経営における意思決定とは?
経営における意思決定とは、ある目的を達成するために、複数の選択肢の中から最善のものを選び取る行為のことです。英語ではmanagerial decision makingと呼ばれ、経営学では古くから研究されてきたテーマでもあります。
日頃、社長からのご相談を受ける機会が多いのですが、最近よくいただくのが「正しい意思決定をする仕組みが欲しい」というご相談です。
社長の仕事は、その大半が「決める」仕事だと言えます。たとえば、直近であったご相談は以下のようなものです。
- 新しい拠点を新設すべきか、しないべきか
- この会社を買うべきか、買わないべきか
- FC展開をするべきか、しないべきか
- この商品価格を上げるべきか、上げないべきか
どれも会社の将来を左右する、重要な経営意思決定です。
創業社長の場合、会社が大きくなっていくにつれて、決めなければならないことの量も、その影響力も増していきます。当然、ストレスも増大していきます。後継社長の場合も、「譲り受けたこの会社を間違った方向に導いてはならない」という使命感が強く、同じく大きな重圧を感じることになります。
このように決断すべきことが日々続出するので、「正しい意思決定をする仕組み」が欲しくなるのでしょう。
意思決定と経営判断は何が違うのか
細かい話に思えるかもしれませんが、この2つを分けて考えると、頭の中が整理されます。
判断とは、「事実がどうであるか」を見極めることです。この市場は伸びているのか、この人材は活躍できるのか、この投資は回収できそうか。ここでは情報と分析がものを言います。
一方、意思決定とは、「では、どうするか」を選び取ることです。判断がどれだけ正確でも、最後に「やる」「やらない」を選ぶのは意志の働きです。
多くの社長が苦しんでいるのは、実は判断のほうではなく、意思決定のほうです。情報は十分にある。分析もできている。それでも決められない。なぜなら、何をもって「正しい」とするかの基準が、自社の中に定まっていないからです。
この記事では、意思決定の型と、その基準の作り方の両方をお伝えしていきます。
経営意思決定の3つの階層
ひとくちに意思決定と言っても、すべてが同じ重さではありません。経営学では、企業の意思決定を階層的に分類します。
戦略的意思決定
会社の方向性そのものを決める意思決定です。どの市場で戦うか、どの事業から撤退するか、誰と組むか、何に投資するか。影響が長期にわたり、一度決めると簡単には引き返せません。原則として、社長が握るべき領域です。
管理的意思決定
決めた方向に向けて、ヒト・モノ・カネをどう配分するかを決める意思決定です。組織をどう編成するか、誰をどのポジションに置くか、予算をどう配分するか。幹部・部門長が担う領域です。
業務的意思決定
日々の業務を回すための意思決定です。この見積もりを出すか、このクレームにどう対応するか、この発注をかけるか。現場が担うべき領域です。
ここで多くの中小企業が陥っている問題があります。それは、業務的意思決定までが社長のところに上がってきてしまっているということです。
社長が「一番安い見積もり業者はどこか」を決めている会社に、「10年後にどの市場で戦うか」を考える時間は残りません。社長の時間とエネルギーは有限です。どの階層の意思決定を、誰が下すのか。この設計こそが、意思決定の仕組み化の第一歩になります。
定型的意思決定と非定型的意思決定
もうひとつ、有効な分類軸があります。
定型的意思決定とは、過去に何度も発生し、判断の手順やルールが決まっているものです。この場合は、基準さえ明文化すれば、担当者に任せられますし、システムに置き換えることさえ可能です。
非定型的意思決定とは、前例がなく、正解が存在せず、その都度考えるしかないものです。ここは経営者の思想と価値観が問われます。
仕組み化とは、この2つを見分けて、定型的なものを徹底的に基準化・委任し、非定型的なものに社長の時間を集中させる作業だと言い換えることもできます。
経営意思決定のプロセス【6ステップ】
良い意思決定は、思いつきからは生まれません。プロセスがあります。
ステップ1.問題を正しく定義する
最も多い失敗が、ここで起きます。「売上が落ちている」は問題ではなく、症状です。「なぜ落ちているのか」「そもそも解決すべき問題は何か」を定義しないまま対策を打つと、対症療法にしかなりません。ドラッカーも、間違った問いに対する正しい答えほど危険なものはない、という趣旨のことを述べています。
ステップ2.情報を集める
ただし、集めすぎてもいけません。完璧な情報を待っていると、意思決定のタイミングを逃します。「この情報が手に入ったら結論が変わるか?」と自問し、結論が変わらない情報は集めない、と割り切ることが必要です。
ステップ3.選択肢を複数つくる
「やるか、やらないか」の二択で考えている時点で、思考が狭まっています。最低でも3つ。後ほど詳しく述べますが、AとBの両方のメリットを取れる第三の選択肢が存在することは、非常に多いのです。
ステップ4.基準に照らして評価する
ここが本記事の核心です。選択肢を評価するには、評価するための基準が必要です。その基準を持たない会社は、結局その場の勘と感情で選ぶことになります。
ステップ5.決定する
決めたら、決めた内容と、その理由を言語化して残します。「なぜそう決めたか」の記録は、後の振り返りの財産になり、幹部や後継者への最高の教材にもなります。
ステップ6.実行し、検証する
意思決定は、決めた瞬間に終わるものではありません。実行し、結果を検証し、必要なら修正する。ここまで含めて、はじめて意思決定のプロセスです。
経営意思決定を狂わせる5つのバイアス
人間の脳は、放っておくと非合理な選択をするようにできています。社長も例外ではありません。むしろ、成功体験を持つ社長ほど、次のワナに陥りやすい傾向があります。
1.確証バイアス
自分がすでに信じている結論を裏づける情報ばかりを集めてしまう傾向です。「この新規事業はいける」と思った瞬間から、いける根拠だけが目に入るようになります。対策は単純で、反対意見を言う役割を、意図的に誰かに任せることです。
2.サンクコスト(埋没費用)バイアス
すでに投じた時間やお金が惜しくて、撤退できなくなる心理です。「ここまでやったのに、いまさらやめられない」。しかし、過去に使ったお金は、何をどう決めても戻ってきません。判断すべきは「これから先、投じる価値があるか」だけです。
3.正常性バイアス
「うちは大丈夫だろう」と、都合の悪い変化を過小評価してしまう傾向です。市場の構造変化や、優秀な社員の離職の兆候を見逃す原因になります。
4.直近性バイアス
直近に起きた出来事に、判断が引っ張られる傾向です。先週クレームが1件あっただけで、商品全体を作り変えようとする。逆に、先月大型受注が取れたことで、危険な兆候を無視してしまう。
5.同調バイアス(沈黙する会議)
社長が先に意見を言った瞬間、会議室から異論が消える。中小企業で最も頻繁に起きるバイアスです。社長は最後に話す。これだけで、意思決定の質は目に見えて変わります。
これらのバイアスに、意志の力で抗うのは無理です。だからこそ、バイアスに抗うためのルールを、仕組みとして先に決めておく必要があります。
経営意思決定の質を高める6つの原則
ここからは、私たちが支援先の社長にお伝えしている、意思決定の基準についてです。
原則1.コアバリューが「正しい意思決定とは何か」を決める
コアバリューは、会社の中核となる価値観です。コアバリューは、自社において「何が正しいことなのか?」を定義するものです。
「正しい意思決定をしたい」と思ったら、まず、正しいとは一体何なのかを知らなければなりません。その「正しい」を決めるのがコアバリューです。
言い換えると、コアバリューは会社における最高意思決定機関です。全社員(社長も含む)にとっての上司がコアバリューになるのです。
正直に言えば、コアバリューが確立されていれば意思決定に関する話は終了で、これ以降の項目は必要ありません。私たちが仕組み化をご支援する際にも、必ず最初にコアバリューを明確化、明文化していきます。どんな仕組みも、コアバリューが元になっているからです。
そのため、コアバリューをすでに確立され、仕組みに組み込まれている社長からご相談を受けた場合には、「コアバリューに聞いてみると、どのような結論になりますか?」とお答えするようにしています。
ただし注意点もあります。本気でコアバリューをもとにした経営をしようとすると、かなりの覚悟が必要です。そのため、コアバリューを明文化しているだけで、仕組みに組み込まれていない会社も多いようです。
このような状態では、コアバリューは逆に悪影響を与えます。社員は、経営陣の言動がコアバリューに沿っていないことを敏感に察知するからです。そこから信頼関係の崩壊が進み、やる気や貢献心が下がっていきます。策定と運用には十分に気を配る必要があります。
自社のコアバリューを考えてみたいという方は、以下の記事をご参照ください。
原則2.その意思決定はエゴか、利他か
ビジネススクールでは、「どのように判断すれば会社に最も利益がもたらされるか?」という基準で行うように教わるでしょう。
ただ、この基準は時に顧客や社員、または市場全体に対しては悪影響をもたらすこともあります。
そこで、「今自分は、どっちが儲かるか?というエゴで決めようとしているのか、それとも、世のため人のために決めようとしているのか(利他)?」と立ち止まることが大切だと思います。
京セラ創業者の稲盛和夫氏は、意思決定を行う際の意識レベルを以下のように分けて説明されています。
- 儲かるか儲からないかは本能レベルでの判断
- その時々で判断軸が変わるのが感覚や感情
- 数字やロジックで決めようとするのが理性
- 世のため、人のためになるかどうかで決めるのが魂(利他)
そもそも会社は世の中からの借り物(人やお金)で事業を行っているので、利他の心で決めなければならない、というのが稲盛氏の考えです。JALの再建を主導する決断をされた際、私心がないかを半年間考え抜いた末に引き受けた話は有名です。
興味深いのは、多くの経営者が「理性」のレベル、つまり数字とロジックで決めることをゴールだと思っている点です。しかし稲盛氏の階層で言えば、理性はまだ上から二番目でしかありません。
原則3.その意思決定は、本当に今すべきか
意思決定はスピードが大事、早い方がいい、というのが世の中の通説です。
しかし一方、書籍「ORIGINALS -誰もが人と違うことができる時代」には、偉大な仕事や作品は、判断を急がなかった人たちによって成された、というリサーチが載っています。本書には「賢者は時を待ち、愚者は先を急ぐ」というテーマがあり、創造的な仕事を行う際には、実は判断を先延ばししたほうが成果が出る、とあります。
また、私が参考にしている起業家に、ビル・グロスという人がいます。彼は25年間で150社を起業し、45社を株式上場または事業売却したというとんでもない実績の持ち主です。
その彼が事業を成功させる第一の条件として挙げているのが「タイミング」です。一般に先行者利益と言われ、市場に早く商品やサービスを出した会社が有利という説があります。しかし、そうではないというのです。実際には、事業を始める判断が早すぎて失敗することも多い。
昔、彼はZドットコムという動画配信サービスをスタートさせました。しかし、通信環境がそのサービスを運営するほど進歩しておらず、失敗してしまったのです。のちにYouTubeが同じようなサービスをスタートさせ、成功しました。要は、アイデアを思いついたものの、それを実行に移す判断が早すぎたのです。
特に前向きな決断をしようとしているときには、社長は気が焦り、無謀な意思決定をしがちになります。そこで「本当にいま決めるべきか?」とワンクッション入れることも大切だと思います。
ちなみにビル・グロスが挙げる25の教訓を以下の動画で解説しています。ご興味あればご覧ください。
原則4.もう一つの選択肢を検討してから決める
「OR(どちらか)ではなく、AND(どちらも)の精神」。これは名著「ビジョナリーカンパニー」に出てくるコンセプトです。
何か決めないといけないときには、選択肢それぞれにメリット・デメリットがあるわけです。そうでなければ、悩む必要もないですからね。通常は、デメリットを受け入れるという覚悟をしたうえで、どちらか一方を選択する(OR)わけです。
しかし、対象をよくよく見てみると、AかBか?ではなく、別の選択肢Cが存在することがあります。つまり、AのメリットもBのメリットも享受できる一石二鳥の選択肢、というわけです。
人間だれしも、AかBのどちらかを選ばないといけないと思うと、それしか考えられなくなります。その状況において、さらに別の選択肢を考えられるのは、俯瞰した立場で物事を見られる社長です。
ですから、部下や社内から社長判断を仰がれた場合、社長はもう一つの選択肢がないかを考える癖を持つと良いかもしれません。
原則5.その意思決定は可逆か、不可逆か
アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏は、意思決定をする際、まず、その決定が可逆なのか、不可逆なのかを問うそうです。
可逆の決定は、部下に任せてもよいし、スピード重視で決めてもよい。しかし不可逆の決定はじっくり考えるようにしている、とのことです。
身近な例でいうと、商品価格の改定が挙げられます。商品の値上げは可逆性が高いです。値上げをすれば顧客に負担を課すことになりますが、やっぱり元に戻します、と宣言すれば顧客はすんなり受け入れてくれるからです(軸が無い会社だな、と思われるかもしれませんが)。
一方、値下げは不可逆性が高いです。一度値下げしてしまうと、顧客はその値段で買えるのが当たり前と考えるようになります。そのため元の値段に戻したら「もう買うのをやめた」となってしまう可能性があります。
この問いが強力なのは、そのまま権限委譲の設計図になる点です。可逆な決定は現場や幹部に任せる。不可逆な決定だけを社長が握る。この仕分けができれば、社長のところに意思決定が集中する状態から抜け出せます。
原則6.決めた後に、その決定を正しくする
最後は基準というより、決めた後の話ですが、下した意思決定が正しくなるように行動する、です。
昔、米国大統領がとあるインタビューに答えていました。米国大統領の決定は世界中に影響を与えるため、そのプレッシャーは半端ではないと推察されます。そこでインタビュアーは「重要な決定をする際、どのようにして判断をするのですか?」と聞きました。
その際の大統領の答えは、「正しい判断をしようとするのは大事だが、それより大事なのは、自分が下した判断が正しくなるように行動することです」というものでした。
これはかなり昔に聞いた話ですが、答えが非常に印象的だったので今でも覚えています。
結局のところ、下した意思決定に責任を持つ、ということです。そして、これは精神論ではありません。どんな意思決定も、決めた時点では「正しさ」は確定していないのです。正しさは、その後の実行によって作られていきます。
意思決定を「社長の能力」から「会社の仕組み」へ
ここまでお伝えしてきた原則を、社長の頭の中に置いたままにしておくと、それは属人的な経営のままです。社長がいなくなった瞬間に、意思決定の質は崩壊します。
私たちが目指すのは、誰が意思決定しても一定の質が担保される会社です。そのための手順を4つに整理します。
ステップ1.判断基準を明文化する
まずコアバリューを明確にし、そのうえで「自社ではこういうときにこう決める」という基準を言葉にします。
おすすめのやり方は、過去に自分が下した大きな意思決定を10個ほど書き出し、「なぜそう決めたのか」を掘り下げていくことです。すると、自分でも意識していなかった判断軸が浮かび上がってきます。それが、あなたの会社の意思決定基準の原石です。
ステップ2.誰が決めるのかを決める
意思決定の3階層(戦略的・管理的・業務的)と、可逆/不可逆の軸、そして金額や影響範囲を組み合わせて、「どのレベルの意思決定を、誰が下すのか」を一覧にします。
これが権限委譲の実体です。「任せる」という言葉だけでは、誰も何も決められません。どこまでを、どういう基準で決めていいのかが明示されて、はじめて委譲が成立します。
ステップ3.会議体に落とし込む
意思決定は、多くの場合、会議の場で行われます。ということは、会議の設計がそのまま意思決定の質を決めているということです。
何を決める会議なのか、誰が参加するのか、どんな情報を事前に揃えるのか、社長はいつ発言するのか。ここを設計せずに「良い意思決定をしろ」と言っても無理な話です。
ステップ4.記録し、振り返る
決めた内容だけでなく、「どういう情報をもとに」「どんな選択肢を検討し」「なぜそれを選んだのか」を残します。
そして定期的に振り返る。このとき見るべきは、結果が当たったか外れたかではなく、意思決定の「過程」が適切だったかです。運良く当たった雑な決定を褒めてしまうと、組織は雑な決定を学習します。
この積み重ねが、意思決定の精度を、個人ではなく組織のものにしていきます。
経営の意思決定に関するよくある質問
Q. 意思決定のスピードは速いほうがいいのでしょうか?
決定の性質によります。可逆な決定(やり直しがきくもの)はスピード重視で、権限委譲しても構いません。不可逆な決定は、時間をかけて複数の選択肢を検討すべきです。この仕分けを事前に決めておくこと自体が、結果的に全体のスピードを上げる仕組みになります。
Q. 情報が足りず、決められません。どうすべきですか?
「その情報が手に入ったら、結論が変わるか?」と自問してください。変わらないなら、その情報は不要です。経営の意思決定に、完全な情報が揃うことはありません。不確実性の中で決めるのが経営者の仕事です。
Q. 幹部に意思決定を任せると、質が下がるのが不安です。
それは、任せ方の問題です。「任せる」だけでは、幹部は社長の頭の中を推測するしかありません。判断基準を明文化し、決めていい範囲を明示すれば、質は担保できます。むしろ基準がないまま社長が全部決めている状態のほうが、組織としては脆弱です。
Q. 意思決定を早く上手にするフレームワークはありますか?
意思決定マトリクスやPDCA、OODAループなど、手法は数多くあります。ただし、どの手法も「何をもって良いとするか」の基準がなければ機能しません。手法の前に、自社のコアバリューと判断基準を固めることを強くおすすめします。
Q. 決めたことが社内で実行されません。
意思決定のプロセスに、実行する人が関わっていない可能性が高いです。決定の質は、納得度の掛け算で実行力に変わります。誰を意思決定の場に入れるべきかを、会議体の設計から見直してみてください。
意思決定の仕組みは、自社の知的資産になる
というわけで、今日は経営における意思決定について、プロセス・バイアス・原則・仕組み化の順にご紹介しました。
意思決定は、社長個人の才能や胆力の問題だと思われがちです。しかし実際には、基準とプロセスによって、かなりの部分まで再現可能にできます。
冒頭にも申し上げましたが、意思決定の軸を明確にし、社内や幹部、後継者に共有していけば、それは「正しい意思決定をする仕組み」となります。これは会社にとって非常に大きな知的資産です。
他社がその時々の勘や感覚でフラフラしている最中、自社はどっしり構えて、正しい決断を続けていけるわけですからね。


