今回のテーマは、経営承継についてです。
現在多くの中小企業の経営者が経営や事業の承継問題に頭を抱えています。
そんな経営者向けに中小企業庁が、経営承継/事業承継について必要なステップや具体的に取り組むべきアクションをまとめた、事業承継マニュアルを公表しました。
本記事では、その内容を要約し、経営承継とは何か、承継問題の世の中の現状、経営承継に必要なステップ、事業承継計画の策定などについて解説していきます。
経営承継とは
経営承継とは、事業承継の言い換えで、経営権・自社株式・資産を後継者に承継することです。
後継者は親族・役員や従業員・社外の第三者の3つの場合があります。第三者に承継する場合は、M&Aや第三者承継とも呼ばれます。
後継者への承継項目は、大きく下記3つ要素で構成されています。
ここで特に注目して欲しいのが、知的財産である経営理念やノウハウです。経営理念や貯めてきたノウハウは特に後継者に引き継ぐのが難しいポイントなので、しっかりと文字におこし、共有しておきましょう。
中小企業における経営承継の現状
中小企業経営者の平均引退年齢は67〜70歳で、現在の経営者の年齢分布を踏まえると、多くの経営者が経営承継のタイミングを迎えます。
しかし、承継には後継者の育成なども含めて5〜10年の時間がかかるにも関わらず、多くの経営者は経営承継に対する認識が甘く、先んじて取り組み始めている経営者は非常に少ないのが現状です。
このままでは、5年間のうちにかなりの数の企業が経営承継をうまくできずに会社を失う結果になりかねません。
これを避けるためには、経営者が承継問題が急務であることを認識し、そして正しい経営承継の手法を学ぶことが求められるでしょう。
経営承継の5つのステップ
経営承継には、大きく5つのステップがあります。
ステップ1:経営承継の必要性の認識
まずは経営者自身が経営承継の準備の必要性を認識する必要があります。
タイミングについては様々ですが、若い経営者であっても会社がある程度成長してきた段階で始めておくのが良いでしょう。
というのも、承継を考えることは事業全体の未来を考えることと同じだからです。将来的な事業のビジョンはどこにあり、現状経営がどうなっているのか、ビジョン達成には何が必要なのか、承継はその中でどのような役割を担うのか、、、。など経営承継の準備は経営者が本質的な会社の未来を真剣に考えるきっかけにもなるのです。
ステップ2:経営状況・課題の見える化
このステップで、未来の経営方針を決め、その実現に向けた現状分析を行います。
この時、10年後の会社像を想像し、現在とのギャップを3つの観点から見える化します。
1つ目は事業の見える化。市場の変化に対応できるか、競合と比べた会社の強みや弱みの再認識など様々な観点から評価を行い、課題を見つけましょう。
2つ目は、資産の見える化。経営者の個人資産の会社との貸借関係などを確認し、後継者に残せる経営資源を明確化します。
3つ目は、財務の見える化です。適切な会計処理を通じて財務状況を明らかにしましょう。
ステップ3:経営承継に向けて会社を「磨き上げ」
現状を把握できたら、次に未来のビジョンに向けた会社の磨き上げを行います。
後継者にとっても、M&A市場に対しても企業価値の高い魅力的な会社にするために事業と組織体制を磨き上げます。
自社の圧倒的強みを確立し、業務の効率化、組織体制の再構築を通じて社員のモチベーション・生産性を向上させましょう。
参考記事:「事業承継やM&A(会社売却)における「磨き上げ」って何?」
ステップ4:事業承継計画の策定/ M&Aのマッチング
事業承継計画、経営承継を着実に進めるために具体的な進め方を定める計画書を策定します。
詳しくは、記事後半で解説していきます。
ステップ5:経営承継の実行/M&Aの実行
株式や資産、経営権の承継を実行、社外承継の場合は、M&Aを実行します。
実行における具体的なアクションと課題は後半で説明します。
事業承継計画の策定
上記経営承継のステップ4、事業承継計画について詳しく説明します。
事業承継計画とは
事業承継計画とは、経営承継を円滑に進めるための具体的なアクションプランです。
まずは上記のステップ2で行った現状分析から、会社の中長期的な経営方針や目標を設定し、その中に事業承継の行動計画を盛り込んでいきます。
ここでポイントなのが、事業の承継作業スケジュールとは別に、会社の経営理念や経営者の思いも振り返りながら作成することです。なぜ創業したのか、どんなビジョンやミッションを持っているのか、経営者の人生にとって会社はどんな位置付けなのか。
会社は経営者の魂です。これまでの成長は経営者の情熱あってこそのものなので、これまでの自分と会社の歩みも後継者と従業員にしっかりと理解してもらうことにも是非時間を割いてくださいね。
※参考記事:「ミッション・ビジョン・バリューとは?作り方や違いを完全解説」
事業承継計画の策定方法
事業承継計画の策定にあたり、具体的にやるべきことが5つあります。
①会社の中長期目標を設定する
上記で紹介した経営承継のステップ2で見える化した経営の現状を分析し、会社の将来に向けた中長期計画と経営ビジョンを策定します。
売上や利益目標、市場シェア等の数値目標とその達成に伴う経営方針やアクションプランをまとめましょう。
※参考記事:「経営ビジョン策定完全ガイド」
②経営承継に向けた経営者自身の行動を設定する
- 後継者を選定する
- 税理士への相談
- 関係者への周知
- 自社株式の生前贈与 etc.
ここでは、承継後に相続や経営権分散によるトラブルに陥らないよう注意し、必要であれば専門家に一度相談するのが良いでしょう。
③経営承継に向けた後継者の行動を設定する
- 社内研修
- 社外の実務経験 etc.
④経営承継に向けた会社の行動を設定する
会社の行動は自社株式の分散を防止するための行動が中心となります。
- 定款の変更
- 経営者への退職金支給(原資確保の資金プランも必要)
- 議決権の集約
⑤関係者と事業承継計画を共有する
事前に関係者と計画書を共有することで、承継に向けた体制作りや承継後の後継者との信頼関係構築を円滑に進めることができます。
事業承継計画書のテンプレート
独立行政法人中小企業基盤整備機構が公表している事業承継計画書のフォーマットがあります。
下記URLよりエクセル版がダウンロード可能です。
経営承継の実行に向けたアクション
経営承継の計画を立てることはもちろん大切ですが、一番難しいのが実際に行動に移すことです。
経営承継を成功させるために必要になる具体的なアクションとその課題・対策について1つ1つ見ていきましょう。
後継者選びと育成方法
後継者選びは経営承継において最も重要かつ悩ましいパートでしょう。
かつては経営者の長男を後継者に選ぶことがほとんどでしたが、現在はそれに捉われずに経営者としての資質を主な判断材料として後継者を選ぶことが望ましいとされています。また、親族だけでなく、社内の優秀な社員や社外の第3者を選ぶことも増えています。
選ぶ時は、経営ビジョンへの共感や意欲、実務能力などを総合的に評価し、候補者が複数人いる場合は争いが起きないよう一定の判断基準を定めるのが良いでしょう。
後継者を選定後は、適切な育成が欠かせません。社内外での実務経験や経営の知識獲得はもちろん、経営理念もしっかりと教えることが重要です。
後継者が習得すべきスキル
実務スキル
- 決算書の見方など財務に関する知識
- 企業経営、事業承継に必要な税金の知識
- 企業法務の知識
- 人事・労務の知識
- コンプライアンス
経営者としての能力
- 業界の動向、見通しなどを踏まえた自社の経営環 境の分析
- 経営戦略・マーケティング分析
- 第二創業プランの策定
- 利益・資金計画策定
- リスクマネジメント
経営権の分散防止
経営承継においては、後継者に株式と経営権を集中させることが望ましく、この実現には経営者が生きているうちに事前の対策を打つことが重要です。
生前に自社株式を贈与するか、遺産についての遺言などを残しておくとスムーズに承継が進みます。
ただ、後継者が全株式を取得することは税負担の観点から難しいので、その場合は下記をリスク回避の手段として活用しましょう。
- 安定株主の導入(現経営者の経営方針に賛同し、 長期間にわたって株を保有してくれる株主)
- 種類株式の発行
- 信託の活用
- 持株会社の設立
- 自社株買いに関するみなし配当の特例 etc.
経営承継に伴う税金対策
経営承継では後継者が株式や資産を取得することに伴い、贈与税や相続税が発生します。ただ、税制度の特例を活用することで免除されることがあります。
通常、贈与税は年間110万円以上の財産の贈与に対し、10〜55%課税され、相続税は被相続人(死亡した人)の財産の価値−被相続人の債務や葬式の費用−基礎控除額(3,000万年+600万×法定相続人の人数)で算出した総額に課税されます。
ただ、経営承継においては事業承継税制という贈与税や相続税の免除制度があり、後継者が相続や贈与nによって取得した自社株式について、後継者の事業継続などを要件として、相続であれば80%、贈与の場合は全額免除されます。
※詳しい要件等はこちらを参照→中小企業庁ホームページ「事業承継税制について」
その他、小規模宅地等の特例や死亡退職金に対する相続税の非課税枠など沢山の特例があるので、よく把握しておきましょう。
経営承継に伴う資金調達
経営承継は、承継前の会社の磨き上げや納税、承継後の安定した経営のために資金を要します。資金調達の成否が経営承継成功の鍵を握っているのです。
調達方法としては、金融機関からの借入や役員報酬の引き上げが一般的ですが、会社の規模や後継者の能力、事業の成長性によってはベンチャーキャピタルやファンドからの出資ケースも増えてきています。
また、経営承継においては経営承継円滑化法に基づき、都道府県知事より事業継続に支障が生じていると認定を受けた企業は、日本政策金融公庫や信用保証協会より資金援助が受けられます。
※詳しくはこちらを参照→中小企業庁ホームページ「経営承継円滑化法による支援」
債務や個人保証への対応
経営承継の際には、現経営者が負っている事業用債務の承継、また経営者が会社に貸している債権・債務関係に注意する必要があります。
また、前経営者の保証を解除するにあたり、金融機関などの債権者の同意を取り付ける必要があります。
社外の経営承継・M&Aについて
親族間の後継者不足に伴い、増えているのが社外への経営承継であるM&Aです。
M&Aは専門知識が必要となるため、プロのサポートを受けながら進めるのが良いでしょう。
M&Aにおける基本的な流れは下の図の通りです。
特に重要なのが事業評価の部分で、M&Aに取り組むまでに会社の企業価値をどれだけ高められるかが重要なテーマとなってきます。
M&Aにおける企業価値については、下記ページの記事も参考にしてください。
その他、会社売却、事業売却、M&Aに関連する記事一覧
最後に
いかがだったでしょうか?
経営承継について説明してきましたが、承継を成功させるにはまずは後継者、もしくは譲渡先を見つけることが大切であり、そのためには会社や事業を磨き上げることがとても重要です。
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