社員のやる気

社員のやる気が出ない本当の理由を科学的に解明|給料を上げてもムダ?



清水直樹

「社員のために給料を上げたのに、なぜか職場が活気づかない…」

先日、ある中小企業の社長から、そんな切実なご相談を受けました。社員を想う気持ちが空回りしているようで、非常にもどかしい、と。あなたも、同じような悩みを抱えてはいないでしょうか?

もしそうだとしたら、ご安心ください。それは、あなたの経営手腕や人望に問題があるわけではありません。実は、多くの真面目な経営者ほど陥りやすい、モチベーションに関する「ある決定的な勘違い」が原因なのです。

今や、社員は管理すべき「コスト」ではなく、投資し育成すべき「人的資本」と捉える時代です。本記事では、この「人的資本」の価値を最大化する鍵である「やる気」について、その正体を科学的に解き明かし、社員が自ら燃え上がる組織を作るための具体的な方法を、網羅的に解説していきます。

なぜ「給料アップ」や「福利厚生」だけでは不十分なのか?

多くの経営者が、社員のやる気を引き出すために、まず給与の引き上げや福利厚生の拡充を考えます。もちろん、それらは重要ですが、効果は限定的です。

米国の心理学者フレデリック・ハーズバーグが提唱した「二要因理論」によれば、仕事における満足感に影響を与える要因は、2つの全く異なる種類に分けられます。

社員のやる気

衛生要因(Hygiene Factors)

これらが満たされないと、社員は強い不満を感じます。しかし、満たされても「不満がない」状態になるだけで、やる気が積極的に向上するわけではありません。

: 給与、会社の制度、労働条件、上司との関係、人間関係など。

動機付け要因(Motivator Factors)

これらが満たされることで、社員は強い満足感を得て、積極的に仕事に取り組むようになります。

: 達成感、承認されること、仕事そのものへの興味、責任、成長の機会など。

つまり、給料アップや福利厚生の改善は、あくまで「不満」を解消する衛生要因への対策に過ぎません。社員のやる気を本気で引き出すには、「動機付け要因」に直接アプローチする必要があるのです。

事実、米ギャラップ社の調査では、エンゲージメント(やる気)の高い社員は、そうでない社員に比べて収益性が23%、生産性が18%高いというデータも出ています。やる気への投資は、コストではなく、企業の成長に直結するリターンの高い投資なのです。

社員の「やる気スイッチ」を入れる3つの鍵

では、具体的にどうすれば「動機付け要因」を満たせるのでしょうか。

現代のモチベーション理論の主流である「自己決定理論」は、その答えを示してくれています。この理論によれば、人は生まれながらにして、以下の3つの心理的欲求を持っており、これらが満たされることで内側からやる気が湧き出てきます。

  1. 自律性 (Autonomy):「自分で決めたい」
  2. 有能感 (Competence):「成長したい・役に立ちたい」
  3. 関係性 (Relatedness):「仲間とつながりたい」

これら3つの欲求を、日々のマネジメントを通じて満たしていくことこそが、最も効果的で持続可能なモチベーション向上の戦略です。以下に、それぞれを満たすための具体的なアクションプランをご紹介します。

鍵①:自律性「自分で決め、コントロールしたい」

人は、他人から一方的に指示・管理されるのではなく、自分の意志で行動をコントロールしたいと願う生き物です。マイクロマネジメントは、この欲求を最も阻害する行為です。

目的(What)を共有し、方法(How)は任せる

仕事のやり方(How)を細かく指示するのではなく、仕事の目的やゴール(What)を明確に共有し、そこへの道のりは部下に任せてみましょう。「この資料の目的は、A社の担当者にプロジェクトの価値を理解してもらうことです。どういう構成やデザインなら伝わるか、〇〇さんの視点で考えて作ってみてください」と伝えるだけで、部下の主体性は大きく変わります。

失敗を許容し、挑戦を奨励する文化を作る

マイクロマネジメントの根底には、部下の失敗に対する上司の恐れがあります。「失敗しても大丈夫。そこから学んで次に活かせばいい」というメッセージを明確に伝え、挑戦を奨励する雰囲気を作りましょう。失敗の原因を個人に押し付けるのではなく、「どうすれば仕組みで防げるか」をチームで考えることが重要です。

意思決定に巻き込む

「次のチーム目標、どう設定するのが良いと思う?」「この業務プロセス、もっと良くするためのアイデアはある?」など、部下の意見を積極的に求め、意思決定のプロセスに参加させましょう。自分で決めたことには、人は自然と責任感を持つものです。

鍵②:有能感「成長を実感し、貢献したい」

人は、自分が成長している、仕事を通じて誰かの役に立っていると感じられた時に、強いやりがいを感じます。その感覚が、次の挑戦へのエネルギーとなります。

具体的なフィードバックで成長を可視化する

「良かったよ」という曖昧な言葉ではなく、具体的な行動を指摘して褒めましょう。「(状況)先日のクライアント会議で、(行動)〇〇さんが自社のデータを根拠に説明してくれた時、(影響)お客様が深く頷いて納得してくれたよ。あの準備は素晴らしかった」のように伝えることで、部下は何を続ければ良いのかを明確に理解できます。

キャリアパスを示し、学習機会を提供する

「この会社で働き続ければ、こう成長できる」という見通しを示すことは、強力な動機付けになります。社内でのキャリアの道筋を示したり、資格取得支援や書籍購入補助、社内勉強会などを通じて、会社が社員の成長に投資している姿勢を見せましょう。

貢献を「見える化」し、承認する

部下の貢献や成果を、本人だけでなくチームや組織全体に共有しましょう。朝礼で成功事例を発表する、社内報で活躍した社員を紹介する、Slackなどのチャットツールで感謝や称賛を送り合う「ピアボーナス®」のような仕組みを導入するなど、貢献が正当に認められる文化を醸成することが有効です。

鍵③:関係性「安全な場で、仲間とつながりたい」

どんなに仕事が面白くても、職場に安心できる人間関係がなければ、人は能力を最大限に発揮できません。「このチームの一員でよかった」「ここなら本音で話せる」と思える環境が、すべての土台となります。


「心理的安全性」を意図的に作る

心理的安全性とは、「このチームなら、どんな意見を言っても、失敗しても、非難されることはない」とメンバーが信じられる状態のことです。これを育むために、まず上司から自己開示(自分の弱みや失敗談を話す)を行い、「完璧でなくても良い」というメッセージを伝えましょう。会議では、意図的に全員に意見を求めるなど、誰もが安心して発言できる場作りを心がけてください。

定期的な1on1で「個」に向き合う

週に一度、30分でも構いません。上司と部下が1対1で、業務の進捗確認ではなく、部下自身のキャリアや悩み、最近うまくいっていることなど、「部下のための時間」を設けましょう。大切なのは、上司が答えを与えるのではなく、質問を通じて部下の考えを引き出し、内省を促すことです。

公式・非公式のコミュニケーションを設計する

偶発的な雑談が生まれにくいリモートワーク環境では特に、意図的にコミュニケーションの機会を設計することが重要です。業務連絡だけでなく雑談用のチャットチャンネルを作る、部署を横断したオンラインランチ会(シャッフルランチ)を企画するなど、仕事以外のつながりを生む仕掛けを作りましょう。

未来を見据えたモチベーション戦略

これからの時代、特に以下の2つの視点が重要になります。

Z世代の価値観を理解し、全世代の力に変える

デジタルネイティブであるZ世代は、「自己成長」や「社会貢献」への意識が非常に高いと言われます。彼らが求める「明確な指示と頻繁なフィードバック」や「ワークライフバランス」は、一見すると要求が高いように見えるかもしれません。しかし、その本質は、これまで述べてきた「有能感」や「自律性」といった普遍的な欲求の現れです。彼らの声に耳を傾け、働きがいのある環境を整えることは、結果的に全世代のエンゲージメント向上につながります。

ハイブリッドワーク時代の新たな課題に対応する

リモートワークの普及は、コミュニケーションの希薄化や評価の難しさといった新たな課題を生んでいます。オフィスを「協働し、文化を体験するハブ」と再定義し、オンラインでの雑談機会を意図的に作るなど、新しい働き方に合わせたマネジメントへのアップデートが不可欠です。

まとめ:やる気は「管理」するものではなく「育む」もの

社員のやる気は、お金で買うことはできません。それは、日々の丁寧な関わりの中で、仕組みとして育んでいくものです。

  1. まず、不満の土壌を取り除く(衛生要因): 公正な給与や安全な労働環境を整える。
  2. 次に、3つの欲求を満たす仕組みを作る(動機付け要因):
    • 裁量権を与え、「自律性」を尊重する。
    • 成長を支援し、貢献を認め、「有能感」を高める。
    • 心理的安全性を確保し、「関係性」を深める。

これらを意識し、具体的なアクションを一つでも始めてみるだけで、あなたの会社は、社員が自らの意志で成長し、貢献しようとする、活気に満ちた組織へと変わっていくはずです。

私自身も、過去には部下のマネジメントに失敗し、多くの優秀なメンバーを失った苦い経験があります。だからこそ、断言できます。社員の「やる気」という無形の資産に投資することこそが、企業の持続的成長につながる、最も確実でリターンの高い投資であると。

この記事が、あなたの会社の未来を明るく照らす一助となれば、これほど嬉しいことはありません。

 


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