SOPとは、「Standard Operating Procedures」の略で、日本語では「標準作業手順書」と呼ばれる文書です。ある作業を、誰がやっても同じ結果になるように、手順と基準を書き記したものを指します。
製造業や医療の現場で使われてきた言葉ですが、事務や店舗、サービス業でも考え方は同じです。一般の企業では「作業手順書」「業務手順書」「手順書」と呼ぶことのほうが多いでしょう。
この記事では、まずSOPとマニュアルの違いを整理します。そのうえで、使われる手順書の書き方7ステップ、テンプレートに入れる項目、記入例までを解説します。
1. SOP(標準作業手順書)とは?意味と目的
SOP・作業手順書・業務手順書は同じもの
呼び方は違っても、指しているものは同じです。業界によって使われる言葉が変わるだけです。
- SOP・標準作業手順書……製造業、医療、研究機関などで使われる
- 作業手順書……工場や現場の作業について使われることが多い
- 業務手順書・手順書……事務やサービス業を含め、広く使われる
なお、自動車業界などの製造業では、SOPを「Start of Production」(量産開始)の意味で使うこともあります。社外の人とやりとりするときは、どちらの意味かを確かめてください。
SOPを作る3つの目的
SOPを作る目的は、次の3つに整理できます。
- 品質をそろえる……担当者によって仕上がりが変わらないようにする
- 引き継ぎを速くする……新しく担当する人が、ベテランに付きっきりで教わらなくても作業できるようにする
- 改善の出発点をつくる……いまのやり方が書かれていないと、どこを変えればよくなるのかを話し合えない
3つ目は見落とされがちです。手順が人によって違う状態では、うまくいったときも失敗したときも、原因がやり方にあるのか人にあるのかが分かりません。SOPは作業を縛るためのものではなく、改善を始めるための基準です(参考:業務標準化とは?)。
2. SOP(作業手順書)とマニュアルの違い
いちばん多い質問が、マニュアルとの違いです。結論から言うと、手順書はマニュアルの一種です。
- マニュアル……業務全体のルール、背景、進め方などをまとめた文書の総称。業務を理解するために読む
- SOP・作業手順書……マニュアルのうち、一つの作業のやり方を順番に書いたもの。作業をしながら見る
使い分けの目安は、「その文書を作業の前に読むのか、作業をしながら見るのか」です。作業の前に読んで理解するものがマニュアル、作業中に手元に置いて一つずつ確認するものが手順書です。
会社全体のマニュアルをどう組み立てるかは、マニュアルの作り方7ステップで解説しています。
業務フロー図・チェックリストとの使い分け
作業のやり方を書き残す文書は、SOPのほかにもあります。何を伝えたいかで選びます。
- 業務フロー図……人から人へ、部署から部署へと仕事がどう流れるかを示す。全体の順番を伝えたいとき(参考:業務フロー図とは?)
- SOP・作業手順書……一人が行う一つの作業を、最初から最後まで順番に示す。やり方を伝えたいとき
- チェックリスト……やるべきことを漏れなく確認する。慣れた人のうっかりミスを防ぎたいとき
実務では、この3つを組み合わせて使います。業務フロー図で全体を示し、その中の重要な作業ごとにSOPを作ります。そして、ミスが多い箇所にチェックリストを添えます。
作業標準書・作業指示書・作業要領書・QC工程表との違い
製造業では、似た名前の文書がいくつもあります。会社や業界によって呼び分けは異なりますが、一般的には次のように使われています。
- 作業標準書……作業の条件や品質の基準など、守るべき標準を定めた文書
- 作業手順書……作業標準を守るために、やり方を順番に書いた文書
- 作業要領書……手順に加えて、うまくやるためのコツや注意点まで詳しく書いた文書
- 作業指示書……特定の製品や案件ごとに、何をいつまでにどれだけ作るかを指示する文書
- QC工程表……製造工程ごとに、何をどう管理するかを一覧にした表
名前をどう呼ぶかより、社内でどの文書に何を書くかが決まっていることのほうが大切です。同じ内容が複数の文書に書かれていると、片方だけが更新されて食い違いが起きます。
トヨタの「標準作業」とは
「標準作業」という言葉は、トヨタ生産方式でよく知られています。トヨタの標準作業は、タクトタイム(一つを作るのにかけるべき時間)・作業順序・標準手持ち(工程内に置いておく仕掛品の量)の3つの要素で決められます。
ここで大切なのは、標準作業が「一度決めたら変えない決まり」ではないことです。いまの一番よいやり方を標準として決め、それを基準にして改善を重ね、よりよいやり方が見つかったら標準を書き換えます。SOPも同じで、書き換えられることを前提にした文書です。現場が自分の工程の品質に責任を持つ考え方は、自工程完結とは?でも紹介しています。
3. SOPが現場で使われなくなる3つの理由
「手順書を作ったのに使われない」という悩みはとてもよく聞きます。原因は、おおむね次の3つです。
1. 担当者の頭の中を書き出しただけになっている
私たちは業務の仕組み化の進み具合を、次の4段階で見ています。
- 段階1:その人しかできない、ブラックボックスの状態
- 段階2:業務が文章化されている(担当者の知識を書き出しただけの状態)
- 段階3:目的に沿って書かれ、コツや判断基準まで含まれていて、引き継ぎができる状態
- 段階4:業務を改善するための場が、定期的に用意されている状態
使われない手順書の多くは、段階2で止まっています。手順は並んでいても、「なぜそうするのか」「どうなっていれば正しいのか」が書かれていません。そのため、書いた本人以外が読んでも、迷う場面で判断できないのです。
2. 分厚すぎて、作業中に開けない
念のため、あれもこれも書いておこうとすると、手順書はすぐに厚くなります。作業中に何十ページもめくる人はいません。手順書は、薄いほど使われます。背景の説明や例外の話は、別の資料に分けます。
3. 誰がいつ更新するかが決まっていない
現場のやり方は少しずつ変わります。手順書が更新されないまま実際のやり方とずれていくと、「手順書は古いから見なくていい」と受け取られ、誰も開かなくなります。これは現場の怠慢ではなく、更新する担当と時期を決めていないことから起きます(参考:マニュアルが活用されない3つの理由)。
4. SOP(作業手順書)の書き方7ステップ
ステップ1:対象の作業を一つに絞る
全部の作業を一度に書こうとすると、途中で止まります。まずは一つに絞ります。
選ぶ順番は、いまミスが多い作業、次に一人しかできない作業です。目の前の困りごとを解決する手順書から作ると、現場も「作ってよかった」と感じ、次の手順書づくりに協力してくれます(参考:属人化とは?)。
ステップ2:目的と「できあがりの基準」を書く
手順より先に、その作業が何のためにあるのか、どうなっていれば完了なのかを書きます。
たとえば「請求書を発行する」ではなく、「取引先が支払い手続きをすぐに進められる請求書を、締め日から3営業日以内に送る」と書きます。できあがりの基準が書かれていないと、作業者は手順を終えたことで満足し、結果を確かめなくなります。
ステップ3:いまのやり方を観察して書き出す
ベテランに「手順を書いてください」と頼むと、多くの場合は手が止まります。本人にとって当たり前すぎて、何を書けばよいのか分からないからです。
そこで、作業している様子を横で見ながら、聞き手が書き出します。作業を動画に撮り、あとで一緒に見返しながら書く方法も効果的です。「いまどこを見ましたか」「なぜそこで手を止めたのですか」と聞くと、手順書に書くべき判断が出てきます(参考:暗黙知を形式知に変える方法)。
ステップ4:改善してから、標準にする
書き出したやり方を、そのまま手順書にしてはいけません。いまのやり方には、無駄な確認や、昔の事情で残っている作業が混ざっていることがあるからです。
書き出した時点で、関係する人と一度見直します。「この作業は本当に必要か」「順番を入れ替えたほうが早くならないか」を話し合い、うまくいくやり方が決まってから標準にします。いまのやり方をそのまま固定すると、平凡なやり方を全員に広げることになります。
ステップ5:1つの手順に1つの動作を書く
手順は、次の書き方にそろえます。
- 1つの手順には、1つの動作だけを書く
- 文頭は「開く」「入力する」「確認する」などの動詞で始める
- 「適量」「しっかり」ではなく、「10ml」「3回」「目視で傷がないこと」のように、数字や見て分かる状態で書く
- 手順が20を超えたら、作業を2つに分けられないか検討する
ステップ6:判断が分かれる箇所に「基準」と「理由」を書く
ここが、段階2から段階3に上がるための工程です。手順のうち、迷いやすい箇所や失敗しやすい箇所に、次の2つを書き加えます。
- 基準(ポイント)……どうなっていれば正しいか。どちらを選ぶべきか
- 理由……なぜそうするのか
理由まで書く理由は、想定外の場面に出会ったときに、作業者が自分で判断できるようにするためです。手順だけを覚えた人は、手順書に書かれていない場面で止まります。理由を知っている人は、目的に沿って動けます。
ステップ7:別の人にやってもらい、直す
書き終えたら、その作業をしたことがない人に、手順書だけを見て作業してもらいます。途中で迷った箇所、書いてあるとおりにやったのに結果が違った箇所が、直すべき場所です。
最後に、更新日と、次に見直す担当者を書き入れます。この一行があるかどうかで、手順書が使われ続けるかが決まります。
5. SOPのテンプレートに入れる項目
テンプレートを探す前に、入れる項目を決めてしまうほうが早く作れます。次の項目があれば十分です。
- 文書名と文書番号……どの作業の手順書かがすぐ分かるようにする
- 目的……その作業が何のためにあるか
- 適用範囲……どの部署、どの場面で使うか
- できあがりの基準……どうなっていれば完了か
- 必要な道具・材料・システム
- 手順……番号・作業内容・基準(ポイント)・理由
- 異常が起きたときの対応……誰に、何を報告するか
- 作成者・承認者
- 更新履歴と次の見直し日
エクセルで作るときの列の組み方
エクセルやスプレッドシートで作る場合は、手順の部分を次の5列にすると読みやすくなります。
- No.(手順の番号)
- 作業(動詞で始める1つの動作)
- 基準・ポイント(どうなっていれば正しいか)
- 理由(なぜそうするのか)
- 写真・図(あれば)
3列目と4列目が空欄のまま並んでいる手順書は、段階2のままです。すべての行を埋める必要はありませんが、迷いやすい行だけは必ず埋めます。
6. SOP(作業手順書)の記入例
例1:請求書を発行する(事務)
目的:取引先が支払い手続きをすぐに進められる請求書を、締め日から3営業日以内に送る
- 手順1:販売管理システムで、当月の納品済み案件を取引先ごとに出力する
基準:納品日が締め日までのものだけが含まれていること/理由:翌月分が混ざると二重請求になるため - 手順2:取引先の指定書式があるかを取引先一覧で確認する
基準:指定がある取引先は、その書式で作ること/理由:書式が違うと差し戻され、入金が1か月遅れるため - 手順3:請求書を作成し、金額を納品書の合計と照合する
基準:1円でも差があれば送らず、担当営業に確認すること - 手順4:取引先の指定方法(郵送・メール)で送付し、送付日を一覧に記録する
例2:店舗のレジを締める(店舗)
目的:閉店後30分以内に、売上とレジ内の現金を一致させて記録する
- 手順1:レジの精算ボタンを押し、売上の集計表を出力する
- 手順2:レジ内の現金を金種ごとに数え、集計表に書き込む
基準:2人で数えること/理由:一人で数えると数え間違いに気づけないため - 手順3:集計表の売上とレジ内の現金を照合する
基準:差額が500円を超えたら、その場で店長に連絡すること - 手順4:現金を金庫に入れ、集計表を所定のファイルに綴じる
2つの例に共通しているのは、すべての手順に基準と理由を書いているわけではないという点です。迷いやすい箇所、間違えると困る箇所にだけ書いています。これで、手順書は薄いまま、段階3の中身を持てます。
7. SOP(作業手順書)に関するよくある質問
SOPはどこまで細かく書けばいいですか?
「その作業を初めてする人が、手順書だけを見て一人でできる細かさ」が目安です。書いた本人が読んで分かるかどうかではなく、初めての人が読んで迷わないかで判断します。
文書と動画、どちらで作るべきですか?
作業の難しさがどこにあるかで決めます。手の動かし方に難しさがあるなら動画、どこで止めるか、どちらを選ぶかという判断に難しさがあるなら文書が向いています。動画で撮った場合も、判断の基準だけは文字で添えておくと、あとで探しやすくなります。
SOPは誰が作ればいいですか?
実際にその作業をしている人と、その作業に責任を持つ管理者が一緒に作ります。現場の人だけで作るとやり方の見直しが入らず、管理者だけで作ると実際のやり方とずれます。作業に責任を持つ人をあらかじめ決めておくと、作ったあとの更新も止まりません。
どのくらいの頻度で見直せばいいですか?
やり方を変えたときは、その場で書き換えます。それとは別に、年に1回など、見直す日を決めておきます。やり方が変わっていなくても、書き換えるべき箇所が見つかることはよくあります。
SOPを作ると、社員が自分で考えなくなりませんか?
手順だけを渡すとそうなりがちです。理由と基準を一緒に書き、さらに「もっとよいやり方があれば提案してほしい」と伝えて改善の場を用意すれば、逆に考える社員が増えます。手順書はやり方を固定するためのものではなく、改善の出発点です。手順に分けられない仕事の扱い方は、マニュアル化できない仕事の任せ方で解説しています。
まとめ
SOP(標準作業手順書)とは、一つの作業を誰がやっても同じ結果になるように、手順と基準を書いた文書です。マニュアルの一種で、作業をしながら手元で見るためのものです。
使われるSOPと使われないSOPの差は、手順の細かさではありません。迷いやすい箇所に「基準」と「理由」が書かれているか、そして誰がいつ更新するかが決まっているかで決まります。
まずは、いちばんミスが多い作業を一つ選び、目的とできあがりの基準を書くところから始めてみてください。
詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。


