『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』の主張は、冒頭の一行に集約されています。
マネジャーのアウトプットとは、自分の組織のアウトプットと、自分が影響力を及ぼす隣接組織のアウトプットの合計である。
ここには、自分が処理した仕事量が入っていません。どれだけ働いたかではなく、周りにどれだけ出させたかで測る。この一行を受け入れられるかどうかで、本書の読み方が変わります。
この記事では本書の要約を5つの要点に整理したうえで、社員数の少ない会社の社長がここから何を持ち帰れるのかをお伝えします。
『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』とはどんな本か
著者はアンドリュー・S・グローブです。半導体メーカーであるインテルを率いた経営者で、同社の最高経営責任者を務めました。
原著が出たのは1983年です。日本語版は日経BPから2017年に刊行されました。訳者は小林薫氏で、副題は「人を育て、成果を最大にするマネジメント」となっています。
40年以上前の本ですが、内容は古びていません。理由は、扱っているのが業界の話ではなく、人が集まって成果を出すときの原理だからです。いま広く使われている目標管理の手法である「OKR」も、本書で述べられた考え方が源流のひとつだとされています。
要約|本書の5つの要点
1. マネジャーのアウトプットは「他人の成果の合計」
冒頭に挙げた定義です。もう一度書きます。
マネジャーのアウトプット=自分の組織のアウトプット+自分が影響力を及ぼす隣接組織のアウトプット
注目すべきは後半です。自分の部署だけでなく、自分が影響を与えた他部署の成果まで含める。ここが本書の独特なところで、部門最適に陥る発想を最初から封じています。
逆に言えば、自分の手で処理した仕事の量は、マネジャーの成果に一切カウントされません。プレイヤーとして優秀な人ほど、この定義に抵抗を感じます。
2. テコ作用の大きい仕事に時間を移す
本書の中心にあるのが「テコ作用」という考え方です。同じ作業量から、どれだけ大きなアウトプットが生まれるかの比率を指します。
たとえば、1時間かけて自分で資料を作れば、成果は資料1本です。同じ1時間で作り方の型を作り、5人が使えるようにすれば、成果は5本ぶんになります。マネジャーは常に、テコ作用の大きいほうへ自分の時間を移していくべきだというのが本書の主張です。
そして本書は、テコ作用の大きい活動として次を挙げています。
- 部下を教育し、やる気を引き出すこと
- 情報を集め、必要な人に届けること
- 意思決定を行い、判断を後押しすること
- 自らが手本になること
どれも、自分の手を動かす仕事ではありません。マネジャーの仕事は、成果を出すことではなく、成果が出る状態をつくることだと分かります。
3. 1対1の面談は、もっともテコ作用が大きい
本書は、上司と部下が一対一で話す時間を重視します。理由は明快です。1時間の面談で、その部下の2週間ぶんの仕事の質が変わるなら、これほど比率の高い時間の使い方はありません。
大事なのは、この時間が上司のためではなく部下のための時間だという点です。進捗の確認だけで終わらせると、テコ作用は生まれません。1on1ミーティングを形だけ導入して続かない会社は、たいてい報告会になっています。
4. 部下の習熟度によって、関わり方を変える
本書は、一つのマネジメントの型をすべての部下に当てはめることを否定します。その仕事にどれだけ習熟しているかによって、上司の関わり方を変えるべきだとしています。
不慣れな相手には手順を細かく示す。習熟している相手には目標だけを渡す。同じ人でも、担当する仕事が変われば習熟度は下がるので、関わり方は戻ります。
ここを一律にすると、両側で問題が起きます。全員に細かく指示すれば、できる人の意欲を削ります。全員に任せれば、不慣れな人は放置されます。仕事の任せ方を考えるときの基本になる考え方です。
5. 会議は「無駄」ではなく仕事そのもの
本書は会議を擁護します。マネジャーが情報を集め、判断を伝える場が会議であるなら、それは仕事の場そのものだという立場です。
問題は会議の存在ではなく、目的が定まっていない会議が混ざっていることにあります。情報を共有する場なのか、決める場なのか。これを分けずに一つの会議で扱うから、長引いて何も決まりません。会議体を設計する意味はここにあります。
中小企業の社長が持ち帰れること
本書はインテルという大企業の話です。しかし、社員数が少ない会社ほど当てはまる部分があります。
社長のアウトプットは、社長個人の作業量ではない
いちばん持ち帰るべきなのはここです。社長のアウトプットは会社のアウトプットそのものです。社長が誰よりも働いていても、会社の成果が変わらなければ、定義上のアウトプットは増えていません。
この定義を受け入れると、判断が変わります。目の前の作業を自分でやるべきか、それとも誰かができる形にすべきか。迷ったら、テコ作用の大きいほうを選ぶ。これが本書から取り出せる、いちばん実務的な指針です。
「自分でやったほうが早い」はテコ作用がゼロ
この判断は、その日については正しいことが多いものです。実際に早く終わります。
ただし本書の物差しで見ると、テコ作用はゼロです。今日1時間短縮した代わりに、来月も再来月も同じ1時間を自分が使い続けることが確定します。教える1時間はテコ作用が大きく、自分でやる1時間はテコ作用がありません。自分でやった方が早い病から抜けられない理由は、この比較をしていないことにあります。
テコ作用がもっとも大きいのは、仕組みをつくること
本書の枠組みを最後まで押し進めると、行き着く先が見えてきます。教育のテコ作用が大きいのは、一度教えれば繰り返し成果が出るからです。であれば、教えなくても成果が出る形にすれば、テコ作用はさらに大きくなります。
手順が書かれている。判断の基準が決まっている。誰が決めてよいかの線が引かれている。この状態をつくる時間が、社長にとってもっとも比率の高い時間の使い方になります。仕組み化と呼んでいるものは、本書の言葉で言えばテコ作用の最大化そのものです。
テコ作用の大きい仕事を見分ける3つの問い
とはいえ、目の前の仕事のテコ作用が大きいかどうかは、その場では判断しにくいものです。私たちがご支援先にお伝えしているのは、次の3つの問いです。
- この1時間は、誰の来月を変えますか。自分の今日しか変えないなら、テコ作用はほぼありません
- 同じ作業が、来月も再来月も来ますか。繰り返し来るものほど、形にしたときの効果が大きくなります
- これをやったあと、できる人は増えますか。増えないなら、それは処理であって投資ではありません
3つとも「はい」なら、迷わずそちらを選んでください。逆に3つとも「いいえ」の仕事を社長が抱えているなら、それは誰かに渡すべき仕事です。
実務でよく見る3つの誤読
本書を読んだ経営者の方と話していると、次の3つの受け取り方をよく耳にします。どれも惜しいところで的を外しています。
1.「テコ作用=効率化」だと受け取る
作業を速くすることと、テコ作用を大きくすることは別です。自分の作業を2倍速にしても、掛かる比率は変わりません。変わるのは、その作業を自分以外の人ができるようになったときです。速さではなく、担い手の数が増えるかどうかで考えてください。
2.「任せればテコ作用が上がる」と受け取る
渡す相手がその仕事に習熟していなければ、テコ作用は上がりません。むしろ手戻りが増えて下がります。本書が習熟度の話をしているのは、このためです。任せることそのものではなく、任せられる状態をつくることが先にあります。
3.「1対1の面談を増やせばよい」と受け取る
回数を増やしても、中身が進捗確認なら比率は上がりません。判断の基準が渡され、次から自分で決められるようになって初めてテコ作用が生まれます。面談の回数ではなく、面談後にその人が自分で決められる範囲が広がったかどうかを見てください。
3つに共通しているのは、どれも「自分の動き方」の話にとどまっていることです。本書が問うているのは、自分が動いたあとに周りがどう変わるかのほうです。
読んだあとに始める3つのこと
- 先週の自分の時間を、テコ作用の大小で分類する。自分で処理した時間と、人が動けるようにした時間に分けます。比率を見るだけで十分です
- いちばん時間を使っている作業を1つ選び、教える相手を決める。手順を書くのはそのあとで構いません。まず相手を決めます
- 部下との一対一の時間を、月に一度でよいので予定に入れる。入れなければ、忙しい月から順に消えていきます
3つとも、新しい制度を作る必要がありません。時間の使い先を変えるだけです。本書が求めているのも、そこだけです。
読むときの注意点
大企業向けの本に見えるが、原理は規模を問わない
半導体工場の例が出てくるので身構えるかもしれません。ただ、扱っているのは「どうすれば人が集まって成果を出せるか」なので、社員が10人でも同じ話になります。事例の業種は読み飛ばして構いません。
訳語が硬い箇所がある
原著が1983年ということもあり、言い回しが古く感じられる部分があります。読み進める順番としては、マネジャーのアウトプットの定義とテコ作用の章を先に読み、生産の原理を扱う前半は後回しにしても理解できます。
目標管理の手法だけが目的なら、別の本が向く
本書は目標管理の教科書ではありません。「OKR」の源流ではありますが、手順書として読むと肩透かしになります。本書の価値は、マネジャーという仕事の定義そのものを書き換えるところにあります。
『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』に関するよくある質問
誰が読むべき本ですか
プレイヤーから管理職に上がったばかりの人に、もっとも効きます。自分の成果と部署の成果の切り替えができずに苦しむ時期に、その切り替え方が書かれているからです。管理職の役割を社内で定義するときの下敷きにもなります。
社長が読む意味はありますか
あります。むしろ社長のほうが当てはまります。社長は会社でもっとも高いテコ作用を持てる立場にいる一方で、実務に時間を取られやすい立場でもあるためです。
1on1を始めたいのですが、何を話せばいいですか
上司が話す場ではなく、部下が話す場だと決めてください。議題は部下が用意します。上司は聞く側に回り、判断が要るものだけをその場で決めます。進捗確認になった時点で、テコ作用は失われます。
会議を減らせと書いてある本ではないのですか
違います。本書は会議を仕事の場として位置づけています。減らすべきなのは会議そのものではなく、目的が決まっていない会議です。
他の名著と組み合わせるなら何ですか
マネジャー個人の時間の使い方を扱った本なので、組織全体を扱う本と組み合わせると視野が揃います。ビジョナリーカンパニーのように、長く続く会社の共通点を扱った本が対になります。
読んでも実践できる気がしません
全部やろうとすると、まず続きません。テコ作用という一語だけを持ち帰ってください。目の前の仕事に取りかかる前に「これはテコ作用が大きいか」と一度だけ自問する。それだけで時間の使い方は変わります。
まとめ
『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』は、アンドリュー・S・グローブが1983年に著したマネジメントの古典です。日本語版は日経BPから2017年に刊行されています。
中心にあるのは、マネジャーのアウトプットは自分の組織と隣接組織のアウトプットの合計であるという定義と、テコ作用の大きい仕事へ時間を移すという指針の2つです。教育、情報の流通、意思決定、手本になること。どれも自分の手を動かさない仕事です。
そして、この考え方をいちばん遠くまで進めると、教えなくても成果が出る形をつくることに行き着きます。社長にとってもっともテコ作用の大きい時間の使い方は、そこにあります。
詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。


