「差別化戦略が大事なのはわかるけれど、結局うちの会社では何をすればいいのか」——中小企業の経営者からよく聞く悩みです。差別化戦略とは、価格の安さ以外の価値で他社との違いを生み出し、競争優位を築く経営戦略のこと。ただし「他社と違えばいい」という単純な話ではありません。本記事では、マイケル・ポーターの理論をベースにしながら整理していきます。実際に私が中小企業の現場で見てきた差別化のパターンを、具体的な企業事例とともにご紹介します。読み終えるころには、自社がどこで差別化できるかの見取り図が描けるはずです。
差別化戦略とは?意味をわかりやすく解説
差別化戦略とは、他社との違いを生み出すことで競争優位を実現する戦略のことです。言い換えれば、顧客が「多少高くてもこの会社(商品)を選びたい」と感じる独自の価値をつくり出し、価格競争から抜け出すための戦略と言えます。
差別化戦略という言葉が広く知られるようになったのは、経営学者マイケル・ポーター氏が、企業が競争に勝つための基本戦略として次の3つを提唱したことがきっかけです。
- コストリーダーシップ戦略
- 差別化戦略
- 集中戦略
コストリーダーシップ戦略・集中戦略との違い
3つの基本戦略は、それぞれ狙いどころが異なります。コストリーダーシップ戦略は、業界で最も低いコスト構造を実現し、価格の安さで優位に立つ戦略です。製造から販売まで自社で行い中間マージンを削るユニクロが代表例でしょう。一方差別化戦略は、価格ではなく品質・ブランド・体験といった付加価値で選ばれることを目指します。そして集中戦略は、特定の顧客層や地域、商品カテゴリーに経営資源を集中させ、その狭い市場でナンバーワンになる戦略です。
ここで中小企業にとって重要なのは、真っ向からの価格勝負(コストリーダーシップ)は、最終的に資金力のある大企業に押し切られやすいという点です。だからこそ、価格以外の土俵で戦う差別化戦略、あるいは狭い領域で一点突破する集中戦略が、中小企業の主戦場になります。
差別化戦略で最も大切なポイント:顧客にとっての価値
日常のビジネス会話でも「差別化」という言葉は頻繁に登場します。ただ、差別化を考えるうえで絶対に外してはいけないのは、単に他社商品と違っていればいいわけではないということです。冒頭に述べたとおり、差別化戦略はあくまで競争優位の実現につながっていなければ意味がありません。そのためには、その違いが顧客にとって価値のあるものである必要があります。自己満足の「違い」ではなく、顧客が対価を払いたくなる「違い」かどうか。ここを見誤ると、コストをかけて差別化したのに誰にも刺さらない、という結果になりかねません。
なお、マイケル・ポーターは差別化を図る具体的な切り口として、次のような要素を挙げています。
- 製品による差別化
- 原材料による差別化
- 特許などの知的財産
- 技術力、デザイン力
- 立地による顧客のメリット
- 人材力(優秀さ)
- 革新的なプロセス
- ブランディング
「差別化を図る」の意味と言い換え
「差別化を図る」とは、他社との違いを意図的につくり出そうとすることを指します。「図る」は計画して実行するという意味なので、たまたま違いが生まれた状態ではなく、狙って違いをつくりにいく行為を表しています。
「はかる」の漢字の使い分け
この言葉でつまずきやすいのが漢字です。正しくは「差別化を図る」です。
- 図る……計画して実現しようとする。差別化を図る、効率化を図る
- 測る……数値として計測する。差別化の効果を測る
- 諮る……会議などに意見を求める。取締役会に諮る
差別化そのものは「図る」もの、その成果は「測る」もの、と分けて覚えると迷いません。
差別化を図るの言い換え表現
社内で使うときは、次のように言い換えると伝わりやすくなります。指している範囲が少しずつ違うので、並べて整理します。
- 独自性を出す……自社にしかない要素をつくる。差別化とほぼ同じ意味で使える
- 強みを尖らせる……すでにある強みを伸ばす方向。ゼロから違いをつくる場合には合わない
- 選ばれる理由をつくる……顧客側の視点。差別化の目的そのものを表している
- 競争優位を築く……経営学寄りの言い方。差別化はその手段のひとつ
- 他社と差をつける……日常的な言い方。ただし「違い」の中身が曖昧になりやすい
このなかでもっとも実務的なのは「選ばれる理由をつくる」です。差別化という言葉は「他社と違うこと」に意識が向きますが、この言い方なら顧客の視点が最初から入ります。
差別化を図るの例文
- 「価格ではなく納期の短さで差別化を図る」
- 「同業他社と差別化を図るため、初回の打ち合わせを無料にした」
- 「機能を増やすのではなく、使いやすさで差別化を図りたい」
例文にすると分かりますが、うまい使い方には必ず「何で」差別化するのかが入っています。「差別化を図ります」だけの一文は、聞いた側に何も残りません。
差別化要因・差別化要素とは
差別化要因(差別化要素)とは、顧客が他社ではなく自社を選ぶ理由になっている具体的な項目のことです。立地、品揃え、スピード、技術、世界観などが該当します。この記事の後半で紹介する15の方法は、そのまま差別化要因の一覧としても使えます。
注意点が一つあります。自社が差別化要因だと思っているものと、顧客が実際に選んでいる理由は一致しないことが多いということです。既存の顧客に「なぜうちを選んでいるのですか」と直接聞いてみると、想定と違う答えが返ってくることがよくあります。要因を机上で並べる前に、この確認をしてください。
差別化戦略のメリット・デメリット
差別化戦略を採る前に、その効果と注意点を正しく理解しておきましょう。メリットが大きい戦略ですが、当然リスクもあります。
差別化戦略のメリット
最大のメリットは、価格競争から抜け出せることです。他社にない価値で選ばれるようになれば、値下げに追随する必要がなくなり、その分だけ利益率を高く保てます。高い利益率は、商品改善や人材への再投資の原資となり、さらなる差別化を生む好循環をつくります。また、独自のポジションを確立できれば、顧客からの指名買いやファン化が進み、売上の安定性も高まります。値段だけで比較されない会社は、景気や競合の動きに振り回されにくくなるのです。
差別化戦略のデメリット・注意点
一方で、差別化には次のような落とし穴があります。第一に、差別化には多くの場合コストがかかること。品質やデザイン、サービス体験を高めれば、その分の費用や手間が発生します。この上乗せコストを回収できる価格で売れなければ、差別化は赤字要因になってしまいます。第二に、模倣されるリスクです。せっかく打ち出した違いも、大手に資本力で真似されれば優位性は消えます。だからこそ、後述するキープロセスや知的資産のように「簡単には真似できない仕組み」で差別化することが重要になります。第三に、差別化が独りよがりになるリスク。作り手がこだわった違いが、顧客にとってはどうでもいい、というズレはよく起こります。差別化ポイントは必ず顧客目線で検証しましょう。
差別化を図る戦略【15の方法と企業事例】
ここからは本記事の中心です。ポーターの理論をベースにしつつ、私が中小・成長企業の現場で見てきた差別化の切り口を15の方法に整理してご紹介します。自社に当てはめながら読んでみてください。
1. 良い立地で差別化する
特に店舗ビジネスの場合、立地が良いことがそのまま差別化につながります。だれしも、駅から20分の店よりも、駅前徒歩30秒の店に利便性を感じ、通いたいと思うはずです。そして、物理的な場所は排他的です。自社が良い場所を確保していれば、他社に取られる心配がありません。私の地元にも昔から駅前に果物屋があり、遠くのスーパーより多少高くても帰宅ついでに買っていく人が多数います。
立地によって資金や人材の調達力も変わる
また、店舗ビジネスのみならず、立地が差別化につながることがあります。たとえば、シリコンバレーにはスタートアップ企業が乱立していますが、その理由は、良い人材が集めやすいから、他のスタートアップ企業とのネットワークが創りやすいから、エンジェル投資家やVCなどとのネットワークが創りやすいから、などです。そのため、シリコンバレーに会社があること自体が最終的な差別化につながるというわけです。逆の例もあります。シリコンバレーのように家賃も給与も高い場所を選ばず、低コストでオフィスや人材が調達できるエリアで運営する。これもコスト面での優位性を生み出す方法です。
2. 品揃えで差別化する
品揃えが多ければ、顧客はワンストップで買い物が出来ます。顧客から見れば手間と時間の削減になります。これが差別化と競争優位につながります。ただし、品ぞろえを多くすることには注意も必要です。なんでもかんでも品ぞろえを増やしていては、在庫リスクも増えますし、運用のコストも増えます。
品ぞろえを増やすポイント
品ぞろえを増やす場合には、お客様がこの商品を使う前後に使う商品は何か?を考えることが大切です。たとえば、企業向けにSEO対策のコンサルティングを提供している場合、顧客は高い確率で、コンテンツマーケティングに取り組んでいます。そのため、SEO対策とセットで、ブログの運用や記事執筆を請け負うのは良い品ぞろえの広げ方と考えられるでしょう。顧客からすれば、SEO対策はA社、記事執筆はB社と分けて探し、それぞれを管理するのは負担です。1社ですべて対応してくれる会社にお願いしたいと考えます。
3. 低コストによる差別化
これはもう言うまでもないでしょう。低コストで商品を作ったり、販売できる仕組みを創るのは差別化につながります。低コストである分、利益率を高められます。その利益を商品の改善に投資したり、価格を下げて顧客価値を高めたりできます。(マイケルポーターによれば、これはコストリーダーシップ戦略というものであり、差別化戦略とは異なるものという捉え方ですが、ここでは細かい理論は無視し、差別化のひとつとして考えています)
売上最大化、経費最小化
京セラの稲盛さんは売上最大化、経費最小化の原則を掲げて経営してきました。その結果生まれたのがアメーバ経営という仕組みです。これが京セラの差別化と競争優位につながったことは間違いありません。
4. 知的財産権/知的資産による差別化
自社しか使えない特許、実用新案権、商標、著作権などの知的財産は差別化につながります。あるカテゴリーでその技術を提供できる、その名称を利用できるのが自社しかいない、となれば強力な武器になります。
また、知的財産に近い言葉として、知的資産というものもあります。これは自社独自のブランドや業務プロセス、ナレッジなどを指します。これらも自社内で可視化、文書化され、伝承されるようになっていれば差別化につながると言えます。この「可視化・文書化・伝承」こそ、後述する仕組み化の考え方に直結する、中小企業にとって最も現実的な差別化の源泉です。
5. シンプルな機能による差別化
どんなカテゴリーの商品であっても、競合他社が増えたり、技術革新が進んでいければ、多機能化していきます。それはそれで差別化につながりますが、逆に、機能を減らすことで差別化を図ることもできます。”そんなに多くの機能は要らない”、”機能が多すぎて使いこなせない”という人達がいるからです。
アップルとグーグルの戦略
この戦略で有名なのは、アップル社でしょう。使いにくい、詳しい人のものというイメージだったパソコンをシンプルにしました。一般の人にも使えるパソコンとして「iMac」を開発し、大ヒットさせています。iPhoneもシンプルなインターフェースにすることでデザインの良さも相まってヒット商品となりました。

また、いま検索市場を独占しているグーグルも、もともとはヤフーなどのポータルサイトに対する後発組でした。グーグルはヤフーなどのようにトップページに多種多様な情報を載せるのではなく、検索機能だけに絞り、シンプルなインターフェースにしたことで成功しました。
6. 使いやすさによる差別化
シンプルな機能とも連動しますが、商品の使いやすさは差別化に直結します。似たような機能を持っている商品であっても、いかに使いやすいインターフェースであるかが選ばれる要因となります。

たとえば、かつてのガラケーは、とても読み切れないほど分厚い説明書が同梱されていましたが、iPhoneに代表されるスマホでは、説明書は最小限。説明書を読むより、使ってみれば操作方法がわかるという状態になっています。
7. キープロセスによる差別化
キープロセスとは、自社にとって知的資産となりうる重要な業務のことを指します。たとえば、営業プロセス、トレーニングプロセス、集客プロセス、採用プロセスなどがあります。
自社の強みとなる業務プロセスはどこか?
日本を代表する高収益企業のひとつキーエンスは、科学的な営業プロセスが差別化要因だとされています。靴の通販で有名なザッポス社は、優れた企業文化が競争優位性になっています。その企業文化を生み出しているのは、通過率2%と言われる採用プロセスです。
このキープロセスによる差別化こそ、資本力で劣る中小企業が大企業に対抗できる、最も再現性の高い切り口だと私は考えています。商品は真似されても、独自の業務プロセス(=仕事のやり方の仕組み)は簡単には真似できないからです。
ザッポスの採用と企業文化については、ザッポスの仕組みで詳しく取り上げています。
8. 独占販売権による差別化
ある商品やサービスの独占販売権を獲得することも差別化要因になります。他社が扱えない商材を自社だけが提供できる状態は、そのまま参入障壁になります。
9. 特殊技術による差別化
自社独自の特殊技術はそのまま差別化要因になります。たとえば、私の知り合いの平井さんが主宰する「Glassアカデミー」は、ガラスを再生する特殊技術を持ち、この分野での差別化を図っています。
10. 時短/スピードによる差別化
他社よりも早く提供される商品やサービスは差別化になると言えます。有名なのはアスクルでしょうか。その名の通り、注文した商品が明日届くというスピード感が受け入れられました。
実はスピードが差別化要因だった例
私の知り合いのウェブ制作会社の社長は長い間、他社との差別化に悩んでいました。ウェブ制作会社は世の中にたくさんあり、価格以外での差別化が難しいのです。そこで彼は、既存の顧客にヒアリングをしてみることにしました。なぜうちに注文をくれるのですか?と複数の顧客に聞いたところ、”対応スピードが早いからです”という答えが返ってきました。それまで彼自身は、優れたデザイン能力こそが自社の差別化要因だと考えていたのですが、実は違ったのです。他社にはないスピード感こそが他社にはない差別化要因だったのです。この例が示すのは、差別化ポイントは自社の思い込みではなく、顧客に直接聞いて確かめるべきだということです。
11. 鍵となる人脈による差別化
社外の重要な人物との人脈は差別化要因になり得ます。特に法人向けビジネスにおいては、”あの人の推薦なら・・”という感じで大型案件が決まることは良くあります。
また、有名なMBAコースなどでは、卒業生たちのネットワークを非常に重視しています。有名な「MBA」の卒業生は、将来それぞれの業界で重要なポジションに就く可能性が高いためです。その人脈が、ビジネス社会で活躍するうえでの武器になります。
12. 独自の世界観/価値観/ストーリーによる差別化
世界観とは、その会社が目指している世界やそこに生きている人間に対するものの見方のことです。価値観とは、その会社が何を大切にしているかを指します。ストーリーは、その会社の創業物語や商品が誕生した物語です。物理的な資源が豊かになり、大半の商品やサービスはどこでも手に入るものになりました。いまは機能そのものではなく、その会社が掲げている価値観に惹かれてファンになる人が増えています。
たとえば、アウトドアアパレルを展開するパタゴニアは、ビジネスは経済価値を生み出す活動であるという一般通念とは正反対で、”環境保護のために事業を行う”という明確な世界観、価値観を提唱しています。その考えに賛同する人たちが多少高くてもパタゴニアの商品を買うわけです。資本力で劣る中小企業ほど、この世界観・価値観による差別化は費用をかけずに始められる有効な切り口になります。
13. 底辺ファイアウォールによる差別化
底辺ファイアウォールとは、私が考えた独自の言葉ですが、書籍「ザ・プロフィット」に登場する”低価格帯商品を売ることで、他社がもっと安い値段で市場シェアを奪う可能性を実質的に断ち切るシステム”のことです。
たとえば、ユニクロは低価格のジーンズを発売したことで市場認知が高まり、その後の成長につながりました。他社が1万円前後で売っているジーンズを3,000円程度の価格で提供し、他社がもっと安い値段で市場シェアを奪う可能性を実質的に断ち切りました。
フロントエンド商品でファイアウォールを築く
基本的に、中小企業が価格勝負を行うのはよろしくないこととされています。最終的には資金力のある大企業にシェアを取られてしまうからです。
しかし、中小企業でも底辺ファイアウォールを活用して、大企業に伍する方法もあります。それは、他社が有料で提供しているレベルの商品やサービスを無料または無料に近い金額で提供し、新規顧客を集める。そして、その後に別の有料商品を販売して収益を上げる事業モデルを構築することです。いわゆるフロントエンド商品、バックエンド商品という考え方です。
たとえば私たちのような業界の場合、他社が有料で提供しているレベルのセミナーを無料で行い、見込み顧客を開拓、その後に利益が上げられる商品を販売するというようなことが出来ます。
14. 共食い戦略による差別化
共食い戦略とは、他社製品の機能限定廉価版を発売し、高機能商品は要らないという人達を取り込む戦略です。差別化というよりも、他社と競合しない戦略と言えるかも知れません。
先ほどの底辺ファイアウォールと同様、価格競争そのものは中小企業に勧められる方法ではありません。ただし共食い戦略では、価格を下げるだけでなく機能も簡素化し、原価や運営コストを下げます。つまり、同じレイヤーの商品で大企業と闘うのではなく、それよりも下のレイヤーの商品で戦うということです。
大手が新興企業に勝てない理由とは?
たとえば、フィットネス業界の場合、コナミスポーツクラブやセントラルスポーツが大手ですが、その傍ら、エニタイムフィットネスなどの低価格のフィットネスジムが大きく広がっていきました。エニタイムフィットネスは、従来型のジムのうち、プールやスタジオを無くした機能限定、廉価版です。規模も小さいため、運営コストも安く十分に利益が出るモデルになっています。
では、大手も同じようなモデルを展開すればいいのでは?ということになるのですが、大手が廉価版を出すと既存顧客がそちらに流れます。既存事業に大きなダメージが出てしまう可能性があるわけです。つまり、自社内で既存事業と新規事業が共食いになってしまうことを恐れ、進出できないのです。このように、同業他社に共食いを起こさせるような戦略をとるのが共食い戦略です。
15. 戦略的陳腐化による差別化
戦略的陳腐化はかなりレベルが高い差別化の方法です。どういう方法かというと、自社の商品やサービスは最先端であり、他社が出しているものは古い世代だと謳うやり方です。もちろん、謳うだけではなく、実際に機能面で優れていなくてはなりません。たとえば、飲食店ポータルサイトの例を挙げてみましょう。
飲食店サイトの変遷から差別化を考える

かつて、飲食店を探すとなると、「ぐるなび」の一択でした。その後、口コミ機能を搭載した「食べログ」や「ホットペッパーグルメ」が登場しました。口コミ機能搭載の威力は大きく、もうこれ以上進化はないとも考えられていましたが、さらに「Retty」が登場し、シェアを伸ばしてきました。「Retty」も口コミ機能があるという点では先行する2社と同じでしたが、違いは実名による口コミである、という点でした。「Retty」はその点を強調し、自分たちのサイトは第三世代であり、これまでのサイトは第二世代で古いものだ、という主張をしました。つまり、単に実名での口コミが見られるという機能面での差別化だけではなく、相手を陳腐化させることで自社の優位性を主張したわけです。
差別化戦略の企業事例一覧
ここまでに挙げた事例を、差別化の切り口ごとに一覧にしておきます。自社に近いものから読み返すときの目次として使ってください。
- ユニクロ……製造から販売まで自社で行い中間マージンを削る(コストによる差別化)
- アップル……使いにくかったパソコンをシンプルにした(機能を絞ることによる差別化)
- グーグル……検索画面から要素を削ぎ落とした(使いやすさによる差別化)
- 京セラ……アメーバ経営という独自の仕組みを生み出した(低コストと運営方法による差別化)
- ザッポス……通過率2%の採用プロセスが企業文化を生んだ(キープロセスによる差別化)
- パタゴニア……環境保護のために事業を行うという世界観を掲げた(価値観による差別化)
- エニタイムフィットネス……プールやスタジオを無くした機能限定版で広がった(共食い戦略)
- 「Retty」……実名の口コミを打ち出し、先行サービスを旧世代と位置づけた(戦略的陳腐化)
一覧にすると見えてくることがあります。大企業の事例は、商品そのものではなく「やり方」で差をつけているものが多いということです。京セラのアメーバ経営もザッポスの採用プロセスも、外から見えにくく、真似しようとしても組織ごと変える必要があります。
なお、当サイトで扱っている星野リゾートも、施設の豪華さではなくコンセプトで客層を絞る形の差別化です。中小企業が参考にしやすいのは、こうした資本力を必要としない切り口のほうになります。
サービス業でありがちな失敗
サービス業では「丁寧な対応」を差別化ポイントに挙げる会社が多くあります。ただ、丁寧さは競合も同じことを言うため、違いとして伝わりにくいのが実情です。しかも、手厚さを増やすほど顧客満足が上がるとは限らないことも分かっています。足す方向ではなく、顧客の手間をどれだけ減らせるかで考えるほうが、違いが伝わります。
差別化戦略の進め方【4つのステップ】
15の方法を見ても、「で、うちは何から手をつければ?」となるはずです。差別化戦略は、次の4ステップで進めると迷いにくくなります。
ステップ1:競合と市場を分析する
まずは自社が戦っている市場で、競合がどこで差別化しているかを整理します。競合が価格で攻めているのか、品質で攻めているのか、スピードで攻めているのか。競合がひしめいている土俵(レッドオーシャン)を避け、まだ誰も強く主張していない切り口を探すのが目的です。
ステップ2:自社の強みを顧客目線で洗い出す
次に、自社の強みを棚卸しします。ここで重要なのは、先ほどのウェブ制作会社の例のように、自社の思い込みではなく、既存顧客に「なぜうちを選んでいるのか」を直接聞くことです。作り手が強みだと思っている点と、顧客が価値を感じている点は、驚くほどズレていることがあります。
ステップ3:差別化コンセプトを1つに絞る
洗い出した強みの中から、「顧客にとっての価値が大きく」「競合が真似しにくい」ものを、差別化の軸として1つに絞り込みます。あれもこれもと欲張ると、結局何が売りなのか伝わりません。ジム・コリンズの針鼠の概念も、絞り込むことの重要性を説いています。本記事の15の方法は、複数を組み合わせることでより強固になりますが、まずは中心となる1本の軸を決めることが先決です。
ステップ4:差別化を「仕組み」にして定着させる
最後に、決めた差別化ポイントを、誰がやっても再現できる仕組みに落とし込みます。ここが最も見落とされがちですが、差別化は「一度打ち出して終わり」ではありません。社長個人の力量やカリスマに依存した差別化は、その人がいなくなった瞬間に崩れます。営業プロセス・採用プロセス・品質管理といったキープロセスを標準化・文書化し、組織の資産として残すことで、差別化ははじめて持続的な競争優位になるのです。
中小企業が差別化戦略を成功させるコツ
ここまで見てきたとおり、中小企業の差別化戦略で本当に効くのは、価格勝負ではなく、キープロセスや知的資産といった「簡単に真似できない仕組み」による差別化です。商品や価格は大手にすぐ模倣されますが、自社独自の仕事のやり方——つまり「自社独自の再現性のある仕事のやり方」は、大手であっても一朝一夕には真似できません。
私たちが提唱している仕組み化とは、まさにこの「自社独自の再現性のある仕事のやり方」を構築することです。社長の頭の中にある勝ちパターンを可視化・文書化し、誰がやっても成果が出る状態にする。これは、単なる業務効率化ではなく、模倣されにくい差別化を組織の中に埋め込む取り組みでもあるのです。差別化戦略を「打ち出す」だけで終わらせず、「勝手に回り続ける仕組み」にまで昇華させたい方は、あわせて仕組み化の考え方も参考にしてみてください。
差別化戦略に関するよくある質問
Q. 差別化戦略とコストリーダーシップ戦略はどう違いますか?
差別化戦略は品質・ブランド・体験などの付加価値で選ばれることを狙う戦略で、価格が高くても買ってもらえる状態を目指します。一方コストリーダーシップ戦略は、業界で最も低いコスト構造を実現し、価格の安さで優位に立つ戦略です。資金力で劣る中小企業は、価格勝負より差別化戦略や集中戦略が向いています。
Q. 中小企業に向いている差別化戦略はどれですか?
模倣されにくい差別化がおすすめです。具体的には、キープロセス(営業・採用・トレーニングなどの独自の業務プロセス)、知的資産、世界観・価値観・ストーリーによる差別化です。いずれも費用をかけずに始められ、大手に真似されにくいため、中小企業と相性が良い切り口になります。
Q. 差別化戦略のデメリットは何ですか?
主に3つあります。差別化にコストがかかること、大手に模倣されるリスクがあること、そして作り手の独りよがりになり顧客に価値が伝わらないリスクがあることです。差別化ポイントは必ず顧客目線で検証することが重要です。
Q. 「差別化を図る」とはどういう意味ですか?
他社との違いを意図的につくり出そうとすることです。「図る」は計画して実行するという意味なので、狙って違いをつくりにいく行為を指します。漢字は「測る」でも「諮る」でもなく「図る」です。
Q. 価格を下げるのは差別化になりませんか?
なりません。価格の安さで優位に立つのはコストリーダーシップ戦略であり、差別化戦略とは別のものです。しかも中小企業が価格勝負に入ると、資金力のある大手に押し切られます。値決めは差別化の結果として決まるもので、差別化の手段ではないと考えてください。
Q. 差別化ポイントは1つに絞るべきですか?
まずは中心となる軸を1つに絞ることをおすすめします。そのうえで、複数の差別化要因を組み合わせると、より強固で真似されにくい差別化になります。ただし、軸が定まらないまま要素を増やすと、結局何が売りなのか顧客に伝わらなくなるため注意が必要です。
まとめ
以上、差別化戦略の意味から、中小企業でも使える15の差別化の方法、進め方の4ステップまでをご紹介してきました。差別化戦略とは、価格以外の価値で「選ばれる理由」をつくる戦略です。そして中小企業にとって最も現実的で強力なのは、キープロセスや知的資産といった、簡単には真似できない「仕組み」による差別化でした。
これらの差別化ポイントは、ひとつだけである必要はありません。複数の差別化要因を合わせて活用することで、より強固な差別化につながり、競争優位が実現できます。そして忘れてはいけないのは、打ち出した差別化を社長個人の力に頼らず、組織の仕組みとして定着させること。ぜひ本記事を参考に、自社ならではの差別化ポイントを見つけ、それを再現性のある仕組みへと育ててみてください。


