変え、マニュアル活用を本当に根付かせるために最も重要なのが、実は「会社のビジョン」です。一見、マニュアルとは関係ないように思えるかもしれませんが、ここを理解することが全ての取り組みを成功させる核心となります。

「個人依存文化」という障壁

多くの会社では、「個人の経験や勘に頼る」「昔からのやり方を続ける」という「個人依存の文化」が根強く残っています。このような組織では「自分のやり方が一番」と考えるベテラン社員がいたり、新しいやり方やツールに対して抵抗感があったりします。

マニュアルについても「面倒なもの」「形式的なもの」「管理のためのもの」と捉えられがちです。特定の人だけが知っている重要なノウハウが「暗黙知」として共有されず、組織全体の財産として活用されないという問題も起きます。

このような文化が強い組織では、どんな良いマニュアルを作っても、どんな便利なツールを導入しても、現場には浸透しません。「どうせ使わない」「面倒だ」「自分のやり方の方が良い」という反発が起き、結局形だけのものになってしまいます。小手先の対策は、この「文化の壁」の前では効果がありません。だからこそ、文化そのものを変えるアプローチが必要で、その原動力となるのが「会社のビジョン」なのです。

文化を変える力:「個人依存」から「仕組み依存」へ

マニュアル活用を根付かせるには、組織文化を「個人依存」から「仕組みに基づいて業務を運営する文化」、つまり「仕組み依存文化」へと意識的に変えていく必要があります。この大きな変化の過程で、会社のビジョンは決定的に重要な役割を果たします。

ビジョンが示す「仕組み化の必要性」

まず、ビジョンは「なぜ今、仕組み化が必要なのか」という問いへの明確な答えを与えます。会社がどこを目指しているのか、その理想の姿(ビジョン)を示すことで、現状とのギャップを明らかにします。そして「その理想を実現するには、個人の頑張りだけでは限界がある。だからこそ、マニュアルを含めた『仕組み』の力で、より効率的に確実に業務を進め、組織全体として目標達成を目指す必要がある」という、仕組み化の必要性を示す強い根拠となります。

ビジョンが育む「共通の目的意識」

次に、ビジョンは組織内に「共通の目的意識」を育てます。「ビジョン達成」という、組織全体が共有できる大きな目標があるからこそ、日々の業務や、その一部であるマニュアルの作成・活用・更新といった活動が、単なる作業ではなく「ビジョン実現に向けた意味ある貢献」として位置づけられます。これにより、社員一人ひとりの当事者意識と、仕組み化への前向きな意欲を引き出せるのです。

ビジョンが生み出す「変化への動機」

さらに、ビジョンは「変化への動機」としても機能します。多くの人は現状維持を好み、変化には抵抗を感じるものです。しかし、魅力的なビジョンが示され、それが実現した未来への期待感が共有されれば「より良い未来のために、今のやり方を変えよう」という前向きな力が生まれます。仕組み化やマニュアルの導入は、単なる業務負担の増加ではなく、ビジョン実現に向けた組織能力の向上なのだという認識が広まれば、変化への抵抗感は自然と和らいでいくでしょう。

経営リーダーの役割:ビジョンを示し、納得感を育てる

この文化の転換を成功させるうえで、経営リーダーの果たす役割はとても大きいものです。

ビジョンを語り、課題を明確にする

リーダーはまず、会社が目指すビジョンを、自分の言葉で、情熱を持って繰り返し語り続ける必要があります。そして、なぜ現状のやり方では足りないのか、ビジョン実現を妨げる課題は何かを具体的に示し、マニュアルを含む仕組み化がいかにその解決に欠かせないかを、論理と感情の両面から丁寧に説明しなければなりません。

仕組み化の意義を説き、対話を重視する

重要なのは、一方的な指示や押し付けではなく、社員との対話を大切にすることです。ビジョン共有会やワークショップなどを通じて、社員が自ら考え、意見を言える機会を設ける。現場からの声や心配に真剣に耳を傾け、できる範囲でビジョンや仕組み作りに反映させていく。こうした過程を通じて、ビジョンへの共感と、仕組み化への深い納得感を、時間をかけて育てていくことが求められます。

マニュアルを「眠った資産」から、未来を切り拓く「生きた資産」へ

マニュアルが活用されない主な原因は、「目的の形骸化」「現場との乖離」「更新不足」にあります。これを解決するには、「目的からの逆算」「現場主体の作成」「活用を促す仕組みと文化」が不可欠です。

しかし、これらの取り組みを真に根付かせる鍵は「会社のビジョン」との接続です。「ビジョン実現のために仕組み(マニュアル)が必要だ」という納得感が、活用への最も強い原動力となります。

適切に作られ、改善され続けるマニュアルは、コストではなく、組織を成長させる経営資産です。この記事を参考に、貴社のマニュアルを「生きた武器」に変える一歩を踏み出してください。

なお、仕組み経営では、マニュアル作りやその活用を含めた、会社の仕組みづくりをご支援しています。詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。

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