PERMA理論(モデル)とは何か
心理学といえば、これまでは人の苦しみを和らげたり、心の病を治すことに焦点が当てられてきました。確かに、特に第二次世界大戦以降、精神的な健康を支える研究は大きく進み、多くの人が救われてきたのは間違いありません。でも、それだけで人が本当に「豊かに生きる」状態を手に入れられるわけではないのです。
人間はただ問題がない状態で生きるのではなく、もっと充実した人生を送りたいと願っています。自分の可能性を最大限に発揮したい、愛情ある関係を築きたい、そして何か意味のあることを成し遂げたい。そんな「繁栄」と呼べる状態をつくるためには、単に苦しみを取り除くだけではなく、前向きな気持ちや行動を育てる別のアプローチが必要です。
ポジティブ心理学の提唱者 – マーティン・セリグマン博士
この考え方を提唱したのが、心理学者のマーティン・セリグマン博士です。1998年にアメリカ心理学会の会長を務めた彼は、「ポジティブ心理学」という新しい学問分野を打ち立てました。ポジティブ心理学では、人々がどうすれば幸せで充実した人生を送れるのか、その鍵を科学的に研究しています。
そして、セリグマン博士が生み出したのが「PERMA理論」です。この理論は、私たちがウェルビーイング(心も体も充実した状態)を高めるために欠かせない5つの要素を示しています。具体的には以下の通りです。
- ポジティブな感情(Positive Emotion):人生に喜びや楽しさを感じる力
- エンゲージメント(Engagement):没頭できる活動に打ち込む力
- 人間関係(Relationships):深い信頼関係やつながりを築く力
- 意義(Meaning):自分の存在意義を感じる力
- 達成(Accomplishments/Achievements):目標を達成し満足感を得る力
PERMA理論の魅力は、「幸福」という曖昧な言葉を避け、私たちが日常生活の中で意識して磨ける具体的なポイントを挙げていることです。この5つの要素を深掘りすることで、より豊かで満ち足りた人生への道筋が見えてきます。次の章では、これらの要素を一つずつ詳しく解説していきます。
PERMA理論(モデル)の5つの要素
PERMA理論では、ウェルビーイング(心の充実感や幸福感)を高めるために重要な5つの要素が定義されています。それぞれの要素が独立しながらも、相互に影響を与え合い、人々の充実した人生の構築を支えます。以下に、各要素をわかりやすく説明します。
1. ポジティブ感情(Positive Emotion)
ポジティブな感情は、幸福感や喜びといった気分の良さを感じることから得られます。過去に感謝し、現在の小さな喜びを味わい、未来への希望を持つことで、この感情は増幅します。たとえば、日々の生活で楽しい経験を積み重ねたり、感謝の気持ちを記録する習慣を持つことで、ポジティブな感情を育むことができます。この要素は個人の遺伝的傾向に左右される部分もありますが、意識的な努力で増やすことが可能です。
ポジティブ感情(Positive Emotion)の診断
- 一般的に、私は健康で、全体的なウェルビーイングに対してポジティブな感情を抱いています。
- 私はよく喜びを感じます。
- 私は、生活の状況に対して不安を感じるよりも、ポジティブに感じることが多いです。
- 否定的な感情を感じるとき、私はその理由を特定し、その感情を健康的に処理することができます。
- 私は自分の人生に満足しています。
2. エンゲージメント(Engagement)
エンゲージメントとは、ある活動に完全に没頭し、時間を忘れるような「フロー状態」を指します。これは、挑戦的な課題に自分のスキルを最大限に発揮する際に生まれます。たとえば、趣味に没頭しているときや、集中力を要するプロジェクトに取り組んでいるときが該当します。この状態では、活動自体が目的となり、心地よい充実感が得られるのです。フローを体験するには、自分のスキルと課題の難易度が適切に一致していることが重要です。
エンゲージメント(Engagement)の診断
- 私は自分のコミットメントや責任をうまく果たしています。
- 私は多くの興味を持っていることに対して、興奮し、好奇心を感じます。
- 私は何かを楽しんでいるとき、よく時間を忘れます。
- 私は自分のユニークな強みや価値観に合った選択をします。
- 私は自分の強みを知り、それを日常のタスクで定期的に活用しています。
3. 人間関係(Relationships)
ポジティブな人間関係は、人生における幸福の基盤です。家族や友人、同僚とのつながりが、喜びや安心感、目的意識をもたらします。また、困難な状況に直面したとき、支えとなる人々がいることで、心の回復力が高まります。人間は本質的に社会的な生き物であり、他者とのつながりを通じて成長し、繁栄する性質を持っています。小さな親切を心がけたり、感謝を伝えることで、関係をさらに深めることができます。
人間関係(Relationships)の診断
- 私は必要なときに他者から助けやサポートを受けています。
- 私は日常生活で孤独を感じることはありません。
- 私は日々、深い帰属意識と愛情を感じています。
- 私は自分の人間関係の深さ、親密さ、健康に満足しています。
- 私はエネルギーを与えてくれる関係に投資し、相互の繁栄に向けて導いています。
4. 意味(Meaning)
意味は、自分を超えた何かに貢献し、それに属していると感じることで得られるものです。宗教的な信仰や社会貢献、家族のための努力などが、人生に意味を与える典型例です。この要素は、単なる個人の利益を超えた視点から、自分の存在意義を見出すことを促します。たとえば、ボランティア活動や、社会に役立つ仕事を通じて、深い満足感を得ることができます。
意味(Meaning)の診断
- 私は目的と意義のある人生を送っています。
- 私は自分の人生が価値があり、意義深いものであると自信を持っています。
- 私は自分の人生に強い方向性を感じています。
- 今まで、私は人生で大切なことを手に入れることができました。
- 私は自分の人生の目的について明確であり、それに従って定期的に意思決定を行っています。
5. 達成(Accomplishment)
達成は、目標を設定し、それを成し遂げることで得られる満足感や自信です。これには、スポーツの勝利や仕事での成功、趣味でのスキル向上など、あらゆる分野が含まれます。達成そのものが喜びとなる場合もあり、ポジティブな感情や関係、意味を直接伴わないこともありますが、自己成長や自尊心を高める重要な要素です。
達成(Achievement)
- 私は目標を達成するために進展しています。
- 人生全体を振り返ると、重要な目標を設定し、それを達成しています。
- 私は日常的な責任を優れた方法で管理し、満足しています。
- 困難や障害に直面したとき、私は創造的な解決策を見つけて問題を克服します。
- 私は何年もの努力と決意をもって達成した目標があります。
これら5つの要素は、独立して存在するだけでなく、互いに関連し合いながら、全体としてのウェルビーイングを構成します。PERMA理論は、単なる「幸せ」ではなく、より広範な意味での人生の充実感を探求するための実用的な枠組みです。それぞれの要素を意識的に育むことで、より豊かな人生を実現できるでしょう。