「この仕事、本当に意味あるのかな…?」
毎日汗水たらして働いているのに、ふとこんな疑問が頭をよぎったことはありませんか?もしかしたら、それは「ブルシットジョブ(BSJ)」かもしれません。
近年、AI(人工知能)の進化が目覚ましく、「AIが仕事を奪う!」なんて話もよく聞きますよね。では、AIは私たちを意味のない仕事から解放してくれる救世主なのでしょうか?それとも、なんだかよくわからない新しいブルシットジョブを生み出してしまうのでしょうか?
この記事では、そんな「ブルシットジョブ」の正体から、AIとの関係、そして私たちの未来の働き方について、一緒に考えていきましょう!
そもそも「ブルシットジョブ」って何?
まずは「ブルシットジョブ」という言葉の意味から見ていきましょう。
デヴィッド・グレーバーが名付けた「クソどうでもいい仕事」
ブルシットジョブ(Bullshit Jobs、略してBSJ)は、人類学者のデヴィッド・グレーバーさんが提唱した言葉です。直訳すると「クソどうでもいい仕事」といった感じで、かなり衝撃的なネーミングですよね。
グレーバーさんの書籍は以下のものです。
本人も「無意味だ…」と感じている仕事
グレーバーさんによれば、ブルシットジョブとは「働いている本人でさえ、その存在を正当化できないほど、完璧に無意味で、不必要で、ときには有害でさえある有償の雇用形態」のこと。つまり、やっている本人が「この仕事、何のためにやってるんだろう…」「なくても誰も困らないよな…」と感じているのに、お給料をもらっている仕事、というわけです。
心をすり減らす「魂を吸い取る仕事」
自分の仕事に意味を見いだせないのは、かなり辛いですよね。グレーバーさんは、ブルシットジョブは「精神的暴力」に等しく、まるで「魂を吸い取るようだ」と表現しています。人間は、誰かの役に立ったり、何かを生み出したりすることで、自分の価値を感じる生き物。それができないブルシットジョブは、私たちの心をじわじわとむしばんでしまうのかもしれません。
さらに厄介なのは、ブルシットジョブでは「いやいや、この仕事は大事なんですよ!」と、さも意味があるかのように振る舞わなければならない「演技」が求められることが多い点です。これもまた、ストレスの原因になりそうですね。
「シットジョブ(クソ仕事)」との違いは?
ここで、似たような言葉「シットジョブ(Shit Jobs)」との違いも押さえておきましょう。
「シットジョブ」は、お給料は低いかもしれないけれど、社会にとって絶対に必要な仕事のこと。肉体的にはきついかもしれませんが、その仕事がなくなったら社会が回らなくなってしまいます。これをクソみたいな仕事と言うのはどうかと思いますが、大切なのにクソみたいに礼遇されているというふうに捉えるといいのかもしれません。
一方、「ブルシットジョブ」は、お給料が高いホワイトカラーの仕事にもよく見られます。でも、本人は「この仕事、本当に誰の役にも立ってないよなぁ…」と感じている。ここが大きな違いです。お金をたくさんもらっていても、心が満たされないなんて、皮肉な話ですよね。
あなたは大丈夫?ブルシットジョブ5つのタイプ一覧
グレーバーさんは、ブルシットジョブを大きく5つのタイプに分類しました。もしかしたら、あなたの周りにも思い当たる仕事があるかもしれません。
1. 取り巻き(フランキー):偉い人を偉く見せるためだけの仕事
「取り巻き」タイプの仕事は、誰かを偉そうに見せたり、その人に「自分は偉いんだ」と感じさせたりするためだけに存在します。例えば、特に必要ないのに配置されているドアマンや受付係(最新技術で代用できる場合)、形式だけの会議に出席するだけの人などが当てはまるかもしれません。日本では、「あの部長には部下が必要だから」という理由だけで、特に仕事がないのに雇われるケースもあるようです。
2. 脅し屋(グーン):誰かを言いくるめたり、出し抜いたりする仕事
「脅し屋」タイプの仕事は、ちょっと攻撃的な要素があります。例えば、自社の利益のために強引な交渉をするロビイストや企業弁護士、必要もないのに商品を売りつけようとするテレマーケターなどがこれにあたるかもしれません。「ライバル企業がやっているから、うちもやらなきゃ」という理由だけで存在する軍隊なども、この一種と考えられています。
3. 尻ぬぐい(ダクト・テイパー):問題を根本解決せず、ごまかす仕事
「尻ぬぐい」タイプの仕事は、組織の欠陥やミスを一時的に取り繕うために存在します。本当は根本的な問題を解決すればいいのに、それをせず、場当たり的な対応に追われる仕事です。例えば、バグだらけのシステムを修正し続けるプログラマーや、いつまでもなくならないクレームに対応し続けるカスタマーサポートなどがこれに近いかもしれません。「屋根の雨漏りを直さずに、漏れた水を受けるバケツの水を定期的に空にする人を雇うようなもの」とグレーバーさんは例えています。
4. 書類穴埋め人(ボックス・ティッカー):やってる感を出すためだけの仕事
「書類穴埋め人」タイプの仕事は、組織が「ちゃんとやってますよ」とアピールするためだけに存在します。実際には大して意味のない書類作成や報告書作成に追われる仕事です。誰も読まない報告書を作ったり、形式だけのアンケート調査をしたり…。「やってる感」を出すためだけの仕事って、結構ありそうですよね。
5. タスクマスター:ムダな仕事を作り出す・管理する仕事
「タスクマスター」タイプの仕事は、さらに2種類に分けられます。
- タイプ1:不要な上司 部下に仕事を割り当てることだけが仕事の人。部下たちが自分で考えて動けるのに、わざわざ指示を出すだけの上司などです。
- タイプ2:ブルシット・ジェネレーター 他の人にブルシットな仕事をわざわざ作ったり、ブルシットな仕事を監督したり、まったく新しいブルシットジョブを生み出したりする人。
実質的な権限がないのに、上司と部下の間で情報を右から左へ流すだけの中間管理職なども、このタスクマスターに当てはまるかもしれません。
【表】ブルシットジョブ5つのタイプまとめ
タイプ | 日本語 | 特徴 | 具体例(イメージ) |
Flunkies | 取り巻き | 誰かを偉そうに見せるためだけに存在する | 形だけ置かれている受付、仕事がないのにいる部下 |
Goons | 脅し屋 | 他社を出し抜いたり、顧客を言いくるめたりする | 強引な営業、必要以上に不安を煽るコンサルタント |
Duct Tapers | 尻ぬぐい | 根本的な問題を放置し、その場しのぎの対応をする | いつも同じシステムエラーを直す人、欠陥商品のクレーム対応専門 |
Box Tickers | 書類穴埋め人 | 「やっているフリ」をするための書類作成などが主な業務 | 誰も読まない報告書作成、形式だけの会議のための資料準備 |
Taskmasters | タスクマスター | 他人に仕事を割り当てるだけ、または、他人のためにムダな仕事を作り出す | 特に必要のない指示を出すだけの上司、部下に意味のない作業を延々とさせるマネージャー |
これらのタイプは、きっちり分けられるものではなく、混ざり合っていることも多いようです。
なぜブルシットジョブはなくならないの?
こんなにも無意味で、働く人を苦しめるブルシットジョブ。なぜ、なくならないのでしょうか?
会社や社会の仕組みが原因?
グレーバーさんは、現代の資本主義社会の仕組み自体が、ブルシットジョブを生み出しやすいと指摘しています。
- 偉い人のメンツと管理体制(経営封建制) 昔の王様が家来をたくさん抱えていたように、現代の会社でも、管理職がたくさん部下を抱えていることがステータスになっている、という見方です。そのために、特に必要のない役職や仕事が生まれてしまうのかもしれません。
- 「とにかく働くことが美徳」という考え方 「汗水たらして働くことは素晴らしいことだ」という価値観が、たとえその仕事が無意味であっても、働くこと自体を正当化してしまう、という側面もあるようです。
- やたらと増える書類とハンコ(官僚制) 効率化を目指しているはずなのに、なぜか書類仕事や手続きばかりが増えていく…なんて経験はありませんか?数字にできないものを無理やり数字にしようとすることで、かえってブルシットな作業が増えることもあるようです。
- やることがない管理職?(管理部門の肥大化) 技術が進んで仕事が楽になるかと思いきや、なぜか管理部門だけがどんどん大きくなっていく…。金融サービスや企業法務など、比較的新しい産業の中にも、ブルシットジョブが多く潜んでいるとグレーバーさんは見ています。
本当に半分以上の仕事が無意味なの?
ただ、グレーバーさんの「仕事の半分以上が無意味だ」という主張に対しては、「いや、そこまで多くはないのでは?」という反論もあります。ある研究では、実際に自分の仕事を無意味だと感じている人は20%未満だという結果も出ています。
もしかしたら、「ブルシットジョブ」と名指しされる仕事内容そのものよりも、職場の人間関係が悪かったり、会社の経営方針に納得できなかったりすることが、仕事の「無意味さ」を感じさせる大きな原因なのかもしれませんね。
AIの登場でブルシットジョブはなくなる?
さて、ここからが本題です。最近話題のAIは、私たちをブルシットジョブから救ってくれるのでしょうか?
AIが得意なこと:単純作業やデータ処理はおまかせ!
AIは、人間が苦手とする単純作業や大量のデータ処理がとても得意です。
- 書類作成やデータ入力が自動化?(書類穴埋め人ピンチ?) AIを使えば、これまで人間が時間をかけてやっていたデータ入力や、決まったフォーマットの書類作成などを自動化できる可能性があります。これは、「書類穴埋め人」タイプのブルシットジョブを減らすのに役立つかもしれません。
- 簡単な問い合わせ対応もAIでOK(取り巻きの一部も?) チャットボットなどが進化すれば、簡単な問い合わせ対応やスケジュール調整などもAIがこなせるようになるでしょう。そうなると、「取り巻き」タイプの仕事の一部もAIに置き換わるかもしれませんね。
- AIが「この仕事、いらなくない?」を教えてくれるかも AIが様々な業務を分析することで、「あれ?この作業って、もしかしてムダじゃない?」と、人間が気づかなかったブルシットな部分をあぶり出してくれる可能性もあります。
専門家も期待?「AIでムダな仕事が減るかも」
専門家の中にも、「AIによって、特に意味のない仕事は減っていくだろう」と期待する声があります。AIが雑務を肩代わりしてくれれば、人間はもっと創造的で、本当に意味のある仕事に集中できるようになるかもしれません。日本でも、社内文書のチェックや、記録のためだけに作られるような文書作成をAIに任せる動きが出始めているようです。
ちょっと待って!AIが新たなブルシットジョブを生む可能性も…
AIがブルシットジョブを減らしてくれるかもしれない、というのは嬉しい話ですが、残念ながら、そう単純ではないかもしれません。AIが、かえって新しいブルシットジョブを生み出してしまう可能性も指摘されているのです。
「効率的な非効率」って?ムダなことをAIで高速化するだけ?
AIを使って、もともと無意味だった作業をただ速くこなせるようにしても、それは「効率的な非効率」でしかありません。例えば、AIが大量のプログラムコードを書けるようになっても、それがバグだらけだったら、修正の手間が増えるだけで、全体の効率は上がりませんよね。根本的な「無意味さ」にメスを入れない限り、AIはブルシットジョブを悪化させるだけかもしれません。
AI時代の新しいブルシットジョブって?
AIの進化によって、これまでなかった新しいタイプのブルシットジョブが生まれる可能性も考えられます。
- AIの調教係?「AIラングラー」 AIがうまく働くようにデータを整備したり、AIが出した結果をチェックしたりする仕事です。もしAI自体が意味のない作業をサポートしているのであれば、この「AIの世話係」もブルシットジョブになってしまうかもしれません。「プロンプトエンジニア」といった新しい職業も生まれていますが、これもAIをうまく「操る」ための仕事と言えるでしょう。
- AIがやらかしたことの尻ぬぐい AIだって完璧ではありません。AIが間違った判断をしたり、偏った結果を出したりしたときに、それを修正したり、フォローしたりする人間が必要になります。これも新しい形の「尻ぬぐい」と言えるかもしれません。
- AIを使った新たな「やってる感」演出 会議の議事録をAIが自動で取ってくれるようになったとしても、それが経営陣の「ちゃんと仕事してますよ」アピールのためだけに使われるなら、それはAIを活用した新しい「取り巻き」や「書類穴埋め」と言えるかもしれません。
- 「AIブルシット・ジョブ・ループ」:AIで仕事が増える悪循環 AIで仕事が速くなる → もっとたくさんの仕事をこなせるようになる → AIが出した結果を人間がチェックする負担が増える → その負担を減らすために、さらにAIを使う → …というように、AIのせいでかえって仕事が増え、表面的な作業ばかりが増えていく、という悪循環です。「AIが作った大量のデータを管理するだけの仕事」や「AIが出した文章をちょっと手直しして提出するだけの作業」などが、これにあたるかもしれません。
専門家も警鐘「結局新しいブルシットジョブが増えるだけじゃ…」
一部の専門家は、「AIが仕事を楽にしてくれるなんて幻想だ。結局、新しいブルシットジョブが増えるだけだよ」と厳しい見方をしています。これまでの産業革命でも、新しい技術が登場するたびに、古い仕事がなくなって新しい仕事が生まれ、その中にはブルシットジョブも含まれていました。AI革命も、同じ道をたどるのかもしれません。
「人間は、ヒマさえあれば新しい仕事を作り出す生き物らしい」という指摘もあります。本当に意味があるかどうかよりも、とにかく雇用を生み出すことが優先されるなら、AIは新しいブルシットジョブを増やす手助けをしてしまうだけかもしれません。
AI時代、私たちの「仕事」や「価値観」はどうなる?
AIがブルシットジョブを減らすのか、それとも増やすのか。未来はまだ誰にもわかりません。ただ一つ言えるのは、AIの登場によって、私たちは「仕事とは何か」「価値とは何か」という問いと、これまで以上に向き合わざるを得なくなるということです。
本当に大切な仕事って何だろう?
もしAIが、これまで人間がやってきた多くの仕事を肩代わりしてくれるようになったら、「人間がやるべき仕事とは何か?」という問いが、より一層重要になってきます。ただ忙しくしているだけではダメで、「本当に社会の役に立っているか」「誰かを幸せにしているか」といった、仕事の「意味」が問われるようになるでしょう。
「意味のある仕事」を見つけるチャンスかも
AIによって意味のない仕事がなくなるとしたら、それは私たちにとって「本当にやりがいのある仕事を見つけるチャンス」と捉えることもできます。グレーバーさんは、創造的な活動や、誰かのケアに関わるような仕事こそ、人間にとって本質的に意味のある仕事だと述べています。AIが雑務から私たちを解放してくれれば、そうした人間らしい活動にもっと時間を使えるようになるかもしれません。
AIは敵か味方か?結局は私たち次第
AIがブルシットジョブを減らす救世主になるか、それとも新たなブルシットジョブを生み出す元凶となるか。それは、AIという技術そのものではなく、私たちがAIをどう使い、社会をどうデザインしていくかにかかっています。
もしかしたら、AIの普及は、週4日勤務のような新しい働き方や、ベーシックインカムのような新しい社会の仕組みを考えるきっかけになるかもしれません。
日本では、少子高齢化による人手不足という課題もあります。AIをうまく活用して、本当に必要な仕事に人手を集中させ、働く人が喜びを感じられるような仕事を生み出していくことが、これからの大きなテーマになるでしょう。
まとめ:ブルシットジョブとAIの未来 – 結局どうなるの?
ブルシットジョブという、ちょっとドキッとするような言葉。そして、私たちの働き方を大きく変える可能性を秘めたAI。
AIは、書類作成やデータ入力といった「書類穴埋め人」や「取り巻き」の一部のような、繰り返しの多いブルシットジョブを減らしてくれるかもしれません。その一方で、「AIの調教係」や「AIが生み出す問題の尻ぬぐい」といった、新しいタイプのブルシットジョブを生み出してしまう可能性も否定できません。
もしかしたら、AIは私たちに「この仕事、本当に必要?」と問いかけ、仕事の意味を見つめ直す「実存的な機会」を与えてくれているのかもしれません。
大切なのは、AIという道具に振り回されるのではなく、私たちが主体的に「どんな働き方をしたいのか」「どんな社会を築きたいのか」を考え、AIを賢く活用していくこと。そうすれば、AIはきっと、私たちをブルシットジョブの悩みから解放し、より人間らしい、意味のある働き方の実現をサポートしてくれるはずです。
あなたの仕事は、ブルシットジョブですか?そして、AIはあなたの働き方をどう変えると思いますか?この機会に、ぜひ一度じっくり考えてみてください。