自利利他(円満)とは?意味からビジネスでの実践まで解説。



清水直樹
自利利他とは、他人に得をさせることが自分の得でもある、という仏教の精神です。今日は自利利他をわかりやすく解説し、ビジネスに活用する方法をご紹介していきます。
動画でも解説しています。

自利利他

自利利他(読み方は“じりりた”)とは、「自ら仏道を修行して悟りを得るとともに、他人に仏法の利益を得させること」という大乗菩薩道の精神です。

分解してみると、自利とは、自分がさとりを開いて仏になるということとされています。一般的に言えば、自分が利益を得る、という意味になるでしょう。

一方、利他とは他をさとりに到らしめることであるとされています。これは他人に利益を与えること、と言えるでしょう。

 

自利利他の本来的な意味

自利利他を表面上だけ理解すると、

  • 「なるほど、他人に得をさせれば自分も儲かる、ということだな」
  • 「利益を追求するだけではなく、理念も大事にしないといけないということだな」
  • 「利益を社会貢献に使えばいいんだな」

と考えるかも知れません。しかし、これは間違いです。

自利利他とは、他人が得すること自体が、自らの得である、と考えることなのです。

他人に得をさせれば、自分にもその得が返ってくる、ということではないのです。

この点は似ているようですが、実際には大きな違いです。

 

他人に利益をもたらせば、自分も儲かる、ではない

他人に得をさせれば、自分にもその得が返ってくるというのは、経済的な考え方と言えます。自社が努力をし、価格以上の価値の商品を顧客に提供すれば、お客さんに得をさせた、ということになります。お客さんに得をさせれば、口コミで評判が広がり、どんどんお客さんが増え、自社が儲かります。

これは事実でしょうが、自利利他とは異なります。

自利利他円満

自利利他とは、たとえば、お客さんが抱えている大きな問題があり、それを自社の商品やサービスで解決してあげる。それによって、お客さんは大きな喜びを得られます。お客さんが感じたその喜び自体が自分にとっての喜びでもある、という心の持ちようを指すわけです。

このような場合において、自分と他者は分離しているのではなく、喜びを共有している存在になります。

これを自利利他円満と言います。自分が幸せになることが他人の幸せにもつながり、他人の幸せが自分の幸せになる、というわけです。

 

ビジネス界における自利利他の提唱者

自利利他という言葉は、経営者の心を打つことが多く、数多くの経営者や会社が理念や哲学としてこの言葉を掲げています。

TKC創業者・飯塚毅氏による自利利他

私が自利利他という言葉を初めて知ったのは、会社員になりたての20代前半のころ。当時、私は外資系ソフトウェアメーカーに勤務をしていました。その会社の大手顧客のひとつが、TKCさんでした。あるとき、本国から社長が来日し、TKCさんに表敬訪問することになりました。その際、社長はTKCさんが掲げる自利利他の精神にいたく感銘を受けたらしく、その後から“ジリリタ、ジリリタ”と連呼するようになったのです。

最初は何のことかわかりませんでしたが、調べてみると仏教に自利利他という言葉があることを知ったのです。外国人からするとなじみがなく、新鮮な考え方だったのでしょう。

なお、飯塚氏は自利利他について、以下のように語ってらっしゃいます。

「自利とは利他をいう」とは、「利他」のまっただ中で「自利」を覚知すること、すなわち「自利即利他」の意味である。他の説のごとく「自利と、利他と」といった並列の関係ではない。(TKC全国会HPより)

これは先ほど申し上げた、自利利他の本来的意味とは、他人に得をさせれば、自分にもその得が返ってくる、ではなく、他人の利益それ自体が自分の利益である、と言っているわけです。

 

稲盛和夫氏の自利利他

稲盛和夫氏は、言わずと知れた日本を代表する経営者です。と同時に、仏教の修行を重ねていることでも知られています。

以下は、京セラフィロソフィーからの引用です。

私たちの心には「自分だけがよければいい」と考える利己の心と、「自分を犠牲にしても他の人を助けよう」とする利他の心があります。利己の心で判断すると、自分のことしか考えていないので、誰の協力も得られません。自分中心ですから視野も狭くなり、間違った判断をしてしまいます。

一方、利他の心で判断すると「人によかれ」という心ですから、まわりの人みんなが協力してくれます。また視野も広くなるので、正しい判断ができるのです。

より良い仕事をしていくためには、自分だけのことを考えて判断するのではなく、まわりの人のことを考え、思いやりに満ちた「利他の心」に立って判断をすべきです。



 

稲盛氏は、人間というのは、本能的にそれが自分にとって得か損かで判断するようになっている。しかし、だからこそ、判断するときにはいったん立ち止まって、それが相手にとっていいことなのか、悪いことなのかで考えてみることが大切であると説いています。

 

 

経営者は自利利他で夢を描け

さて、私の師匠であるマイケルE.ガーバー氏は、自利利他という言葉は使っていませんが、実は長年の経営経験により、自利利他とほぼ同じ精神を持つに至っています。

マイケルE.ガーバー氏は、真の経営者(起業家)は、インパーソナルドリームによって目覚める、と言っています。

インパーソナルドリームとは、他人のための夢のことを指します。

対義語は、パーソナルドリームであり、自分のための夢です。

ちょっと長いですが、以下に、ガーバー氏自身が語っている、両者の違いを載せておきます。

他者の夢こそビジネスの出発点

価値ある会社は明確で説得力のある「夢(ドリーム)」無しにはスタートできない。

これは起業家たちの世界でも広く知られていることだ。しかし、それはこれから議論する意味合いでは理解されていない。

ここで言っている夢とは、億万長者になったり、プライベートジェットを買ったり、自分の島を買ったり、異国の地を旅したり、と言ったこととは関係がない。これらは魅力的に見えるかも知れないが、私たちが追求しようとしていることに燃料を与えるものではない。

むしろ、それは私たちの心をかき乱すものである。

ここでいう真の起業家の「夢」とは個人的(パーソナル・ドリーム)なものではない。それは他人のためのもの(イン・パーソナル・ドリーム)である。夢を見る本人のためのものではなく、顧客のためのものである。

私はこれまで偉大な創造者や起業家たちを見てきて、彼らには他の人とは大きな違いがあることを知った。彼ら、偉大な人たちはインパーソナル・ドリームを創造することに楽しみを見出していることを知った。

多くの種類の夢がある。それは、次のような夢である。

  • 完璧な仕事を見つけ、高価な財産、より大きな住宅、高価な車をもつ金持ちになる
  • 痩せる、健康になる、エネルギッシュになる、魅力的で、ファッショナブルになる
  • 有名になる、たくさんの人々によって賞賛される、メディアに登場する
  • 愛する、献身的な、深い関係を持つ

これらの夢の全ては、「パーソナルドリーム(個人的な夢)」である。それら、またはそれらに似たようなものは、崇高なものから馬鹿げたものまで、現実的なものから幻想的なものまで、多くの人の多くの時間を消費させている。我々のほとんどは、個人的な欲求や憧れの夢を持ち続けている。

しかし、そのような夢は、行動に変わったときでも、ほとんど望んだ結果が出る事はない。それらは目標になるかも知れない。しかし成し遂げたとしても、目標自体が疑わしい物である。それらのパーソナルドリームをいくら熱心に追いかけても、結局は以前と何も変わらないことに気が付く。もっと欲しいと切望し、もっと良くなりたいと、漠然とした何かを夢見るが、それらが与えられる事はない。

起業家の夢は、あなたのための夢ではなく、私のための夢でもない。顧客のための夢である。その夢を発見したとき、あなたがこれまでに見たことのない、突然、視界に可能性が開ける創造的な行為となる。

起業家的な会社は、インパーソナルドリーム、つまり起業家本人の個人的な夢ではなく、顧客の夢の成果物として創られる。

立ち止まって、しばらくそれについて考えてみよう。顧客を見てみよう。いまあなたにとって問題となっている唯一のことは、あなたの顧客が欲していることである。

インパーソナルドリームはあなたの中ではなく、別の場所にある。あなたがそれを理解したとき、目覚めた起業家が夢見る夢は、とても明確になり、興奮を得ることになるだろう。

 

まとめると、

  1. 起業家(経営者)は、自分の個人的な夢(自利だけ)で経営をするのではダメである。
  2. 顧客のための夢を発見し、その夢を追求することが顧客にとっても、起業家(経営者)本人にとっても、これまでにない喜びとなる

ということです。

 

自利利他をビジネスで実践するには?

最後に、私なりに自利利他をビジネスで実践するための考え方をまとめてみます。

誰に貢献したいのかを決める

まず利他、すなわち他人にとっての利益と言った時の、他人とは誰なのかを考えることです。ビジネスの場合、世の中の人万人に貢献することはできません。全ての人に全てのことを提供する、というのでは焦点が絞られていないことになり、リソースが分散します。ビジネスは明確な顧客像からスタートします。

 

利他(顧客の夢)とは何かを考える

次に、その顧客の夢、すなわち利他とは何かを考えることです。彼らが持っている夢とは何でしょうか?この場合、二つの視点で考えると良いです。

短期的な利他

一つ目は、顧客が切望している短期的な夢です。たとえば、腰痛を治したい、痩せたい、売上を上げたい、コストを下げたい、というようなものです。これらは顧客がすでに認識している夢です。



長期的な利他

二つ目は、顧客がまだ気が付いていない夢です。たとえば、腰痛を治したいという患者さんがいた時、腰痛を治すのは短期的な夢を実現することです。それだけではなく、腰痛を治すことで、その患者さんが何をしたいのか、どういう人生を送りたいのか?を思い描くことです。これは顧客が口には出さないものの、頭の中でぼんやり思い描いている夢です。それこそが、先ほどのインパーソナルドリームになります。インパーソナルドリームを顧客に提示し、それを実現できると彼らが確信できた時、セールスはもう完了しているようなものです。

 

自利利他円満となることを見つける

本当は全ての利他が自利となる精神レベルにまで到達できればいいと思うわけですが、普通はそうもいきません。そこで、先ほど思い描いた利他のうち、自分にとっても喜びとなることは何なのかを考えてみましょう。

たとえば、私の場合、顧客のビジネスを支援していますが、会社の売上が上がったとか、コストが下がったとか、離職率が下がったなどの成果を報告されても、実はさしてうれしくありません。それよりも、おかげさまで人生が変わりました、と言われることのほうが嬉しいのです。会社が変わった結果、経営者自身の人生が変わることこそ、私にとっての喜び、というわけです。利他と自利が一致した状態と言えるかもしれません。

なので、私たちは売上が上がるとか、コストが下がるとか、そういうキャッチコピーで提案しているわけではありません。経営者の人生に選択肢をすることが本当にやりたいことであり、自利利他円満につながることなのです。

このように、顧客がどうなることがあなたにとっての喜びなのかを考えてみれば、自然と自利利他が実践できるのではないでしょうか。

 

以上、自利利他についてご紹介してきました。ぜひご活用いただければ幸いです。

 

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