お金は後からついてくるは本当?

「お金は後からついてくる」は本当か?経営者が誤解しがちな本当の意味



清水直樹
「お金は後からついてくる」。経営者なら一度は耳にしたことのある言葉だと思います。この言葉は正しい面もあれば、非常に危険な面もあります。本記事では、私たちの師匠でもあるマイケル・E・ガーバー氏の財務に対する考え方をもとに、この言葉の本当の意味を整理していきます。

「お金は後からついてくる」は本当なのか

結論から書きます。この言葉は半分正しく、半分危険です。

正しいのは、順序の話をしている場合です。顧客に価値を届け、その対価としてお金が入ってくる。これは事業の基本構造そのものであり、まったくその通りです。価値を出す前にお金だけを取りにいく会社は、短期的には数字が立っても長続きしません。

危険なのは、この言葉が数字を見ない言い訳として使われる場合です。「いい仕事をしていればそのうち何とかなる」と言いながら、決算書をまともに読んだことがない。こういう使われ方をした瞬間に、この言葉は経営者を破滅させる呪文に変わります。

実際、私が相談を受ける中小企業の社長の中にも、この言葉を無意識に免罪符にしている方がいらっしゃいます。ご本人に悪気はありません。むしろ真面目に、顧客のために良い仕事をしようとしている方ほどそうなります。だからこそ、この言葉の使い分けは正確に押さえておく必要があります。

正しい解釈:利益とは「価値を創造する能力」の表れ

まず、この言葉の正しい側から見ていきましょう。

ガーバー氏は、利益についてこう表現しています。利益とは、あなたのビジネスが持つ「価値を創出する能力」を数字にしたものである、と。

わかりやすいのはドライクリーニング店の例です。汚れた衣類を預かり、自社のシステムを通してきれいにして返す。顧客が支払うお金は、汚れた衣類がきれいになったという価値に対する対価です。ドライクリーニング店は、預かった時点より高い価値を生み出している。だからお金を受け取れる。世の中の富は、すべてこの構造で生まれています。

つまり、金儲けが事業の第一の目的なのではなく、お金は価値についてくるのです。この意味において「お金は後からついてくる」は完全に正しい。

そして、この順序を理解している経営者は強い。なぜなら、売上が落ちたときに考えることが変わるからです。「どうやって売るか」ではなく「顧客にとっての価値が薄れていないか」を先に疑う。この問いの立て方の違いが、数年後の差になって出てきます。

一方でガーバー氏は、逆の失敗も指摘しています。顧客サービスに注力しさえすれば、お金は必ずついてくると信じ込んでしまうことです。これは、まさに「お金は後からついてくる」の誤用そのものです。

危険な解釈:数字から逃げるための言い訳になる

ここからが本題です。

ガーバー氏は、財務諸表について印象的な言い方をしています。数字を見たくないというのは、鏡で自分の姿を見たくないというのと同じだ、と。

損益計算書にも貸借対照表にも、その裏には物語があります。どの数字も、経営者が考え、選んできたことの結果です。この商品でいける、この売り方でいけると立てた仮説が、現実に合っていたのかどうか。数字はそれを容赦なく教えてくれます。

事業とは実験室のようなものです。新しい商品、新しい売り方、新しい提供方法という仮説を立てて、実際に試す。そして出てきた利益が、その仮説が正しかったかどうかを知らせてくれる。さらに、どのタイミングでその結果を事業拡大に使うべきかまで教えてくれます。

ところが、多くの経営者はこの鏡を見ません。難しくてよくわからない、退屈だ、会計士に任せてある。理由はいろいろ挙がりますが、本当のところは、自分の仮説が間違っていたと突きつけられるのが怖いのだと思います。

定期的に会社の財務状況を管理しないような経営者が、ビジネスで成功することなどありえない。

ガーバー氏の言葉です。厳しい表現ですが、私も同意します。

そして、この「見たくない」という気持ちに、都合よくかぶせられるのが「お金は後からついてくる」という言葉なのです。数字から目を背けている状態を、価値を大事にしている状態だと自分に思い込ませることができてしまう。これがこの言葉の最大の危険性です。

価値を優先するのと、数字を見ないのは、まったく別のことです。ここを混同してはいけません。

お金の話が苦手なのは、金額の問題ではない

もう一つ、ガーバー氏が触れている大事な視点があります。

世の中では、お金や利益について話すことが避けられがちです。ただ、それはお金そのものが不快だからではありません。「自分は実際のところ、どんな価値を生み出しているのか」と鏡に向かって問うことが怖いからです。

ここではっきりさせておくべきことがあります。お金は、人間としての価値の目安ではありません。1ドルしか持っていない人も、100万ドル持っている人も、人間としての価値は同じです。

しかし、あなたが世の中にもたらしているものの価値は、お金で測ることができます

この違いがわかるでしょうか。お金はあなたの価値観や考え、決定、行動を反映しますが、あなた自身の人間的価値を反映するものではない。ここを切り分けられると、決算書を見るのがずいぶん楽になります。数字が悪いのは自分の人格が否定されたからではなく、選んだやり方が現実と合っていなかっただけだからです。

お金との付き合い方には3つのスタイルがある

数字を見られない理由は、能力の問題だけではありません。お金に対する価値観そのものが人によって違うためです。ガーバー氏は、お金との関係を3つのスタイルに分けています。


修道士タイプ

お金とは距離を置き、なるべく関わりたくないと考えるタイプです。実際には多くのお金を持っていることもありますが、生活は必要最低限で済ませます。

お金と距離を置く修道士タイプ

浪費家タイプ

お金をポケットに入れておけないタイプです。手にするとすぐ使ってしまう。貯めることより使うことを好みます。

貯蓄するタイプ

十分な消費をしないタイプです。使うくらいなら持っていたいと考えます。

職場には、これらのスタイルの人が混在しているのが普通です。お金をめぐるトラブルが人間関係にまで影響するのは、そもそも各人のお金に対する前提が違うからです。同じ「経費を使う」という行為でも、片方には当然の投資に見え、もう片方には浪費に見える。ここで衝突が起きます。

ガーバー氏自身、過去にお金で失敗した経験があるそうです。原因は、お金を管理する仕組みを人任せにしていたこと。そして、お金に対する価値観が人によって違うことを理解していなかったことだったといいます。あのガーバー氏でさえ、です。

ですから、まずご自身と社員がどのタイプなのかを一度見てみてください。ただし経営者だけは、どのタイプであろうとお金から目を背けて生きることができません。会社全体が、社長とお金との関係を拡大した姿になるからです。社長が数字から逃げれば、会社全体が数字から逃げる文化になります。

財務だけを見る経営も、同じくらい限界がある

ここまで数字を見ろと書いてきましたが、逆に振り切った場合も指摘しておきます。

事業を財務の側面からしか見ない経営者がいます。このやり方でも一定のところまでは伸びます。ただ、経営者であることの喜びを感じられないため、どこかで限界が来ます。

反対に、財務が怖くて管理を避け、「請求書さえ払えていれば心配ない」と主張する経営者もいます。これも一時的にはうまくいくかもしれませんが、事業が持つ大きな可能性を無視しているという意味で、やはり限定的です。

どちらも視野が狭く、ビジョンに到達する機会を減らしています。

あなたは請求書を払うために会社を始めたのではないはずです。ビジョンに到達し、事業の可能性を形にするために始めたはずです。会社が生み出すお金は、そこへ向かうための燃料であると同時に、どこまで進んだかを測る物差しでもあります。燃料計を見ずに運転する人はいません。

「後からついてくる」を仕組みに変える4つの手順

では、価値を出せばお金がついてくるという状態を、精神論ではなく仕組みとして成立させるにはどうすればいいか。順番に整理します。

1. 自社が生み出している価値を言語化する

自社は誰の、どんな状態を、どう変えているのか。ここが曖昧なまま「いい仕事をしていれば」と言っていても、価値は再現しません。まずは言葉にしてください。社員に説明できないものは、社員が再現することもできません。

2. その価値を誰が担当しても出せるようにする

価値が社長や一部のベテランの力量に依存していると、お金は「後からついてくる」のではなく「その人がいる間だけついてくる」ものになります。手順として書き出し、教育できる形にすること。ここが仕組み化の核心です。

3. 価値が数字にどう表れるかを毎月見る

月次で、最低でも売上・粗利・営業利益・現預金残高は自分の目で確認してください。会計士に任せてあるは理由になりません。数字は仮説の答え合わせであり、経営者本人が読まなければ意味がないからです。

4. 数字のズレを、やり方の改善に戻す

粗利が落ちているなら、価格が合っていないのか、提供の手間が増えているのか、顧客層がずれてきたのか。数字から仮説に戻り、やり方を直す。この往復が回り始めると、価値の向上と利益の向上が連動するようになります。

この4つが回っている会社では、「お金は後からついてくる」は精神論ではなく、実際に観測できる現象になります。

よくある質問

Q. 「お金は後からついてくる」は誰の言葉ですか?

特定の一人の名言というより、複数の経営者や著述家が近い趣旨を語ってきた考え方です。「仕事に情熱を燃やせばお金は後からついてくる」という言い回しが広まっており、日本でも創業経営者の語録として繰り返し引用されてきました。出所を特定することよりも、どの文脈で語られたのかを見るほうが実用的です。少なくとも「数字を見なくていい」という文脈で語られた例は、私の知る限りありません。

Q. 好きなことをやっていれば、お金はついてくるのでしょうか?

ついてきません。ついてくるのは、好きなことをやった結果として顧客にとっての価値が生まれた場合だけです。好きなことと、顧客が対価を払う価値が重なっている領域を見つけられるかどうかが分かれ目になります。

Q. 利益を追うのは、顧客本位ではないということですか?

違います。利益は、顧客に価値を届けられた度合いを示す指標です。利益が出ていないということは、価値が届いていないか、届けるコストが見合っていないかのどちらかです。むしろ顧客本位を続けるためにこそ、利益が必要になります。

Q. 数字が苦手でも経営はできますか?

専門家レベルの知識は不要ですが、自社の月次の数字を読んで異常に気づける程度は必須です。苦手だから見ないのではなく、苦手だからこそ、見るべき数字を絞って毎月同じ形で確認する仕組みをつくってください。


以上、「お金は後からついてくる」という言葉について、ガーバー氏の考え方をもとに整理してきました。

価値を先に、お金を後に。この順序は正しい。ただしそれは、数字と正面から向き合っている経営者にだけ許される順序です。

財務もまた、会社の仕組みのひとつです。他の仕組みと同じように、財務の仕組みが壊れていれば経営は必ず支障をきたします。ぜひ一度、自社の財務の仕組みを点検してみてください。



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