キングダムとは?
原泰久によるマンガ。青年マンガ誌「週刊ヤングジャンプ」(集英社)で2006年9号より連載中。13年4月現在、単行本は30巻まで刊行されている。争乱が続く春秋戦国時代の中国を舞台に、大将軍を目指す少年・信と、後に始皇帝となる秦王・政の活躍を史実とフィクションを織り交ぜて描く。12年6月よりNHK(総合・BS)でテレビアニメが放送開始。13年、手塚治虫文化賞でマンガ大賞を受賞した。(コトバンクより引用)
キングダムから学ぶビジネス:リーダーシップ編
まずキングダムから学べるリーダーシップについてみていきましょう。
明確なビジョンを持つ
第一話に登場し、その後のストーリーの根幹にもなっているのが、信と漂の明確な目標、「天下の大将軍になる」というセリフ。実際、信が大将軍に向けて成長していくことがキングダムのストーリーの大テーマになります。
信の目標「天下の大将軍になる」というのは、会社でいえばビジョンということになるでしょう。ビジョンとは、自社は何を目指すのか?という青写真のことです。
このビジョンが明確であればあるほど、日々の仕事の中で何をすべきなのかが明確になります。迷いがなくなるので、生産性が高まるわけです。
信と漂のビジョンは極めて明確です。一言で言えるうえ、誰が聞いても、それがどういう状態なのかがわかります。
一方、後の秦の始皇帝、政にも明確なビジョンがあります。
それは、「中華を統一する最初の王になる」です。
政はその後、何人もからこのビジョンに難癖をつけられながらも、それを貫き通し、実現に向けて動いていきます。
期限を設ける
さらに、素晴らしいのが、ビジョンに期限を設けていることです。
信も政も明確なビジョンを持っていますが、さらにそこに“15年以内”という期限を付けることになります。この15年というのは、秦の国力を考慮しての期限。それ以上の戦争は国の体力が持たないということです。ビジョンに期限があるとさらに明確さが増しますし、期限があることで、人は創造性が増すと言われています。
実際、秦が趙に攻め入ろうとした際、秦の総司令であった昌平君は、正攻法で行っては15年以内に統一は出来ないと考え、いきなり敵の都市圏を攻めるという奇策を政に提案します。15年という期限がなかったら、そのような奇策は生まれていなかったでしょう。
よく優れたビジョンの例として出されるのが、アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディの、“1960年代中に人間を月に到達させる”という宣言です。
こちらも期限付きで非常に明確なビジョンと言えますし、実際、1969年に人類は月に到達します。
誰もが共感できるミッション
ビジョンは、自分たちが目指す姿であるのに対し、ミッションは会社の存在意義や目的のことです。つまり、何のためのそのビジョンを目指すのか?ということです。
政には、「戦争の無い世界を作る」というミッションがあります。
戦争の無い世界を作る(ミッション)。そのために、中華を統一する(ビジョン)。
この言葉に私はグラミン銀行創設者のモハマド・ユヌス氏を思い出しました。ユヌス氏は、「貧困の無い世界を作る」をミッションにして、マイクロクレジットの銀行設立をビジョンとして掲げ、世界に変革をもたらしました。
このような誰もが共感できるミッションがあると周りの人は巻き込まれていきます。
実現力
ビジョンが明確であっても、周りが“そんなこと実現できるはずがない“と思ってしまえば、絵に描いた餅になってしまいます。
実際、政も敵対勢力からビジョンをバカにされるシーンが何回かあります。
政がすごかったのは、そのたびにビジョンをより具体的に語り、相手を自分のビジョンに巻き込んでいくことです。
たとえば、政の敵対側である呂不韋は、貨幣制度こそが天下の起源であると言い、貨幣で中華を統一すると言います。
しかし、政はそれでは戦争は無くならないとし、人の本質を信じて、“人が人を殺さなくていい世界を作る”と宣言し、その言葉に敵対側である呂不韋ですら目頭を熱くするシーンがあります。
さらに秦からすると敵対する6か国のうちのひとつ「斉」の国王との話し合いでは、“人”ではなく、“法”によって中華を統一すると宣言し、斉の国王を見事に巻き込みました。
プレゼン力・コミュニケーション力
キングダムでは強力なプレゼン力、コミュニケーション力を感じさせるシーンも多いです。
蕞での政のスピーチ
蕞での政のスピーチに感動した人もいるでしょう。
秦を脅威だと思った敵対国、趙の宰相李牧は、他国を巻き込んで秦を打倒するための合従軍を率います。
秦が迎えた最大のピンチのこの時、政は王自ら蕞に向かいます。そして、“市民を兵士にする”ための扇動スピーチを行います。
そのうえで政は、「蕞で敵を止めねば、秦は滅亡する」と事実を伝えます。そして、大変な戦いになるが、先祖たちもそうやって国を守って来たのだと伝え、自分も共に戦うことを宣言します。
結果、王の話を聞いた市民たちは奮起し、自分たちで自分たちの国を守ろうと戦う決意をするのです。
この政のスピーチの流れは変革を導くリーダーシップの鉄板と言えます。
ジョン・コッターという有名なコンサルタントは、この時の政のように、変化を起こさないといけないリーダーたちに向けて、変革への8段階アプローチとして以下のステップを生み出しました。
1) 危機意識を高める
変革に携わる関係者の間に「危機意識」を生み出すために事実を伝えます。政の場合も、まず事実を隠すことなくオープンに伝え、いま一体どういう状況なのかを市民に理解させました。
2) 変革推進のための連帯チームを築く
変革を実行するチームを創ります。政の場合には、チームの人選の余地がほとんどありませんでしたが、幸い信をはじめとする信頼できるチームがありました。
3) ビジョンと戦略を生み出す
変革に導くためにビジョンを生み出し、ビジョンを実現するための戦略を立案します。政は自分たちでこの国を守るというビジョンを伝えます。
4) 変革のためのビジョンを周知徹底する
全員に話しているだけでは、一人一人が責任感を持つことがありません。政は市民全体に訴えかけるだけではなく、小さな子供に対して個別に声を掛けます。これによって市民は、政が一般的な話をしているのではなく、一人一人に向けて話していることを感じ取るのです。
5) 従業員の自発を促す
市民の士気が落ちないように、政は計7日間にわたる蕞での戦いの間、夜を徹して兵士となった市民たちに声をかけ続けます。
6) 短期的成果を実現する
蕞での戦いは、結果として7日間続きますが、いかんせん、ほとんどの兵が一般市民なので、まず初日を生き残れるかどうかがこの戦いに勝利できるかどうかのカギを握ります。咸陽でこの戦いを見守っている総司令の昌平君も、「初日を保てれば蕞に光が差すかも知れない」と予想します。実際、初日は見事に蕞を守り抜き市民たちも自信を付けます。
7) 成果を生かして、さらなる変革を推進する
8) 新しい方法を企業文化に定着させる
この辺の描写は特にないですが、政は怪我をしながらも市民と一緒に戦い抜き、結果として蕞は守られることになります。
オープンにコミュニケーションを行うこと
社長は悪い状況が起こると、それをメンバーに共有したがらないものです。その理由は第一に、悪い状況だとわかるとみんなが離れてしまうという恐れ。そして第二に、そんな事態を招いてしまった自分の弱さを見せたくないから。
ただ、政はいまが最悪の状況であることを躊躇なく市民に伝えました。思えば政は信と出会った当初から、自分は最悪の状況に置かれているということを隠すことなく伝えていました。それでいて、中華を統一するという大きなビジョンを持っていたのです。
ここから、リーダーとしての本当の強さとは、弱みを見せないことではなく、弱みも悪いこともさらけ出せることである、とわかります。
私が師事するマイケルE.ガーバー氏もこう言っています。
あなたのリーダーとしての能力は、あなたがすべてのことについて良く知っているかどうかによって決まるものではない。それは、あなたが自分の強さや弱さについて、いかにオープンであるか、いかに正直であるかによって、決まるものである。
社員からすると、”情報が隠されている”と感じることほど、モチベーションを下げることはありません。基本的に、社員は会社の情報を知っていればいるほどうまく働けます。
オープンにコミュニケーションは、いまのリーダーには必須なスキルと言えるでしょう。
ストーリーテリング
いきなり話が飛びますが、先日、スターウォーズシリーズを見ていたところ、キングダムに似たようなシーンが出てきたことを思い出しました。
考えてみたら、それもそのはず。
実は映画や小説、漫画など、ヒットするストーリーには”型”があるのです。
それが「英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)」です。
神話の研究家として知られるジョセフ・キャンベル氏は、世界中の神話を研究した結果、ある結論に達します。
それは、神話の中には英雄が登場する。英雄の姿は、神話によって様々であるが、彼らにはほぼ共通のストーリーがある、というものです。
そして著書「千の顔をもつ英雄」の中で、その原則を明らかにします。
ヒーローズジャーニーとは?
ジョセフ氏が明らかにした、英雄達のストーリーは、「ヒーローズ・ジャーニー」として定義されました。
ハリウッドなどで制作される映画の脚本の基礎としても利用されていたり、マーケター達が企業のストーリーを伝えるときに使われたりしています。
スターウォーズもターミネーターも、このヒーローズジャーニーをベースにしてストーリーが作られています。そして、意識しているかどうかは知りませんが、キングダムのストーリーもヒーローズジャーニーになっています。
起業家・経営者の大きな役割は、ストーリーを語り継ぐことで、会社の哲学や理念といった、いわばDNAを残し続けることです。
たとえば、創業ストーリーや商品の開発ストーリー、顧客や社員の成功物語、こういったストーリーは人々の心に残りやすく会社を際立たせる役割があります。
近年、消費者は彼らが購入する物のストーリーを知りたがっている。誰が売っているのか、どんな社会的使命があるのか。ビジネスの成功は、顧客や投資家との個人的なつながりを構築することと深いつながりがある。そんな状況の中、About us ページは、企業ウェブサイトの中で、一等地になっていると言える。 – 米Entrepreneur誌
たとえば、世界のホンダ。まだ小さな町工場だったときから、創業者の本田宗一郎氏が、ミカン箱の上に立って、世界一になるんだ、と叫んでいた逸話はあまりにも有名です。
ホンダのファンは、創業時から脈々と受け継がれている物語に引寄せられています。
また、ガレージ発のベンチャー企業として有名なのが、ヒューレット・パッカード(HP)社です。
HP社も、その当時の物語が、自社内に受け継がれ、いまなお、彼らのビジネスにとって欠かせないDNAになっています。
優れたストーリーは、優れたブランドを作り、ビジネスにより多くの人たちが引寄せられるようになります。
ヒーローズジャーニーのフォーマット
英雄の旅(ヒーローズジャーニー)のフォーマットをご紹介しておきます。
ヒーローズジャーニーの基本フォーマット
1. 日常の世界
主人公が日常の世界に登場する場面の描写。主人公の人生に何かが欠けているが、その欠けているものが何なのか、気が付くことができない。
2. 天命
主人公を旅へと駆り立てる何かに出会う。予期せぬ何かとの出会いが、旅へと導いていく。
3. 賭け/決断
天命によって旅に導かれるが、主人公は、果たしてその道に進むべきなのかどうかを葛藤する。自分は日常の世界に留まるべきなのか、それとも新しい世界へと足を踏み入れるべきなのか。
4. 探索
「新しい世界」に足を踏み入れ、主人公が新しいことを体験し始める。
5. 困難
冒険の中で、困難に突き当たる。ライバルや敵との対立によって、主人公が叩きのめられそうになることで、ストーリーに引き込む力が生まれる。
6. 変革
主人公が困難に遭遇し、それを乗り越える過程で、英雄として成長していく。読み手は、その姿を自分と重ね合わせることによって、感動したり、勇気をもらったりする。
7. ひらめき
日常の世界で常識として考え、行動してきたことが、新しい世界、新しい世界では、通用しないことに気が付き、ひらめきの瞬間がやってくる。いままで自分が経験してきたことが全て統合され、ひとつの結論に至る。
8. 挑戦
これまでのシーンを統合させ、より大きなものに挑戦していくことを描写。挑戦がまだ道半ばでも良い。
キングダムのヒーローズジャーニー
さらにキングダムに合わせてみるとこんな感じになりそうです。
1. 日常の世界
戦災孤児の信と漂は大将軍になるという夢を持ちながらも、日々、家の手伝いをしながら貧しい生活を送っています。
2. 天命
そんな中、たまたま通りかかった昌文君(秦の国王、政の部下)は、国王に似ている漂を影武者にすべく連れていきます。しかし、やがて漂は反乱軍に殺されてしまいます。そんな中、信は漂からのメッセージで政と出会います。
3. 賭け/決断
信は政と出会い、最初は政に敵意を持ちます。大親友だった漂は、政の身代わりになって死んだからです。一方で、政から決断を求められます。このまま村で暮らすか、自分を助けて大将軍になるか?信は政に付いていき、大将軍を目指すことにしました。
4. 探索
秦の部隊に入った信は、大将軍である王騎と出会います。目標とする代大将軍と出会ったことでますます目標への決意を強めます。
5. 困難
戦いの中でどんどん出世していく信の前には、様々な敵将が登場します。そのたびに信は成長します。また、同世代のライバルである蒙恬や王賁らと出会い、切磋琢磨しながら勝利を続けていきます。
6. 変革
信はついに王騎から譲り受けた矛を使い始めます。憧れの大将軍から意思を託され、信の成長は加速していきます。
ひとまずヒーローズジャーニーの6つ目のステップまでです。キングダムは100巻くらいまで続くという話があるので、「7. ひらめき」「8.挑戦」については信が将軍、大将軍になっていくシーンで描写されるような気がします。
ヒーローズジャーニーの用途
キングダムのストーリーと同じように、あなた自身やあなたの会社のストーリーを作ることで、人を魅了するブランドになっていきます。ビジネスの場合、たとえば、次のようなストーリーが作れます。
創業ストーリー
創業したきっかけや創業してからの苦労話。先ほどのヒューレットパッカードなどもそうです。創業ストーリーを社員に語り継ぐことで起業家精神を醸成したり、自社への愛着が湧く効果もあります。
コアバリューストーリー
自社のコアバリューを象徴するようなストーリーを語り継ぐことで、コアバリューの共有を強化できます。ザッポスでは新入社員トレーニングにおいて、先輩社員がコアバリューを体現したストーリーを共有するそうです。それによっていかにコアバリューがザッポスにとって大事なのかを知ることが出来ます。
商品開発ストーリー
なぜその商品が出来たのか、どんな苦労があったのかを語り継ぐことで顧客を魅了することが出来ます。
ビジョンストーリー
自社の目指すビジョン。それが実現されたときにどんな世界になるのかをストーリーとして描写することでビジョンがより現実感を持って感じられるようになります。
顧客ストーリー
顧客の成功事例をストーリーにします。社員はいかに自社の商品やサービスが世の中のために立っているかを実感できますし、他の顧客を魅了するツールにもなります。
こんな感じで、ヒーローズジャーニーの型を利用したストーリーは、様々な用途があります。ぜひ自社のストーリーを作り、語り継ぐことで人々を魅了するブランドづくり、会社作りに役立ててください。
キングダムから学ぶビジネス:組織づくり編
次のテーマは、組織づくりです。ここでは、「人ではなく法で統治する」という考え方をご紹介していきます。
人ではなく法で統治する
秦の国王である政と、斉の国王との話し合いでは、政は“人ではなく法で統治する”と宣言します。
この話は私たちがいつも仕組み経営で伝えている、“人依存”ではなく、“仕組み依存”とさも似たりだったので、外すわけにはいきません。
斉の国王は、“中華の統一というのは分かった。ただ、秦に侵略されたほうの国の国民の気持ちはどうなるのだ?”と政に問い詰めます。
その質問に対して、政が用意していた答えは、これは秦による侵略戦争ではなく、新国立国のための戦争であり、人ではなく、法によって統治する、というものでした。王侯ですら、その法に従うという法治国家の設立を宣言します。
この宣言に斉王は心打たれます。自国の民も、この政のもとであれば虐げられることも無いだろうと思うに至るのです。結果、口約束ではありますが、政は一滴も血を流すことなく、実質的に斉を落とすことになりました。
人依存の危険性とは?
なぜここで政は人ではなく法で統治すると言ったのでしょうか?
人に依存することの危険性は、国でも会社経営でも変わりません。
政が法による統治を目指したのは、人に依存した統治では、代替わりすると方針が変わり、国が浮き沈みすることが予想されたからではないでしょうか。
この時代の王国は、まさに王様が法であり、王様の気分次第で国の方針が変わり、国民は迷うことになります。まして代替わりで王様が変われば、またガラっと方針が変わり、これまでと全く違う国になってしまうわけです。これではとても永続する国は創れませんし、国民の生活も安定しません。
会社においても同じだと思います。“社長が法”になっている会社はたくさんあります。そういう会社は社長のご機嫌伺いをする社員が増殖し、視点が顧客ではなく内部に向いていき衰退していきます。これは歴史上、何遍も繰り返されてきた経営の間違いと言えるでしょう。
政の言う“法“というのは、国でも会社でも同じだと思います。会社における法を私たちは”仕組み“と呼んでいるわけです。
特に、国でいう”法“に近い仕組みは、”ミッション、ビジョン、コアバリュー“です。
”ミッション、ビジョン、コアバリュー“は、社長も含めた全社員の意思決定の指針となるものです。
また、“人“による統治では、下図のとおり、どうしても経営側と社員側の対立構造が生まれやすくなります。これは経営側が自分の個人的な感情や基準を社員に押し付けようとするからです。いまの時代、そんなことをされて嬉しい社員はいませんね。
一方、みんなで共有している“法”、つまり、”ミッション、ビジョン、コアバリュー“があれば、全員がそれに従うことになります。そういった組織では、”人としての平等さ“を感じることが出来ます。さらに、”ミッション、ビジョン、コアバリュー“を軸とした社内の様々な仕組みを整えれば、社員は自発的に働けるようになります。
李斯、昌文君に「法とは何か?」を問う
政が法治国家の建国を宣言した後、部下である昌文君は、“中華を統一するような法とはいったい何なのか?”と悩みます。おそらく彼がその法を作らないといけない立場だからでしょう。
そこで、昌文君は、かつて敵対していた李斯に頼み込んで教えてもらうことにします。個人的にはここのやり取りがかなり好きですね。
この会話の中から3つのポイントをご紹介しましょう。
1.法は生き続ける
李斯は当時、牢屋に閉じ込められていましたが、その中で新しい法の草案を作っていました。牢屋に閉じ込められているので、彼がその法を提案できる機会はもう無いのです。それでも李斯は法を作っていました。
そのとき李斯はこういいます。 “俺が死んでも法は生き続ける。成長を遂げながら”。このセリフにはまさに、政が法で国を治めようとした理由が表れているのではないでしょうか。人は代替わりしていっても、法は残り続け、国は続いていくということです。
会社も”法”が残れば永続性が生まれます。老舗の家族経営企業には家訓があり、それが家族の行動を決定づけます。
2.法治国家の妨げになるのが文化形成
7国を統一するとなると、各国の文化の違いが法治の妨げになると李斯は言います。会社でいえば、各人の価値観の違い、多様性と言えるでしょう。最近は価値観の違いを認めましょう、多様性を受け入れましょう、という言葉がはやっていますが、この言葉を間違って捉えて、個人個人の自己裁量に任せると会社はとんでもなく混乱します。
優れたリーダーは、どこが譲れない部分なのか?という経営の軸を持ったうえで、各メンバーの多様性を受け入れます。組織が多様性を受けいれるためにも仕組みが必要なのです。その仕組みの上で動いている限り、人は自分の個性を出すことが出来ます。
アメリカは日本と違って多民族国家で、各人の価値観の違い、多様性が大きいと言えます。だからこそ、システマチックに会社を経営していこうという気運が日本よりも強いのかもしれません。
3.法とは願い。国家がその国民に望む人間の在り方の理想を形にしたものだ。
これはまさに法を“仕組み”という言葉に置き換えられます。
仕組みとは、会社が社員に望む働き方の理想を形にしたもの。
仕組みづくり、マニュアル作りというと、社員を縛り付けるもの、と考える人もいるようです。現に、昌文君は“法とは刑罰によって人を律するもの“と考えていました。
しかし、仕組みは正しく創れば社員の可能性を最大限に発揮させるものとなります。
李斯は昌文君に、法を作る前にまずその理想を思い描けと言います。
仕組み作りもそれと同じで、社長の理想とする会社とはどんな会社なのか?では、そのためにどんな仕組みが必要なのか?という順序が大切になります。仕組み化ありきで仕組みづくりをすると、“仏作って魂入れず”になります。
理想の組織を思い描き、仕組みを作る
ということで、ここでは人ではなく法によって国を治めるという点から組織づくりについて考えてみました。
ちなみに史実では、政は法治国家の設立に成功するわけですが、法が間違っていたのか、徹底されていなかったのか、残念ながら代替わりの時にまたクーデターに合います。結果、暗君が後継者になってしまったため、あっさり秦の時代は終わってしまいます。
ただ、今現在世界のほとんどの国は法治国家になっていることを考えると当時の政のビジョンは先見性があったと言えるでしょう。
ぜひあなたも自社の理想的な姿を思い描き、その実現に向けてどんな仕組みが必要なのかを考えてみてください。
キングダムから学ぶビジネス:人材登用編
次のテーマは、「人材登用」です。ここでは、秦王国の組織体制に注目をしてみたいと思います。
会社の社長であれば、「No.2」や「自分の右腕」が欲しい、という方も多いでしょう。本田宗一郎氏に藤沢武夫氏。井深大氏に盛田昭夫氏、ビルゲイツにポールアレン、スティーブジョブズにスティーブウォズニアックなど、歴史を見ても社長と優れたNo.2のタッグの逸話はたくさんあります。
しかし、私たちの提唱している「仕組み経営」においては、”自分の仕事を楽にしてくれるNo.2(右腕)が欲しい”という考え方の危険性を理解しています。
その理由には、
- ナンバー2に依存している職人型ビジネスに過ぎない。
- ナンバー2と社長からの社員へのダブル指令。
- 偽・委譲型社長になりがち
というようなことが挙げられます。
実は秦でもこのナンバー2のワナにはまっているシーンがあります。
呂不韋に気を付けろ
最初、秦には強力(過ぎ)なNo.2がいます。
それが丞相(首相みたいな人)である呂不韋です。呂不韋は商人から成りあがった人物で、秦の国王、政が小さかった頃からそばにいて、色々面倒を見ていました。だから第一巻では呂不韋は政の味方なのでは?と思われていました。
しかし、実は呂不韋は秦国王の転覆を狙い、自分が王になるという野心を持っている人物だったのです。政の面倒を見ていたのは、政が小さい頃から手懐けておこうという目論見だったのでしょう。
実際のところ、呂不韋は秦のNo.2の立場にいます。しかし、その権力と影響力は国王である政を上回ってしまっています。
ここまで極端ではないにしろ、実はこういう会社というのは結構あります。
社長はNo.2に色々なことを任せているつもりだったのに、いつの間にか、No.2が社内に派閥を作り、自分の影響力を高めてしまっているのです。
秦の場合、基本的には王は世襲制なのでいきなり転覆するということはありませんが、一般の会社においてはNo.2の人選ミスでいきなり転覆するということは大いにあり得ます。
No.2が派閥を作った後、社員を引き連れて辞めてしまうとか、No.2が社員の心をつかんでしまっているためにいつの間にか社長が言いたいことを言えなくなってしまっているとか、No.2が”自分のやり方”で勝手に仕事をし始めてしまうとか。
自分で作った会社にも関わらず、いつの間にか”No.2の会社”になってしまうケースが実はあったりします。
人が問題を犯さない仕組みを創る
政の場合には、自分が成長するにつれてリーダーシップを身に付けて、なんとか呂不韋の目論見を阻止することに成功します。この成功物語はキングダムの中でも見どころの一つであり、ここからリーダーとしての在り方を学んだ、という人もいるかも知れません。
しかし、現実には、ここでの重要な教訓は、”このような問題が起こらないような仕組みを作る”ということなのです。政は”呂不韋”という”問題分子”が生まれてしまってから対処しようとしたから大変なことになってしまいました。
経営で重要なのは、問題に対処することではなく、問題が起こらないような仕組みを作ることです。
つまり、政にとって重要なのは、二度と呂不韋みたいな人が出てこないような仕組みと組織を創ることなのです。
仕組みを変えなければ同じ問題が起こる
呂不韋問題の原因は、強力な権力を持つNo.2のポジション(丞相や相国)を作ってしまったことにあります。その組織構造を変えない限り、呂不韋の後継者が同じような問題を起こす可能性があります。
ちなみにちょっと時代が進んだ三国志時代。三国のうちの一つである魏という国があります。魏は元々、献帝という皇帝が収めてしました。しかし、戦国のさなか、力をつけてきた曹操が丞相というNo.2のポジションにつきます。その後、曹操は献帝をないがしろにし、実質、魏を掌握します。これも今回の呂不韋と同じパターンです。
ただ、曹操は魏を転覆させる前に死去します。本当はその時にNo.2というポジションを無くしておけばよかったのですが、何も変えなかったために、曹操の息子であり後継ぎであった曹丕は同じように献帝をないがしろにし、最終的には献帝に退位を迫り、自分が魏を掌握することになります。
丞相は二人付ける
再び話を秦に戻します。
魏と異なり、秦は呂不韋の目論見を防いだ後、体制を変えます。
No.2のポジションであった丞相を二人体制にします。
そして右丞相には軍総司令でもある昌平君(元・呂不韋側だが、政のビジョンに惚れて寝返る)、左丞相には最も信頼できる昌文君を配置します。
実際のところ、左右の丞相には少しだけ上下関係があるようですが、これで、国王である政の下には、二人の重役が出来たことになります。
この体制になると組織が非常に安定します。
もし一人が倒れてももう一人がカバーできますし、二人が同等の力を持っていれば、片方が派閥を作って反乱しようとしてもそう簡単にはいきません。二人が切磋琢磨することで組織の力は上がっていきます。
実際、キングダムの中でも今のところ、反乱分子は生まれていないように見えますし、右丞相の昌平君がロジックで外の戦いを指示するのに対し、左丞相の昌文君は秦のために地道に内部の組織を整え始めています。非常にバランスの良い体制と言えるでしょう。
後継者問題にも役立つ
また秦の場合には世襲制なので丞相が王の後継者になるということはないと思いますが、一般企業であれば、どちらかが社長の後継者になることもあり得ます。
社長を引き継ぐにあたっても、このような二人体制というのはメリットがあります。優秀なNo.2がいる会社の場合、社長はそのNo.2こそが自分の後継者であると考えます。これはいたって自然なことです。しかし、肝心の本人は社長なんてやるつもりはない、ということがあったりするのです。自分はNo.2でこそ力を発揮できるので社長はやらない、というわけです。
社長も最初からNo.2の意図を知っていれば問題ないかも知れませんが、そろそろ引き継ごう、と思ったときに判明したら大変です。急遽誰かを探さないといけません。
一方で秦のようにNo.2のポジションが二人体制であれば、どちらかに引き継げる可能性が高まります。
というわけで、呂不韋を例にして、世間一般でいわれている”優秀なNo.2が欲しい”というセリフのワナを見てきました。ぜひ秦を見倣って、あなたの会社の組織も見直してみてください。
キングダムから学ぶビジネス:組織文化づくり編
最後のテーマは「組織文化づくり」です。ここでは、キングダムに出てくる様々な”名前”に注目してみたいと思います。
共通言語を創る
まず読者なら誰でも覚えているであろう「飛信隊」という名前。
これはもちろん、主人公の信を隊長とした隊の名前です。
名づけの親は、秦の六大将軍の一人だった王騎。目標とする大将軍から名前をもらった信は、以降快進撃を始めます。
中でも最初の大手柄は、趙との戦いで、将軍である馮忌(ふうき)を打ち取ったこと。
その直後に、王騎の部下である干央は、”飛信隊の信が敵将を打ち取った”と勝ち鬨をあげます。
そのことで、飛信隊の名前は敵である趙、そして味方である秦の中で一気に知名度が上がります。
飛信隊の他、秦の同世代のライバルである王賁や蒙恬の部隊にもそれぞれ「玉鳳隊」「楽華隊」という名前が付いています。
また、キングダムでは、隊の名前の他、戦術や戦略にも名前が付いています。
斜陣掛け(しゃじんがけ)
輪動(りんどう)
包雷(ほうらい)
等々。
実はこのような”名づけ”は、組織やチームで動くにあたって、非常に重要な役割を果たします。
何かに名前を付ける、という行為は、その組織の中で”共通言語”を生み出します。
この共通言語こそ、組織の一体感や連帯感、そして、コミュニケーションの円滑化の役割を果たすのです。
チームに名前を付ける
キングダムの部隊は、会社でいえばチームということになります。組織の中にもチームがいくつか存在することがあると思います。チームに独自の名前を付けることで、チームメンバーには、”アイデンティティ”が生まれます。
飛信隊のメンバーたちは、ことあるごとに自分は飛信隊のメンバーであることを誇りに思い、自分たちは他とは違うんだ、ということを口にします。それが彼らの動機付け、頑張る理由にもなっています。これはアイデンティティの力と言えるでしょう。
アイデンティティの力を活用したことで知られているのが、スティーブ・ジョブズ。
彼は、Macintoshを開発するプロジェクトにおいて、そのプロジェクトメンバー「マック・チーム」とその他のメンバーを明確に区別させました。さらにはあろうことかマック・チームとその他のメンバーをあえて対立させていたともいわれています。
マック・チームは他のメンバーとは違う特別なことをやっているメンバーなんだ、とメンバーのアイデンティティを刺激し、過酷なプロジェクトを成功に導きました。
アイデンティティの力は強力です。
実は以前ご紹介した記事、「政、最強のプレゼンで蕞の民を扇動する」において、政は市民のアイデンティティに訴えることで、市民を”兵化”することに成功しました。
政は市民に向けて、最後にこう語ります。
「最後まで戦うぞ、秦の子らよ、我らの国を絶対に守りきるぞ」
この言葉で市民たちは、”自分たちは脈々と続いてきた秦の国の民なんだ”ということを思い出し、先祖が代々守って来たこの土地を守ろうと決意を固めるのです。
役職に名前を付ける
役職に名前を付けるのもアイデンティティを生む効果があります。キングダムにおいては、大将軍から始まり、将軍、五千人将、三千人将・・・というように役職に名前が付いています。
よく言われるのは、役職が人を育てるということです。「部長」になったら、誰でも部長ってどんな仕事をすればいいんだろう?と考え、部長らしい働き方を学ぼうとします。ようするに役職が行動を変えるわけです。
また、その会社独自の役職を付けるのも効果的です。
スターバックスではスタッフのことをパートナーと呼びますし、ディズニーではキャストと呼びます。このような名づけも”他とは違う自分”を感じさせる効果があると言えるでしょう。
コンセプトに名前を付ける
コンセプトとは概念や考え方のことです。キングダムでいえば、先に出てきた戦術や陣形の名前がこれに当てはまります。コンセプトは元々目に見えないものですが、それに名前を付けることで、これはこういうことだな、と各メンバーが理解出来ます。
たとえば、「斜陣掛け」で行くぞ、と一言いえば隊のメンバーは自分で自律的に動くことが出来ます。もし「斜陣掛け」という名前がなければ、”みんな斜めになって動いて、こうして、ああして・・・”という感覚で指示をするしかありません。
それではメンバーにも伝わりづらく、自律的に動くことが出来ません。
私たちもそうですが、目に見えないサービスを販売している場合、コンセプトに名前を付けるのは非常に重要です。
たとえば、「仕組み経営」というのもコンセプトですし、他にも、
- 7つの経営力学
- 職人型ビジネスと起業家型ビジネス
- 事業のプロトタイプ
- ドリーム、ミッション、ビジョン、コアバリュー
- 事業のパッケージ化
等々、たくさんあります。
サービス業においては、いかに独自性のあるコンセプトを開発し、かつ、”いかにわかりやすい名前を付けるか?”がマーケティング上で極めて大きな役割を果たします。
コンセプトに名前を付けることで、価値を持たせることが出来ます。何か独自性のあるノウハウで再現性があるんだな、と感じることが出来るのです。
また、私たちは企業のマニュアル作りもお手伝いしていますが、ここでもまずは社内の言葉の統一が重要なステップになります。
とある複数拠点を持つ会社のお手伝いをしたとき、各拠点に在庫品を置いておく棚がありました。拠点Aでは、在庫棚と呼んでいたのに対し、拠点Bではラックと呼んでいました。このように言い方が違ってしまうとマニュアル作りが出来ません。だから最初に言葉の統一が必要なのです。
キングダムでも、「井闌車」という城攻めの時の道具が登場します。これも、みんなが、「この道具は井闌車と呼ぶ」という意識統一が出来ていなければ、将軍が指示したら別の道具が出てきてしまった、というよう凡ミスが生まれかねません。
細かいことですが、大事なことです。
商品・サービスに名前を付ける
商品・サービスに名前を付ける、というのも当たり前のようですが意外と中小企業では適当になってしまっていることがあります。
たとえば、コンサルティング業界の場合、
ホームページに単に
”コンサルティング 月額〇〇円”
と書いてあるよりも
”仕組み化コンサルティング 月額〇〇円”
と名前が付いているほうが分かりやすいですし、価値を感じてもらいやすくなります。
サービス業の場合、サービスに独自性のある名前を付けて”メニュー化”しない限り、存在していないのと同じです。
また物理的な商品についても独自性のある名前を付けるのは有効です。スターバックスの例が有名ですが、ドリンクのサイズを従来のスモール、ミディアムなどではなく、ショート、トール、というように自社独自の名前にすることでコミュニティづくりに成功しています。トールが何を意味しているのか分かる人はコミュニティの”中の人”。わからない人は”外の人”というわけです。
職人気質のメーカーの場合には特にありがちですが、商品名が”型番”になっていることが良くあります。商品名=型番では味気ないですし、違いが良くわかりません。独自性のある名前を付けることで顧客にとってもわかりやすく、社内的にも商品に誇りや愛着を持てるようになります。
名づけ=文化づくり
かつて、月が満ち欠けする現象を人々は不思議がっていました。ある時、この月が満ち欠けする現象に「月食」という名前を付けたことで、研究が始まったとされる説があります。この真偽のほどは定かではありませんが、ともかく、名前を付けることでそれに対する関心が高まり、コミュニケーションの軸になるのです。
今回は会社内における名づけの例の一部をご紹介しました。そのほか、名前を付けるべきものはたくさんあります。
とある会社では顧客サポートの仕組みをカスタマーサクセスプランと呼んでいますし、リッツカールトンでは朝のミーティングをラインナップと呼んでいます。
名づけは、組織の一体感や連帯感、そして、コミュニケーションの円滑化、企業文化の形成にも役立ちます。ぜひあなたの会社でも参考にされてください。
キングダムからの学びを経営に活かす
以上、キングダムから学ぶビジネス、リーダーシップや組織づくりについてご紹介してきました。仕組み経営では、秦のような強固な組織づくりを目指す経営者向けに、会社の仕組みづくりをお手伝いしています。
詳しくは以下の体験ウェブセミナーでご紹介していますので、ぜひご活用ください