「土俵の真ん中で相撲をとる」は稲盛和夫氏の言葉
「土俵の真ん中で相撲をとる」は京セラ創業者である稲盛和夫氏が残している言葉として有名です。
稲盛氏は、相撲を見ていて、土俵際に追い込まれた力士が踏ん張って耐えているのを見てこう思います。
土俵際であれだけ踏ん張れるのであれば、なぜ土俵の真ん中にいるときに、同じように踏ん張らないのだろうか?
その相撲の風景を見て、会社経営においても同じことが言えると考えたのです。
つまり、赤字になったときとか、倒産に追い込まれているときになんとか頑張って盛り返そうとしている経営者がいるが、そこまで頑張れるのであれば、まだ余裕のあるときに、同じように頑張ればよいのに、というわけです。
京セラフィロソフィーに書かれている「土俵の真ん中で相撲を取る」
稲盛氏が掲げている京セラフィロソフィーには、土俵の真ん中で相撲を取るについて、以下のような言葉が記されています。
納期というものを例にとると、お客様の納期に合わせて製品を完成させると考えるのではなく、納期の何日も前に完成日を設定し、これを土俵際と考えて、渾身の力をふり絞ってその期日を守ろうとすることです。そうすれば、万一予期しないトラブルが発生しても、まだ土俵際までには余裕があるため、十分な対応が可能となり、お客様に迷惑をおかけすることはありません。
このように私たちは、常に安全弁をおきながら、確実に仕事を進めていく必要があります。
「土俵の真ん中で相撲をとる」の勘違い
「土俵の真ん中で相撲をとる」というと、
なるほど、いつも余裕をもって取り組もう、ということだな
と考えるかもしれません。
しかし、先に書いた通り、これはそういう意味ではありません。
大切なのは、常に土俵際であるという気持ちで仕事に取り組むことです。
その結果、万が一、思い通りに事が進まなかったとしても、土俵の真ん中にいるのでまだ余裕があるため、なんとか挽回できる、というわけです。
「土俵の真ん中で相撲をとる」を経営や仕事で活かすには?
では、「土俵の真ん中で相撲を取る」の考え方を経営や仕事で活かすにはどうすればいいか?いくつか例を挙げてみてみましょう。
孫正義氏の勉強法
ソフトバンク創業者の孫正義氏は、学生時代、誰にも負けないほど勉強していたことで有名です。当時の努力によって自信が生まれ、いまの事業にもつながっていったと言っても良いでしょう。そんな孫正義氏の弟に孫泰三氏がいます。泰三氏も起業家として成功しています。
泰三氏は子供のころ、兄の正義氏に勉強の仕方を教えてもらったと言います。そのときのエピソードにこんな話があります。
1年を14等分せよ
泰三氏は、1年間の勉強の計画を立て、それを正義氏に見せました。泰三氏は1年12か月分、それぞれの月の勉強計画を立てたのです。それを見た正義氏は、「お前は勉強の仕方をわかってない」と指導したそうです。正義氏は、1年を14か月に分けるようにいいました。そして、12か月で計画が終わるようにするのだ、と伝えました。(「志高く」より)
1年を14か月で割ると、1か月が大体26日になります。それに12か月をかけると、312日になります。
つまり、正義氏は、1年が312日だと思って計画を立てなさい、と言ったのです。もし万が一、計画通りにいかなかったとしても、実際にはあと53日間あります。
このエピソードから考えると、正義氏は、泰三氏に、土俵の真ん中で相撲を取れ、と伝えたかったに違いありません。
計画は圧縮して立てる
ビジネスで何かの計画を立てるときにも同じことが言えます。たとえば、3か月で終わらせないといけないことがあったとして、本当に3か月で終わるような計画を立てていては全く余裕がありません。そうではなく、たとえば、2ヶ月で終わるように計画を立て、それを絶対に守る覚悟で事に当たることです。
今日が最後の日だと思って生きよう
スティーブジョブズ氏が残したことで有名な言葉、「今日が最後の日だと思って生きよう」というのがあります。これも「土俵の真ん中で相撲を取る」を別の言葉で言い換えたものではないでしょうか。毎日、人生の土俵際だと思って生きる、ということです。
ちなみにこの言葉は、ジョブズ氏がスタンフォード大学で行ったスピーチに含まれている言葉です。正確には以下のように語られています。
When I was 17, I read a quote that went something like: “If you live each day as if it was your last, someday you’ll most certainly be right.” It made an impression on me, and since then, for the past 33 years, I have looked in the mirror every morning and asked myself: “If today were the last day of my life, would I want to do what I am about to do today?” And whenever the answer has been “No” for too many days in a row, I know I need to change something.
私は17歳のときに「毎日をそれが人生最後の一日だと思って生きれば、その通りになる」という言葉にどこかで出合ったのです。それは印象に残る言葉で、その日を境に33年間、私は毎朝、鏡に映る自分に問いかけるようにしているのです。「もし今日が最後の日だとしても、今からやろうとしていたことをするだろうか」と。「違う」という答えが何日も続くようなら、ちょっと生き方を見直せということです。
経営者は死生観を持て
似たような話で、私が好きな田坂広志氏の「死生観」のくだりがあります。以下に引用してみます。
リーダーの立場に立つ人間には深い「死生観」が求められる
いかにして、「死生観」を掴むか。人生における「三つの真実」を見つめる。
第一の真実 / 人は、必ず死ぬ
第二の真実 / 人生は、一回しかない
第三の真実 / 人は、いつ死ぬか分からない「三つの真実」を見つめる覚悟。それが「死生観」。
深い「死生観」を掴むと我々の人生に、何が起こるのか。
「悔いのない人生」を生きる覚悟が定まる
「満たされた人生」を生きる覚悟が定まる
「成長し続ける人生」を生きる覚悟が定まる
(田坂広志氏公式サイトから引用)
明日にでも承継できるように
先ほどの田坂広志氏の死生観を会社経営に置き換えた言葉があります。
それが、
明日にでも売却(承継)できるように。しかし、永遠に所有していけるように今日のビジネス構築に励め。
です。
土俵際で後継者を探すな
会社は経営者が代わった後も、永続していけるように構築しなければなりません。しかし一方、経営者はいつ病気になったり、場合によっては死亡してしまったりするかわかりません。そんな時、いつでも他の人に承継できるように、またはいつでも売却できるようにしておかないといけない、ということです。
いま日本の中小企業の大問題が、事業承継です。要するに、後継者がいないというわけです。
正直、私はこの状況を見て、最初の稲盛氏が相撲を見ていて感じたことと、同じことを感じています。
つまり、”土俵際になって後継者がいないと嘆いている”、ということです。
もし、経営者がまだ若く、事業意欲も旺盛なときに、後継者の育成に取り組んでいたならば、本当の土俵際になって焦ることはなかったのではないでしょうか。
業績が登り調子でこそ締める
これまでにご紹介した話は、どちらかというと、時間軸の話でした。締め切りギリギリになって焦るようでは失格、というわけです。
同じように、業績(お金)についても「土俵の真ん中で相撲を取る」を考えてみましょう。
資金が底をつきそうになってから焦って資金繰りに奔走するのではいけません。常日頃から、資金に気を配っておくことです。これは松下幸之助氏が提唱したダム式経営にもつながります。
ダム式経営については以下から:
土俵の真ん中にいるときこそ経費最小
特に注意が必要なのが、業績が良いときです。業績が良いときには、社員の気も緩み、経費の使い方も雑になったり、その業績がいつまでも続くと思って過度な投資に走りがちです。
業績が良いときというのは、言ってみれば、土俵の真ん中にいるということになります。つまり、その時こそ、土俵際にいると思い、「売上最大、経費最小」(同じく稲盛氏の考え方)の精神で取り組まなくてはいけません。
というわけで、今日は「土俵の真ん中で相撲を取る」について意味や活用法をご紹介しました。
ぜひご参考にされてください。