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ダム(式)経営とは?松下幸之助氏が提唱し、稲盛和夫氏が承継したもの。

清水直樹
清水直樹
ダム(式)経営は松下幸之助氏が提唱し、稲盛和夫氏が承継し、KDDIの立ち上げなどに役立てた経営思想です。本記事ではダム(式)経営の意味から実践方法まで解説していきます。

 

ダム(式)経営とは、松下幸之助氏が提唱した概念

2020年に起こったコロナ禍で多くの社長が痛感したのが、現金の重要さでしょう。現金、決算書上の言葉でいえば、”内部留保”になるでしょう。この内部留保、なぜか日本では批判されがちです。会社にお金をためておくのではなく、どんどん投資をして経済を回せ、ということなのでしょう。

しかし、今回のコロナ禍では、内部留保が潤沢な会社ほど生き残ることができたのは間違いないでしょう。特に飲食、宿泊業等、実質営業が制限されている業界では、「しばらく売上が立たなくても会社を維持しているだけの蓄え」があるかどうかが生命線です。

何度も不況を乗り越えた松下幸之助氏は、ダムの水のように現金を蓄えておくことの重要性を認識し、ダム(式)経営と名付けて提唱しました。

ただ、ダム(式)経営は単に現金を貯めておけ、という教えではありません。ダム(式)経営にはもっと深い松下幸之助氏の経営哲学が反映されています。以下、ご本人の講演から引用させていただきます。

 

ダム経営で安定経営

水を流れるままに流して水の効用をムダにするのは、まことにもったいないことであるのみならず、そこからたくさんの被害が起こってくる。それでところどころにダムをつくりまして、水の流れの調整を図る。天から受けた水は一滴もムダにしないようにやろうというので、今日、各所にダムをつくって水の効用を経済的に生かしているわけでございます。これはもうすでに皆さんよくご存じのとおりでございます。

 

われわれのにもそういうようなダムというものが必要ではないかということであります。 私は先ほど申しましたように、アメリカの会社が二度の戦争を通じて、なお値段を変えずして、ある一つの品物を売り通したということは、これはダム経営をやっておったからだと解釈していいと思うんです。今、日本の実情を見ますと、設備の上にダムがないですよ。 設備をどんどん増やした。 そして製品が全部売れると思った。ところが売れない。 それでやむをえず設備の20パーセントを余らせる。 これはダム意識によって余らせたんではございません。売れるだろう儲かるだろうという、経営意欲に駆られてやったのであって、ダム意識によってそういうようなことになったんではないと思います。

 

私の言うダム経営というものは、最初から一割は余分に設備を常にしておかないといかん、それは社会的事変に対するところの企業者の責任であるという自覚であります。その自覚において、普通の需要を正確に設定いたしまして、変事に備えるために一割の設備増強をやっておく。 これは意識の上にある。 これが私はダム経営やと思うんですでありますから、少々の変動があったり、需要の喚起がありましても、そのために品物が足りなくなったり、値段が上がったりすることはありません。

 

そのときは余分の設備を動かせばいいんでありまして、あたかもダムに入れた水を必要に応じて流すようなものでございます。 そういう意味の、設備のダム設置、いいかえますと設備の増強です。 したがって採算はどこにおくかといいますと、採算は、常に90パーセントの生産をして引き合うところにおいてやっていく。 はたして日本の経営はそういうようにやっているかどうかですが、日本の今日までの経営を見てみますと、需要を過大に評価して、そうしてそれに対して設備を拡張していこう。 だから、したものは全部動かさないといかん、全部動かさなければソロパンに合わないと、こういう状態になっておるんではないかと思います。これはダム経営でも何でもありません。

 

非常に極端にいいますと、無責任な経営とこういうように思います。したがって、売れないときには非常に値を安くして競争する。 過当競争する。 まあこれぐらい拡張したらいいだろうということで拡張したが、もっと要るときには、値段がやっぱり上がるということになります。これは設備だけでありません。 資金の面におきましても私はそういうことがいえると思うんです。 資金の上にもお互い資金のダムをつくらないといかんのです。 そこに入れておかないといかん。 必要に応じて資金を使う。 要らんときにはダムで余らせておく。こういうことをやっぱりやらなくてはならんと思います。そうでないと安定経営というものが生まれてこないと思います。

 

資金は、ダムが空っぽになってしまっている。そのうえにまだ雨が降らんからというて、願うがごとく銀行へどんどん交渉に行っている。(中略)そこに非常に資金的に無理があります。だから資金を獲得するために安売りをする、横流しをする、原価販売をするということになる。そこに過当競争がまた起こってくる。資金のダムをもっていないという経営のあり方、私はこれはもういけないと思います。これは今後において、やはり是正していかねばならん問題だろうと思うんです。これもダム経営の一環としてやっぱり考えねばならんと思います。

 

関西経済同友会セミナー(1965年)より

 

以上、ちょっと長かったですが、講演内容を引用させていただきました。これをご覧いただくと、ダム(式)経営とは単に会社を存続させるための考え方ではなく、ダムのように資金や設備、人員に余裕を持たせ、世の中に常に一定した価値を提供していくための考え方と言えるでしょう。

 

ダム(式)経営を承継した稲盛和夫氏

京セラ創業者の稲盛和夫氏は、松下幸之助氏と並び称される稀代の経営者です。実は京セラは創業当初、松下電器から相当量の仕事を受注していたらしく、稲盛氏は松下氏に恩があったと言えるのかもしれません。

そして、松下幸之助氏がダム(式)経営のセミナーをした際、その会場には稲盛氏がいました。講演が終わり、質疑応答の時間、一人の参加者が、「ダム経営ができれば確かに理想です。しかし、現実にはできない。どうしたらそれができるのか、その方法を教えていただきたい」と質問したそうです。これに対する松下氏の答えは、「ダムをつくろうと強く思わんといかんですなあ」。というものでした。

会場にいた中小企業の社長たちは、冗談だと思い、笑いが起こったそうです。しかし、会場の後ろのほうでその言葉を聞いていた稲盛氏は、衝撃を受けました。松下氏の回答から、経営とは祈り念ずることから始まるんだ、と強烈に思ったそうです。稲盛氏は、この体験から何事も強く念ずることから始めることの大切さを念頭に置き、京セラを成長させていくことになります。

 

1500億円のダムを作った稲盛氏

京セラには創業以来、積み立ててきた手持ち資金が1500億円ある。このうち1000億円を使わせてほしい(稲盛和夫氏)

実際、稲盛氏はダム(式)経営を実践したらしく、DDI(現KDDI)を設立するときには、1500億円の資金があったそうです。当時(1983年)の京セラの売上は2200億円だったので、相当な資金量と言えますね。

1500億円ものダム資金がなければ、DDIの設立をしようと思わなかったかもしれないことを思うと、松下氏のおかげで今のKDDIがあると言えなくもないですね。

 

どのくらいのダムを創ればいいのか?

では実際にどれくらいのダムを創ればいいのでしょうか?これについて松下氏は具体的には公言していないようですが、上記の講演内容に、90%の生産で採算が合うようにしておくとありますので、常に1割分の余剰資金を貯めたり、余剰設備を用意しておくということかもしれません。

現代の松下電器?アイリスオーヤマのダム(式)経営は7割稼働

ちなみに様々な家電も展開しているアイリスオーヤマは、常に7割の設備で稼働しているそうです。これはダム(式)経営と同じ考え方で、急な需要拡大に耐えられるようにするためだそうです。実際、コロナ禍でマスク需要が急拡大したとき、アイリスオーヤマはいち早くマスクを市場に届けることに成功しました。

 

3年分のダム

会社の内部留保はどれくらいが目安なのでしょうか?定説では3か月分がいい、というのもあります。しかし、今回のコロナ禍では、3か月分ではとても足りないことが分かったと思います。私がお勧めするのは、ズバリ粗利(売上総利益)3年分です。つまり、商品原価を引いた額の3年分を蓄えることを目標とすることです。相当多いな、と思われるかもしれませんが、粗利3年分あればかなり安心安定した経営が出来ます。

実はこの基準は、私が導き出したものではありません。あの二宮金次郎翁の言葉を参考にさせてもらっています。

曰く、

3年分の蓄えが無ければ国にあらず

とのことです。ここでいう3年分というのが売上なのか何なのかはわかりませんが、つまるところ、3年間生産が無くても国がやっていける状態、と考えれば粗利(売上総利益)3年分と考えてよいでしょう。

補足:ちなみに、京セラの内部留保を調べたところ、大体粗利の4.8年分ということがわかりました。なので、3倍というのは目指す基準としてそう間違ってはいないと思います。

  • 京セラの2018年3月期の売上総利益 3,761億円
  • 京セラの2018年3月期の内部留保 1兆8039億円

 

ダム(式)経営とは、経営者の哲学

以上、ダム(式)経営についてご紹介しました。松下氏の講演にもあったように、ダム(式)経営とは、ケチケチしてお金を貯める、というものではありません。事業環境の変化に左右されず、安定経営を実現し、世の中に一定した価値を提供していくという経営哲学に基づいているものです。ぜひあなたの会社でも実践してみてください。

 

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