出口戦略(イグジットプラン)とは?
出口戦略(イグジットプラン)とは、どうやって有利な条件で出口(終わり)を迎えるか?という戦略のことを指しています。
これはもともと投資の世界でよく使われる言葉です。たとえば、投資用にマンションを購入したとします。
この場合の出口戦略は、
- 次のオーナーに売る(いくらで?いつ?)
- 収益源として保有し続ける
- 自宅にする
といったことが考えられます。買った瞬間から「どう手放すか」を決めておくからこそ、途中の判断がぶれないわけです。
物事には全て、入り口があり、出口があります。起業や経営もそれと同じで、始めることも大事ですが、出口戦略も同じくらい大事なのです。
社長とビジネスの出口戦略(イグジットプラン)の意味
では、社長とビジネスの出口戦略(イグジットプラン)とは何か?
これは、社長がいつ、どのような形で引退するのか?ビジネスは誰が継ぐのか?または廃業するのか、売るのか?という一連の道筋を、あらかじめ計画として持っておくことを意味しています。
いま、中小企業の事業承継問題や後継ぎ不在問題が顕在化しています。ズバリ言ってしまえば、その原因は社長が自分とビジネスの出口戦略を持っていなかったことなのです。
出口戦略を考えずに経営をし続けたとします。いざ自分が引退したいと思った時には、後継ぎがいなかったり、誰も会社を買ってくれる人がいなかったりします。
出口戦略を考えるべきなのは、いざ出口を迎えるずっと前なのです。
基本的に、シリコンバレーの起業家などは起業すると同時に、出口戦略をセットで考えることが多いようです。起業というのは経営者人生の入り口であり、出口戦略は、経営者人生の出口になります。入り口だけを設計して出口を設計しない、というのは本来おかしな話なのです。
イグジットとは?ビジネスでの意味と英語表記
イグジットとは、投資家や創業者が保有している株式を現金に換えて、その事業から離れることを指します。日本語では「出口」と訳されます。出口戦略は、この出口をどう迎えるかをあらかじめ決めておく計画のことです。
スタートアップの世界では、イグジットの形は大きく2つに分かれます。株式を証券市場に上場させる新規株式公開と、他社に株式を売却するM&Aです。前者は創業から10年前後かかることが多く、実現できる会社はごく一部にとどまります。
中小企業の場合、上場は現実的な選択肢になりません。そのため実際に選べるのは、この記事で扱う4つに絞られます。イグジットという言葉はスタートアップの文脈で使われることが多いですが、中身は中小企業の事業承継とほとんど同じです。呼び方が違うだけで、社長が会社から離れるための準備という点は変わりません。実際にいくらで売れるのかについては会社売却の相場で実例を紹介しています。
英語では、出口戦略を「exit strategy」、出口の計画を「exit plan」と書きます。日本語の表記は「イグジット」と「エグジット」の両方が使われますが、意味に違いはありません。
出口戦略の言い換え・類語
出口戦略と同じ意味、または近い意味で使われる言葉を整理しておきます。
- イグジットプラン・・・ほぼ同じ意味です。投資やスタートアップの文脈で使われることが多い言い方です。
- 事業承継計画・・・会社を誰にどう引き継ぐかに絞った計画です。出口戦略の一部にあたります。よくある落とし穴は事業承継が失敗する3つの構造にまとめてあります。
- ハッピーリタイア・・・社長から見た望ましい出口の状態を指す言葉で、計画そのものを指す言葉ではありません。
- 終活・・・個人が人生の終わりに向けて行う準備のことです。会社の出口の話には使いません。
混同されやすいのが「撤退戦略」です。こちらは特定の事業や市場から手を引く判断のことで、社長が会社から離れる話ではありません。響きは似ていますが、指しているものが違います。
なお、社内や家族に話すときは「出口戦略」ではなく「引き継ぎの計画」と言い換えるほうが伝わります。出口という言葉は、聞く側に「会社を畳むつもりなのか」と受け取られることがあるためです。言葉が原因で不要な不安を生むのは、もったいない話です。
なぜいま出口戦略(イグジットプラン)が必要なのか
出口戦略の必要性は、感覚論ではなくデータにはっきり表れています。
東京商工リサーチの調査によれば、2025年の社長の平均年齢は63.81歳と過去最高を更新しました。調査を開始した2009年の59.57歳から、16年間で4歳以上も上がっている計算です。
さらに深刻なのが、休廃業・解散した企業の数字です。2025年に休廃業・解散した企業は過去最多の6万7,210件。その社長の平均年齢は74.98歳で、事業を続けている企業の社長(63.81歳)との差は11歳以上に開きました。つまり、出口を決めないまま年齢だけを重ね、最後に「たたむ」以外の選択肢が無くなってしまう会社が、毎年6万社以上あるということです。
後継者不在率も見ておきましょう。帝国データバンクの2025年調査では、全国の後継者不在率は50.1%。7年連続で改善しているとはいえ、まだ半数の企業に後継者がいません。しかも企業規模別に見ると差は歴然です。大企業が24.9%にとどまるのに対し、中小企業は51.2%、小規模企業に至っては57.3%。規模が小さいほど承継の準備が進んでいません。
「まだ元気だから大丈夫」と考えているうちに、選択肢が一つずつ消えていく。これが多くの中小企業で起きていることです。
社長が目指すべき出口戦略(イグジットプラン)の条件
社長が目指すべき出口戦略(イグジットプラン)とは、以下のような条件を満たす出口を迎えることです。
- これまでビジネスに投資してきた時間、お金に対して最大のリターンを得ることが出来ること。
- 次の世代へ会社の経営権を移行させ、事業を継続させること。
- 事業を継続させることによって、社員の雇用が継続されること。
逆に言えば、このどれかが欠けている出口は、どこかに無理が残ります。社長は納得していても社員が離れていく、社員は残るが社長の手元に何も残らない、といった形です。良い出口戦略は、利害関係者全員にメリットをもたらします。
ほとんどの経営者は出口戦略を考えていないという事実
ところで、あなたには出口戦略はありますか?
こう聞かれて、「はい、あります」と答えられる経営者はかなり少ないでしょう。でも安心してください。私たちの経験からいっても、ほとんどの経営者は出口戦略を持っていません。
米国のデータになりますが、3分の1の経営者は出口の選択肢(売却、承継等)すら知らないという結果が出ています。つまり、起業してビジネスを構築したものの、将来どうやってそのビジネスから離れるのか?を知らない、というわけなのです。
これは結構衝撃的なデータですね。私たちが日本の経営者の方々とお話ししていても、体感としては大きく変わりません。「いつかは考えないと」で止まっている方がほとんどです。
出口戦略と事業承継計画・後継者育成計画の違い
出口戦略とよく混同されるのが、事業承継計画や後継者育成計画です。違いを整理しておきましょう。
後継者育成計画は、その名のとおり社長の後継ぎを育てる計画です。誰を後継者候補とし、どんな経験を積ませ、いつ引き継ぐかを扱います。
事業承継計画は、株式や資産の移転、税務、金融機関や取引先への対応まで含めた、会社側の引き継ぎ計画です。
これに対して出口戦略(イグジットプラン)は、この両方を含んだ、より上位の概念です。会社をどうするかだけでなく、社長自身がその後どう生きるかまでを射程に入れます。引退後の資産、家族との合意、時間の使い方まで含めて考えるのが出口戦略です。
事業を継続させていくため、後継者育成計画を立てている会社は多いと思います。しかし経営者がハッピーリタイアしようと思ったら、それだけでは不十分です。会社は無事に引き継げたのに、社長本人が引退後に燃え尽きてしまうケースは決して珍しくありません。
社長の出口戦略(イグジットプラン)は4つだけ

結論から言えば、社長とビジネスの出口戦略は上記の通り4つだけです。
- M&A(会社売却)
- 家族承継
- 社員承継
- 廃業
また、これら4つのそれぞれに対して、意図的にその出口を迎えるのか、または偶発的/強制的にその出口を迎えるのかで8つのパターンに分かれます。そして、晴れてハッピーリタイアとなるのは、このうち3つのパターンだけです。戦略的会社売却、勇退/一族経営、勇退の3つです。社長も会社の社員もハッピーになれるのは、この3つに限られます。
裏を返せば、準備をしなかった場合に待っている出口は、どれもハッピーではないということです。順に見ていきましょう。
出口戦略①:M&A(会社売却)を選ぶ場合
あなたが会社を売るとなった時、2つのパターンがあります。
ひとつは意図した売却です。会社を売却できるように準備をし、計画立てて売却する場合です。この場合、会社を売れるようにしていく過程で企業価値が高まります。結果として、オーナーの希望するような売却額で売れる可能性も高まります。また、残った社員に対する配慮もされるため、いわゆる「ハッピーリタイア」となります。
ここで重要なのが、仕組み化されていて経営者が交代しても経営できる会社と、そうではない会社では、売却時の価格に何倍も差が付くといわれていることです。あなたでしか経営できない会社であれば、買い手は買う意味がないので当然です。買い手が買っているのは、社長個人の能力ではなく、社長がいなくても回る事業だからです。
もうひとつが、強制売却です。これは後継者を育成できなかった経営者や、病気や死亡などの理由で急に経営者が働けなくなった場合に生じるケースです。この場合、売却金額も二束三文にしかなりません。買い手から見れば「今すぐ売らざるを得ない相手」なので、価格交渉の主導権はすべて向こうにあります。
あなたがどちらの道を選ぶことになるかは、まだ現役で活躍しているころから出口戦略を創り、それを実行できるかどうかにかかってきます。
出口戦略②:家族承継を選ぶ場合
出口戦略として家族承継を選ぶ場合も、やはり2パターンあります。
ひとつは現役社長が急な病気や死亡により、急遽跡継ぎを選ばないといけなくなった場合です。この場合は大変です。まだ準備が出来ていない息子や娘が社長になることになります。
メディアではいきなり社長になった子供が苦労して、会社を切り盛りしていく、というような話がよくあったりします。しかし、現実はそんなに甘くありません。ほとんどの場合には、後を継いだ子供の社長としての能力は、先代社長に遠く及びません。それは本人の資質の問題ではなく、単に準備期間が無かったからです。
家族経営のよくある課題については別途記事をまとめていますのでご覧ください。
二つ目のパターンは、先代が元気なうちから誰に継がせるかの目途を付け、その人を次期社長として育てていくことです。円満な家族承継をするためには、そのような事業計画と同時に家族計画と資産計画も大切になってきます。
なお、家族承継は近年、確実に減少しています。帝国データバンクの2025年調査によれば、後継者候補として最も多いのは「非同族」の41.0%で、4年連続でトップ。一方、同族承継のうち「子ども」は29.7%まで下がりました。「息子が継ぐのが当たり前」という前提そのものが、すでに過半数の会社では成り立っていないのです。
出口戦略③:社員承継(MBO・EBO)を選ぶ場合
家族に継ぐ人がいない場合の有力な選択肢が、社員承継です。役員や幹部社員が株式を買い取って経営を引き継ぐ形で、MBO(マネジメント・バイアウト)やEBO(エンプロイー・バイアウト)と呼ばれます。
社員承継の最大のメリットは、会社の文化や理念、取引先との関係がそのまま引き継がれやすいことです。長年一緒に働いてきた人が継ぐわけですから、社員の動揺も少なく、顧客離れも起こりにくい。M&Aで外部に売却した場合に起こりがちな「買われた後に社風が変わって人が辞めていく」という事態を避けやすい出口です。
一方で、社員承継には固有の壁があります。最も大きいのが資金の問題です。後継者となる社員に、株式を買い取るだけの資金力があることは稀です。金融機関からの借入や持株会社の設立、段階的な株式移転といった設計が必要になり、ここでつまずくケースが少なくありません。
もう一つが個人保証の問題です。現社長が背負っている借入金の個人保証を、後継者が引き継げるか。「社長にはなりたいが、家を担保に入れてまではやりたくない」という理由で断られる話は、実際によくあります。
そして最大の課題は、後継者を経営者に育てられるかです。優秀な現場責任者が、そのまま優秀な経営者になるとは限りません。数字を読む力、意思決定の胆力、社員を導く力は、現場の延長線上には自然に育たないからです。だからこそ、社員承継を選ぶなら5年、10年単位の育成期間を見込んでおく必要があります。
出口戦略④:廃業を選ぶ場合
最後が廃業です。ネガティブに聞こえますが、廃業そのものが悪いわけではありません。問題は、それが「選んだ廃業」なのか「選ばされた廃業」なのかです。
計画的な廃業(自主廃業)であれば、取引先への通知、社員の再就職支援、在庫や設備の処分、債務の清算を時間をかけて進められます。社員に次の職場を見つけ、取引先に迷惑をかけず、手元に資産を残して終えることも可能です。
これに対して追い込まれた廃業は、資金繰りが尽きてから動くことになります。社員には突然の解雇、取引先には突然の停止となり、社長自身も債務を抱えたまま終わります。
先述の通り、2025年の休廃業・解散は過去最多の6万7,210件、そのうち70代以上の社長が72.6%を占めました。この多くは、事業そのものが立ち行かなくなったというより、続ける人がいなくなった結果です。もし数年前から準備していれば、売却や社員承継という選択肢が残っていた会社も相当数含まれているはずです。
出口戦略(イグジットプラン)の5つの構成要素
では、出口戦略(イグジットプラン)をどう考えていけばよいでしょうか?
先ほど後継者育成計画は出口戦略の要素のうちの一つ、と言いましたが、出口戦略の構成要素としては以下のようなものがあります。
1. 資産計画
いつまでにいくらの資産を構築したいのか?また、売却後は経営者時代と異なり、資産はあるけど収入がない、という状態になります。役員報酬という毎月の入金が、ある日ゼロになるわけです。
その状態にどう対処するか?収入を生み出す資産に投資をするのか、新しいビジネスを始めるのか、などを考える必要があるでしょう。ここを詰めずに売却額だけを目標にすると、引退後に「思ったより早く資産が減っていく」という不安に直面します。
2. 家族計画
会社の株を自分だけではなく、家族のメンバーも持っている場合、彼らへの対応をどうするか?も考える必要があります。中には”会社を売るなんて嫌だ”という人もいるかもしれません。
また、複数の子どものうち一人だけが会社を継ぐ場合、他の兄弟姉妹との資産バランスをどう取るかという論点も出てきます。相続の場面で揉めると、会社そのものが不安定になります。早い段階でコンセンサスを取っておく必要があるでしょう。
3. 人生計画
引退後、どのような人生を送りたいのか?これも実際に引退する前に考えておきましょう。
米国のデータでは会社を売った社長のうち、75%が後悔をしているという結果も出ています。これには、想定していた金額で売れなかったことや、引退後にやることを考えていなかったことから来る喪失感が原因のようです。
経営者にとって会社は収入源であるだけではありません。社会との接点であり、自己認識そのものでもあります。それが一日で無くなる衝撃は、想像以上に大きい。そうならないためにも、人生計画の立案が大切です。
4. バリューアップ計画
バリューアップとは、会社を望む金額で売却するために、会社の価値を高めていくプロセスを指しています。事業承継やM&Aの世界では磨き上げとも呼ばれます。
5. 後継者育成(引継ぎ)計画
これは社長の後釜を創っていくための計画です。また、社長業を他の人に引き継ぐための計画もあれば、会社売却もスムースにいきやすいでしょう。
売却を選ぶ場合であっても、後継者育成は無駄になりません。「社長がいなくても回る」という状態こそが、そのまま企業価値になるからです。
出口戦略(イグジットプラン)の進め方6ステップ
では最後に、どうやって出口戦略(イグジットプラン)を考えていけばいいのか?大きな流れを見ていきましょう。
ステップ1. 目的地の確認
これは会社経営のあらゆる側面と同じですが、目的地を認識することが第一です。
たとえば、会社経営であれば、会社のビジョンや目標がありますね。それと同じで、現在の経営者人生の最後にどうなりたいのか?から考えていきましょう。
参考として、前項の出口戦略の構成要素のそれぞれについて、目的地を決めることから始めるといいでしょう。たとえば、
- いつ出口を迎えるのか?
- 出口を迎えたときに、いくら資産が欲しいのか?
- 出口を迎えた後、どのような人生を送りたいのか?
- 誰に会社を引き継ぐのか?
- いくらで会社を売却したいのか?
等を考えてみましょう。ここで大事なのは、正解を出すことではなく、いったん仮の答えを置くことです。仮でも決めれば、現在地とのギャップが見えます。
ステップ2. 現在地の確認
次に現在地です。前項で考えた目的地に対して、現在はどこにいるのでしょうか?そのギャップを明確化していきましょう。
現在地を測る問いとして有効なのが、「今日から社長が3ヶ月現場を離れたら、会社はどうなるか?」という問いです。売上が止まるのか、判断が止まるのか、それとも問題なく回るのか。ここで出てくる答えが、その会社の現在地であり、そのまま企業価値の実態でもあります。
ステップ3. 引き継ぎ先・売却先を検討する
出口戦略のひとつとして、引き継ぎ先や売却先を具体的に検討してみましょう。
通常、会社を売却する際には仲介会社や銀行などに依頼します。そして、彼らが紹介してきた買い手企業のなかから売却先を選ぶことになります。しかし、それだと少し消極的なアプローチになるかもしれません。自ら売却先を検討し、その会社に買ってもらうには、どのような会社にすればよいか?と考えたほうが出口が明確になり、計画が立てやすくなります。
たとえば、私たちの師匠でもあるマイケルE.ガーバー氏の教えを実践した起業家、ロジャーフォード氏という人物がいます。
彼は何度も会社を売却しているのですが、そのうちのひとつPetsHotel社を起業した時のエピソードが面白いです。彼はその会社の創業前から売却先を決めていました。それがPetSmartというペット用品を扱うチェーン店です。その各店の横にPetsHotelを併設すればシナジーが生まれると考えていたのです。
そこで彼は、PetsHotel社のロゴもPetSmart社に似せて作ったと言います。起業してわずか2年後、彼は実際に同社をPetSmart社に売却することに成功しました。
こんな短期間で売却が実現したのは、彼が起業と出口戦略をセットで考えていたからです。
ステップ4. バリューアップ計画を立てる
最初にギャップを認識すると言いましたが、大半の場合、最も大きなギャップは、今現在のあなたの会社の価値(売却可能価格)とあなたが理想とする売却価格です。
ほとんどの経営者は、自分の会社の価値を知ったときに驚くと言います。それは想定していたよりもはるかに低い金額でしか売れないという事実を知るからです。
これまで何年、何十年と経営し、人生の大半をビジネスにささげてきました。それにも関わらず、”え、こんな安いの?”という現実をたたきつけられてしまうのです。これは悲劇的な現実です。
そうなったとき、選択肢は3つあります。
一つ目は、提示された金額で売る、ということです。多くの経営者はこの選択肢で妥協してしまうのではないでしょうか。特に経営者が高齢であればあるほど、他に選択肢が無くなってしまうからです。
二つ目は、売らずに経営をし続ける、ということです。こんな金額でしか売れないんだったら、経営し続けたほうがいいかと、そのまま経営を続けます。ただしこれは問題の先送りであり、5年後に同じ壁に、より高齢になって直面することになります。
三つ目は、会社をバリューアップ(価値向上)し、自分の望む価格で売れるようにビジネスを創り変えていくことです。
このうち、一つ目と二つ目の選択肢を選ばれる場合にはここでもう話が終わってしまうのですが、私たちが目指していただきたいのは三つ目の選択肢です。
今すぐ会社を売らなければいけない、という緊急の理由がない限りは、経営者人生の最後の仕上げとしてバリューアップ(価値向上)に取り組んでいただきたいと思います。そのうえで自分の望む人生を手にすることが、後悔しない出口につながります。
ステップ5.チーム作りと実行
上記のようなことを検討し、計画を立てたら、次は実行です。これはできればチームがあると良いです。社長ひとりでいろいろと考えるのは心細いですし、専門家の知識が必要になることもあります。
社内の信頼できるメンバーや、外部のコーチ/コンサルタント/専門家の方々に自分の出口戦略を共有し、チームを作って実行していきましょう。税務や法務は専門家に、社内の仕組みづくりは自社の幹部と、という役割分担が現実的です。
ステップ6.社長の役割を変える
出口戦略を迎えるには、社長の役割を変えていく必要があります。いつまでも自分が現場を回し続けるようなスタイルだと上手く出口を迎えることが出来ません。
現場を回す人から、仕組みをつくる人へ。さらに、仕組みをつくる人を育てる人へ。この移行ができた会社だけが、社長不在でも価値を保てます。これについては以下に詳しく解説していますのでご覧ください。
出口戦略でやりがちな5つの失敗
私たちが経営者の方々と出口戦略を検討する中で、繰り返し目にする失敗パターンがあります。事前に知っておくだけでも回避しやすくなります。
失敗1:着手が遅すぎる
最も多い失敗です。出口戦略は、着手から実行まで5年から10年を見込む取り組みです。70歳になってから考え始めると、バリューアップの時間も後継者育成の時間も残っていません。東京商工リサーチも、事業承継は50代までがターニングポイントだと指摘しています。60代で考え始めるのでは、実は遅いのです。
失敗2:会社の価値=売上規模だと思い込んでいる
売上が大きくても、社長個人の営業力や人脈で成り立っている会社の評価は伸びません。逆に規模は小さくても、誰がやっても回る仕組みがあり、収益が安定的に予測できる会社は高く評価されます。買い手が評価するのは規模ではなく再現性です。
失敗3:家族と話し合っていない
社長の頭の中では承継先が決まっているのに、当の本人に伝えていない。あるいは「継いでくれるはずだ」と思い込んでいる。実際に打診したら断られ、そこから慌てて別の出口を探す、というケースは本当によくあります。
失敗4:引退後の生活を設計していない
先述の通り、会社を売った社長の多くが後悔しています。その一因は金額ではなく、失われた役割と時間です。出口の翌日から何をするのかを、少なくとも大枠では決めておくべきです。
失敗5:社員に何も伝えていない
承継やM&Aの検討は当然ながら慎重に進めるべきですが、あまりに何も見えない状態が続くと、幹部社員は将来を不安に感じて先に離れていきます。会社の価値を支えているのは人ですから、キーパーソンの離脱は企業価値を直接下げます。伝える範囲とタイミングも、出口戦略の一部です。
出口戦略の事例:チップ・コンリーはなぜ会社を売ったか?
「出口戦略なんてまだ考えられない。まだまだやりたいことあるし」
という方もいらっしゃるかもしれませんね。ただ考えてみてください。もし、あなたが今のビジネスに情熱を失ってしまったらどうしましょう?また、何年か先、ビジネスモデルが時代についていけなくなったらどうしましょう?突然病気やケガをしたら?
そんな時、出口の準備が出来ていなければ、社員は路頭に迷ってしまいます。逆に、出口戦略を今から創っておけば、安心です。
また、出口戦略の一つ、会社売却についても、
「会社を売るなんて考えられない。自分が作った会社なのに。社員はどうするんだ?」
という方も多いものです。しかし、会社を売るのは恥ずべきことではありません。ジョワドヴィーブルという有名なホテルチェーンを創業したチップ・コンリー氏という人がいます。マズローの欲求段階説に基づいて経営し、世界的に知られた経営者です。

そんな彼も、ホテル経営よりも情熱が持てる分野を見つけました。それを理由にホテル事業を売却し、次のキャリアをスタートさせました。
このように人の情熱というのは年齢によって変わってくるものです。あなたが本当に情熱が持てることをやることが、利害関係者にとっても幸せな道と言えるでしょう。
もし、あなたが当面会社を売るつもりが無いとしても、仕組み化を進めて売れる状態にすることは大切です。会社が売れるということは、その会社が他(他社、社員、顧客)から見ても魅力的であるということです。イコール、業績にも良い影響が出ますし、人の採用もしやすくなります。
出口戦略と仕組み化の関係
ここまで読んでいただくとお分かりの通り、4つの出口のうちどれを選ぶにしても、共通して求められる準備がひとつあります。
社長がいなくても事業が回る状態をつくることです。
M&Aを選ぶなら、それが企業価値そのものになります。家族承継なら、後継者が先代のカリスマ性に頼らず経営できる土台になります。社員承継なら、後継者が背負うリスクを下げます。廃業を選ぶ場合ですら、整理された事業のほうが有利な条件で畳めます。
つまり、出口をまだ決められないという段階でも、仕組み化だけは今日から始められるのです。むしろ仕組み化を進めると、選べる出口の数そのものが増えていきます。
私たちが定義する仕組み化とは、単なる業務のマニュアル化ではありません。自社独自の再現性のある仕事のやり方を構築することです。理念や価値観を出発点に、それが戦略に落ち、業務の型になり、人が育つ。この一連のつながりができて初めて、社長がいなくても同じ成果が再現される会社になります。
出口戦略(イグジットプラン)に関するよくある質問
Q. 出口戦略は何歳から考えるべきですか?
理想は起業と同時ですが、現実的には50代までに着手することをおすすめします。バリューアップにも後継者育成にも5年から10年かかるためです。東京商工リサーチの分析でも、承継の準備は50代までがターニングポイントとされています。
Q. 出口戦略と事業承継はどう違いますか?
事業承継は「会社を誰にどう引き継ぐか」を扱う会社側の計画です。出口戦略はそれを含みつつ、社長個人の資産・家族・引退後の生き方までを含めた、より広い概念です。
Q. 後継者がいない場合はどうすればいいですか?
家族に後継者がいない場合でも、社員承継(MBO・EBO)とM&Aという選択肢が残ります。実際、後継者候補として最も多いのは「非同族」で、2025年時点で41.0%を占めています。ただしどちらも準備期間が必要なので、早めの検討が前提です。
Q. 会社を売る予定がなくても出口戦略は必要ですか?
必要です。売る予定がなくても、社長が病気や事故で働けなくなる可能性は常にあります。また、売れる状態にすること自体が、業績向上と採用力の強化につながります。
Q. 小さな会社でも売却できますか?
できます。近年はスモールM&Aの市場が広がり、数千万円規模の案件も一般的になっています。ただし評価されるのは規模ではなく、社長がいなくても回る再現性です。ここが弱いと、規模があっても評価は伸びません。
Q. 出口戦略は誰に相談すればいいですか?
税務や株式の設計は税理士や専門家、売却の実務はM&A仲介や金融機関が担いますが、その前段にある「何を目指すのか」「会社をどう作り変えるか」は経営者自身が決める領域です。ここには経営の視点から伴走する相手を持つことをおすすめします。
出口戦略(イグジットプラン)は今この瞬間から考えよう
私たちの師匠でもあるマイケルE.ガーバー氏が書いたベストセラー「はじめの一歩を踏み出そう」には、経営者は会社を売れるようにしなくてはならない、と書いてあります。
私たちは会社経営の仕組み化を経営者の方々にご提供していますが、仕組み化についてお伝えする際には、必ずこのテーマも合わせてお伝えしています。仕組み化の大きな目的は、会社を売れる状態にすることだからです。
永遠に所有していけるように、しかし、明日にでも売却できるように今日のビジネス構築に臨め。
これは実業界で語られ続けている格言です。経営者の高齢化が進み、2025年には休廃業・解散が過去最多の6万7,210件に達しました。自主廃業するくらいなら、社員のためにも他の誰かに会社を売って存続させたい。そう考える経営者が増え、スモールM&Aが増えているのです。
一方で、先に申し上げた通り、出口戦略(イグジットプラン)を持っている経営者はほとんどいません。何十年と経営し、様々なことを学んできたベテラン経営者であっても出口戦略を知らない経営者が多いのです。
出口戦略は、経営を終わらせるための計画ではありません。残りの経営者人生をどう使うかを決め、会社を最も価値ある状態に仕上げていくための計画です。ぜひこの記事をきっかけに、ご自身とビジネスの出口戦略を考えてみていただければと思います。
なお、事業承継や会社売却を出口として目指す方には、仕組み化ガイドブックを以下からダウンロードしてご覧ください。


