企業理念と経営理念の違い
企業理念と経営理念には、どちらも理念という言葉がついているので、違いは分かりづらいかもしれません。ただ、定義上は異なったものです。
企業理念とは?
企業理念は「企業の存在意義」です。何のために自社が存在しているのか?という問いに対する答えが企業理念です。
別の表現で言うと、以下のような言い方になります。
- 組織が存在する根本的な理由
- 価値観から生まれるもの
- 前に進むのに役立つが、決して到達しない北極星のようなもの
- 会社が100年続くためのガイドになるもの
企業理念は会社の存在意義なので、そんな頻繁に変わりません。少なくとも、10~20年ぐらいは変わらないものです。
トヨタの企業理念の例
わたしたちは、幸せを量産する。だから、ひとの幸せについて深く考える。だから、より良いものをより安くつくる。だから、1秒1円にこだわる。だから、くふうと努力を惜しまない。だから、常識と過去にとらわれない。だから、この仕事は限りなくひろがっていく
これ、とある会社の企業理念です。その会社の定義ではミッションと書いてありますけれども、同じ意味です。
どこの会社か皆さん分かりますか? 特に、何を作ってるのかっていうのを一切書いてないんで、ちょっと分かりづらいかもしれませんけども、「1秒1円にこだわる」とか、「くふうと努力を惜しまない」っていうところに、ちょっとヒントが隠されています。あと「より良いものをより安くつくる」ということで、製造業であるっていうことは分かります。
これ、実はトヨタの企業理念です。
トヨタの企業理念の全体像
ちなみにトヨタの企業理念は、こんな全体構成になっています。最初に言った通り、御社の理念は何かって言われたときに、トヨタの場合だとこういうのを全部含めて、理念だと言っているということです。これは、それぞれ会社によって決めているわけです。
トヨタの場合には、豊田綱領が原点にあります。確か、5箇条か6箇条ぐらいあったと思うんですけども、これがまず原点です。
その次に、このバリューが来てます。トヨタウェイです。これが多分、トヨタでいうと、働くうえで大切にしていることです。
そしてミッション。幸せを量産する。
ちなみに、ミッションは、日本で言われるミッションと海外企業で言われるミッションっていうのは、ちょっと違ったりするんです。
日本で言うミッションって、存在意義なんです。自分に与えられた使命みたいな感じなので、会社のミッションって言われたときには、会社の存在意義という意味合いが強いかと思います。
よく言われるミッション、ビジョン、バリューという理念を構成する三つの要素っていうのがよくあるんですけども、この意味で言うと、この存在意義なんです。ただ、このミッションという言葉は、海外の企業でいうと、あんまり使っているのを見たことないです。
どっちかっていうとミッションというのは、やんないといけないことみたいなイメージなんです。
『ミッション: インポッシブル』という映画がありますよね。あれって、不可能な指示をやり抜くみたいなイメージだと思うんすけど、使命というよりも、指令に近いです。どっちかっていうと、ミッションというのは指示命令されてやるっていうイメージに近いです。
そして、一番下にビジョン。モビリティーを社会の可能性に変える。まさに、トヨタさんは今、ちょうどやっているところですけれども、これがトヨタの長期的な展望です。モビリティーっていうのは、よく最近掲げてやってるようなとこ、ということです。
この構成を見ていただくと、恐らくですけれども、変え難い順に並んでいるのかと思います。ビジョンは時代に合わせて変えていく感じです。モビリティーって言い出したのって、確か10年たってないです。数年ぐらいで言い出した感じがあると思うんですけども、なので、ここは比較的時代に合わせて変えると。ミッションもそれに合わせて、中期的な期限で変えていくという感じ。バリューはもっと変え難い。変わらないものです。トヨタ綱領もずっと変わらないものという感じのイメージです。だから、変えがたい順に並んでいるというのが、トヨタさんの理念なのかと思います。
経営理念とは?
一方、経営理念は、「経営を行ううえでの、経営者の基本的な考え方」です。仕事と人生の指針となる哲学やガイドになるものです。
「社員を大事に」は経営理念
例えば「うちの理念は社員を大事にすることです」と言う会社が非常に多いかと思います。日本の家族的な経営をしている会社では、非常によく言われている理念です。
何年か前に、東証一部の経営者の方の講演会を企画したんです。そのときに、その社長がおっしゃってたのは「よくみんな社員を大事にするって言うけども、それを企業理念とは呼ばない」とおっしゃっていたんです。
どういう意味かというと、社員を大事にするっていうのは、どっちかというと、経営理念の方に当てはまるということです。経営者としてこう考えてると。経営者として社員を大事にしたいと思ってるということです。
なので、経営理念ではあるんだけれども、会社の存在意義ではないです。社員を大事にするというのは、会社の存在意義ではないですよね。経営を行ううえでの基本的な考え方であるということで、経営理念に当てはまるという話をされてたんです。
ユニクロの経営理念の例
ここでユニクロの経営理念の例をご紹介します。こちらは柳井氏が書籍内で紹介しているユニクロの経営理念23個条になります。
- 第1条:顧客の要望に応え、顧客を創造する経営。
- 第2条:良いアイデアを実行し、世の中を動かし、社会を変革し社会に貢献する経営。
- 第3条:いかなる起業の傘の中にも入らない自主独立の経営。
- 第4条:現実を直視し、時代に適応し、自ら能動的に変化する経営。
- 第5条:社員ひとりひとりが自活し、自省し、柔軟な組織の中で個人ひとりひとりの尊重とチームワークを最重視する経営。
- 第6条:世界中の才能を活用し、自社独自のIDを確立し、若者支持率NO.1の商品、業態を開発する、真に国際化できる経営。
- 第7条:唯一、顧客との直接接点が商品と売り場であることを徹底認識した、商品、売り場中心の経営。
- 第8条:全社最適、全社員一致協力、全部門連動態勢の経営。
- 第9条:スピード゙、やる気、革新、実行力の経営。
- 第10条:公明正大、信賞必罰、完全実力主義の経営。
- 第11条:管理能力の質的アップ゚をし、無駄を徹底排除し、採算を常に考えた、高効率、高配分の経営。
- 第12条:成功、失敗の情報を具体的に徹底分析し、記憶し、次の実行の参考にする経営。
- 第13条:積極的にチャレンジし、困難を競争を回避しない経営。
- 第14条:プロ意識に徹して、実績で勝負して勝つ経営。
- 第15条:一貫性のある長期ビジョンを全員で共有し、正しいこと、小さいこと、基本を確実に行い、正しい方向で忍耐強く最後まで努力する経営。
- 第16条:商品そのものよりも企業姿勢を買ってもらう、感受性の鋭い、物事を表面よりも本質を追求する経営。
- 第17条:いつもプラス発想し、先行投資し、未来に希望を持ち、活性化する経営。
- 第18条:明確な目標、目的、コンセプトを全社、チーム、個人が持つ経営。
- 第19条:自社の事業、自分の仕事について最高レベルの倫理を要求する経営。
- 第20条:自分が自分に対して最大の批判者となり、自分の行動と姿勢を改革する自己革新力のある経営。
- 第21条:人種、国籍、年齢、男女等あらゆる差別をなくす経営。
- 第22条:相乗効果のある新規事業を開発し、その分野でNo.1になる経営。
- 第23条:仕事をするために組織があり、顧客の要望に応えるために社員、取引先があることを徹底認識した壁のないプロジェクト主義の経営。
企業理念と経営理念のつくり方
というわけで、企業理念と経営理念の違いについて述べてきたんですけれども、では、どうやって作るのか?当たり前ですが、そう簡単に作れるものではありません。1日や2日で理念を作れるってなったら、薄っぺらい理念になってしまいますね。そう簡単に考えるものではなく、ずっと考え続けないといけないのが、この理念というわけです。
ヒントとして、こういう質問を常々考え続けたらいいんじゃないのかっていうのを載せております。
企業理念を作るために自問すべきこと
まず、企業理念の方です。存在意義をどうやって考え出すかということです。
これ、某グローバル企業が理念を作り直すときに、この質問をずーっと考え続けたっていう話があって。果たして、うちの会社が明日なくなったら、世界から何がなくなるのかということを考え続けた。まさに、存在意義を考えるっていうことです。
自社は、基本的にはお客様の夢をかなえるために存在しているわけなんで、お客様の夢を考えることで、自社の存在意義を導き出していくというのも一つあるかと。
元々、どういう課題を解決したくて創業したのかということです。2代目、3代目とか、後継社長の場合には、創業者はどういうことをしたくて創業したのかっていうのを、掘り返してみるのもいいんじゃないかと思います。
他にもいろんな会社があって、いろんな代替品がある中で、なぜ自社じゃないといけないのかというところを、掘り下げていくと存在意義っていうのが見えてくんじゃないかと思います。
経営理念を作るために自問すべきこと
次、経営理念です。
お客様第一に考えてる社長もいれば、社員第一に考えてる社長もいるので、この辺は別に、社長個人の考え方なんで、どちらでもいいかと私は思ってます。
社員やお客様にどういう人生を彼らに送ってほしいのかっていうのを、考えるのもいいかと思います。
そして、なぜ起業したのかと。継いだ方はさっきと同じですけども、なぜ創業したのかっていうのを振り返ることで、その当時の思いを思い返してみて、経営理念っていうのを言語化するっていうのを、やってみるといいんじゃないかと思います。
「企業理念&経営理念」と「行動指針」の違い
「企業理念&経営理念」と「行動指針」は、似ているようですが、「企業理念&経営理念」のほうが上位概念と言えます。「企業理念&経営理念」を実現するために、うちの会社ではこういう行動をしよう、というのが行動指針になります。
「企業理念&経営理念」はどうしても概念的で、社員が日々気にかけるものではないことが多いです。そこで、理念を具体化したものを行動指針と呼び、それを人事上の評価につなげるなどして、理念の共有をしていきます。
「企業理念&経営理念」と「ビジョン」の違い
「企業理念&経営理念」と「ビジョン」の違いも分かりにくいかもしれません。「企業理念&経営理念」は「想い」であるのに対し、ビジョンは「自社の長期的な姿」と言えます。ただし、この辺の定義は、各社それぞれ決めていけば良いと思います。
例えば、私たちの理念は何かと言われたときに、私はi以下の三つですと答えています。それが、Dream(夢)、Vision(ビジョン)、Value(中核的価値観)です。
OUR DREAM
人々の内なる起業家精神を呼び起こす
OUR VISION
世界中の優れたアイデア、人、資本を結びつけるプラットフォーム
OUR VALUE
- 自由:人間らしく生きること
- 夢:夢を持ち、夢を応援すること
- 誠実:裏表のない人間関係
- 好奇心:新しいことにトライすること
- 智慧:智慧を求める智慧を持つこと
このように、自社なりに企業理念やビジョンを掲げればいいわけです。ポイントは、それらが社員にわかりやすく伝えられることです。
企業理念&経営理念の策定から理念実現の仕組み作りなら仕組み経営
というわけで、今日は企業理念と経営理念の違いと、それぞれの定義についてお話しました。結論としては、これは会社ごと決めればいい話なので、一つの参考として、使ってもらえればいいかと思います。
なお、私たち「仕組み経営」では、企業理念&経営理念の策定から理念実現の仕組み作りまで一貫したご支援をしています。詳しくは以下からご覧ください。