私が以前在籍していた、マイクロソフト社では、入社すると間もなく、米国への出張があります(当時の話)。
そして、シアトルの本社にて、全世界の新入社員を対象にした年一回の大規模なイベントに参加します。
イベントは約1週間ほど続き、本社のエグゼクティブの話を聞いたり、製品の説明を受けたりと、マイクロソフトの情報を一気に詰め込まれます。
このイベント、仕事に必要な知識を得たり、同期と仲良くなるという目的もありますが、より重要な目的があります。
それが、
”マイクロソフトという集団の一員であることを認識させる”
ということです。
オンボーディングとは?
私の場合は新卒だったのですが、他の国からやってくる新入社員は、中途採用がほとんどです。
ですから、基本的に他社で働いてきた習慣や価値観が身についています。
そこで、1週間、缶詰になってイベントに参加してもらうことで、会社の文化に馴染んでもらうのです。
このプロセスを、社会学では「社会化」と呼んでおり、人事用語では「オンボーディング」などと呼んでいます。
オンボーディングの元々の意味は、船に乗船する、飛行機に搭乗するということです。
それと同じく、会社という船にちゃんと乗ってもらうための仕組みです。
オンボーディングは、社員の離職率を軽減したり、即戦力として活躍してもらうためにとても重要とされています。
転職したことのある方であれば、新しく入った会社の仕組みや雰囲気を正しく把握するまで、なかなか100%のパフォーマンスを発揮出来ないという経験をされたことがあると思います。
それは本人の実力の問題というよりも、社内に、環境や文化に馴染むプロセスがあるかどうかが問題なのです。
オンボーディングで定着率を上げる
オンボーディングは、通常の研修とは異なります。
研修の場合、外部の会社に講師を依頼して、スキルや知識を身につけるということに主眼が置かれます。
一方の「オンボーディング」は文化に馴染んでもらうことが目的のため、外部の研修会社に依頼すればOK、ということにはなりません。
あくまで自社で行う必要があります。
「はじめの一歩を踏み出そう」著者のマイケルE.ガーバーは人材育成について次のように言っています。
人材育成には、とても基本的な3つの段階がある。一段階目は、徒弟(アパレンティス)。あなたの会社に入ってきた人達は、必ずこの第一段階を踏む必要がある。彼らがどんな経験を持っていようと関係ない。徒弟は、あなたの会社の中で働くにあたって、知っておくべきことを学ぶ。
ここで言っている、”知っておくべきこと”を学ぶのがオンボーディングプロセスです。
これは外部講師に教えてもらうことはできません。
実際のところ、多くの会社にはオンボーディングプロセスが存在していません。
そのため、会社に馴染めるかどうかが本人次第、ということになっています。
環境適応力がある人はうまいこと会社という船に載ることが出来ますが、そうでない人は、振り落とされないために、必死に船の縁にへばりついているだけ、というケースが結構あります。
そうなると、
成果(実力)を出せるまでに時間がかかってしまったり、
会社のことが誤解されたまま、すぐに辞めてしまう、
ということが起こります。
採用にはお金と労力がかかります。
にもかかわらず、採用後のちょっとしたプロセスが欠けているがために、このような事態が起こるのは避けたいものです。
オンボーディングの事例
次に、オンボーディングの事例を見てみましょう。冒頭に挙げたマイクロソフトもそうですが、他にもユニークなオンボーディングの仕組みを持っている会社はたくさんあります。
ザッポス社のオンボーディング事例
企業文化を重要視しているザッポス社は、採用選考そのものも厳しいですが、採用後も、企業文化を理解してもらうために、4週間の研修(カルチャーキャンプ)を経たのち、二つの選択肢を迫られます。
・4000ドル受け取って辞め
・ザッポスで働く
という選択肢です。ザッポスで働くよりも、目の前の4000ドルを選択する人は、そもそもザッポスに合わない、ということです。彼らはそれだけ、”誰を中に入れるか?”ということに注意を払っています。
に渡るキャンプが行われていたりと、オンボーディングプロセスが確立されています。
ザッポスについてはこちらに詳しく解説しています。
ザッポスについて完全解説(ザッポスのコアバリューから採用、ホラクラシーまで)
23 redのオンボーディング事例
比較的手軽にオンボーディングを行う方法としては、新入社員向けにウェルカムキットを用意するという方法もあります。
ユニークなウェルカムキットの例として、イギリスの「23 red」という広告代理店があります。
彼らは、新入社員に「見習い生の挑戦(Probationers’ Challenge)」という冊子を渡します。
その冊子には、自社に関する50の質問が書いてあり、研修期間の3か月の間に、答えを書いていく必要があります。
ほとんどの答えは、同僚から聞き出すことで得られるため、そのプロセスを経ることによって、自社に関する知識を得るだけではなく、同僚とのコミュニケーションを深めることが出来るのです。
新入社員が活躍できるか離職するかは社長と会社次第
さすがに大手企業のように、何週間も続けて研修を行うのは難しいと思いますが、いろいろと工夫を凝らすことで、オンボーディングの仕組みを作ることが出来ます。
大事なのは、採用した人が「使えるかどうか」を、本人次第させない、ということです。採用したのも会社の責任、採用後の仕組み作りも会社の責任です。
自社のオンボーディングプロセスが今どうなっているのか、ぜひ確認してみてください。