今回はアジャイル組織がテーマです。
「アジャイル型」という言葉をご存知でしょうか?
テクノロジー開発分野でよく耳にする手法なのですが、最近このアジャイル型を組織に当てはめた「アジャイル組織」が欧米で注目を集めています。
近年のグローバル化やテクノロジーの急速な発達によって、組織の在り方は変革を求められる中、未来の組織マネジメントの手法として取り入れる企業が増えています。
本記事はそんなアジャイル型組織について、アジャイル組織とは、特徴、事例、アジャイル組織への移行方法、メリット・デメリットを詳しく解説します。
ぜひ最後までご覧ください。
アジャイル組織とは
アジャイル組織とはどのような組織を指すのでしょうか?
上述の通り、従来の機械的な組織はトップに権力が集約されていたので、組織の骨組みは強固だったのですが、意思決定に時間がかかりすぎたり柔軟性に欠けるという問題点が指摘されてきました。
一方でアジャイル型組織とは、組織をフラットなチームの集合体と捉え、トップだけでなく各社員に権限を分散することで、迅速な意思決定や素早い開発サイクルを可能にした組織モデルです。
アジャイル型組織では、チームごとに素早く、かつ効率的に戦略・構造・人材・プロセス・技術を形成できるために、市場の変化に対応できるだけでなく、全員の向かう方向性や目的が非常に明確であるために組織の安定性を保つことが可能となります。
図の右側がアジャイル型組織のイメージ図です。
(出展:By Wouter Aghina, Karin Ahlback, Aaron De Smet, Gerald Lackey, Michael Lurie, Monica Murarka, and Christopher Handscomb, The five trademarks of agile organizations)
マッキンゼーの2500人の組織リーダーに対するアンケートによると、回答者の3/4がアジャイル型の導入を社内の優先事項としており、40%は既に導入の動きを始めているそうです。
このように、アジャイル型組織は今後確実に主流となっていく組織モデルだと言えるでしょう。
アジャイル組織と従来の組織
今までの組織は”機械”のように考えられていました。
ヒエラルキー化された組織構造の中でトップの命令によって下が動き、社員はコントロールされるべきものと捉えられてきました。
しかし近年の急速な社会・経済の発展によって、意思決定のスピードが遅れがちな機械的な組織は成長が難しくなり、組織改革は多くの企業にとって喫緊の課題となってきました。
2017年〜18年のマッキンゼーの組織改革に関する調査によると、1900の企業のトップのうち3年以内に組織構造を改革した企業は82%に及ぶそうです。
そこで組織の新しい捉え方として注目を集めているのが、機械ではなく「生き物」のような組織です。
誰かの指示がなくても環境に合わせて勝手に進化していき、安定性とダイナミックさの絶妙なバランスを保つ組織です。
イメージとしてはスマートフォンのようで、ゆっくりと成長していくデバイスがありながら中身のソフトやアプリといったサービスはどんどん進化していく。
そういった生き物型の組織の一つがアジャイル組織です。
アジャイル型組織の特徴
さて、ここからはアジャイル型組織に見られる5つの特徴をお伝えしていきます。
①戦略
アジャイル組織はステークホルダー(利害関係者)の絶え間なく進化するニーズを長期に渡って満たすために、2つの戦略を組み合わせます。
1つ目は、価値を想像するための柔軟なアプローチの設計です。
例えば、製造業のモジュール製品とソリューションやUberやAirbnbに代表されるようなモジュール型のビジネスモデルでは、安定した製品/サービスがありながらも顧客に合わせた多様なカスタマイズの両方が可能になります。
このようなビジネスモデルでは、顧客のニーズに変化が生じても製品やサービスの大元を変えずに機敏に対応することができます。
2つ目は、「北極星」の設定です。
ここで言う北極星とは、ビジネスのやり方や方向性に一貫性を持たせるために組織全体で共有する「目的」や「ビジョン」を指します。
北極星は従業員の働き方やUX設計といった重要な意思決定をする際の指針になります。
例えば、AmazonやPatagoniaといった企業では、北極星をステークホルダー中心に設定しているため、社員は”ステークホルダーにとって何が一番良いのか”というベクトルで意思決定を行なっています。
以上の2つの戦略を組み合わせたアジャイル型組織では、下記の2つが可能となります。
①価値創造の柔軟なアプローチによって素早く試作商品やサービスを提供できるために、チャンスを逃さず物にする
②社員全員が北極星によって数多の情報のどこに注目すれば良いかを認識しているため、自社が掴むべき新たなビジネスチャンスを迅速に感知する
②構造
アジャイル型の組織構造は非常にフラットで、権限や責任を持つ各チームのネットワークで形成されています。
一見するとこういった組織はまとまりがなく安定性に欠けると思われがちですが、正しく構造を設計・管理すれば非常に安定した組織を形作ることが可能です。
アジャイル型組織として有名なSpotifyやGoreなどは以下のような特徴を持っています。
- 組織のバリューに沿ったフラットな構造
- 社員一人ひとりがやるべき仕事に集中できるよう、非常に明確な役割を与える
- アクティブなパートナーシップとエコシステムを作り出す
- 業務の透明性と効率を高めるためにオープンな環境を作り出す
③プロセス
アジャイル型組織では、思考⇨実行⇨学習のプロセスが非常に早いのが特徴です。
例えば新たな商品企画がある場合、アジャイル型ではすぐにプロトタイプを作って市場に出し、顧客のフィードバックからの学習しながら改善し、また市場にだす。
このようなスピード感のあるサイクルは、サービス提供だけでなくアジャイル型組織の中の様々な分野で見られます。
例えば、従来の年次計画⇨予算編成⇨レビューではなく、四半期サイクルやOKRsなどの動的管理システムの利用などです。
企画や計画に長々と時間を割いてから、「さあ実行に移そう!」というのではなく、方向性の大枠が決まったらすぐに実験をして、その結果から次の目標を設定して改善していくというプロセスによって、やり直しのコストや無駄な会議に費やす時間を節約することができます。
④人材
アジャイル型の組織文化は、価値を迅速に作り出すために人々を中心に置き、組織内の全社員に権限を与えます。
これを実現するために、アジャイル型の組織の人材マネジメントには以下の3点が必要になります。
1つ目は、社員をコントロールするのではなく、育成するリーダーシップです。
社員それぞれが必要なスキルを伸ばし、仕事に関する戦略的/組織的な意思決定が出来るようになるよう教育するリーダーシップが理想とされています。
2つ目は、組織全体を同じ文化を共有する一つのコミュニティにすることです。
つまり、会社の企業文化やコアバリューを社員にしっかりと浸透させ、コアバリューが社員の意思決定の規範となるように人材マネジメントを行うということです。
アメリカの靴通販会社ザッポスでは、企業文化に見合った人々を集めるために既存人材だけでなく、採用プロセスにまで気を配っています。
※ザッポスの採用に関してはこちら⇨「内定直後に30万!?ザッポス、成功企業の採用法とは」
3つ目は、社員に様々な経験を積ませることで人材開発を積極化することです。
アジャイル型では、社員が個人のキャリア目標に合わせてチームや部署間を移動することを奨励することによって人材の新たな能力開発を推進しています。
⑤テクノロジー
アジャイル組織では、顧客や競争環境の変化に合わせて柔軟に製品やサービスを提供しようとします。
その分野においてもちろんテクノロジーは外せません。
そのため、アジャイル組織では既存の製品やサービスのデジタル化、オペレーションシステムの進化に合わせた新しい運用ツールやシステム、テクノロジーアーキテクチャを導入しています。
もしあなたが会社をアジャイル型に変革しようとしているなら、まずはリアルタイムのコミュニケーションや作業管理ツールを活用するところから始めると良いでしょう。
特に、使用するテクノロジーはモジュールベースのものにすると、応用がきくので他の部署が開発したシステムを複数の部署で使用することができるためコストが抑えられるのでお勧めです。
また、新しいテクノロジーを開発・設計・サポートするために、アジャイル型組織では次世代のテクノロジーの開発と配信プロセスをビジネスに組み込みます。
具体的には、事業部の社員とテクノロジー部門のエンジニアの両方が混じったチームを形成し、製品企画や戦略立案の段階から最新のテクノロジーの利用・開発・展開を考えます。
これによってテクノロジーの進化に遅れることなく、顧客に価値を提供することが可能となります。
アジャイル組織の事例
アジャイル組織の事例で、今回はAdobeを紹介します。
Adobeでは、人事評価の面を中心に会社をアジャイル化しています。
アジャイル組織となる前、Adobeでは年1回のパフォーマンス評価とスタックランクのプロセスについて、官僚的で書類が多く、複雑すぎる上に、管理に時間がかかり過ぎているという課題を感じていました。また、このやり方がチームワークや創造性、革新性を阻害する要因にもなっていたのです。
そこでアドビは、年1回のパフォーマンス評価をやめ、「チェックイン」というシステムを使って、マネージャーと社員が定期的に継続してパフォーマンスについて話し合うシステムに変更しました。その結果、自発的な離職率は30%減少し、非自発的な離職率は50%増加しました。これは、優秀な人材がより早く管理されるようになったことを意味しています。さらに、年間80,000時間の管理時間を削減することにも成功しています。
アジャイル組織のメリット・デメリット
アジャイル組織のメリットとデメリットを考えてみます。
アジャイル組織のメリット
- 意思決定のプロセスが早い
アジャイル組織では各チームが自己管理機能と責任を持つため、意思決定のプロセスが非常にスピーティです。 - 柔軟性がある
意思決定のプロセスが短いため、柔軟で社会や市場の変化に遅れることなく進化できる柔軟性があります。 - 社員のコラボレーションが促進される
アジャイル組織では、時に共通のミッションを持つクロスファンクショナルなチームが作られるため、違う職務の従業員とのコラボレーションの機会が増えます。 - 組織文化が強化され、付加価値が向上
アジャイル組織は組織のコアバリューに沿ったフラットな組織であることが特徴です。意思決定はビジョンやバリューに基づいてなされるため、非常に強力な組織文化が形成されていきます。組織文化は会社の独自性、差別化ポイントとなり、顧客に提供する価値にもつながります。
アジャイル組織のデメリット
- ガバナンスが取りづらい
組織内に自己管理型チームが増えすぎると、会社全体としてのガバナンスが取りづらくなります。 - アジャイル組織に変わるために一時的に生産性が落ちる
従来型の組織がアジャイルに移行する場合、必ず一時的に生産性が低下します。アジャイル組織は3日で出来るものではなく、トライ&エラーを繰り返しながら構造を作っていくものなので、一時的な生産性低下は辛抱強く見守る必要があるのです。 - パフォーマンスが見えづらくなる
各チーム、各社員が自己管理型になると、計画や結果の報告が疎かになることがあります。定期的にパフォーマンスをチェックするシステムが必須となるでしょう。
アジャイル組織への移行
IT企業においては創業時からアジャイルの企業も多いですが、もともとアジャイル組織でない企業もアジャイル型に移行することは可能です。アジャイルに移行するための3ステップを紹介しましょう。
1. 組織トップの理解を得て、モチベーションを上げる
アジャイル組織への移行を成功させるには、トップからの強力なリーダーシップが必要です。そして、強力なリーダーシップを発揮するために重要なのは、トップメンバーのアジャイルへの理解を得ることと、アジャイル組織へ変革したいというモチベーションを高めることです。
モチベーションを高めるためにはもちろんアジャイル組織のメリットを理解してもらうことが一番です。アジャイルのメリットとしては、アジャイル型モデルを採用することで、現在の組織における課題(不明確な責任所在や遅い意思決定など)を解決することは一つ訴求できるでしょう。しかし、課題を解決できるだけでは不十分で、もっと大きな目標を達成できるという部分を訴求する必要があります。特に会社のビジョンやバリューといかにアジャイル組織が親和性を持っているかという点で考えてみるのが良いでしょう。
2. 計画書を作る
アジャイル組織への移行のための計画書を作ります。組織にとって大きな変化となることから混乱を避けるため、明確なビジョンと、変更点を細かく示した計画書が必要になります。
計画書は図のような手順で作成しましょう。
アジャイル組織はバリューに沿って各ユニットが意思決定するフラットな組織です。まずは明確なバリューを理解をし、会社の全体的な戦略を定めます。このステップが、アジャイル組織の特徴で紹介した”北極星”を定めることにあたります。従業員それぞれの意思決定の指針となる重要な価値観・ビジョンです。
続いて、組織構造をデザインします。ここでは、個人の役割・責任とスキルセットの二軸によって構成を考えるのがおすすめです。従業員を各セルにどういった振り分け方をするのか、各セルの繋がりをどうデザインするのか、といった構造設計をおこないましょう。例えば、クロスファンクショナルなセルで分ける場合、特定のミッション達成(あるプロダクトを作り、顧客に提供する等)を一つのセル内で完結させるため、開発・営業・マーケティング・サポートなどそれぞれのスキルを持った人材を同じセルに振り分けます。
そして、振り分けた各セルチームのミッションの定義を行います。セルは同じミッションを共有し、メンバーで共同責任を持つ自己管理チームとして存在します。
続いて、組織の規模が大きくなり、セルの数が増えても、適切なガバナンスを保つために、組織のバックボーンをしっかりと定義し、構築します。一般的に、これらのバックボーン要素には、コアプロセス(タレントマネジメント、予算、計画、パフォーマンスマネジメント、リスクなど)、人材要素(コアバリュー、期待されるリーダーシップ行動など)、テクノロジー要素が含まれます。
計画書の最後のステップはロードマップです。このロードマップでは、変革の全体的な範囲とペースを明示し、タスクのリストが含まれていることが最低限必須です。
3. テストを行う
最後に、アジャイル組織のテストを行います。初めから全体で実施するのではなく、まずは1つのチームで、その後複数のチームで実証実験を行います。テストを行う際に重要なのが、どこまでの範囲をテストし、どのような方法で行うのか事前に定義し、混乱を避け、結果がクリアになるよう努めることです。
いかがだったでしょうか?
未来の組織モデルとなるアジャイル組織、今のうちにぜひ深く知り、会社の組織改革の参考にしてみてください!
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