会社を売るのは社長にとって有効な出口戦略の一つです。大半の社長は何十年もかかって会社を売れる状態にしていきますが、創業からわずか2年で会社を売ることに成功した人物がいます。それが本日ご紹介するロジャーフォード氏。
会社を作って、売るを繰り返すプロ
ロジャーフォード氏はいわゆる連続起業家(シリアルアントレプレナー)であり、複数の会社の経営を歴任したプロフェッショナル経営者でもあります。しかも複数の業界ですべてのビジネスを成功に導いています。その理由が、“仕組み化の発想”にあります。
- ロジャー氏は、1970年代に最初の会社、アルファグラフィック社を創業。店舗型の印刷ショップで、世界に260店舗展開させて売却。
- 2社目は、ペット向けのホテルを運営するPetsHotelを創業。同じく店舗展開を加速させ、こちらもPetsMart社に売却。
- さらに、潰れかけている人工心臓のメーカー、SynCardia社の社長に就任し、V字回復を達成しました。
- 現在は、アンセム・エクイティ・グループという投資会社の共同創業者として活躍しています。興味深いのは、彼がまったく違う業界で、立て続けにビジネスを成功させてきたことです。
自分が見知らぬ業界には手を出さないほうが良いというのが、私たちの通常の感覚だと思います。なぜそんなことができたのか?
彼が連続して、これほどの成功を収めてきた理由は、一貫してマイケルE.ガーバー氏(仕組み経営のバイブル「はじめの一歩を踏み出そう」)の著者」の言うスモールビジネス成長のための原理原則を実行してきたからだそうです。
仕組み化が会社を売ることに役立った
以下、ロジャーフォード氏の言葉の抜粋になります。
私はマイケルのことを35年前から知っています。彼は10年前に私のことを知りました。
※マイケルとは、仕組み経営のバイブルになっている「はじめの一歩を踏み出そう」の著者、マイケルE.ガーバー氏のこと。
つまり、私は彼の本(「はじめの一歩を踏み出そう」)を読んで、35年前から彼のことを知っているのですが、彼と出会ったのは10年前だということです。2005年前後、私はSyncardiaという人工心臓の会社の社長になりました。
当時、会社で造っていた商品は非常に良いものでした。しかし、まったくビジネスにはなっていませんでした。倒産の危機にあったのです。社長に就任した時、その会社を直そうと思ったのではなく、私はマイケルが言うように、新しく始める気持ちでスタートしました。
そして、マイケルに会社に来てもらい、経営陣向けに話をしてもらったのです。それがきっかけとなって、会社は急激に変化しました。
まったく売れていなかった人工心臓は、それ以降、何千人もの心臓に疾患を抱える人たちの命を救ってきました。私は、過去の経験からマイケルの思想は、あらゆる業界、あらゆる場所で有効だと信じています。
会社の経営の基盤となるものは、混乱に秩序をもたらす、ということなのです。最初に私が創業した会社は、 AlphaGraphicsという印刷の会社です。マイケルの本を読んで、その会社を仕組み化、フランチャイズ化し、数百店舗に増やしたところで売却しました。
次にPetHotelというペット用のホテルを創業しました。最初の一店舗目を時間をかけて完璧なオペレーションが行われるように仕組み化しました。そして、わずか2年後、その会社をPetSMart(ペット用品販売の大手)に売却しました。
いまでは、この事業は非常に大きな規模になっています。最初、PetHotelを創ったとき、その会社のロゴは敢えてPetSMartに似せて作りました。なぜかといえば、実際に店舗を開く前から、PetSMartに売却するつもりだったからです。
ビジネスは始めることよりも、出口を見つけることのほうが難しいものです。だから私はマイケルが言うように、最初から出口を見つけてからスタートしたのです。
マイケルは、私に”モノの見方”を教えてくれました。これはどんなことにも通用する見方です。そのお陰で私は自分が全く経験のない業界においても起業や経営が出来るようになったのです。
いかがだったでしょうか。いかに仕組み化が経営において必要か?また会社を売る際にも仕組み化が必須であることがお分かりいただけたかと思います。
わずか2年で会社を売ることが出来た理由
さらにロジャーフォード氏と、マイケルE.ガーバー氏の対談もありますので、ご紹介させていただきます。(以下、Michael:マイケルE.ガーバー氏、Rodger:ロジャーフォード氏)
失敗が運命付けられている会社とは?
Michael
あなたは人口心臓の会社であるSynCardia社をとても成功させましたね。あなたのような医学的な知識を持っていない人が、どのようにして成功を収めたのでしょうか?
Rodger
私はビジネスの世界に入って早い段階で、ビジネスを構築するにあたって、ビジネスリーダーが職人的な技術に没頭してしまっていることが、大きな負債であることを学んだのです。
つまり、職人的な状態であることは、失敗が運命付けられているのです。あなたが書籍の中でうまく表現されているように、会社の創業者が、専門的、技術的な知識を持っていなければ、彼はほかの人たちの力を使って、ビジネスを運営する方法を学ぶ必要に迫られます。
たとえば、私の最初の会社、AlphaGraphics社(印刷会社。フランチャイズシステムで世界に展開している)の場合、私は印刷についてはまったく知識がありませんでした。
ふたつめの会社、PetsHotel社(ペット向けの宿泊施設。その後、PetsMart社に売却した)の場合、創業当時、私は犬も猫も飼っていませんでした。
SynCardia社(人工心臓を作っている会社)の場合、先の2社での経験が役に立ちました。もし仮に、私が、医学の知識、機械技術者としての知識に長けていたならば、まったく違うポイントにフォーカスを当ててしまっていたと思います。
Michael
では、何からはじめたのでしょうか?潰れかけている会社を任せられたとき、何から始めたのでしょう?
Rodger
何より、起業家的なビジョンを持つことでした。ビジネスが完成したとき、どうなっているのか?という明確なビジョンがなければ、職人的な知識、マネージャー的な知識があっても、組織図の一番下のところで、枝葉末節のことを繰り返しているに過ぎません。
言い換えると、それが、私がSynCardia社で行ったように、潰れかけているビジネスを立て直すときであっても、私が過去に何度もやってきたように、新しい会社を作るときであっても、最終的なビジョンが必要なのです。あなたが言っている、“成熟した会社“のように。
Michael
創業者として成功するには、会社の最終的な姿を描く必要があるということですね。
Rodger
いうのは簡単ですが、私が知る限り、本当にそれを理解し、実践している創業者はほとんどいません。彼らは言葉では言いますが、行動に落としません。
ビジネスの崩壊は、リーダーを含めた社内の人たちが、技術的な側面だけにどっぷりつかり、ビジネスのビジョンを無視したときに始まります。そのとき問題が起こり、混乱が生じ、焦点を失い、起業家熱にうなされた状態となります。
すべての人は、ビジネスの戦略的な結果よりも、些細な面にとらわれがちです。私は、リーダーの仕事は、ビジネスの目的と将来の道筋を毎日、社内の人に明確に伝え続けることだと強く信じています。
それができなければ、現場の人やマネージャーの人たちは、日々起こる問題を解決することばかりに気を取られます。生き残るための戦略だけになってしまい、焦点を失うのです。
あなたが言っているように、これが、Working IN the business(ビジネスの中で働く)という状態です。これは起業家が行うべき、Working ON the business(ビジネスの外から働きかける)とは正反対です。
私の場合、チームメンバーのコーチとなることが仕事のひとつでした。彼らの動機付けをし、ビジネスのシステムや商品を開発します。これは難しい部分でもあります。なぜなら、人はシステムを作るよりも、目の前の仕事をこなすことに目が行きがちだからです。
最初から会社を売ることを前提に創業する
Michael
ビジネスのビジョンを実現するのに最初のステップは、ビジネスの外側から働きかけるためのフレームワークのようなものを設計するということでしょうか。
Rodger
まったくそのとおりです。私がしたことは、ビジネスの仕組みを作ることです。AlphaGraphics社を立ち上げる前に、1年を費やして、仕組みの文書化をしました。私はタコベル(タコスのファストフード)の本拠地であるカリフォルニア州ダウニー出身です。そこで、友人がタコベルの事例を教えてくれ、それを参考にしました。
タコベルのように、フランチャイズ化し、1000店舗を作ろうと思ったのです。実際には500弱の店舗にいたったところで売却しましたが。
あなたが本の中で書いているように、次の店舗、次の町、次の州、次の国、というように、世界に広げていくように設計したのです。
Michael
私が知っている限り、AlphaGraphics社は、ソ連に進出しましたが、このような業態はソ連でははじめてだったようですね。
Rodger
そうです。私たちは、1986年にソ連のモスクワに出店しました。6ヵ月後、隣にマクドナルドがやってきました。モスクワの店舗は、世界で最も大きな店舗になりました。
Michael
1998年に話を移しましょう。USAには14,000のペットショップがすでにありますが、なぜ、ペット向けのホテルにチャンスを見出したのでしょうか?
Rodger
ペットホテルを、ペットショップのようなものと同等に考えていなかったからです。私たちは、ペットホテルで、ホテル、スパ、デイリーケアが持っている機能をワンストップで提供しようと思いました。
対象者は、自分がペットの親だと考えている女性客です。そして、設備は水をはじくような素材にしました。そうすることで、バクテリアの繁殖を防ぎ、においを防ぐことができます。
また、一般のホテルのように、予約システム完備しました。これは好評でした。お客さんは、私たちを一般のホテルのように認識してくれ、グルーミングサービスやデイケアのサービスによって、競合を完全に差別化することができました。
また、お客さんはわれわれに電話をすれば、ペットと話すこともできるようにしました。そんなことはほかにどこもやっていませんでした。
大半の社員は、最低賃金に近い給料でした。彼らは最初は能力がありませんが、期待以上に働いてくれました。私たちが作った設備や仕組みで彼らの仕事をサポートしたからです。設備や仕組みは、働く彼らのために作られているのです。
そして、彼らの働く意欲と効果的な仕組みが合わさることによって、すばらしい顧客満足が得られました。店に行ってもらえれば言っている意味がわかるでしょう。
どんな事業でも成功できる会社経営の原則とは?
Michael
印刷業、ペットホテル、そして人工心臓と多岐にわたっていますが、なぜ、ざまな種類のベンチャーで成功できたのでしょうか?
Rodger
私が最初にあなたの本を読んだとき、あなたが違う星からやってきた、私の代弁者だと感じました。私が言いたかったことをまさに書いていたのです。そこで、私は書籍の音声版をいくつも購入し、すべてのスタッフに配布しました。あなたの情熱を理解してほしかったのです。
Alpha Graphics社で、すべてのスタッフに読んでもらった本は、あなたの本が初めてです。その後に作った会社でも同じことをしました。そして、頻繁に本の内容を思い出してもらえるよう、その内容を基にして、ゲームやコンテストを行いました。
言ってみれば、あなたが私の会社を一緒に経営してくれていたようなものです。
そういった試みによって、スタッフたちは、ビジネスが成功する原則について、深い理解をするようになりました。そして、ひとつひとつの結果を加速させることができたのです。
Michael
その原則はどのように影響したのでしょう?たとえば、あなたが来る前、SynCardia社はどのような状況だったのでしょうか?
Rodger
人工心臓の分野は、55年間にわたる試行錯誤の結果、完全に行き詰っていました。SynCardia社に私が入ったときにも、彼らは意気消沈していました。
人工心臓の分野でのパイオニア、ドイツのWillem Kolff博士が、1950年に始めて試作品を作りました。その後、Robert Jarvik博士がJarvik 7という商品を作り、人気になりました。
しかし、1991年、FDAが、Jarvikを使った実験を禁止してしまいました。欠陥が見つかったと報告されたからです。
※FDA・・・アメリカ食品医薬品局。日本で言う厚生労働省に属する政府機関。
SynCardia社は、2002年にJack Copeland博士のグループが作った会社です。そのグループの中には、よく知られた起業家も入っていました。
2004年10月、FDAはSynCardiaに人工心臓を使う許可を出しましたが、当時、すでにお金が尽きていました。ひとつ25,000ドルの人工心臓を年間20個売っているだけでした。この類のビジネスをする基準に至っていなかったのです。
さらに悪いことに、SynCardiaの人工心臓は、保険の対象外にさせられていました。
当時、人工心臓は、非常に高いスキルを持った数少ない技術者だけが作ることができました。そういった人材を見つけるのも困難を極めていました。
2006年にあなたがSynCardiaに来て、チーム全体に研修をしてくれたとき、あなたは、会社がとても危険な状態にあることに驚いていましたね。そして、私たちが、信頼でき、拡張可能で、レバレッジが効く製造の仕組みを導入しない限り、市場のニーズに対応できないと忠告してくれました。
当時、たくさんのお金、時間、労働を投入していたにもかかわらず、SynCardiaの仕組みは、時代遅れで、最初のころよりも複雑になっていました。
Michael
そこで最初になにをしましたか?
Rodger
私は仕組みを導入することに集中しました。混乱を鎮めるためです。
仕事のやり方に基盤がない限り、いくら優秀な人材でも、彼らが個人の感覚で、正しいと思ったことをやるだけであり、その結果、混乱をきたしてしまいます。
私がSynCardiaに入ったとき、5日後にFDAが突然、査察にやってきました。それは10日間続き、何が悪いのかがわかってきました。文書管理や在庫管理、財務などの仕組みが古かったのです。
仕組みを導入するのは簡単ではありません。悪い習慣は身につけやすいのですが、良い習慣は身に付けにくいものです。
スタッフに古い習慣を捨ててもらい、新しい仕組みでのオペレーションに慣れてもらうのに、2年もかかりました。古い習慣を捨てるのも簡単ではありませんでした。
当時はとても大変な時期でした。もともといた16人のスタッフのうち、13人が離職し、新しい人に参加してもらいました。
私たちは、普通の人が類まれな成功を収めるための仕組みを作るように心がけたのです。
優れた人材がビジネスに不要だと言っているわけではありません。しかし、いくら優秀な人材であっても、その優秀さは、一貫した結果を出すための仕組みの上で発揮されるべきなのです。
社員全員にオールを漕がせる
Michael
人材はどのように採用したのですか?
Rodger
AlphaGraphics、 PetsHotel、SynCardia、それぞれの会社で、私はいつでも良い人材を探していました。SynCardiaでは、人材をフィルタリングする仕組みを導入しました。これはとても効果的でした。
行く先々でよい人を見つけると、SynCardiaのストーリーを伝え、面接へとつなげていきました。
人材採用のプロセスの鍵は、良い人にはすぐに提案をすること、そして、私たちに合わない人は、早く却下することです。会社にフィットし、貢献してくれる人に時間を投入することです。
Michael
チーム作りで心がけていることは?
Rodger
チーム作りは、決して終わらない作業です。良いチームを作るには、ダイナミックな社内文化が必要です。人々は、会社のさまざまなことに巻き込まれたいと感じています。彼らは違いをもたらしたいと思っています。彼らは貢献したいと思っています。
たとえば、SynCardiaでは、毎週金曜日に、チーム全員でランチをします。過去6年間、私がそれを欠席したのは数える程度だけです。ランチの場では、みんなが会社に貢献する機会を得られます。
彼らは全員意見を求められます。家族の夕食みたいなものです。これによって、彼らは自分の取り組んでいることがどういう意味を持つのか、そして、ほかの人が何に取り組んでいるのかを理解できます。
私たちの会社では、オールを漕がない人は、いる場所がありません。私の役割は、みんながオールを漕いでいる、その船のかじ取り役です。会社のかじを取り、漕ぎ手の力加減やリズムを調整するのです。
Michael
あなたがSynCardiaに入ったとき、この会社は、科学技術のプロジェクトチームのようだと表現していましたね。その当時、そのプロジェクトチームに過ぎなかった会社を、成功している会社へと変革させるための計画は持っていたのでしょうか?
Rodger
はい。ありました。私とパートナーは、計画を設計し、それを実行するための時間を割きました。
18ヶ月から30ヶ月くらい、計画通りに働けば、新しいCEOに会社を譲ることができると考えていました。
実際のところ、計画をスタートしてから見つかった、商品の欠陥もたくさんありました。SynCardia社の価値を高めるための方法はシンプルでした。
私はいつも同じことをします。
社内で混乱をきたしているところを見つけ、それを仕組みで解決することです。この点は非常に重要です。
多くの人は、簡単な解決策を見つけようとして、近道を探します。
しかし、そういった試みは後から代償を払うことになります。
それが終わったら、社内の鍵となるマネジメントの役職についており、心を共にしている人たち、そして、できれば過去に一緒に働いたことがある人で固めます。彼らはゲームのルールを知っています。
資金面も重要でした。一番良い資金源とは、商品を売って、すべての経費を払った後に残る現金です。
次に良いのは、関係者からの投資です。
最悪なのが借金です。
私たちが最初に集中したのは、倉庫に残っている在庫を売りさばきながら、新しい技術で、いまより拡張可能な製造の体制を築くことでした。
仕事はまだ終わってません。現在、あの会社は株式公開するか、より大きな会社に売却する方向で動いています。それらの仕事は新しいCEOの役割ですが、正しい方向に進んでいると思います。
優れたビジネスとは、偉大なチームメンバーによって創られるものではありません。普通の人が非凡なことを成し遂げることによって、創られるのです。
ビジョンを達成するために必要な能力と、現在のチームメンバーの能力との差を埋めるために仕組みがあります。
もしビジネスモデルが、高い能力を持ったチームメンバーに依存していれば、それは複製ができません。
自社内にどんな仕組みが必要かを知るには、顧客が何を欲しているか?という質問に戻る必要があります。
”彼らが欲していることをいかにして、仕組みにして提供するか?”と考えることです。
会社を売るための仕組み化なら
以上でインタビューは終了となります。彼がなぜ何社も成功させることができたのか?多くのヒントが得られたのではないかと思います。なお、仕組み経営では、ロジャーフォード氏が実践してきた仕組み化のご支援をしています。詳しくは以下の体験ウェブセミナーをご活用ください。