今回は、ジョブ理論の事例を2つ紹介します。
顧客ニーズを正しく抑え、満たされていないニーズをあぶり出すためのジョブ理論について、
下記2つの記事で解説してきましたが、本記事では実際の事例からより理解を深めていきます。
参考記事:
「ジョブ理論とは?6つのフレームワークと中小企業での使い方」
今回取り上げる事例は、マイクロソフトとBOSCHの2つです。
ぜひ最後までご覧ください!
ジョブ理論とは
ジョブ理論とは、企業のイノベーションをより予測しやすいものにするために、顧客ニーズを適切に特定する理論です。
ジョブ理論において、顧客は”ジョブ”を完了するために製品/サービスを購入し、ジョブをより効率的に・安く・早く完了できるプロダクトを求めると言われています。
つまり、顧客が達成しなくてはならないジョブを把握すること=顧客ニーズの特定となるわけです。
詳しくは「ジョブ理論とは?6つのフレームワークと中小企業での使い方」で解説しています。
ジョブ理論の事例を読む前に
ジョブ理論の事例を次に紹介しますが、事例を見る前に以下の記事で、
ジョブ理論を実際のビジネスに活かすプロセスについて理解していた方が内容がわかりやすいです。
参考:「ジョブ理論の実践10ステップ|活用方法と進め方を解説」
ジョブ理論の事例:マイクロソフト
課題
マイクロソフトは自社のソフトウェア保証サービスに、ジョブ理論を適用しました。
マイクロソフトはかつて、一時金で保証サービスを提供するのではなく、複数年契約によってオペレーティングシステムをアップグレードする権限を企業向けに与えるプランを提供していました。
しかし、顧客企業にとってこのプランは費用対効果が見合わず、ソフトウェア保証サービスの更新を断る企業が続出したのです。
マイクロソフトにとって、この保証サービスは効率的なプランでした。ソフトウェアのアップグレード版を購入するコストを削減できるからです。しかし顧客にとってはそうではなかったのです。
ジョブ理論で顧客ニーズを特定
そこで、マイクロソフトはジョブ理論の観点から、顧客を2種類に分け、それぞれのジョブを定義しました。
顧客⑴:企業の調達マネージャー
ジョブ→ソフトウェアライセンス契約に関し、理解・選択・交渉を行う。
顧客⑵:企業の情報システム部門
ジョブ→契約を確認し、ソフトウェアの更新を実行し、運用を行う。
マイクロソフトは、上記の2つの顧客タイプにインタビューを実施し、顧客がジョブ完了の先に期待する理想の結果をそれぞれ75個と100個ほど洗い出しました。
次に、定量的調査(アンケート)を100人の顧客⑴と300人の顧客⑵に実施し、洗い出した理想の結果に対する優先度と現状の満足度を調査しました。
この調査によって、多くのニーズが満たされていないことが明らかとなったのです。つまり、この時点のマイクロソフトのサービスは、顧客のジョブ達成に対し、ほんの一部しか貢献できていなかったのです。
更に、マイクロソフトは顧客視点からプロダクトのライフサイクルを考察し、各時点において発生する関連ジョブも特定しました。
イノベーション
マイクロソフトは、調査で特定したニーズに対し、既にソリューションを持っていました。ただ、各ソリューションは一つのパッケージで販売されていた訳ではなく、個々で散らばった状態で販売されていたのです。
そこで、各ソリューションをソフトウェア保証サービスとして1つのパッケージに集約し、サービスを顧客のジョブを1つのツールで解決できるプロダクトに一新しました。
例えば、社内セキュリティに関して満たされていないニーズが発見されたため、保証パッケージにはPCアクセス制限のルールテンプレートを新たに加えました。
この改定の結果、ソフトウェア保証サービスの売上は目標の110%を達成しました。しかもこの時点でのパッケージは一部機能を追加しただけで、フルバージョンはまだリリースされていませんでした。
- ジョブ理論を活用して的確に顧客のジョブを把握したこと
- ジョブに対して期待される結果を調査から洗い出し、精査して満たされていないニーズを把握したこと
- 既存のソリューションや技術を集約し、一つのパッケージとしたことで顧客のジョブ完了を最も効率化できたこと
上記3点が本事例のポイントです。
ジョブ理論の基本に則って、結果を出した好事例になります。
ジョブ理論の事例:BOSCH
ジョブ理論の事例2つ目は、ドイツの電気機器メーカーであるBOSCHです。
課題
2001年にBOSCHは北米の丸ノコ(丸型のノコギリ)市場に進出することとなりました。
多くの課題がある中で、商品開発部のDirectorには4つの目標がありました。
- BOSCHのブランドイメージである品質を反映したノコギリで市場に進出する
- 北米での競合商品を上回る
- Home Depotなど大手の小売店を販売チャネルとする
- 高利益を保ちつつも競争力のある価格で販売する
産業用ノコギリの市場はそれまでほとんどイノベーションがなく、成熟し、コモディティ化が進んだ市場でした。そのため、Boschは市場の既存プレイヤーが見逃している機会を訴求することが重要だと考えていました。
ここで、Boschは見逃されているニーズを見つけるためにジョブ理論を活用しました。
ジョブ理論で顧客ニーズを特定
まず、ノコギリのユーザー30人に1対1またはグループでのインタビューを実施しました。そこで、コア機能的ジョブである「木材をまっすぐ切る」ことと、このジョブ完了に期待する85の理想の結果を明らかにしました。
この時、消費チェーンジョブのフレームワークを活用し、購入・メンテナンス・破棄にわたる一連の商品のライフサイクルに着目し、関連ジョブの洗い出しも行っています。
次に、270人のユーザーに定量的な調査を実施し、85の理想の結果のうち現状の製品で満たされていないものを特定しました。
調査とOpportunityアルゴリズムによる計算の結果、多くのニーズが適切に満たされていることがわかったのです。しかし、市場に対する”平均的な”意見のみで判断を下すのはミスリーディングであることがほとんどです。
というのも、ほとんど全てのマーケットで人々は、単純にニーズが満たされていないことに気づきません。ニーズが満たされていないと感じているのは、特定の顧客のセグメントであり、単純に全員のアンケート結果の平均を見るだけでは重要なポイントを見逃してしまう可能性があります。
ここで、アウトカムベースセグメンテーションという手法を用います。ニーズが満たされていないと回答したユーザーの属性を調べ、どんな特徴を持ったユーザーがどのニーズに不満を持っているのかでユーザーを分類していきます。
この手法によってこのケースでは4つの顧客セグメントを明確にし、そのうち一つはBoschにとって完璧なターゲットでした。このターゲットセグメントはユーザーの約33%を占め、14の満たされていないニーズを抱えていました。
イノベーション
その後、14のニーズを満たすアイデア出しを行い、実際の商品改良/開発に取り組んでいきます。
例えば、コードに関するニーズに対し、ダイレクトコネクトコードシステムを開発し、これによって延長コードが作動中のノコギリに絡むのを防ぐことを可能にしました。
最終的に、BoschはCS20という新型の丸ノコを開発しました。顧客満足度は38%向上し、当初の目的どおりHome Depotなどの大手小売店をチャネルとして販売を開始することに成功しました。
更に、CS20は2004年には北米で最も売れている丸ノコとなり、Popular Scienceというアワードでイノベーティブな製品100に選ばれています。
このように、ジョブ理論を使って解決すべき課題が明確にわかっていたことがBoschの1番の勝因と言えるでしょう。
この事例のポイントは、ジョブ理論において満たされていないニーズを顧客セグメントからじっくりと調査した部分です。平均的な調査回答ではなく、その奥にある顧客属性からニーズを見極めるのが重要です。
2つの成功例に共通する3つのこと
マイクロソフトとBOSCHは、業種も規模も売っているものも違います。それでも、うまくいった理由は同じ3点に集約されます。ジョブ理論の成功例を読むときは、個別の施策よりこの3点を見てください。
共通点1.新しい技術を発明していない
マイクロソフトが行ったのは、すでに持っていたソリューションを1つのパッケージに集約することでした。BOSCHも、丸ノコという成熟しきった商品の中で改良を重ねただけです。どちらも「新しいものを生み出した」のではなく、「すでにあるものを顧客のジョブに合わせて組み替えた」のです。
これは中小企業にとって重要な点です。ジョブ理論を使うのに研究開発の予算は要りません。いま持っているものの並べ方を変えるところから始められます。
共通点2.顧客に「何が欲しいか」を聞いていない
2社が調べたのは、顧客が何をしようとしているか、そしてその結果に何を期待しているかです。「どんな商品が欲しいですか」とは聞いていません。
「何が欲しいか」を聞くと、返ってくるのは今ある商品の改良案だけです。顧客は自分が知らないものを欲しいとは言えません。だから聞くべきは、買う前に何をしようとしていたかのほうになります。
共通点3.平均値で判断していない
BOSCHの事例がとくに分かりやすいのですが、270人の回答を平均すると「ニーズはおおむね満たされている」という結論が出ました。そこで止めていれば、CS20は生まれていません。
平均の裏に隠れていたのが、全体の33%を占める特定のセグメントと、その人たちが抱えていた14の不満でした。市場全体の平均は、たいてい「特に問題なし」という答えを返します。動くきっかけは、いつも平均から外れたところにあります。
中小企業が同じことをやるには
400人規模の調査を実施できる会社は多くありません。しかし、やっていることの中身は規模を落としても再現できます。
既存顧客5人から10人に、次の3つを聞いてみてください。
- この商品を買う前、あなたは何をしようとしていましたか
- そのとき、他にどんな方法を検討しましたか
- いまも面倒だと感じている場面はありますか
3つ目の答えが、そのまま満たされていないニーズです。ここに答えられる商品や提供の仕方を用意できれば、それが自社の独自性になります。競合との違いをどう設計するかは「差別化戦略とは?差別化を図る15の方法と中小企業の事例」もあわせてご覧ください。
いかがだったでしょうか?
ジョブ理論の事例を2つご紹介しました。
ジョブ理論活用の具体的なステップは「ジョブ理論の実践10ステップ」をご覧ください。
事例づくりを仕組みに変えるなら仕組み経営
2社の事例に共通しているのは、顧客に聞く工程が業務のなかに組み込まれていたことです。思いついたときに聞くのではなく、決まった時期に決まった聞き方で聞く。これができている会社は、ジョブの読み違いに早く気づけます。仕組み経営では、こうした工程を含めて仕組み化をご支援しています。詳しくは以下から仕組み化ガイドブックをダウンロードしてご覧ください。


