心理的安全性とは?
心理的安全性とは、「チームや組織の中で、自分の意見やアイデアを安心して共有できる環境」を指します。この概念を通じて、人々がリスクを恐れずに率直な意見を言える状態を作り出すことが、組織やチームの生産性、創造性、そして持続可能性を高める鍵であることが分かっています。
エイミー・C・エドモンドソン教授の著書『恐れのない組織』では、心理的安全性が「みんなが気兼ねなく意見を述べ、自分らしくいられる文化」として定義されています。この文化の下では、メンバーがミスを恐れず、新しいアイデアや視点を提案しやすくなり、結果としてチームのパフォーマンスが向上するのです。
歴史的背景と研究の発展
1960年代 – シャインとベニス:心理的安全性の概念の提唱
心理的安全性という概念が初めて議論されたのは、1960年代のシャイン(Edgar H. Schein)とベニス(Warren G. Bennis)の研究においてです。彼らはこれを「他人との関わりにおけるリスクを減らす集団現象」と定義しました。特に、他者との関係において「自分が受け入れられている」「自分には価値がある」と感じることが重要であり、そうした安心感が不安を軽減すると考えられました。この初期の研究は、心理的安全性が個人の行動や意見表明に与える影響を集団の文脈で捉えたものです。
1980年代 – デミングと「恐怖の排除」
1980年代には、品質管理の大家であるエドワーズ・デミング(W. Edwards Deming)が「経営の14ポイント」の中で「恐怖を取り除くこと」の重要性を強調しました。デミングは、労働者が効果的に働くためには、職場環境から恐怖を取り除き、意見や問題点を自由に述べられる状況を作るべきだと主張しました。彼の考えは製造業における品質改善運動に大きな影響を与え、心理的安全性の基盤となる「恐怖のない環境」の概念を普及させました。
1986年 – チェルノブイリ原発事故と心理的安全性の欠如
チェルノブイリ原発事故は、心理的安全性の欠如がいかに重大な結果を引き起こすかを示す典型例です。この事故では、恐怖や権威への従属が原因で、現場での問題やリスクが指摘されない環境が形成されていました。その結果、小さな問題がエスカレートし、最終的に制御不能な大惨事に至りました。この事例は、心理的安全性が欠如する組織における情報の封鎖やコミュニケーションの断絶がもたらすリスクを浮き彫りにしました。
1990年 – ウィリアム・カーンの新たな定義
1990年代には、心理学者ウィリアム・カーン(William Kahn)が心理的安全性を「身体的、認知的、感情的に自分を表現する能力」として再定義しました。カーンの研究では、心理的安全性が人々にとってどのように働く意欲や創造性、自己表現を促進するかが強調されました。また、この時期にはトヨタ生産方式(TPS)に代表されるように、安全文化が組織運営に取り入れられ、従業員が問題を自由に声に出しやすい環境を整備する動きが注目されました。
「トヨタ」心理的安全性の具体例
心理的安全性の高い環境では、たとえばトヨタの「アンドンコード」のように、誰もが作業の中断を提案できる仕組みが導入されています。これにより、従業員は問題が発生した際に即座に報告し、改善策を共有する文化が促進されます。
1999年 – エイミー・エドモンドソンの発見
1999年には、エイミー・エドモンドソン(Amy Edmondson)が臨床チームを対象にした研究を通じて、心理的安全性の具体的な効果を明らかにしました。彼女は、「ミスを認めても罰せられない信念」が高いチームほど、結果的にパフォーマンスが向上することを発見しました。彼女は心理的安全性を「ミスを認め、学び合える環境」と定義し、これがチームの創造性や成果に直結することを示しました。この研究は、心理的安全性の重要性を理論から実践に結びつける重要な転換点となりました。
2013年 – Googleのプロジェクト・アリストテレス
2013年、Googleは「プロジェクト・アリストテレス」と呼ばれる大規模な研究プロジェクトを通じて、心理的安全性が高パフォーマンスチームの中心的要素であることを確認しました。この研究では、以下の4つの要素がチームのパフォーマンス向上に重要であると特定されました。
- 信頼性 – メンバーが約束を守り、責任を果たす能力。
- 構造と明確性 – 役割や目標、プロセスが明確であること。
- 意味 – 仕事が個々人にとって価値があり、意義深いこと。
- 影響 – 自分の仕事が組織や社会に貢献しているという実感。
この中で、心理的安全性は特に重要な要因として浮上しました。心理的安全性が欠如すると、チームメンバーが自分の能力を発揮できず、結果としてチーム全体のパフォーマンスが低下することが明らかにされました。
Googleの「プロジェクト・アリストテレス」でも、心理的安全性がチームの生産性を支える重要な要素として特定されました。このプロジェクトは、いかに優秀な個人が集まっても、心理的安全性のない環境では最大限のパフォーマンスを発揮できないことを実証しました。
心理的安全性が低いとどうなるか?
心理的安全性が低いチームは、さまざまな問題に直面します。従業員が自分の意見を自由に言えない環境は、仕事の質やチーム全体の成長を妨げてしまいます。ここでは、心理的安全性が低いときに起こる不安や影響について、実際の例も交えながら詳しく見ていきましょう。
1. 「4つの不安」を感じる
エイミー・エドモンドソン教授は、心理的安全性が欠けている環境で働く従業員が感じる不安を「4つの不安」として紹介しています。これらの不安は、従業員が自分の意見を言いにくくする原因になります。それぞれの不安を具体的に見ていきましょう。
① 無知だと思われる不安
例えば、新しいシステムの使い方がわからないときに、「こんなこともわからないのか」と思われるのが怖くなり、質問を避けることがあります。質問をしないままだと、わからないことがそのままになり、仕事のミスやエラーが発生する原因となります。
例:新しいソフトウェアを使う業務で、最初に使い方がわからなかったが、質問せずに進めてしまった結果、大事なデータを消してしまった。質問をすれば防げたミスだったのに、恐れて聞けなかった。
② 無能だと思われる不安
自分が仕事ができないと思われたくないあまり、ミスを隠してしまうことがあります。これが続くと、問題が解決されず、後で大きなトラブルに発展することがあります。
例:会議でミスを隠してしまい、問題が発覚したときにはすでに大きな問題に発展していた。最初に言っていれば、早期に解決できたかもしれないのに、恐れて黙っていた。
③ 邪魔をしていると思われる不安
会議やディスカッションで、自分の意見が長くなりすぎたり、他の人の話を遮ってしまうのではないかと不安になることがあります。この不安から、意見を言わず、他の人に合わせることが多くなります。
例:会議で自分の意見を言うと、会議が長引いてしまうのではないかと心配になり、結局何も言わずに黙っていることが増えた。結果的に、意見を共有するチャンスを逃してしまった。
④ ネガティブだと思われる不安
懸念点や問題を指摘すると、「いつも否定的な意見ばかり言うな」と思われるのではないかと心配になることがあります。そのため、本音を言わず、表面的に賛成するだけになってしまうことが多いです。
例:問題が発生したときに、「ちょっとした問題だろう」と思い込んで指摘しなかったが、そのまま放置した結果、大きなトラブルに発展した。本当は早く言うべきだったのに、否定的に思われるのが怖かった。
2. 自己防衛による発言の抑制
これらの「4つの不安」に共通しているのは、従業員が自分を守るために発言を抑制してしまうことです。自分の意見を言わないことで、他人に迷惑をかけず、トラブルを避けるように振る舞うのです。しかし、この自己防衛的な行動が続くと、チーム全体でのコミュニケーションが不足し、問題を共有できなくなります。
例えば、ミーティングで意見を言いたいと思っても、「自分の意見が長引いて迷惑をかけるかもしれない」と感じて黙ってしまうことが増えます。結果的に、意見を出さないことが習慣になり、チームの中で情報が伝わりにくくなります。
3. 成長できない職場
もしチームメンバーが自由に意見を言えない状況が続くと、次第に特定の人物の意見だけが反映されるようになります。これでは、組織の問題点や改善点を見逃してしまうことが多く、結果として企業の成長が止まってしまいます。
例:会社の進行方向について、上司の意見だけが強く反映されてしまい、部下の意見はほとんど無視されてしまう。これではイノベーションが起こらず、企業の競争力が落ちてしまう。
また、意見を言わないことで、従業員同士のコミュニケーションが減り、孤立感を感じるようになります。その結果、仕事に対するモチベーションが下がり、やる気を失うことになります。このような環境では、離職率が高くなりやすく、長期的に見ても組織にとって大きな問題です。
心理的安全性が低いチームは、従業員が自由に意見を言うことができません。これが続くと、仕事に対するモチベーションが低下し、チームの成長が遅くなります。また、問題を指摘することができず、企業としての進化が難しくなります。だからこそ、心理的安全性を高め、従業員が安心して意見を言える環境を作ることが重要です。
心理的安全性の効果やメリット
心理的安全性の4段階
心理的安全性を作る方法を考える前に、心理的安全性の4段階を見てみましょう。ティモシー・クラークという人が提唱している「4段階の安全性」というのがあります。心理的安全性を高めるためには4段階の安全性を一歩ずつやっていけばいいと分解してくれているわけですね。
インクルージョン・セーフティ(所属感)
最初のステージは「所属感」です。この段階では、個人がグループの一員として認められていることを感じることが重要です。自分がそのチームに存在してもよいと感じ、排除されないという安心感が得られます。この感覚がないと、メンバーは自分の意見を言うことに対して不安を感じ、グループの一員として活動できなくなります。
ラーナー・セーフティ(学習)
次に「学習の安全性」が重要です。このステージでは、失敗を恐れずに新しいことを学んだり挑戦したりできる環境が提供されていると感じることが求められます。自分がミスをしたり知らないことがあっても、それが評価されないこと、むしろ学びの一環として受け入れられることが心理的な安全を生み出します。
コントリビューター・セーフティ(貢献)
第三のステージは「貢献の安全性」です。この段階では、メンバーが自分の知識やスキルを発揮して、チームに対して積極的に貢献できる安心感が必要です。自分の意見やアイデアが価値あるものとして尊重され、フィードバックが建設的であると感じることで、貢献意欲が高まります。
チャレンジャー・セーフティ(挑戦)
最後のステージは「挑戦の安全性」です。このステージでは、メンバーが現状を疑問視し、新たな方法やアイデアを提案したり、改善を試みたりすることに対して心理的に安全であると感じることが大切です。恐れずに問題点を指摘したり、現状を変えるための挑戦的な行動を起こすことができる環境が作られると、組織全体が革新し成長する土台となります。
心理的安全性の評価方法
高いパフォーマンスを発揮するチームを作るためには、まずそのチームの心理的安全性がどの程度あるのかを理解することが大切です。チームメンバーが感じている心理的安全性の度合いを測ることで、改善に向けた行動や実践をより効果的に取り入れることができます。
この調査は、チームの状況に応じて匿名で行うことが理想的です。チームが心理的に安全でない場合、メンバーは本音を伝えやすくなるからです。逆に、チームが非常に心理的安全性が高ければ、匿名でなくても問題ないかもしれません。
心理的安全性を評価する項目
調査では、以下の質問を使って心理的安全性を測ります。必要に応じて質問内容をチームや組織の文化に合わせて修正してもかまいません。
評価は5段階(1: 強く反対、5: 強く賛成)で答えてもらいます。
エドモンドソン教授が提案している7つの質問項目
まず、先述したエドモンドソン教授が提案している7つの質問項目があります。
- チーム内でミスを起こすと、よく批判をされる
- チームのメンバー内で、課題やネガティブなことを言い合うことができる
- チーム内のメンバーは、異質なものを受け入れない傾向にある
- チームに対して、リスクが考えられるアクションを取っても安心感がある
- チーム内のメンバーにヘルプを出しづらい
- チーム内で自分を騙すようなメンバーはいない
- 現在のチームで業務を進める際、自分のスキルが発揮されていると感じる
これらの質問をメンバーに投げかけ、ポジティブな反応が多ければ、心理的安全性が高いと言えます。
拡張した10個の評価項目
エドモンドソン教授の7つの質問を拡張し、10個にしたバージョンもあります。あなたの会社の状況に合わせて活用してみましょう。
- このチームでは、自分に何が期待されているかがわかっている。
- 成果を重視しており、誰も「忙しく見せる」必要はない。
- このチームで間違いを犯しても、それが責められることはない。
- 問題が起きたとき、私たちはチームとしてその原因を探る。
- このチームのメンバーは、問題や難しい課題を気軽に提起できる。
- このチームでは、異なる意見や個性が排除されることはなく、誰もが疎外されない。
- このチームでは、リスクを取ることが安全である。
- 他のメンバーに助けを求めることが容易である。
- このチームで誰も私の努力を意図的に妨害することはない。
- 私のユニークなスキルや才能は、このチームの仕事で大切にされ、活用されている。
評価結果の分析
調査結果から、最も低い平均スコアが出た質問に注目しましょう。また、スコアに幅がある質問も重要です。これは、メンバー間で感じ方に大きな違いがあることを示しており、どこに不均衡があるのかを把握する手がかりになります。
全てのチームが異なるため、スコアが「悪い」と感じる必要はありません。この調査は、改善の出発点に過ぎません。チームの心理的安全性を高めるための具体的なアクションを起こすためのガイドラインを見つけることが重要です。
スコアが低い項目に対するアクション
改善が必要な分野(例えば、スコアが低かった質問)を特定したら、以下の提案を参考にしてチームの前進をサポートしてください。最も関連性の高い提案を優先し、評価結果をもとにこれらの取り組みを行っていることをチームに伝えることが大切です。透明性を持つことで信頼が築けます。
1 | 自分に何が期待されているのかがわかる | タスクを明確に定義し、完了基準を共有。行動期待を示し、ネガティブ行動には迅速に対応。 |
2 | 成果を重視する | ビジネスの重要事項を共有し、目標を強調。優先事項を視覚化し、成果ベースのレポートを求め、物理的出席を重視しない。 |
3 | ミスを犯しても非難されない | ミスを学びの機会と捉え、リーダーが率先して共有。責める行為には迅速に対応。 |
4 | 問題が起きた時、原因をチーム全体で探る | 振り返りを定期実施。「誰が悪かったか」ではなく「何が悪かったか」を重視し、システム思考を活用して改善策を考える。 |
5 | 問題や課題を話しやすい環境がある | 安全な場を提供し、リーダーも率直に話す。ミーティングで勝利と困難の共有を奨励。 |
6 | 誰もが排除されず、全員が参加できる | 全員を会議や議論に参加させ、声を聞く機会を確保。チーム慣習を見直し、寛容性を確認。 |
7 | リスクを取ることが安全だと感じる | リスクテイクを奨励し、結果が失敗しても感謝。リスクの評価基準を共有し、学びを生かす文化を構築。 |
8 | 助けを求めるのが簡単だと感じる | 助けを求めた行動を褒め、感謝。リーダーが模範を示し、質問しやすい環境を提供。 |
9 | 努力を損なう行動がない | 他者を助ける行動を賞賛。成功や感謝を共有する文化を奨励。他人の成果を横取りする行為を厳しく対応。 |
10 | 独自のスキルや才能が評価され、活かされていると感じる | 各メンバーが価値を発揮できる役割を確認。強みを見つけ出し、チーム内で共有。 |
心理的安全性を高めるリーダーシップの行動
心理的安全性を高めるために最も大切なのは、リーダーが示す模範的な行動です。リーダーが自分の失敗を率直に認め、他者の意見を尊重し、オープンなコミュニケーションを促す姿勢を見せることで、チーム内に安全で信頼できる環境が自然に形成されます。このようなリーダーの行動が、チームメンバーにとって「ここでは自分の意見を言っても大丈夫だ」と感じさせ、心理的安全性を実現する鍵となります。
リーダーが行動で示すべき3つの重要なポイントを紹介します。
1. 仕事を「実行問題」ではなく「学習問題」として捉える
リーダーが問題を「実行問題」として扱うのではなく、「学習問題」として捉える姿勢を持つことが、心理的安全性の確立に繋がります。仕事の成果や結果だけを追求するのではなく、失敗や課題を次回の改善のための学びとして捉えます。このように、問題に対して学びの姿勢を持つことで、メンバーも失敗を恐れずに挑戦できる環境が作られます。リーダーが「全ては実験だ」と考え、問題が発生しても冷静に原因を分析し学びを深める姿勢を示すことで、メンバーはより自由に意見を言い、課題を共有できるようになります。
例:プロジェクトが予定通りに進まなかったとき、「どうしてこうなったのか?」と振り返り、「次回はこうしよう」といった改善策を皆で考える場を作ることで、チーム全体が成長する機会を得ます。
2. 自分自身の過ちを認める
リーダーが自分の過ちを素直に認めることは、チーム全体の心理的安全性を高めるために欠かせません。リーダーが自分の誤りを認めることで、メンバーは自分もミスをしても大丈夫だと感じるようになります。これによって、ミスを隠したり、他人を責めるのではなく、問題を解決するために意見を交換し合う文化が生まれます。
例:会議で間違った判断をしたとき、リーダーが「私の決定が間違っていた。次はどう改善するか考えよう」と認めることで、メンバーも自分のミスをオープンに共有しやすくなります。
3. 好奇心を持ち、質問をする
リーダーが積極的に質問し、メンバーの意見や考えを聞く姿勢を示すことで、意見交換が活発になり、心理的安全性が高まります。リーダーが自分の答えがすべてだと考えず、メンバーに考えを尋ねることで、チーム内で自由に意見が交わされ、意欲的な議論が生まれます。また、質問をすることで、メンバーは自分の考えが尊重されることを感じ、安心して意見を言うことができます。
例:リーダーが「この問題についてどう思う?」とメンバーに質問し、意見を引き出すことで、メンバーは自分の考えを表現しやすくなります。質問を通じて、新しいアイデアが生まれ、チームが一丸となって問題を解決することができます。
心理的安全性を作るために自社で出来る研修
先述した通り、心理的安全性は何よりリーダー自身が模範となることが重要です。そのうえで、自社で取り組める研修(ワークショップ)をご紹介していきましょう。
チームパフォーマンスワークショップ:心理的安全性は「ぬるま湯」ではない
このワークショップでは、チームのパフォーマンス向上に向けて、心理的安全性の重要性を理解し、実際にどのように高めるかを学びます。心理的安全性が高い環境では、メンバーは自由に意見を言い、失敗を恐れずにチャレンジできるため、チーム全体のパフォーマンスが向上します。以下では、このワークショップを自社で実施するための具体的な進め方を解説します。
1. 四象限図を使ったチーム文化の理解
まずは、四象限図を用いて、チームの文化や心理的安全性の状態を可視化します。この四象限図では、チームの心理的安全性とパフォーマンスを二つの軸として評価します。各象限には、異なるチームの状態が示されています。
- 無関心(Apathy): 心理的安全性もパフォーマンス向上の意欲も低いチーム。仕事に対して消極的で不満が募ります。
- コンフォートゾーン(Comfort Zone): 心理的安全性が高いが、パフォーマンスへの意欲が低いチーム。安全は確保されていますが、成長や挑戦が不足します。いわゆるぬるま湯文化です。心理的安全性が高いチームが”ぬるま湯文化”だと勘違いされることがありますが、それはこのコンフォートゾーンを目指すことが心理的安全性だと間違って解釈されていることが原因です。
- 不安(Anxiety): 心理的安全性が低く、パフォーマンスへの意欲が高いチーム。競争が激しく、メンバーは不安を感じやすいです。
- 高いパフォーマンス(High Performance): 心理的安全性とパフォーマンスの意欲が共に高いチーム。このゾーンでは、メンバーが革新を試み、失敗から学びながら成長します。
2. ワークショップの進行方法
このワークショップは、チームが自分たちの現状を認識し、改善に向けての具体的なアクションを決定するプロセスです。以下のステップで進めます。
ステップ 1: 四象限図の準備
ホワイトボードに四象限図を描くか、「心理的安全性とパフォーマンス四象限」のプリントを用意します。
ステップ 2: 四象限の説明
チーム全員に四象限の意味を説明します。それぞれの象限にどのような状態が含まれるのか、過去に自分たちのチームがどの象限にあったかを例に挙げて具体的に話すと理解が深まります。
ステップ 3: 過去の経験を共有
チームメンバーに、過去に自分たちがどの象限にいたかを振り返り、その経験を共有してもらいます。このステップでは、全員が少なくとも一度は発言できるようにし、チーム内でオープンなコミュニケーションを促進します。
ステップ 4: 自己評価
各メンバーに四象限図を配布し、自分たちのチームが現在どの象限に位置しているかを青いドットで示し、目指すべき象限を緑のドットで示してもらいます。最初は匿名で行うことで、正直な意見が得やすくなります。
ステップ 5: 結果のシェア
集めたプリントをシャッフルして配布するか、ホワイトボードに貼り出して、全員で結果を確認します。予想通りだったか、予想外だったかを話し合います。
ステップ 6: 結果を議論
チーム全員で、結果が整合しているかどうかを議論します。異なる意見を共有し合い、個々のメンバーがどのように感じているかを理解します。
ステップ 7: 改善策を出し合う
チーム全体が前進するために、どんな小さなステップが必要かを議論します。メンバーに口頭で提案を出させたり、ポストイットに書いて貼らせることで、改善案を具体化します。別のメンバーの提案には賛成の印としてシールを貼るなど、積極的な参加を促します。
ステップ 8: アクションを決定
改善策が決まったら、それを実行に移すための具体的なアクションを決定します。誰が、何を、いつまでに行うのかを明確にし、高いパフォーマンスゾーンに進むための行動を文書化して全員で共有します。
ステップ 9: フォローアップセッションの予定
進捗を確認するために、少なくとも2ヶ月後にフォローアップセッションを予定します。定期的に振り返りを行い、継続的な改善を促進します。
3. ワークショップの成果とフィードバック
最後に、このワークショップを通じてチームがどのように感じたか、どんな価値を得たかをフィードバックとして集めます。また、次回のワークショップに向けて改善すべき点があれば、それを反映させるようにします。
このワークショップは、チームが自分たちの状態を客観的に見つめ、より良いチーム文化を作り上げるための第一歩です。心理的安全性とパフォーマンスが両立するチームを作り上げることで、より高い成果を達成することができます。
恐怖対話ワークショップ:懸念や不安を声にする
心理的安全性を高めるためには、メンバーが恐怖を感じた時にその気持ちを声に出して表現できる環境を作ることが大切です。恐怖を表現することで、その恐れを理性的に整理し、必要な対策を講じることができます。このワークショップの主な目的は、チームメンバーが自分の恐怖についてオープンに話すことを練習し、その恐怖を軽減する方法を見つけることです。以下に進行方法とポイントをわかりやすく説明します。
1. 恐怖チャートを準備する
まず、チーム全員が恐怖を共有できるよう、恐怖チャートを用意します。このチャートには、恐怖を記入するスペースがあり、チームメンバーがどんな恐怖を感じているのかを視覚的に整理します。ホワイトボードに描くか、大きく印刷したチャートを使うと便利です。
2. ディスカッションの開始
各メンバーに自分が感じている恐怖について一つシェアしてもらいます。例えば、「目標を達成できないこと」や「チームメンバーが去ること」などが考えられます。恐怖をシェアする際、他のメンバーは感謝の意を示し、理解を深めることが重要です。全員が少なくとも一度は話すことができたら、次のステップに進みます。
3. 恐怖ごとの軽減策を考える
恐怖を表現した後、その恐怖をどう軽減するかをみんなで考えます。例えば、「締め切りに間に合わないことへの恐れ」に対しては、「週次でステークホルダーと進捗確認を行う」という軽減策が考えられます。メンバー全員が自由にアイデアを出し合い、それを恐怖チャートに記入します。
4. ターゲットノルムを話し合う
次に、理想的な状態(ターゲットノルム)について話し合います。チームが目指すべき「ハッピープレイス」を定義し、その状態を目指していきます。例えば、「プロジェクトが順調に進んでいるかどうかを早期に把握でき、リスクに対応できる状態」といった具体的な目標を掲げることが重要です。
5. エクササイズの振り返り
ワークショップ終了後、メンバーにどのように感じたかを反映させます。この振り返りを通じて、恐怖を軽減するための具体的な行動がどう変化するのかを確認し、実行に移すための意識を高めます。
6. チャートを掲示して実施を奨励する
完成した恐怖チャートは、チーム全員が見える場所に掲示します。定期的にこのチャートを確認し、軽減策が実行されているかどうかをチェックします。また、新しいメンバーが加入した場合や、チームが再編成された際に再度行うことも効果的です。
心理的安全性を高める仕組みづくりなら
以上、心理的安全性について、その評価方法や作る方法について解説をしていきました。仕組み経営では、会社の様々な仕組みづくりを通じて、心理的安全性が高い会社の文化形成をご支援しています。詳しくは以下のガイドブックからご覧ください。