差別化(戦略)とは?
差別化戦略とは、他社との差別化を図ることで競争優位を実現する戦略のことです。言い換えれば、競争優位性を実現するために、他社との違いを生み出す戦略と言えます。
差別化(戦略)という言葉が有名になったのは、経営学者であるマイケル・ポーター氏が競争優位の戦略として、以下の3つの選択肢を提唱したことがきっかけと言えます。
- コストリーダーシップ戦略
- 差別化戦略
- 集中戦略
差別化戦略のポイント
日常のビジネス会話でも差別化という言葉は頻繁に聞きます。差別化を考えるにあたって、大切なことは、”単に他社商品と違っていればいい”というわけではない、ということです。冒頭に申し上げたとおり、差別化戦略は、競争優位の実現につながっていなければなりません。そのためには、”違いが顧客にとって価値があるもの”であることが大切です。
マイケルポーターによる差別化戦略
では差別化を図るにはどうすればいいでしょうか。マイケルポーターは、以下のような方法を挙げています。
- 製品による差別化
- 原材料による差別化
- 特許などの知的財産
- 技術力、デザイン力
- 立地よる顧客のメリット
- 人材力(優秀さ)
- 革新的なプロセス
- ブランディング
差別化を図る戦略
本記事では、マイケルポーターの方法をもう少し幅を広げ、中小・成長企業でも活用できる方法をご紹介していきます。
良い立地で差別化する
特に店舗ビジネスの場合、立地が良いことがそのまま差別化につながります。だれしも、駅から20分の店よりも、駅前徒歩30秒の店に利便性を感じ、通いたいと思うはずです。そして、物理的な場所というのは排他的ですので、自社が良い場所を確保していれば、他社に取られる心配がありません。私の地元にも昔から駅前に果物屋があり、遠くのスーパーより多少高くても帰宅ついでに買っていく人が多数います。
立地によって資金や人材の調達力も変わる
また、店舗ビジネスのみならず、立地が差別化につながることがあります。たとえば、シリコンバレーにはスタートアップ企業が乱立していますが、その理由は、良い人材が集めやすいから、他のスタートアップ企業とのネットワークが創りやすいから、エンジェル投資家やVCなどとのネットワークが創りやすいから、などです。そのため、シリコンバレーに会社があること自体が最終的な差別化につながるというわけです。また、逆の例でいえば、シリコンバレーのような高い家賃で高い給与の人材を雇うのではなく、低コストでオフィスや人材が調達できるエリアで会社を運営し、コスト面での優位性を生み出す方法もあるでしょう。
品揃えで差別化する
品揃えが多ければ、顧客はワンストップで買い物が出来ます。そのため、顧客から見た時に手間や時間の削減になるため、差別化、競争優位につながると言えるでしょう。ただし、品ぞろえを多くすることには注意も必要です。なんでもかんでも品ぞろえを増やしていては、在庫リスクも増えますし、運用のコストも増えます。
品ぞろえを増やすポイント
品ぞろえを増やす場合には、お客様がこの商品を使う前後に使う商品は何か?を考えることが大切です。たとえば、企業向けにSEO対策のコンサルティングを提供している場合、顧客は高い確率で、コンテンツマーケティングに取り組んでいます。そのため、SEO対策とセットで、ブログの運用や記事執筆を請け負うのは良い品ぞろえの広げ方と考えられるでしょう。顧客はSEO対策はA社、記事執筆はB社というように複数のベンダーを探したり、管理するよりも、1社で全て対応してくれる会社にお願いしたいと思うでしょう。
低コストによる差別化
これはもう言うまでもないでしょう。低コストで商品を作ったり、販売できる仕組みを創るのは差別化につながります。低コストである分、利益率を高め、商品の改善に投資をしたり、商品価格を下げて顧客価値を高めることが出来ます。(マイケルポーターによれば、これはコストリーダーシップ戦略というものであり、差別化戦略とは異なるものという捉え方ですが、ここでは細かい理論は無視し、差別化のひとつとして考えています)
売上最大化、経費最小化
京セラの稲盛さんは売上最大化、経費最小化の原則を掲げて経営してきました。その結果生まれたのが、アメーバ経営という仕組みであり、それが京セラの差別化、競争優位につながっていったことは間違いないでしょう。
知的財産権/知的資産による差別化
自社しか使えない特許、実用新案権、商標、著作権などの知的財産は差別化につながります。あるカテゴリーでその技術を提供できる、その名称を利用できるのが自社しかいない、となれば強力な武器になります。
また、知的財産に近い言葉として、知的資産というものもあります。これは自社独自のブランドや業務プロセス、ナレッジなどを指します。これらも自社内で可視化、文書化され、伝承されるようになっていれば差別化につながると言えます。
シンプルな機能による差別化
どんなカテゴリーの商品であっても、競合他社が増えたり、技術革新が進んでいければ、多機能化していきます。それはそれで差別化につながりますが、逆に、機能を減らすことで差別化を図ることもできます。”そんなに多くの機能は要らない”、”機能が多すぎて使いこなせない”という人達がいるからです。
アップルとグーグルの戦略
この戦略で有名なのは、アップル社でしょう。使いにくい、オタクのものというイメージだったパソコンをシンプルにし、一般の人にも使えるパソコン、iMacを開発し、大ヒットしました。iPhoneもシンプルなインターフェースにすることでデザインの良さも相まってヒット商品となりました。

また、いま検索市場を独占しているグーグルも、もともとはヤフーなどのポータルサイトに対する後発組でした。グーグルはヤフーなどのようにトップページに多種多様な情報を載せるのではなく、検索機能だけに絞り、シンプルなインターフェースにしたことで成功しました。
使いやすさによる差別化
シンプルな機能とも連動しますが、商品の使いやすさは差別化に直結します。似たような機能を持っている商品であっても、いかに使いやすいインターフェースであるかが選ばれる要因となります。

たとえば、かつてのガラケーは、とても読み切れないほど分厚い説明書が同梱されていましたが、iPhoneに代表されるスマホでは、説明書は最小限。説明書を読むより、使ってみれば操作方法がわかるという状態になっています。
キープロセスによる差別化
キープロセスとは、自社にとって知的資産となりうる重要な業務のことを指します。たとえば、
- 営業プロセス
- トレーニングプロセス
- 集客プロセス
- 採用プロセス
などがあります。
自社の強みとなる業務プロセスはどこか?
日本を代表する高収益企業のひとつキーエンスは、科学的な営業プロセスが差別化要因だとされています。
靴の通販で有名なザッポス社は、優れた企業文化が競争優位性になっているのですが、その企業文化を生み出すのは、通過率2%と言われる採用プロセスとされています。
独占販売権による差別化
ある商品やサービスの独占販売権を獲得することも差別化要因になります。
特殊技術による差別化
自社独自の特殊技術はそのまま差別化要因になります。たとえば、私の知り合いの平井さんが主宰する「Glassアカデミー」は、ガラスを再生する特殊技術を持ち、この分野での差別化を図っています。
時短/スピードによる差別化
他社よりも早く提供される商品やサービスは差別化になると言えます。有名なのはアスクルでしょうか。その名の通り、注文した商品が明日届くというスピード感が受け入れられました。
実はスピードが差別化要因だった例
私の知り合いのウェブ制作会社の社長は長い間、他社との差別化に悩んでいました。ウェブ制作会社は世の中にたくさんあり、価格以外での差別化が難しいのです。そこで彼は、既存の顧客にヒアリングをしてみることにしました。なぜうちに注文をくれるのですか?と複数の顧客に聞いたところ、”対応スピードが早いからです”という答えが返ってきました。それまで彼自身は、優れたデザイン能力こそが自社の差別化要因だと考えていたのですが、実は違ったのです。他社にはないスピード感こそが他社にはない差別化要因だったのです。
鍵となる人脈による差別化
社外の重要な人物との人脈は差別化要因になり得ます。特に法人向けビジネスにおいては、”あの人の推薦なら・・”という感じで大型案件が決まることは良くあります。
また、有名なMBAコースなどでは、卒業生たちのネットワークを非常に重視しています。有名なMBAの卒業生は将来、各業界の重要なポジションに就く可能性が高く、それがビジネス社会で活躍するにあたって、重要な武器になるのです。
自の世界観/価値観/ストーリーによる差別化
世界観とは、その会社が目指している世界やそこに生きている人間に対するものの見方のことです。価値観とは、その会社が何を大切にしているかを指します。ストーリーは、その会社の創業物語や商品が誕生した物語です。物理的な資源が豊かになり、大半の商品やサービスがコモディティ(どこでも手に入る)になった現代、商品やサービスの機能ではなく、その会社が提唱している情緒的側面に惹かれてファンになる人が増えています。
たとえば、アウトドアアパレルを展開するパタゴニアは、ビジネスは経済価値を生み出す活動であるという一般通念とは正反対で、”環境保護のために事業を行う”という明確な世界観、価値観を提唱しています。その考えに賛同する人たちが多少高くてもパタゴニアの商品を買うわけです。
底辺ファイアウォールによる差別化
底辺ファイアウォールとは、私が考えた独自の言葉ですが、書籍「ザ・プロフィット」に登場する”低価格帯商品を売ることで、他社がもっと安い値段で市場シェアを奪う可能性を実質的に断ち切るシステム”のことです。
たとえば、ユニクロは低価格のジーンズを発売したことで市場認知が高まり、その後の成長につながりました。他社が1万円前後で売っているジーンズを3,000円程度の価格で提供し、他社がもっと安い値段で市場シェアを奪う可能性を実質的に断ち切りました。
フロントエンド商品でファイアウォールを築く
基本的に、中小企業が価格勝負を行うのはよろしくないこととされています。最終的には資金力のある大企業にシェアを取られてしまうからです。
しかし、中小企業でも底辺ファイアウォールを活用して、大企業に伍する方法もあります。それは、他社が有料で提供しているレベルの商品やサービスを無料または無料に近い金額で提供し、新規顧客を集める。そして、その後に別の有料商品を販売して収益を上げる事業モデルを構築することです。いわゆるフロントエンド商品、バックエンド商品という考え方です。
たとえば私たちのような業界の場合、他社が有料で提供しているレベルのセミナーを無料で行い、見込み顧客を開拓、その後に利益が上げられる商品を販売するというようなことが出来ます。
共食い戦略による差別化
共食い戦略とは、他社製品の機能限定廉価版を発売し、高機能商品は要らないという人達を取り込む戦略です。差別化というよりも、他社と競合しない戦略と言えるかも知れません。
先ほどの底辺ファイアウォールと同様、価格競争は中小企業向けにはお勧めされない方法ですが、共食い戦略では、価格を下げるだけではなく、機能も簡素化し、原価や運営コストのダウンを図ります。つまり、同じレイヤーの商品で大企業と闘うのではなく、それよりも下のレイヤーの商品で戦うということです。
大手が新興企業に勝てない理由とは?
たとえば、フィットネス業界の場合、コナミスポーツクラブやセントラルスポーツが大手ですが、その傍ら、エニタイムフィットネスなどの低価格のフィットネスジムが大きく広がっていきました。エニタイムフィットネスは、従来型のジムのうち、プールやスタジオを無くした機能限定、廉価版です。規模も小さいため、運営コストも安く十分に利益が出るモデルになっています。
では、大手も同じようなモデルを展開すればいいのでは?ということになるのですが、大手が廉価版を出してしまうと、既存顧客がそっちに流れてしまい、既存事業に大きなダメージが出てしまう可能性があります。つまり、自社内で既存事業と新規事業が共食いになってしまうことを恐れ、進出できないのです。このように、同業他社に共食いを起こさせるような戦略をとるのが共食い戦略です。
戦略的陳腐化による差別化
戦略的陳腐化はかなりレベルが高い差別化の方法です。どういう方法かと言うと、自社の商品やサービスが最先端のものであり、他社が出しているものは古い世代のものですよ、ということを謳うやり方です。もちろん、謳うだけではなく、実際に機能面で優れていなくてはなりません。たとえば、飲食店ポータルサイトの例を挙げてみましょう。
飲食店サイトの変遷から差別化を考える

かつて、飲食店を探すとなると、「ぐるなび」の一択でした。その後、口コミ機能を搭載した「食べログ」や「ホットペッパーグルメ」が登場しました。口コミ機能搭載の威力は大きく、もうこれ以上進化はないとも考えられていましたが、さらに「Retty」が登場し、シェアを伸ばしてきました。Rettyも口コミ機能があるという点では先行する2社と同じでしたが、違いは実名による口コミである、という点でした。Rettyはその点を強調し、自分たちのサイトは第三世代であり、これまでのサイトは第二世代で古いものだ、という主張をしました。つまり、単に実名での口コミが見られるという機能面での差別化だけではなく、相手を陳腐化させることで自社の優位性を主張したわけです。
まとめ
以上、差別化を図る方法をご紹介してきました。これらの差別化ポイントは、ひとつだけである必要はありません。複数の差別化要因を合わせて活用することで、より強固な差別化につながり、競争優位が実現できます。ぜひこれらをご参考に自社の差別化ポイントを見つけてみてください。