今日は経営判断のスピードを上げるための基準とは?についてご紹介します。いま何かを決めないといけない状況にある方はぜひご参考にされてください。
経営判断とは?
経営判断とは、経営に大きな影響を与える意志決定のことを指しています。
日頃社長からのご相談を受ける機会が多いのですが、最近よくあるご相談が、”正しい経営判断をする仕組み”についてです。
社長の仕事は大半が、”判断する”仕事だと言えます。たとえば、直近であったご相談は以下のようなものです。
- 新しい拠点を新設すべきか、しないべきか
- この会社を買うべきか、買わないべきか
- FC展開をするべきか、しないべきか
- この商品価格を上げるべきか、上げないべきか
どれも会社にとっては大事ことなので、経営判断と言えます。
創業社長の場合には、会社が大きくなっていくにつれ、判断の量も影響力も大きくなっていくため、ストレスが増大していきます。
また、後継社長の場合にも、”譲り受けたこの会社を間違った方向に導いてはならない”、という使命感が強く、同じく大きなストレスを感じることになります。
このように判断をしないといけないことが日々続出するので、”正しい判断をする仕組み”が欲しくなるのでしょう。
基準があれば経営判断のスピードがあがる
”正しい判断をする仕組み”とは、自社ならではの経営判断の基準を確立し、組織に共有していくことに他なりません。
判断基準を持つことで、100%ではないにしろ、高い確率で正しい判断が出来るようになります。また、基準があることで、判断のスピードも上がります。
さらに、自社なりの判断基準ができれば、幹部や後継者にも引き継いでいくことが出来、”経営判断をする仕組み”として組織に定着していきます。
そこで以下に自社なりの判断基準の作り方を見ていきたいと思います。
1.コアバリューが”正しい経営判断とは何か”を決める
コアバリューは、会社の中核となる価値観です。コアバリューは、自社において”何が正しいことなのか?”を定義するものです。
コアバリュー=判断基準
”正しい判断をしたい”と思ったら、まず、正しい判断とは一体何なのかを知らなければなりません。その正しい判断とは何かを決めるのがコアバリューです。
言い換えると、コアバリューは会社における最高意思決定機関です。全社員(社長も含む)にとっての上司がコアバリューになるのです。
正直、コアバリューが確立されていれば経営判断に関する話は終了で、これ以降の項目は必要ありません。
私たちが仕組み化をご支援する際にも、必ず最初にコアバリューを明確化、明文化していきます。どんな仕組みもコアバリューが元になっているからです。
そのため、コアバリューをすでに確立され、仕組みに組み込まれている社長から経営判断のご相談を受けた場合には、”コアバリューに聞いてみるとどのような判断になりますか?”とお答えするようにしています。
コアバリューは経営をしていくうえで非常に便利なものですが、一方、本気でコアバリューをもとにした経営をしようとするとかなりの覚悟が必要です。そのため、コアバリューを明文化しているだけで、仕組みに組み込まれていない会社も多いようです。
このような状態では、コアバリューは逆に悪影響を与えます。社員は、経営陣の言動がコアバリューに沿っていないことを敏感に察知するからです。そこから信頼関係の崩壊が進み、やる気や貢献心が下がっていきます。
そのため、策定と運用には十分に気を配る必要があります。
自社のコアバリューを考えてみたい、という方は以下の記事をご参照ください。
コアバリューの意味や事例、作り方まで【完全解説】
2.その経営判断はエゴか?利他か?
ビジネススクールでは、”どのように判断すれば会社に最も利益がもたらされるか?”という基準で行うように教わるでしょう。
ただ、この基準は時に顧客や社員、または市場全体に対しては悪影響をもたらすこともあります。
そこで、”今自分は、どっちが儲かるか?というエゴで判断しようとしているのか、または、世のため、人のために判断しようとしているのか(利他)?”と立ち止まることが大切だと思います。
稲盛和夫氏の経営判断方法とは?
京セラ創業者の稲盛氏は、経営判断を行う際の意識レベルを以下のように分けて説明されています。
本能(エゴ)<感覚<感情<理性<魂(利他)
- 儲かる儲からないかは本能レベルでの判断。
- その時々で判断軸が変わるのが感覚や感情
- 数字やロジックで決めようとするのが理性
- 世のため、人のためになるかどうかで決めるのが魂(利他)
です。
そもそも会社は世の中からの借り物(人やお金)で事業を行っているので、利他の心で判断を行わないといけないというのが稲盛さんの考えです。
JALの再建を主導する決断をされた際、私心がないかを半年間考え抜いた末に引き受けた話は有名です。
3.その経営判断は本当に今すべきか?
判断はスピードが大事、早い方がいい、というのが世の中の通説です。
経営判断スピードは遅らせたほうが良い?
しかし一方、書籍「ORIGINALS -誰もが人と違うことができる時代」には、偉大な仕事や作品は、判断を急がなかった人たちによって成された、というリサーチが載っています。
本書には、「賢者は時を待ち、愚者は先を急ぐ」というテーマがあり、創造的な仕事を行う際には、実は”判断を先延ばし”したほうが成果が出る、とあります。
経営判断のタイミングが事業成功のカギ
また、私が参考にしている起業家で、ビル・グロスという人がいます。彼は25年間で150社起業し、45社を株式上場または事業売却したというとんでもない実績の持ち主です。
その彼が事業を成功させる第一の条件として挙げているのが、”タイミング”です。一般に先行者利益と言われ、市場に早く商品やサービスを出した会社が有利、という説があります。しかし、そうではないというのです。
実際には、事業を始める判断が早すぎて失敗することも多いということです。
昔、彼はZドットコムという動画配信サービスをスタートさせました。しかし、通信環境がそのサービスを運営するほど進歩しておらず、失敗してしまったのです。のちにYoutubeが同じようなサービスをスタートさせ、成功しました。
要は、彼はアイデアを思い付いたものの、それを実行に移す判断が早すぎたのです。
特に前向きな判断をしようとしているときには、社長は気が焦り、無謀な判断をしがちになります。そこで、本当にいま判断すべきか?とワンクッション入れることも大切だと思います。
ちなみにビルグロスが挙げる25の教訓を以下の動画で解説しています。ご興味あればご覧ください。
4.もう一つの選択肢を検討してから判断する
「OR(どちらか)ではなく、AND(どちらも)の精神」
これは名著「ビジョナリーカンパニー」に出てくるコンセプトです。
何か判断しないといけないときには、選択肢それぞれにメリット・デメリットがあるわけです。そうでなければ、判断する必要もないですからね。
通常は、デメリットを受け入れるという覚悟をしたうえで、どちらか一方を選択する(OR)わけです。
一石二鳥の判断を狙おう
しかし、判断すべき対象をよくよく見てみると、AかBか?ではなく、別の選択肢Cも存在することがあります。つまり、AのメリットもBのメリットも享受できる一石二鳥の選択肢、というわけです。
人間だれしも、A or Bどちらかを選ばないといけないと思うと、それしか考えられなくなります。その状況において、さらに別の選択肢を考えられるのは、俯瞰した立場で物事を見れる社長です。
ですから、部下や社内から社長判断を仰がれた場合、社長はもう一つの選択肢がないかを考える癖を持つと良いかもしれません。
5.その判断は可逆か不可逆か?
アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏は、経営判断をする際、まず
その経営判断が可逆なのか、もしくは不可逆なのか?
を問うそうです。可逆の判断は、部下に任せても良いし、スピード重視で判断しても良いが、不可逆の判断はじっくり考えるようにしているとのこと。
可逆の判断と不可逆の判断の例
身近な例でいうと、商品価格の改定が挙げられます。
商品の値上げは可逆性が高いです。値上げをすれば顧客に負担を課すことになりますが、やっぱり元に戻します、と宣言すれば顧客はすんなり受け入れてくれるからです(軸が無い会社だな、と思われるかも知れませんが)
一方、値下げは不可逆性が高いです。一度値下げしてしまうと、顧客はその値段で買えるのが当たり前と考えるようになります。そのため元の値段に戻したら”もう買うのやめた”となってしまう可能性があります。
6.判断が正しくなるように行動する
最後は判断軸というより、判断した後の話ですが、下した判断が正しくなるように行動する、です。
昔、米国大統領がとあるインタビューに答えていました。
米国大統領の判断は世界中に影響を与えるため、そのプレッシャーたるや半端じゃないものがあると推察されます。そこでインタビュワーは、”重要な決定をする際、どのようにして判断をするのですか?”と聞きました。
その際の大統領の答えは、”正しい判断をしようとするのは大事だが、それより大事なのは、自分が下した判断が正しくなるように行動することです”というものでした。
これはかなり昔に聞いた話でしたが、大統領の答えが非常に印象的だったので今でも覚えています。
最後は自分が下した判断に責任を持つ、ということです。
経営判断の仕組みは自社の知的資産
いうわけで、今日は自社なりの経営判断の軸を作るためのヒントをご紹介しました。
冒頭にも申し上げましたが、判断の軸を明確にし、社内や幹部、後継者に共有していけば、”正しい経営判断をする仕組み”となります。これは会社にとっての非常に大きな知的資産です。
他社がその時々の勘や感覚でフラフラしている最中、自社はどっしり構えて、正しい判断を続けていけるわけですからね。