チェーンストア経営を理論化した渥美俊一氏
あなたの身の回りを見渡していただくと、いろんな大衆品があると思います。
たとえば、衣類、家具、家電、食料品などなど。
戦後、私たちの家庭にこういった大衆品を広めてきたのは全国にチェーン化されたお店です。スーパー、コンビニ、家電量販店、ファミレス、薬局などがそれにあたります。
今はネット通販とのせめぎ合いになっていますが、多くのチェーン店が私たちの生活基準の向上に貢献してきたことは間違いありません。
そして、実はこういったチェーン店の経営者が、こぞって教えを乞うた人物がいます。
故・渥美俊一さんです。
渥美俊一さんは、新聞記者出身ながら、アメリカのチェーン店を研究し、”チェーンストア理論”を完成させました。
チェーンストア理論とはその名の通り、店舗をチェーン化していくための理論です。
渥美さんは、その理論をもとに多くの店舗経営者を指導されてきました。今ほどの豊かさが無かった時代に、日本人の生活水準の向上をロマンとして掲げてのことです。
いま店舗関連のコンサルティングビジネスをされている方は、元々大手のチェーン店に在籍していて、このチェーンストア理論を学んで独立した方がほとんどかと思います。
最近ではニトリの似鳥会長が様々なメディアで渥美さんの教えを紹介しています。
補足:チェーンストア経営と「仕組み経営」関係性について
私の理解では、渥美さんが体系化したチェーンストア理論と、マイケルE.ガーバー氏が体系化した仕組み化のための理論は、原点が同じです。
双方とも米国のチェーン店や工場における大量生産の仕組みが原点だと思います。
渥美さんは、それを日本に輸入し、ガーバー氏は、それを全業態向けに展開しました。
なので、正直に言えば、私たちも「仕組み経営」を体系化する際には、渥美さんの言葉遣いや表現を参考にさせてもらっている部分があります。
残念ながら渥美さんは既にお亡くなりになっていますが、多数の本を残されています。
それらの本は店舗ビジネス向けなのですが、それ以外の業界の方にも大いに参考になる部分があります。
そこで、本記事では私たちの今の生活に大きな貢献をされた渥美さんへの尊敬の念も込めて、なぜチェーンストア理論がこれほどまでに多くの経営者の心に刺さり、多数の成功事例を生み出せたのか?を共有していきたいと思っていますのでぜひお付き合いください。
チェーンストア理論を動画でご紹介
本記事の内容を動画でもご紹介していますので、合わせてご覧ください。
チェーンストア理論とは?
チェーンストア理論とは、多数の店舗を一つの本部が統一して運営することで、良い商品を安く大量に提供することを目指す経営の考え方です。渥美俊一氏がアメリカのチェーン店を研究し、日本の商業に合う形で体系化しました。
要点は、店ごとに工夫を凝らすのではなく、本部が決めたやり方を全店で同じように実行するという点にあります。個々の店長の力量に売上が左右される状態から抜け出すための考え方だと言えます。
ここが、私たちが日頃お伝えしている業務の標準化とまったく同じ発想です。店舗ビジネスに限らず、どんな業種でも使える部分があります。
ペガサスクラブと、そこに集まった経営者たち
チェーンストア理論の広がりを語るうえで欠かせないのが、渥美氏が1962年に設立したペガサスクラブという研究団体です。翌1963年には、その事務局として日本リテイリングセンターが設立されました。
驚くのは、設立当初に集まった顔ぶれです。ダイエーの中内㓛氏、イトーヨーカ堂の伊藤雅俊氏、ジャスコの岡田卓也氏、ヨークベニマルの大高善兵衛氏、ユニーの西川俊男氏、イズミヤの和田満治氏。いま私たちが日常的に利用している小売チェーンの創業者たちが、同じ研究会で学んでいたのです。
一つの理論が、これだけの規模で実際の会社になった例は多くありません。チェーンストア理論が単なる机上の理論でなかったことは、この事実が示しています。
中小企業がチェーンストア理論から学べること
「うちは店舗を何十店も持つわけではないから関係ない」と思われるかもしれません。ただ、この理論の中心にあるのは店舗数の話ではありません。
本質は次の一点です。優れた人を集めて成果を出すのではなく、普通の人が同じやり方で同じ成果を出せる形を作る。これは店舗が2つでも、事務所が1つでも当てはまります。
本記事の後半で紹介する「良いシステム(仕組み)の条件」は、そのまま自社に当てはめて考えられる部分です。
渥美俊一氏とは?
まず、簡単に渥美俊一氏について説明します。
渥美俊一氏は、私たちの生活に非常に身近なコンビニやスーパー・ファミレスといった所謂「チェーン店」を経営者がどうやって展開していくかどうかを自身の研究から理論化した「チェーンストア理論」の生みの親です。
渥美氏は新聞記者出身です。アメリカのチェーン店を研究するなかで理論を完成させ、多くの経営者たちに影響を与えてきました。
渥美俊一氏の経歴
経歴を簡単にまとめると、次のようになります。
- 東京大学法学部を卒業
- 1952年 読売新聞社に入社し、経営技術担当の記者となる
- 1962年 チェーンストア経営研究団体「ペガサスクラブ」を設立・主宰
- 1963年 日本リテイリングセンターを設立
経営者ではなく、記者としての取材から出発している点が特徴的です。多くの企業を外から見続けた人が理論を作った。だからこそ、特定の会社のやり方に偏らず、業種を越えて通用する形になったのだと考えています。
渥美俊一氏の主な著書
渥美氏は多くの書籍を残しています。本サイトでは次の2つも取り上げています。
- 「チェーンストアのマネジメント」……多店舗化を進める段階で読む一冊
- 「チェーンストア組織の基本ほか」……組織づくりや商業の精神を扱ったもの
どれから読むか迷う場合は、本記事で扱う「21世紀のチェーンストア」から入るのがおすすめです。細かい実務ではなく、業界全体の方向を語った本なので、店舗ビジネス以外の経営者でも読み進められます。
21世紀のチェーンストア
本記事では渥美氏の書籍の中でも新しい部類に入る、「21世紀のチェーンストア」について詳しく見ていきます。
タイトルから分かる通り、店舗運営の細かいやり方ではなく、チェーンストア業界の現状と方向について書かれています。
チェーンストア理論のスゴイところは、単なる経営理論ではなく、産業(業界)全体の目指すべき姿を説いた点です。
渥美氏はこれを「商業の復権」と表現されています。海外から立ち遅れた日本の商業。それが原因で日本人のライフスタイルが貧しいままである。この当時の現状を、チェーンストアを日本に広めることで打破しようとしました。
チェーンストアを否定する人もいるかも知れません。ただ、普通に生活しているならば、皆さんの家庭も必ずチェーンストアの恩恵にあずかっているはずです。
そういったビジョンをもとに、チェーンストア理論を単なる経営理論ではなく、社会運動にまで押し上げました。
ここがほかの経営理論や〇〇メソッドなどとは、圧倒的に異なる点です。
本書の冒頭ではこんなくだりがあります。
人の一生は、その人ひとりだけのかけがえのないものである。間違えた生き方をしては、とりかえしがつかない一度きりの人生だからである。(中略)その際の満足とは、自分自身の営みが人々がより幸福になることについて、少しでも貢献できたと自覚できることだろう。
では、何が人々の幸福につながるのか?
それは、日本が最も立ち遅れた分野、流通(商業)で貢献することである。
そのための方法論が、チェーンストアという経営の仕組みである・・・
という感じで続きます。
このように、企業としてのビジョンの前に、産業としてのビジョンがあるべきだと説かれているのです。
そして、産業としてのビジョンが求心力となり、賛同する人たちがペガサスクラブという研究会に参画し、実際にそのビジョンを実現してきました。
あなたが所属している業界、そこには産業としてのビジョンはありますか?
もうひとつ、この本について最初にご紹介しておきたいのは、次の絶対原則です。
チェーンストアの絶対原則
渥美氏は、米国発のチェーンストア経営の絶対原則として、次のような点を挙げています。
- 大部分の人々が使う品(大衆品)と
- 日常的により高頻度で使う品(実用品)を
- より低い売価で
- より多くの地域で
- 同じように提供する
あなたも知っているチェーンストアはすべてこの絶対原則を守るように経営されているのがわかると思います。
今の時代においては、もう大衆品なんてこれ以上要らない、という意見もあるでしょう。
チェーンストア理論が提唱され始めた時代と、今の時代では価値観に変化があるのは当然です。
一方で、ここに挙げられている5つの原則は、いまなお起業家が参考にすべき原則となっています。
いま、シリコンバレーを中心とする技術系スタートアップ(ベンチャー)の世界では、次のようなことが言われています。
”10億人の暮らしに影響を与えるサービスを作ろう”
これはまさに大衆品を作ろう、ということとイコールです。
また、ITのサービスを企画する際には、”歯磨きテスト”と呼ばれる基準があります。
歯磨きは1日2回か3回する。同じように、1日2回も3回も使うようなサービスを作ろう、ということです。
これは実用品を作るということとイコールです。
あなたも使っているであろうFacebookやLineなんかは、まさに大衆品であり、実用品ですね。
大衆品かつ実用品を、どこでも提供できるようにすることこそ、起業家のすることです。
たとえば、今多くの起業家が宇宙産業に取り組んでいます。
言ってみればあれは、高価で一般的ではない宇宙旅行を、大衆品かつ実用品にしようという試みなのです。
経営者の生きがい
渥美氏は、他の人々が少しずつでも、より幸福になっていくことが確認できることをチェーンストアづくりの生きがいと言われています。
さらに、日本が立ち遅れた分野、つまり日本人の生活水準の向上に貢献すること、これを2つ目の生きがいとされています。
そして、2つの生きがいを人生のビジョンに出来た時、その人をロマンチストという、と書かれています。
これほど明確に、経営者としての生きがいとは何か?を定義されている人はなかなかいないと思います。
渥美氏は、このロマンチストたちを同志と呼び、チェーンストアを社会的に広めていきました。
生きがいや人生のビジョンを求めているのはもちろん、経営者だけではありません。
社員の方、顧客、ビジネスパートナーにもそれぞれ生きがいや人生のビジョンがあります。
そういった人たちといかに協働関係を築けるかが、ビジネスが広がっていくかどうかの大きな分岐点だと思います。
売る仕掛け⇒×
流通業界では、マーチャンダイジングという言葉が使われますが、これは「売る仕掛け」ではなく、「売れる商品づくり」と定義されています。
つまり、
- 人々が気軽に買える小売価格を設定し、
- それに見合うコストと品質の品を
- 世界中から探し出し
- マス化(大量に販売する)ための仕組みを工夫する
ということです。
これは「仕組み経営」の中でも定義しているのですが、究極の顧客志向とは、顧客サービスでもおもてなしでもなく、”顧客がぜひ欲しいと思うような商品を作ること”です。
そのような商品は本当に顧客のことをわかっていなければ作れないからです。
まず黙ってても売れる商品があることが第一前提で、その補助役として集客・販売のテクニックや顧客サービスがあります。
良いシステム(仕組み)の条件
チェーンストアはまさに仕組みの集合体です。
当たり前ですが、属人的な仕事のやり方ではチェーン化・多店舗化は決してできません。
渥美氏は、良いシステム(仕組み)の条件として、以下の点を挙げています。
- いちいち努力、注意しなくても、いつの間にか良好な結果が出るような、
- 良い習慣としきたりを積み上げることであり、
- 適切な標準化が進むことである。
考えてみれば、私たちの生活も仕組みの集合体です。
その中には良い仕組みもあれば、悪い仕組みもありますね。
良い仕組みの例としては、歯磨きです。
毎日歯磨きする習慣(仕組み)がある人は、いちいち努力しなくても歯を健康に保つことが出来ます。
一方で、毎晩、寝る前にスマホを見る習慣(仕組み)がある人は、眠りが浅くなり、朝の寝起きが悪くなります。
このように、会社の中には意識せずとも、”仕組み”になってしまっていることがあったりします。
それらを発見し、意図して良い仕組みに変えていくことも、仕組み経営の重要な活動です。
売上ではなく、客数が重要な指標
チェーンストア理論では、売上よりも客数が重要な指標として紹介されています。
客数が多いということは、それだけ多くの人に価値を提供できていることになるからです。
客数を増やすには、大型店を作ってその商圏内でビジネスをするのではなく、小商圏のお店を大量に展開することが求められます。
そのための方法論がチェーンストア理論というわけです。
また、渥美氏は、大型店であるだけでは、個人の成功物語にはなりえても、人生の価値は断じて生まれてこない、と書かれています。
より多くの人が、より頻繁に使う商品やサービスを創ることが起業家の役割です。
この辺は前にご紹介した5つの絶対原則と同じですね。
歯車の意味を教える
スイスのスーパーマーケット大学では、学生に時計を分解させ、歯車がいかに大切かを学ぶそうです。
日本では歯車人間というとイメージが悪いですが、歯車がなければ全体が動きません。
それぞれの歯車が全体にどう貢献しているのか?を理解することが大切なのです。
これも仕組み経営の中でお伝えしていますが、社員の方々は会社の全体像が見えたほうがより良く働けます。
これはもう紹介するまでもない有名な逸話ですが、「3人のレンガ積みの話」というのがあります。
ご存知ない方のために引用すると、こんな話です。
世界中を回っている旅人が、ある町はずれの1本道を歩いていると、
1人の男が道の脇で難しそうな顔をしてレンガを積んでいました。旅人は、その男のそばに立ち止まってたずねました。
「ここでいったい何をしているのですか?」すると、男はこう答えました。
「見ればわかるだろう。レンガ積みをしているのさ。毎日毎日、雨の日も強い風の日も、暑い日も寒い日も1日中レンガ積みだ。なんでオレはこんなことをしなければならないのか、まったくついてない。」旅人は、その男に「大変ですね」と慰めの言葉を残して、歩き続けました。
しばらく行くと、一生懸命レンガを積んでいる別の男に出会いました。
しかし、その男は、先ほどの男ほどつらそうには見えませんでした。そこで、また旅人はたずねました。
「ここでいったい何をしているのですか?」すると、男はこう答えました。
「オレはね、ここで大きな壁を作っているんだよ。これがオレの仕事でね。」旅人は「それは大変ですね」と、いたわりの言葉をかけました。
すると、意外な言葉が返ってきました。「なんてことはないよ。この仕事でオレは家族を養ってるんだ。この仕事があるから家族全員が食べていけるのだから、大変だなんて言ったらバチが当たるよ。」
旅人は、その男に励ましの言葉を残して歩き続けました。
さらにもう少し歩くと、別の男がいきいきと楽しそうにレンガを積んでいました。
旅人は興味深くたずねました。
「ここで、いったい何をしているのですか?」すると、男は目を輝かせてこう答えました。
「ああ、オレたちのことかい?オレたちは歴史に残る偉大な大聖堂をつくっているんだ。」旅人は「それは大変ですね」と、いたわりの言葉をかけました。
すると男は、楽しそうにこう返してきました。「とんでもない。ここで多くの人が祝福を受け、悲しみを払うんだ!素晴らしいだろう!」
旅人は、その男にお礼の言葉を残して、元気いっぱいに歩き始めました。
引用元:福山市教育委員会PDF(福山市立城北中学校の生徒指導だより)
このように、全体像が見えているかどうかは社員の働く動機付けに大きな影響を与えます。
会社のビジョン、夢、価値観などはその一部ですし、財務情報、各社員の情報などなど、全体像が見えていたほうが、自分がビジネスにどう貢献しているのか?がわかるのです。
チェーンストア経営に欠かせない仕組み化
いかがだったでしょうか?
「21世紀のチェーンストア」で語られているチェーンストア理論、サービス業の経営者はもちろん、他の業種の経営者も学べる部分が多くあると思います。
特に本理論の根幹にあるのは、会社のシステムを構築することで拡大するビジネスを作れるという視点です。これは我々「仕組み経営」が提唱している仕組み化の理論と非常に似ています。
経営の仕組み化がいかに経営拡大・事業成長に重要かを理解していただけると幸いです。
本部が決めたやり方を全店で同じように実行する。そのために欠かせないのがマニュアルです。渥美氏が説いた標準化の考え方は、いまも中小企業がそのまま使えるものだと考えています。
なお、「仕組み経営」では、経営の仕組み化を通じて多店舗展開のご支援もしています。詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。



